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旧人類の滅亡

「過去の人類滅亡の歴史」、すなわち「旧歴手記」にはこうある。


 西暦2034年春。アメリカNASAの研究機関から、超巨大隕石が「日本」を落下地点として5年以内に極めて高い確率で衝突すると発表され、世界中が大パニックに陥った。



 発表直後こそ一笑に付されたこのニュースは、半年もしないうちに世界中の天体観測機関、および宇宙開発を主とする企業からも事実であると立て続けに発表され、さらに半年経つ頃には各国政府および国連から事実であると断定された。


 当初は「また人類滅亡のフェイクニュースか」と呆れていた人々は、追加情報が発表される毎に笑顔が消えていき、1年経つころには絶望に顔を歪ませることとなった。



 太陽系の外から前触れ無く唐突に飛来し、まるで意志を持つように進路を曲げながら地球へと向かってくるこの隕石は「DEUS(デウス)」と名付けられた。


ラテン語で「神」を意味する、この直径約500kmの巨大隕石は、異常な軌跡で地球へ向かっており、衝突は時間の問題であった。


 恐竜が絶滅した原因と言われる「チクシュルーブ・クレーター」を作った直径10-15kmの隕石の100倍以上の質量と言われれば、その驚異度が伝わるだろう。


 もし直撃すれば「日本」の消滅はもちろん、破壊による超巨大クレーター形成や、100mを超える地球全てを覆う津波、巻き上がる粉塵により世界中の太陽光が遮断されるなど、人類に致命的なダメージが与えられるのは明らかだった。



 全人類が大パニックに陥ってはいたが、不幸中の幸いと言うべきか、隕石の衝突まではまだ4年ほどの時間が残されていた。


発表を行ったNASAがあるアメリカは、国連を通じて非常事態宣言を行うことで各国の力を結集し、人類が生き延びるために決死の抵抗を開始した。



 生きているかのように軌道を不自然に変えて向かってくるため、衝突自体を防ぐことは極めて困難であると判断。


また、直撃した時の絶大な破壊と衝撃を計算すると、核シェルターや何かの手段で衝撃を耐えきるという選択肢も現実的ではない。


 地球の外に逃げようにも、全人類が逃げられるほどの宇宙船を作るような技術も時間もなく、よしんば作って逃げられたとして、地球に住めなくなるのならば、飢えと渇きでいずれは全滅してしまうのは自明の理であった。



 頭を抱える首脳陣に、研究チームから最後にして唯一の選択肢として提案されたのは、地球への衝突前に「DEUS(デウス)」を完全に破壊し尽くしてしまうことだった。破壊専用の巨大核弾頭を作成し、「DEUS(デウス)」に立て続けに撃ち込むのだ。


地球上では放射能を気にして簡単に使用できない核兵器も、宇宙空間であれば何発でも使用可能になる。


 このシンプルだが画期的な案は国連の全会一致で採用され、人類最後の希望として、世界中の人々が固唾をのんで見守るプロジェクトとなった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 そして苦闘の果て、4年後――

 宇宙空間で「DEUS(デウス)」の破壊に成功した人類は歓喜の絶頂にあった。


 最終的に、地球上に存在する全人類と国家が一丸となり総力を結集。国家、人種、宗教といった数多の困難を超えて人類は勝利をつかみ取った。そう、「DEUS(デウス)」という名の「神」に等しい災害を打ち破ったのだ。


 人々は涙し、家族の無事を喜び、恋人や友人、昨年までの敵対国の兵士達とさえ抱き合った。そこには差別も国境も無く、ただ喜びのみが満ちていた。


 核兵器という、悪魔の武器と揶揄された兵器は、人類の希望の剣となり「神」を打ち砕いた。


 粉々になった「DEUS(デウス)」の欠片が流星群のように各地に降り注ぐも、大半が地上に到達する前に燃え尽き、大きな被害は報告されなかった。見渡す限りの天を流星が降り注ぎ、仰ぎ見るそれは、まるで空が落ちてくるような壮大で幻想的な光景だった。



 恐れるモノなど何もない、人類の未来は希望に満ちている……!


 ――そうヒトが錯覚するのも無理はなかった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 それから半年後――そう、わずかに、半年後。


 

 世界中に出現した「異形」たちの出現により、「人類」の大半が滅び去った。



 例えばアメリカでは、空を巨大なドラゴンの群れが覆い尽くし、人々を飲み込み噛み砕き蹂躙した。

全長50mはあろうかというドラゴン達に、米軍最新鋭の戦闘機や戦車は紙のように噛み砕かれ、引き裂かれ、その炎の吐息(ブレス)で焼き払われた。



 例えば中東諸国では、見上げても視界に入りきらぬほどの巨人が出現して油田を施設ごと踏み砕き蹴り飛ばした。

雲を超え天を突くかのような荘厳な姿に、長年の近隣諸国との戦争を生き残った歴戦の兵士でさえ、畏怖を禁じえず怯えて歯を鳴らした。



 例えばロシアでは、伝承にあるような悪魔が地から湧き出し、恐怖する民衆を槍で突き刺し刈り殺した。

地面や建物のあらゆる影からにじみ出るように湧き出した暗き生命は、殺した人々の首をきれいに並べて愉悦に浸った。



 例えば日本では、機械で出来た多数の生命兵器が群れとなり首都を一瞬で飲み込んだ。

数万を超える軍勢が地表が見えぬほどに蠢き、衛星写真で関東一帯が金属で覆われたかのように見えるほどだった。飲み込まれた人間がどうなったのかは誰にもわからない。



 まるでおとぎ話のように、空想小説のように、映画のように、漫画のように。一方的に、圧倒的に、なすすべもなく、人間は「駆除」されていった。


 まるで地球の主役が人類であった時代は終わり、これからは「彼ら」こそが地球を世界を宇宙を支配するのだというかのように。



「彼ら」はどこから出現し、何を目的としていたのか――詳しい原因は未だ持って不明である。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「旧暦手記」の末尾にはこう走り書きがある。


 検証手段も根拠もなく、ただ個人の推測ではあるが――との注釈つきである。



 曰く、全ては隕石「DEUS(デウス)」を破壊したときからはじまっていたのではないか。

DEUS(デウス)」を、「神」を粉砕したというのは人間の傲慢な錯覚だったのではないか。



 もしもだが、人類を創造した「神」がいたとして、人類を排除しようと決定したのであれば?

DEUS(デウス)」により一撃で人類を滅ぼそうとしたのは、せめてもの慈悲だったとすれば?

 そして裁きを傲慢にも否定し打ち砕いた人類には、より過酷で非情なる罰が与えられたのではないか?


 だとすれば、人類が滅び去るのも必定と言えるのではないだろうか……?



 根も葉も根拠もなく、だが直感的に信じたくもなる、そんな悲壮な文章で「旧暦手記」は〆られている……



 ――


 ――――


 それからさらに4000年の時が流れた。

 人類史が遥か過去のものとなり、「異形」たちが覇権を争う世界。


 わずかに生き残った人類に、希望はまだ無い――

 そう、「まだ」、無い。




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