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無刀の剣聖  作者: ところてん
15/72

15.決意

「どうした?・・・ジェフ?顔色が悪いぞ?」


気安く俺に話しかけるその男は、深紅の鎧を身に纏い、先程まで被っていたヘルムを脱ぎ捨て、持っていた円盾を放り投げる。


「なんで、お前がここにいる・・・!」

「・・・なんで?・・・おかしな事を聞くな、昨日会ったじゃないか。」


目の前の男は、空いた両手を広げ、わからないといったようなジェスチャーをした。

彼の腰には、見慣れない剣が吊るされていた。


「・・・そういうこと言ってんじゃねぇよ!!」

「あぁ・・・俺がこの場所に立っている事が不思議なのか?」


何故この男がこの場所にいるのか、何故仲間と戦わなければいけないのか。


「それ以外ないだろ!」

「そんなに不思議な事かな?・・・ガッツとクリストフも居るが?」


目の前の男がそう言うと、離れた所にいた2人も自身の顔を隠している装備を脱いだ。

見慣れた顔がその場に揃った。


「お前ら・・・悪い冗談はやめてくれ。」

「冗談?・・・冗談だって?!!」


目の前の男は、怒気を露わにした。


「冗談で済まない事をしているのはお前だろう?!・・・人間だと偽り、名前を偽り、仲間だと偽って、俺達をだまし続けた!!!」

「・・・俺が騙した?仲間と偽った?」


優しかったおじさんが俺を見て急に怒り出した時を思い出した。


「そうだろう!・・・剣聖の名を騙った愚かな魔族が!!」

「魔族なんざ知らねぇよ!!」

「あぁ、そうかお前の名前は、爺さんから貰ったんだったな・・・だからそいつが悪いんだよな?」

「お前が・・・爺さんを悪く言うんじゃねぇ!」


いくら仲間とはいえ、爺さんと会ったこともない男に、俺の師匠を悪く言われる筋合いはない。


「ずいぶんと死んだジジイを大切にするんだな?目の前の人間は、簡単に騙すのに・・・なるほど、そのジジイも魔族だったわけだ!」

「ふ・・・」


俺は、怒りのあまり手に持っていた魔法剣の柄を握り閉めすぎ、手のひらを少し切ってしまった。

血が少しづつ垂れ、白い砂面にポトリと落ちる。


「ふ?・・・どうした、魔族には人間の言葉は難しいか?」


・・・ただの挑発だ・・・俺を怒らせてこいつらに何がある?


「ロイ・・・わかった。お前、俺を怒らせたいだけだろ?」

「魔族が俺の名前を口にするんじゃない!」

「だったら!!・・その腰についてる立派なもので俺に挑んでくればいい!!」


俺は目の前の男が腰に下げている、見慣れない剣を指さした。


「お前が俺を怒らせて、何がしたいのかわからないが、ここはそういう場所だ・・・」

「・・・いいだろう。」


目の前の男は、同意して剣を抜く。


「俺を怒らせたんだ・・・死んでも文句言うなよ?」

「はっ?さっきまでただ逃げ回っていた魔族風情が!・・・今度はずいぶん口が回るな!」


俺を正面に捕らえ、構えられたその剣は、どこかオーガが持っていたボロボロの剣に似ていた。

刀身は肉厚で、淡い光沢があり、片手剣としては少し長めの直剣。


構えつつ、目の前の男が吠える。


「お前は、俺より強いと思っているようだが・・・とうに俺が超えている!!!」

「・・・そういう事は、剣で見せろよ。」


俺の声は、自分でも不思議なほど冷静なものに戻っていた。

また、心のどこかで諦めてしまったのかもしれない。


魔眼のせいで、誰かに合えば罵倒され追いかけまわされた。

爺さんの教え通り、コントロールすることで、外見は普通の人間と同じになった。


それでも、俺はどこか怯えていたんだと思う。

魔族だと言われる事を、自分が人間ではないと自覚してしまう事を・・・。


ただ・・・逃げるように爺さんについていった。

ただ・・・逃げるように剣を振った。

ただ・・・逃げるように魔物を倒した。

ただ・・・逃げるように冒険者になった。


そして・・・今は自分の仲間からも逃げたかった。


今の俺にできたのは、決意すること。

自分が人間なのか、魔族なのかも曖昧で。

はっきりと答えが出る事も怖くて。


思えば前世の頃も同じだ。

仕事から逃げたくてゲームに没頭した。

友人が結婚しているのを見て、俺には縁のないことだと諦めた。

そんな現実から逃げるように、異世界に行く物語に心躍らせた。


現実の問題は置き去りにして。


ただあの頃・・・俺は逃避したかっただけだったのかもしれない。


もう・・・目の前の現実から目をそらすのはやめよう。


俺は一度目を瞑る。


この世界に来たばかりのあの頃を思いだす。


・・・だけど、これは・・・俺が決めたことだ。

爺さん・・・ごめん。


右手の剣が、少し震えた気がした。


ゆっくりと目を開ける。

さっきまで明るかった景色は、どこか夕暮れのように儚く、なにか懐かしい気がした。


「ロイ・・・決めたよ・・・俺はもう逃げない。」

「・・・そうか。」


目の前にいたロイは、普段見せていた優しそうな顔で返事をしてきた。


「・・・知ってたのか?」

「いや・・・知らなかったさ。だがそんな気はしてた。」


ロイには思い当たるところがあったようだ。


「ジェフは不自然に強すぎる。いくら師匠と呼べる人に剣を教わったからって、中々そうはならない。」

「そんなに、圧倒してきたつもりもないんだが。」

「生き抜こうとかよく言ってたけど、いつでも余裕そうだった。」

「・・・そうだったか?」

「そうだよ・・・。」


元の優しい表情に戻っていたロイだが、その目はまた真剣なものに変わった。


「ジェフ、残念だが・・・」

「そうだな・・・たぶん俺は此処にいてはいけないんだろう。」


ふと、視線をロイから外す。

ガッツも、クリストフもこっちに手を出す気は無いようだ。


「本気のジェフと打ち合うのは・・・初めてだな。」

「これを使っていないからって、本気じゃないわけじゃない。」


ロイは、俺に構えるよう促す。


俺は握り過ぎていた魔法剣の柄を、軽く握り直して魔力を纏める。

それまで刀身のなかった柄に、半透明の橙色の刀身が伸びていた。


今の持ち主の決意を表すかのように、芯に近い部分が濃く、刃に近づくほど淡くなるその色は、グラデーションが綺麗で、持ち主に斬れない物は無いと安心させる。


「・・・綺麗だな。」


ロイは初めて見る俺の魔法剣を見て、そう呟いた。


「だろ?・・・だがこれは俺にしか使えない。」

「いらないよ・・・それのせいで、厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだね・・・。」


それもそうだな、と俺は少し笑ってしまった。


「こっちも準備はいいぞ。」

「あぁ・・・」


2人同時に、右足を下げ半身になる。


ロイは直剣を両手で持ち、手を胸の前に収め、剣先で獲物を狙う。

中腰より少し低く構え、足に力を溜める。


俺は自然体に近く、無意識に体を任せる。


力を溜めきったロイが、俺に目掛けて突きを出そうと、足が動き始めた瞬間。


「はい、はいっ!、ストーーーーーップ!」


俺とロイの間に、見知らぬ女性が立ち、両手を俺とロイに向けていた。

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