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無刀の剣聖  作者: ところてん
19/72

19.対価

魔物の数から考えれば少数であった騎士だったが、一人で戦い続けるよりも、ある程度の数を引き受けてくれたので、大分助かった。


駆け付けた兵士達の練度は、そこそこといったところで、人数分くらいの魔物は各々が倒していく。


・・・あの装備は・・・帝国の騎士団だったか?


曖昧なのは、あまり帝国領に訪れていなかった事に起因していた。

そもそも見ていなければ覚えもしない。


しばらくして、その戦闘は大部分の兵士を失う形で終わった。

後から現れた魔物の数は多いかったので、かなり時間がかかった。

おかげで、大型の魔物も何匹か寄ってきたが、飛竜などの龍種でなかったので、まだ戦えた。


魔力をほぼすべて使い切り、魔眼も使えないし、剣の色は次第に薄くなり消えてしまった。

立っているのもおっくうで、地面に仰向けに寝転んで大の字になっている。

呼吸は荒く、まだ整っていない。それにやたらと腹が減っている。


爺さんに教わりながら狩りをしていた頃を思い出すな・・・。

そんな事を考えていると、どうやら兵士達の指揮者、騎士だろうか?一人が声をかけてきた。


「若いの・・・生きてるか?」

「あぁ・・・なんとかな。」


俺が生きている事を確認すると、騎士はヘルムを取り礼をした。


「すまなかった。そしてありがとう。」

「・・・なんであんたが礼を言うんだよ、こっちが言いたいくらいだ。・・・正直助かった。」


俺が勝手に闘っていただけなのに、被害を覚悟で突撃してくれたのだ。

感謝するのはこちらの方で、向こうは助けてやったぞ、ありがたく思え位言ってきても不思議じゃない。


「私は、お前さんが戦っているのを見て、怯えてしまった。」

「はぁ・・・。」

「一人の兵士がいったのだ。勇敢に戦う者を魔族とな。」

「・・・。」


完全に見られているので、予想しなくてもわかる事だ。


「その時思ったよ・・・。なんて情けないのだろうかと。」

「・・・へぇ。」


この騎士であろう男性の言葉は、予想外だった。


「お前さんの戦いを、剣筋を見て触発されるでもなく、騎士の教示を示すでもなく、ただ魔族などと・・・」

「あんた珍しいな・・・。」

「魔族だの、人間だの争ったのは遠い昔だ。我々はそれにいつまで拘るのか・・・」

「世間じゃ拘るのが普通のようだが?」

「そうかもしれないが、時には普通というものを疑う事も重要だと思うたちでね。」

「・・・そう考える人もいるのか。」


チェシーもそうだが、人が違えば考え方もいろいろあるのだと思う。

この騎士は、どうやら俺を魔族だと思っているのだろうが、良い奴もいるくらいに考えているようだった。


「・・・国に仕えて戦う者が、本質を見失うとは情けなくてな。」

「・・・本質ねぇ・・・俺もわからん。」

「はははっ、確かに私も見失いそうだった。騎士とは、国を国民を守る力だ・・・誰が相手でも。」

「なるほどね。」


騎士の言葉を聞いて、まずいかな?と思った。


「お前さんを見て、自分の仕事を奪われた気がしたよ。」

「そいつは、悪いことをしたな。」

「謝る必要はない、おかげで私も思い出せたのだ。なぜ騎士になったのかを・・・」

「そいつはよかった・・・それより腹が減ってるんだが、飯もってるか?」

「はははっ・・・飯の方が大事か。持ち込んだ食料も余るだろう。分けてやる。」

「助かるよ・・・」


俺を魔族と認識していて、食料を渡すことを約束してくれたのは、この騎士が初めてだ。

しばらく寝ころんだままでいると、騎士の部下であろう兵士が余った食料をくれた。


死人は食べないし、彼らも相当の被害を出している。

持って帰れもしないなら、俺に渡しても問題ない分なのだろう。


「お前さん、名前は?冒険者だろう。褒賞を出すようにギルドに伝えておくが。」

「ジェフ・ジークだ・・・ギルドの方はいいよ、受け取りにはいけないだろうから。」


俺の名前を聞いて、騎士は驚いた顔をしていた。


「お前さんが、王国で消えたって冒険者だったのか・・・。しかし流石に剣聖の名を使うだけはある。」

「帝国にもうそんなことが・・・まだ日は経ってないように思っていただが。」


王国から、帝国までは間に山脈があるので、伝令が伝わるにしても大陸の東側からもう一つの国を越えてこなければいけないので、それなりに時間がかかるはずであった。


「そういう事を伝える魔術の道具があるのでね。魔術ギルドからの情報だ。」

「・・・あぁそういやそんなのもあったな。」


すっかり忘れていたが、魔術ギルドも便利な道具を作ったものだ。


「我々は、もう行く。・・・お前さんの事は、残念だが伝えさせて貰うよ。」

「あぁ、あんたはあんたの仕事をしてくれ。・・・その方が罪悪感が無くていい。」


魔族とみれば処刑するのだ。

そのことが伝われば、すぐに追手が来るだろう。


そうしたら、俺は彼と闘う事になってもおかしくはない。

その時に、躊躇しないようにしておいて欲しいものだ。


騎士が、少ない兵士を連れて北に向かってい出発する。

魔物の大群を討伐したには、食料のみとは少ない報酬だったが、騎士の言葉は少しうれしかった。


飯を食べ、少し眠る。

浅い眠りで、近くに何かがいる気配がして、起きようとした。


「ゴフッ!!!」


俺は見覚えのある足に蹴られていた。白くて細い、綺麗な肌をしている。

だが見た目によらず、威力は凶悪だ。


「・・・げふぉっ・・お前は、蹴りでしか人を起こせないのか・・・」

「主人の前で居眠りなんてこいてるのが悪いのよ。」


チェシーは悪びれもなくそういう。


「だいたいベールを少しは見習いなさいよ、蹴られても喜ぶわよ?」

「・・・」


俺は何も言わない、こういうのに反応するから蹴りやら拳がいつの間にか腹に来るのだ。


「カァッ・・アァッ!?」


ドスン!という音と共に、彼女の拳は俺の腹に収まっていた。


「なんか言えよ。」


なにもしなくてもダメなのかよ・・・。


チェシーが一番厄介なのではないかと思た。

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