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紫の短編集

これも一つの愛のカタチ

作者: 紫 魔夜

 一部実話を基にしていますが、フィクションです。

 幼稚園の頃、男は仲間を連れて弱者たちをいじめていた。


 小学生になってもその気性が収まることはなかった。

 だが、三年生になったとき。男は急激におとなしくなった。よく、二人の女と一緒に遊ぶようになったのだ。といっても、ずっと一緒にいたとかいうわけではない。男も女も、他の友達と遊ぶことだってたくさんあった。

 それでも、男は女に恋をしていたのだろう。


 五年生になるとクラス替えがあり、三人のうち一人の女が違うクラスになった。たったそれだけで、その三人が遊ぶことはなくなった。

 男は女に恋をしていた。所詮子供の恋。されど、それが狂愛の始まりだった。


 六年生になると、男は委員会の委員長になった。

 そして、初仕事の日。男の姿を見た多くの生徒は驚いた。その男が屋内であるにも関わらずオーバーを着ていたからだ。男は寒がりだからといって五年生になってからはずっとそんな恰好をしていた。

 髪を切ることも嫌い、男は長い髪をしていた。

 だが、恰好と能力は別物だ。男はしっかりと仕事をこなしていた。


 中学生になった。男は髪を切り、服装もジャージの重ね着に変わった。男のクラスには片方の女がいた。

 男と女は多少の話をする仲だった。


 二年生になった。三人は再び同じクラスになった。

 だが、三人がかつてのように言葉を交わすことはない。男は女に恋をしていた。そのことをもう一人の女に相談していた。女は相談に乗った。それでも、男は勇気を出せなかった。

 次第に男の行動が狂い始める。

 話しかけようとして、話しかけなかったり。陰から見ているだけだったり。帰り道を女に近づけようとしたり。

 そんな中。男の歯車が決定的に狂う出来事が発生した。


 幾何かぶりに話した女が、小学校のころ遊んでいたことを覚えてないといったのだ。


 本当に忘れたのか、完全に忘れたのか、それとも。女の心境は本人にしかわからない。

 だが、男は人生の中で最も楽しかった時期を否定され、壊れた。

 男は明るくなった。クラス委員の一員になり、積極的に手を上げるようになった。

 女たちにも変化があった。二人は生徒会役員になったのだ。


 三年生になったある日。生徒会主催のゴミ拾いボランティアが行われた。男は持ち前の行動力で参加した。

 男は最後のゴミ捨てを自ら引き受けた。同じグループだった人達はさっさと帰り、男は一人でゴミを捨てにいった。

 その道中でそれは起こった。女たちが男と同じようにゴミを捨てに来たのだ。三人は並んで歩きながら少しだけ話をした。

 男にとってそれは懐かしい一時だった。少なくともその時はそう思っていた。

 学校祭の演劇。男は去年まで一緒に参加していた女がいないことに一抹の寂しさを覚えた。その女のことが好きかと問われれば、男は否と答えるだろう。だが、男にとって女は心の支えだった。男が無自覚でもそれは間違いようのない事実だった。

 男は狂王という役を演じた。狂った王。まさしく男のこれからを暗示しているかのようだった。


 卒業。高校へ進学。男と男が恋した女は同じ高校へ進んだ。もう一人の女はもっとレベルの高い学校へといった。

 高校に入ってから、男が女に関わることはなかった。その理由は中学校卒業の少し前にある。


 男は友人の助力により、男は最高の告白のチャンスを得た。

 だが、臆病な男はその場から逃げ出してしまった。そして、後日女に手紙を書いた。

 悩んで、書き直して、男は渾身の手紙を書きあげた。だが、ラブレターではない。むしろそれは、自分へ向けた三行半だった。

 女は優しかった。その手紙に返信をしたのだ。告白を断るときのような文章で。

 好きになってくれてありがとう。

 女がどういう気持ちで書いたのかはわからないが、その一言が男の心には深く突き刺さった。

 男は家に帰るほんの短い距離の途中で倒れた。誰にも発見されなければ、死んでいたかもしれない。それくらいに男の心に深く突き刺さった。

 そんなこともあり、男は高校に入ってから女に関わることはなかった。


 だが、神がいるとしたら神は悪戯が好きなのだろう。男と女は二年生のクラス替えで同じクラスになった。四クラスある中で同じクラスになったのだ。

 それでも、男は女に関わらないようにした。実際、普段の学校生活で関わることはなかった。


 関わったのは一時だけ、それは学校祭の準備期間だった。


 男は演劇に参加していたが、それが終わるとクラス単位で行う行燈制作に参加していた。

 その作業中に男と女は言葉を交わした。

 女にとっては、良くてクラスメイトとの会話という認識だろう。

 男にとっては、帰り道で涙を流してしまうほどの出来事だった。


 だが、男はどれだけ壊れていようとも、女に迷惑が掛からないように頑張った。

 クラスの中では変人、変わり者という扱いを受けていた男。その男が学校に通い続けていたのは女がいたからだろう。それほどに、男の中で女の存在だけは大きかった。


 高校を卒業し、男は遠くの大学に進んだ。だが、男は一年で大学をやめることになった。

 いじめにあったわけではない。ただ、学校に行けなくなったのだ。行かなきゃいけないと思いつつも体が付いてこない。耐えられなくなった男は自殺を考えた。だが、臆病な男は自らの命を絶つことが出来なかった。

 不登校。そういう扱いで男は大学を止めた。


 その後、男は自宅に戻った。

 男は女について考えた。己が本当はどう思っていたのかを。どう思っているのかを。男は夜ごとに悪夢にうなされた。大学をやめたこと。将来への不安。

 だが、男は明るく振舞った。不登校で学校をやめたとは思えないくらいには。それが空元気なのか、なんなのかそれは男にもわからない。


 男の親は考えた。男は専門学校に通うことになった。だが、男は将来やりたいことを見つけられず、近くの専門学校に通うという選択になった。

 男は何とか専門学校を卒業し、就職した。


 その三年後、高校の同窓会が開催された。

 男は参加した。女も参加していた。

 男は女に会うと、自分から話しかけた。


「他人のことで、迷惑をかけてすみませんでした」


 中学校の頃の女への謝罪。

 男が想っていたのは、男の友達だった頃の女だけだと。その頃のことを覚えていない女ではないと。

 男は、自分の中でそんな結論を出した。

 女は何のことかわからないといった様子だ。男が誰なのかも理解してないのだろう。


 だからこそ、男は最高の笑顔を向けて、最悪の一言をいった。


「あなたは死んでください」


 男が想う女でありながら、そうではない女。でも、その体は想い人の成長した体で間違いない。誰にも。穢されるわけにはいかない。

 男は懐から取り出したナイフで女を刺した。

 女はなぜか悲鳴を上げずに、泣きそうな顔で崩れていった。

 男は女を刺したナイフとは別のナイフで、自らの首を掻き切った。臆病だった男だが、一切のためらいは感じられなかった。

 それから一分もしないうちに現れた救急車。誰が呼んだかわからないその救急車に乗って、二人は病院に運ばれていった。

 女は一命を取り留めたが、二度と子供を作れない体になった。

 男のほうは救急車のついた時点で絶命していた。

 一つだけ、救急車を呼んだのが誰だったのかは明らかにならなかった。


 男の部屋にあった遺書には、女の無事を願う文章があり、男の犯行目的は不明となっている。

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