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無刀の剣聖  作者: ところてん
20/72

20.休暇

朝、ベットから体を起こし、両腕を上にあげ、背筋を伸ばす。

あの後、チェシーに回収された俺は、何日間かの間を置きながら、帝国領の周辺を中心に何度か魔物の集団と戦っている。

流石に何百といった数を相手にする機会は、あれ以降なかったが、それでも毎回数十体の魔物を狩るのでやたらと疲れる。


間の日に惰眠を貪ったりしていると、文字どおりチェシーに叩き起こされ、またどこかに飛ばされるので朝は起きなくてはいけない。

今いる部屋は、チェシーの屋敷の中にある1室で、屋敷にいる間は俺の部屋という扱いになっている。


わざわざ帝国領周辺で魔物討伐を続けている理由を聞いたが、俺は結局その真意を聞けていない。


「なんで、俺が魔物の集団と戦わんといけんのだ・・・」

「君、魔力のコントロールは自然にできるのに、魔眼は使いこなせていないんだもの。」

「使いこなすねぇ・・・」


チェシー曰く、魔眼は使いこなせないと、真に威力を発揮できないというのだ。


「まぁ、これまで魔眼を使って戦闘なんてしなかったんでしょうから、無理もないけどね。」

「だからってなんでわざわざ、帝国領に行って使うんだよ・・・」

「それは私の為に決まってるじゃない。」

「・・・はぁ?」


魔物の集団をいくら討伐したところで、今の俺では冒険者ギルドに報酬を受け取りに行くこともできない。

いいとこ、助ける形になった村人達から食料を貰う程度だ。


無報酬で人助けをして回るなど趣味ではないし、第一今の俺が、向こうの大陸で活動すると、厄介な事が起こる可能性の方が高い。

少なくとも俺にとっては、無意味に戦わされている気しかしていない。


「無駄な事考えて何もしないなら、迎えに行ってあげないから。」

「ほぅ・・・そうすりゃ俺は、殴られずにすmッゴガッ!」


チェシーの拳は、正確に俺の腹をとらえていた。


・・・こいつ、最近だんだん速くなってないか?


「君は私の物なんだから、素直に言う事聞いてりゃいいのよ。」


言いつつ、腕を組み仁王立ちして宣言していた。

その腕により押し上げられることで、豊満な胸がさらに強調される。


「君は懲りないねぇ・・・」


ゴツッ!


という音がして、俺の視界が暗くなった。

どうやらこめかみ辺りに回し蹴りを食らったらしい。





帝国の西側、帝国領と自由区のちょうど境にエルフが多く住む町がある。

エルフは、冒険者としても騎士団としても需要が一定数あり、人間には使えない彼らの魔法は、とても便利だと認識されていて、中にはその活躍から尊敬や、畏怖を受けている冒険者もいる。


ガストル帝国の成り立ちは、もとはドワーフの国であったとされている。

主に金属の錬成や鍛冶が有名だった土地で、過去の戦争で多くの兵がこの国の武具を使っていた。


ドワーフとエルフは、元々折り合いが悪く、長らく友好関係は結べていなかったが、戦争を境に段々と融和に向かっていき、今では帝国議会にエルフがいる事など、見慣れた光景となっている。


アーネットは、帝国の周辺を中心に活動しているエルフの冒険者である。

全体的に革製の装備で、大きめのフードが付いている外套を付け、腰にはダガーを2本提げている。

髪の色は栗色で、長め、ホットパンツと革製のブーツの間は、白く少し艶のある肌が見えている。


冒険者に女性は少ないのだが、エルフとなるとさらに少ない。

魔物と戦う事を生業とする事が多いので、冒険者や騎士団は男の子の憧れの職にはなりえても、女の子には適用されない事が多いからだろう。


アーネットは、エルフとしても生まれつき魔力の多い方で、いろいろと便利な魔法が使えた。

一番評判がよかったのは、誰かの探し物を探し当てることのできる、探索の魔法だった。


子供の時分に使えるようになってから、ちょっとしたお使い代わりに薬草を探したり、隣に住んでいたおじさんの結婚指輪を見つけてあげたりしているうちに、何かを発見するという事が単純に面白く、もっと珍しいものを見つけたいと思うようになり、冒険者となった。


最近では、受けた魔物の討伐依頼の為に立ち寄った山の中で、探索の魔法を使用したところ、魔物よりも魔素を多く集めている箇所を見つけ、試しに軽く掘ってみたところ、ミスリルの鉱石を発見した。


掘れば掘るほど出てくる状態となった為、依頼などそっちのけで掘れるだけ掘り、ミスリルの鉱石を武器屋や素材を扱う商人に売りつける事で、ちょっとした財産を稼ぎ出していた。


その噂が冒険者ギルドの耳にも入った為か、アーネットはいつも利用していたギルド経営の酒場で一つの依頼が彼女に渡された。


こういった指名型の依頼もあり、その依頼は受け取った時点で、受理されたことになる為、理不尽に思うかもしれないが、冒険者として名が上がれば、それだけ指名される事も増えるし、何よりそういった依頼は報酬が良い。


冒険者にとってみれば、指名型の依頼を受けつつ、ついでにできる範囲で他の依頼をこなしていくのが効率がいいともいえる。


「こんなの無理!ぜぇったい無理!」


アーネットが依頼を渡してきたギルド職員につき返そうとする。


「指名依頼は、断る事ができません。・・・ギルドもあまりにも理不尽な要求にはそもそも依頼した段階で断ります。」

「それでも無理よ!私、冒険者になったけど戦闘なんてほとんどやってないんだから!」


アーネットはここまで、探索の魔法を用いてお金になるものを探す事の方が多く、それが彼女の生活を支えてきた。


確かに冒険者ではあるので、簡単な魔物の討伐などはやったことがあるが、本格的に強力な魔物と戦った経験がない。


「事実がどうであれ、貴女は指名される程の実力を得たという事です。ギルドとしては、貴女のような優秀な冒険者に制限をかけたくはないのですよ。」

「制限って・・・」

「指名依頼を断ると、ギルドの運営している酒場はもちろん、今後ギルドを通しての依頼の斡旋もできません。」

「・・・それは、さすがに・・・生活できない!」

「では、お願いしますね。」


ギルド職員は、にっこりと笑いうとアーネットの前からいなくなった。

いくら探索の魔法で、珍しい物を見つけられるからといっても、それを売るだけでは、生活していくのは難しい。


比較的簡単な魔物とは言っても、討伐依頼をこなせばそれなりのお金になる。

そういった事も考慮して冒険者になったのだ。

依頼を受けられなければ、報酬が出ない。


「・・・こうなったら酒ね!」


アーネットは大好きな酒を飲むいい口実を手に入れたのかもしれない。

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