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無刀の剣聖  作者: ところてん
16/72

16.困惑

その女は、あまりに突然に現れた。


深い紫の腰あたりまで伸びた長い髪、顔はどこか幼さがあるが、その身体は大人の魅力に溢れている。

黒を基調としたローブを着ていて、縦に入った白いラインが、そのまま彼女の身体のラインを明確に表していた。


あまりにも唐突だった為、さっきまで騒がしかったコロシアム全体は、しんと静まり返っている。

闘いの途中で、それもこれからまさに打ち合おうという瞬間に現れた女は、高らかとその目的を宣言した。


「この子、いらないのよね?・・・だったら私が貰っていくから。」

「はぁ?・・・なにいってんだお前?」


俺はその突拍子もない宣言に、唖然とした。


「君は黙ってなさい!」

「・・・お、ゴフゥッ!!」


一言口を開いた瞬間に、女の拳が俺の腹に突き刺さっていた。


「黙れって言ったのよ?聞こえなかった?」

「・・・・。」


俺は無言で頷き、同意を示した。

向こうでロイが俺を見てる・・・困惑してる。


この世界に来てからというもの、女なんかに縁なんかなかったはずだが・・・。


女はあたりを見回すと、地面の上でうずくまっている黒いローブを見つける。


「さっさと、起・き・ろ・よっ!」


そう言ったか言わずか、女はいつの間にやら黒いローブの男の近くにいて、腹を容赦なく蹴りこんだ。


「ゴファッ!!!・・・あ、天使だ。」


そういいながら、黒いローブの男は起きた。


・・・生きてたのかよ!手伝えよ!


「ベールゥ~・・・そんな事いってるとぉ~・・・もう一発いれるけど?」

「・・・失礼しました。何度見ても、お美しいお姿なもので。」


あの女と、黒いローブの男はどうやら知り合いらしく、なにやら話している。

聞いた感じ痴話喧嘩のようで、仲が良さそうに見える。


街中で見たらただの痴話喧嘩で済むのだが、ここはコロシアムだ。

観衆達が騒ぎ始める・・・。


「・・・ちっ!うるさいわね。場所を変えましょう。」


女はすでに黒いローブの男を連れて、俺の隣に立っていた。


「行きましょ?」


そう言って女がほほ笑むのが見えると、青白い光に包まれた。

その色は、爺さんの魔眼に似ている気がした。


ロイが唖然としていると、ジェフは光と一緒に消えていた。

突然現れたのもそうだが、消えたことにも同様に驚いた。


魔法を見たという人々が暴徒となり、コロシアムはあわただしくなる。

ロイ、ガッツ、クリストフの3人は、とりあえずヴィンが半ば強引に貸して来た装備を着たまま、観衆に紛れて会場を出ると、外套を羽織り見つからないように街を出た。


「・・・失敗したな。」

「・・・であるな。」

「まぁ、最悪全員死んでたし?」


クリストフが笑顔でロイを茶化す。


「ロイ、お前今度あったら殺されんじゃないか?」

「まぁ、怒らせすぎたな。」

「自業自得である。」


失敗はしたものの、仲間は全員生きて街を出ている。

3人は、満足した顔でロゥトの町へ向かう。


見知らぬ女の言うことを、やけっぱちになって聞くことにした彼らだったが、彼女の言うことが本当であれば、彼らの仲間は生きているということを確信していた。


光が収まると、俺は見覚えのない景色を見ていた。

どうやら丘の上にいるようで、見晴らしがよく、天気もいいので遠くの方までよく見える。


驚いたのは、真正面にそびえる白い大きな建造物。

中央に高い塔があり、それを囲むように六角形の壁があるのが見える。

かなり遠いのか、それが大きな都市の全容を見るのにちょうどよい距離にも思えた。


「・・・ここ、どこだ?」

「かつて魔大陸って呼ばれた大陸。あそこにあるのは、この大陸にある国の首都よ。」

「はぁ?・・・ゴフッ!」


俺の腹に、女の拳が再び収まっていた。


「魔眼を持ってるわりにとろいわね・・・まぁいいわ、口の利き方に気をつけなさい。」

「・・・わかった、わかったから腹に入れるのは、もうやめてくれ。」

「あら?顔の方がよかった?」


そう笑顔で女は答えた。それが怖かった。


「君にとっては、向こうの国にいるよりは楽だと思うけど?」

「・・・どこに行っても一緒だろう。」

「そうかしら?・・・それは君次第でもある事を覚えた方がいいわね。」


女の言葉は、少し心に刺さった。

これまでの俺の行動が、仲間を敵としてあそこに立たせてしまったのだから。


「で、あんたらいったいなんなんだ?」

「そんなに殴られたいの?」


女は顔の近くに拳を突き出して来た。

やっぱり怖い。


「いい加減、それしまったら?・・・あとそれも。」


そう言われて、俺はまだ魔眼を使用中だったことと、魔法剣を抜いた状態である事を思い出した。

急いで解除する。


「・・・その辺りは、流石ね。コントロールに淀みがないわ。」

「・・・わかるのか?」

「見えてるし・・・これまでさぞ苦労したのでしょうね。」

「必要だっただけだ。」


女は、もう一度拳を作っていたがどうやら俺の物言いには、諦めたらしい。


「まぁ、いいわ・・・自己紹介をしておきましょう。私は魔法使い、チェシー・リーン、そっちはベールよ。」


そう言うと、チェシーが俺の後ろの男を指さしたので、そちらを見る。

そこには、初めて見る男が立っていた。


「ベールと申します。」

「初めまして。」


ベールと呼ばれた男は、白髪のナイスミドルといった容姿で、身体は肉厚、服の上から見てもわかるほど筋肉質だった。


丁寧に挨拶をされて、とっさに答えた。


「初めましてとは・・・少し寂しいですね。長らく一緒に捕まった仲ではないですか。」

「・・・どこかでお会いしましたっけ?」


「こちらの方がよいですかね。」


ボンッ!と音と共に、ベールの周りに白い煙が立ち、それが晴れると黒いローブの男が立っていた。


「・・・魔法?」


ボンッ!と再度音がした。


「左様でございます。」


また、ナイスミドルになった男は、俺に肯定する。


「しゃべり方だいぶ違うな。」

「変身の魔法を使っていると、なりきってしまいますので。」


俺は、一つの疑問があった。


「チェシーも魔法を使えるのkッゴフ!!」


今度は膝だった。


「恩人には様を付けなさい!愚か者!魔法使いなのだから当然でしょう、それに私の魔法はもう見せているわ。」

「・・・ガハッ・・・・ハァ、ハァ。」


一瞬肺の中の空気がなくなって、呼吸が荒くなった。


「てことは、ここまで移動したのが?」

「ええ、そうよ。さっきのが私の魔法・・・移動系が得意なの。」

「てことは、二人とも魔族なのか。」

「魔族?・・・はぁ・・・君いろいろと説明してあげないとダメみたいね。」


そう言って、チェシーは頭に手を当てた。


・・・胸ってあんなに柔らかそうに動くんだな。


「言っとくけど、見られてる方はわかるからね?」

「・・・。」


何を言っても拳か蹴りが飛んでくるような気がした。


「それより、君の名前・・・教えてくれない?」

「あぁ・・・悪い、俺の名前は・・・」

「ジェフ・ジーク。」


言おうと思ったら、ベールが先に口にした。


「ふーん・・・剣聖と同じなのね。」

「・・・そういう反応は初めてだ。」

「そんなに馬鹿にされたいの?」

「違うが、大抵はそれは剣聖の名だろ?って感じだ、そこのベールもそうだった。」

「あの姿ならそれがあっているかと思いまして。」

「・・・確かにな。」


変身の魔法といったか、確かに姿に合わない言葉遣いでは、不信に思われるのだろう。


「・・・そろそろ、ゆっくりできるところに移動した方がいいわね。」


会話にそこまで時間がかかったイメージもなかったが、確かに魔物の気配がした。


「魔物か・・・」

「こっちの魔物は強いわ。今は移動しましょう。」


再度俺の周りは、あの懐かしい色に包まれた。

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