23.酔っ払いの八つ当たり
「結構もらえたねぇ・・・」
「ああ、これならしばらく食うには困らないだろう。」
「しかし、これからどうするであるか。」
ベイーズの街からロゥトの町へ、隠れて逃げてきた3人だが、ジェフと直接戦った事も事実なので、今のところ特に咎められてはいない。
ヴィンの使いの兵士が一度自分達の装備していた武具や荷物を持って来たが、コロシアムで使った装備は、回収される事もなく、そのまま戻って行ってしまったので、良い物だったからそのまま使う事にした。
自分達の稼ぎで揃えた武具は、この町の武器屋に売り、消耗品と食料代に充てる事にした。
クリストフが弓と矢を相当安く買い叩いた経緯もある為、礼も込めて武器屋に安く譲った。
ジェフは、見知らぬ魔族の女に連れていかれてしまい、どこに行ったのかもわからない。
今の王国は、3人にとってもあまり近寄りたくない国となっている。
「とりあえず褒賞も貰ったんだ。冒険者らしく次の依頼でも受けるとしよう。」
「それもそうである。」
「そうだねー。」
3人で冒険者ギルドに向かった。
「あ、ロイさん!」
ギルドに入ると、一人の職員がロイを見つけて声をかけてくる。
ココット村で救った女性。ミフィーだった。
「依頼を受けに来たんですか?」
「ああ。この前の褒賞も出たし、そろそろ活動しないと訛りそうだ。」
「・・・・うぅ。」
「いいかげん、あきらめるのである。」
仲が良さそうに会話する2人を見て、クリストフが悲しそうに見ている。
ココット村の復興については、調査の結果周辺の魔素が濃くなってしまっていて、当分の間は、村を作っても魔物に襲われる事が多くなるだろうという結論に至った為、現在は放置されている。
ミフィーはこの町でそのまま冒険者ギルドの職員になり、おじさんと子供は、一緒に農場を手伝っている。
助けた子供は、男の子だった事もあり、時期が来たら冒険者になりたいとロイに槍を教わっていた。
「そういえば、ロイさん達には指名依頼が来てますよ!」
ミフィーが、ロイ達への依頼を渡した。
いつ3人が来てもいいように、依頼が書かれた洋紙を持っていたらしい。
「ありがとう、なんだろうな・・・」
「ご指名は久しぶりだねぇ。」
「そうであるな。」
ロイが受け取り、内容を確認する。
指名依頼は、これまで4人で活動してきた時も何回かは受けている。
依頼内容は、それぞれで全く違ったが、各々の特徴が生かせるものが多く、協力してやればなんとかなった。
「・・・」
「うわぁ・・・」
「むーん・・・」
依頼の出どころは、クゥエラ山脈を越えて遥か北、帝国領の冒険者ギルドから来ていた。
内容を見ると、解ってはいたが少々厄介な事になっている。
君達3人が、コロシアムで魔族の処刑ができなかったせいで、こっちは迷惑してるので、早々にガストル帝国北側の、キムジナーの街へ来なさい。
そして、私に来た無茶な指名依頼を手伝いなさい。
達成条件は、私に来た指名依頼を完了させる事!
報酬は指名依頼の報酬から4割ということでよろしく。
冒険者 アーネット
「どうやら八つ当たりだな・・・」
「でもこれ、やんないといけないやつだよねぇ・・・」
「冒険者ならば、指名は断れないのである。」
3人とも何とも言えない表情になっている。
おそらく、このアーネットという冒険者に出された指名依頼は、ジェフを捕まえるだとか、殺してこいだとか、そんなところだろう事は明白だ。
「まぁ・・・俺達は冒険者だ。」
「とりあえずやるしかないねぇ・・・」
「帝国は遠いのである。」
大陸を横断するクゥエラ山脈の東側、山脈の終わりに大国がある。
バルト共和国という国で、もともとはエルフが作った国であったが、今はエルフ、人間、ドワーフの順で人口が多くなっている。
戦争後にかつての戦争が終わった後、剣聖ジェフ・ジークが後身の育成をした場所でもあり、現在でも剣術道場のようなものが多くある。
剣の修行をしたければ、共和国へ向かえという格言めいた言葉まであるほどだ。
クゥエラ山脈の反対側へ安全に移動するのであれば、そのバルト共和国を経由して、ぐるっと回って帝国領まで向かう必要がある。
危険を顧みなければ、山脈を越えればいいのだが、どこを通っても頂上に向かうにつれて魔素が次第に濃くなっている事もあり、それだけ危険な魔物、特に空を飛べる厄介な奴が多い。
集団に囲まれる可能性もある為、人数を揃えられない限り取れない選択肢となる。
「安全なのは東からだね。」
「山脈越えは無理である。」
「共和国を回っていこう。早々になんていっても、向こうも距離くらいわかっているはずだ。」
「であるな。」
「さんせー。」
「・・・寂しくなりますね。」
「ああ、だが冒険者とはそういうものだ。」
ミフィーと少し会話をした後、3人は早速旅の準備を始める為、冒険者ギルドを出た。
共和国に向かう道は、ある程度整備されていて、いくつか補給のできる町や村もある為、今回はそこまで食料を買い込む必要もない。
装備は揃っているし、ジェフがいないが、3人いれば道中の敵も問題ないだろう。
ガッツの買い出しが終わると、3人は一路、バルト共和国へ向かうのだった。
キムジナーの街、冒険者ギルド経営の酒場では、アーネットが酒を飲んでいた。
「ぜぇったい!!こんなめんどくさいことになった原因に責任とらさせてやる!!!!」
カウンターにドンッ!と木製ジョッキを叩きつけ、正面にいた酒場のマスター目掛けて宣言していた。
すでにワインをタルで6個も空けている。
飲みすぎるから、財産を作ってもすべて溶かしてしまうわけだが、今の彼女には関係ないのだろう。
「まぁ、向こうも王国付近にいるのでしょうから、こっちに来るまで時間もかかりますし・・・」
「はやくこぉぉぉぉいいいい!!!」
アーネットは手を上げて騒いでいた。
騒がしい店内でも、彼女の周りは特に騒がしい。
カウンターに置かれたジョッキの脇には、折り畳まれた略図が置かれ、まだ効果が切れていないのか、探索の魔法の名残なのか、1つ青い点が灯っていた。
「魔族!!ぜぇったい!!!ゆるさない!!!」
アーネットはマスターに宣言する事に忙しく、そのことに気が付いていなかった。
「ついでにっ!逃がした奴も殴ろう!そうしよう!!!」
「まぁまぁ、魔族の方はともかく、立ち会った冒険者も戦っているんですし・・・」
「とにかく!私がこんなめんどくさい事になってるのに!!呑気に冒険してたらゆるさない!!!」
青い点はふっと音も出さずに消えた。




