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無刀の剣聖  作者: ところてん
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21.指名依頼

アーネットは笊だ。


酒と名の付く物なら何でも飲むし、一人で酒場の酒がなくなるまで飲んだ後、その足で別の店に行き、彼女が店に来ると、店員が顔を引きつらせながら閉店を周りの客に伝える程である。


だが、本日はどうやら具合が悪いらしい。

5個目のタルを空にしながら、完全に酔っぱらった表情で愚痴を溢している。


「だいたい、剣聖なんて大昔に死んでるじゃない・・・なんで今更その名前を騙って冒険者になんかなるのよ・・・」


どうやら彼女は、冒険者ギルドから受け取った指名依頼がひどく気に入らないらしい。

持っていた木製の大ジョッキをドンッと音をさせながらカウンターに置くと騒がしかった酒場が一瞬静かになった。

何か割れたか?と店員も顔をアーネットに向けるが、何もないことがわかると仕事に戻る。


アーネットに渡された指名依頼は、ある意味で彼女の能力が必須であり、ある意味では彼女には荷が重すぎる内容であった。


探す対象は、青黒い髪を持ち、橙色の魔法剣と金色の魔眼を持つ魔族。

どうやら自らの素性を隠し、冒険者として各国を回っていた経歴を持つそうだ。

出生は不明で、ヘルムート王国近くの自由区にある冒険者ギルド経営の酒場で冒険者として登録されている。

一番近い時期の功績としては、クゥエラ山脈南側中央の自由区にあるココット村に現れた魔物の小規模集団を他の冒険者を含めた4人で討伐しているとなっていた。


ご丁寧にも、依頼文の最後はこう絞められている。

『なお、対象の生死は問わないが、殺す場合は首と対象が所持いている魔法剣の柄をヘルムート王国、首都ベイーズまで持ち込んだら完了とする』


「魔族の冒険者ねぇ・・・」


依頼の内容を再確認しながらため息をつくと、また一口飲む。


「逃げられちゃったから助けてーなんて・・・馬鹿かっ!」


こんな依頼を出して、そいつは恥とは思わないのだろうか。

などと考えてもみたが、いくら酒に逃げても始まらず、このまま自分が探しもしない事がわかれば、冒険者ギルドの経営する酒場に行くこともできなくなる。


利用者が冒険者の場合、若干の割引や融通をしてくれる酒場は、冒険者ギルドが経営いている酒場だけなので、彼女にとっては切実だ。


「マスター、お会計お願い~。」

「おや、今日はずいぶん早いね、具合でも悪いんじゃないかい?」


普段より早い時間に会計に呼ばれたので、酒場の店主兼、ギルド職員は驚いていた。


「ちょっとあってね。」

「・・・指名依頼の件か、まぁ頑張ってくれよ。」

「はいはい、わかってまーすよー。ゆーっくりやりますとも。私はー・・・エルフなので。」

「我々の代が変わる前に完了させてください。エルフの寿命で考えられると、こちらも都合が悪い。」

「はいはい・・・じゃ、いくから。」


少し酔っているような話し方ではあったが、きっちりと会計をこなし酒場を出ていく。

足取りは普段よりも少し早い、まるで酔っていないようだ。


アーネットに冒険者仲間と呼べる人はいなかった。

知り合いの冒険者なら何人かはいるが、彼女の探索の魔法が便利すぎて、沢山のよく知りもしない冒険者に一緒に来るように誘われた。

何組かのチームと行動を共にした事もあるが、自分をめずらしい道具を見るような目で見ている事がわかってしまい、どうにもなじめなかった。


「もったいないな・・・俺達といれば、もっと稼げるのに。」


別れを切り出すと、彼らは決まって同じような事を口にする。

エルフが魔法を使えると言っても、全員がアーネットの使う探索の魔法を使えるわけではない。

使える者もいるだろうが、アーネット程の精度は出ないだろう。


そういう事もあり、冒険者達にとってみればアーネットは、珍しい物を探せる便利な道具と見られてしまってきた。

そんな冒険者に自分の命を預ける気にはなれないので、一人でやってきた。


アーネットは今回の指名依頼も、できる事なら一人でやりたいと思っていた。

だが、依頼の内容がそれを許さないだろう事もわかっている。


はたして、自分が背中を預けられるような冒険者はいるのだろうか。

アーネットは、宿屋のベットの上で少しだけ昔の事を思い出してから、寝る事にした。


翌朝、前日に5タルも飲んだ彼女だが、非常にすっきりとした顔つきで目が覚めた。


「今日からしばらくは飲めないしなぁ・・・」


そんな事を考えながら、町に出て旅の準備に取り掛かる。

一人なので、もって歩ける荷物の量も決まっている。

その為、あまり長い期間補給せずに旅をするのも難しい。


エルフの冒険者の中には、収納の魔法を使って大量の荷物を持ち運ぶ者もいるにはいるが、それもリスクが高い。

魔力が尽きると物が取り出せない、魔物と戦闘する機会が多い冒険者にとって、それは致命的だ。


アーネットがいくらエルフの中でも魔力が高いと言っても、魔力には限界がある。

ただでさえ便利な道具扱いされるというのに、荷物まで持てると思われてはたまらない。

それが彼女が収納の魔法を使おうとしない1番の理由だった。


普段通りの食料一式、消耗品を買い出し、出発の準備を整えた。

そして、行動方針を確認する為、大陸の略図を取り出す。

エルフに伝わる略図には、大きな大陸が左右に2つ、それに比べて小さい陸地が1つ下段の中央に描かれていた。


略図を広げながら、探索の魔法を使用する。

2つの大陸の内、東側に赤い点が灯った。

これが自身のいる位置を表す。


ここからイメージする。

今回の獲物がどこにいるのか。


少しすると、略図に1つ青い点が灯った。

しかし、その位置がにわかには信じられない。

西側の大陸のちょうど中央あたりで動かずに、光っている。

そこは、かつて魔大陸と呼ばれた大陸であった。


大昔の戦争からこれまでの間、その大陸とこちらの大陸の間で交易が行われたという話も聞かないし、事実として船はあるが、3大国間での輸送や、魚を取る為の漁くらいにしか使わない。

なにより大陸間を移動しようなどとすれば、魔族だのなんだのと騒ぎ出す連中がいる。


大昔には、空を移動する大型の船があったと言われているが、現在はその影も見る事は出来ない。


「やっぱムリーーーーーーー!!」


彼女は、空に向かって悲痛な叫びをあげた。

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