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06  能力のあるただの14歳

 ニツバの領主屋敷から出発し、イカス村を目指すワタとキース。

 現在はニツバの街を出た辺りだ。

 ここから南下し、イカス渓谷にある宿場、イカス村を目指す。


 「なんかイカす名前だよね。イカス村」

 「オヤジギャグ? なんてね。みんな同じこと言うよ」

 「あはは、やっぱり鉄板だった」

 「ちなみに中身はただの商業集落。宿屋数軒と食堂と診療所、あとは幾つかのお土産屋。あ、それと兵士の詰め所もある」

 「へぇ。じゃーイカス渓谷ってどんな感じ?」

 「大地を分ける大きな亀裂。えーっと確か――」


 ――イカス渓谷。

 ニツバと王都の間にあり、ステージ王国北部における交通の要所。

 その亀裂はステージ王国を南北で完全に分断しており、隣国にまでも跨る大渓谷だ。

 そこにかかる橋は、王国内だけでも大小合わせて三十本以上。しかし魔車や牛車が通れるのは、そのうちたった三本だけ。もしもイカス村のつり橋が落とされた場合、一週間以上かけて遠回りしなければならない。

 当然ながら賊や魔獣も狙うので、ここには必ず兵士が常駐している。


 「実は俺もここ勤務になるはずだったんだ」

 「だった? 過去形?」

 「そう。要所だから腕利きの兵士が配属されるんだけど、直前で不正がバレた」

 「不正!?」


 驚き目を丸くするワタに、キースは大笑い。

 ワタにとって、今まで見たキースは不正をするような人物には、とても思えないのだ。


 「あっはっはっ! 今思えば俺もバカなことしたなぁって思うよ。家柄のおかげでクビにはならなかったけど、階級を最下級まで落とされた」

 「……あれだけ強いのに下っ端って、そういうことだったんだ」

 「そういうこと。俺ね、これでも優秀だったんだよ?」

 「えー見えなーい」

 「はっはっはっ」




 その後も二人は仲良く世間話。

 周囲の光景は、草木に囲まれていたソメやニツバとは異なり、木々も疎らで草の間から地肌が見えている。


 「それでね、私の友達の」「待った」


 会話の最中にキースが話を遮った。

 何事かとキースの表情を確認したワタは、それが危険信号だと察知した。


 「何? 周りは……なんもいないよ?」

 「いるのは上だよ。……一旦止まってやり過ごそう」


 路肩に停車、お互い物音を立てないように静かにしつつ、キースがフロントガラス越しに上空を確認中。

 みるみる苦い表情に変わるキースを目の当たりにし、ワタも緊張してきた。

 キースの目には、鳥ではない姿をした魔獣が、上空を旋回している様子が映る。


 「ワイバーンだ。完全に俺たちを狙ってる」

 「やばい?」

 「結構ね。飛んでいるしウロコが硬くて体力もある。ドラゴンと違って火を吐かないだけマシだけど」

 「ドラゴンいるんだ……」

 「……チッ赤か」


 この一言に、恐怖や緊張という部分よりも、興味が勝ったワタ。


 「赤だとなんかあんの?」

 「静かに」

 「ねえって」

 「うるさい!」


 能天気女子中学生、マジに怒られる。

 するとキースが車を急発進!

 「ったぁい。頭打った……ってこわっ!」

 先ほどまでいた地点をワイバーンが急襲。間一髪だった。

 だが、再度飛び上がりこちらを追いかけてきた。


 「本格的にまずい。ワタちゃん「落とす?」違う! 運転できる?」

 「あー……ゲームでなら」

 「よく分からないけど……だったらハンドルだけ握って!」

 「おっけー了解!」

 ワタがハンドルを握り、アクセルはキースが踏む。

 キースはそのまま窓から身を乗り出し、屋根に乗せてあるクロスボウを持った。

 「マジか!」というワタの本気の狼狽も、集中しているキースの耳には届かず。

 しかし助手席から素人がハンドルを握るために、車は左右へと蛇行。


 「真っ直ぐ!」

 「わかってる!」


 口喧嘩をしながらも、どうにか落ち着いてきた。

 「そのままそのまま!」というキースの言葉どおり、なるべく動かないようにハンドルを強く握るワタ。

 しっかり狙い放たれた弓矢は、なんと一発でワイバーンの左目に命中!

 これでワイバーンは車を追うのを諦め、去っていった。




 「ふぅー……」

 「マジかー」


 どうにかひと息という感じのキースに対し、驚きっぱなしのワタ。

 キースがその目線に気付き、思わずふき出した。


 「ぶふっ! 何だよその顔! あははは!」

 「いや、なんか映画見てるみたいだった。キースさんかっけー」

 「あはは、お褒めに預かり光栄です。……しかし赤か」


 意味ありげに呟くキース。


 「あ! それ! 赤だからなんなの?」

 「……赤のワイバーンは、ほとんどが魔族に飼い慣らされている。つまり」「私を殺しに来た?」


 頷くキース。

 さすがのワタもこれには表情が固まる。

 だがこいつは能天気女子中学生だ!


 「……んま、なんとかなるんじゃない?」

 「その能天気さは俺もほしいくらいだよ」

 「5千万タクスになりまーす」

 「高いな!」


 という感じで持ち直し、車は街道を進む。


 途中、ヒッチハイクのおじさんを拾いつつ、イカス村に到着。

 到着した頃にはすっかり日も落ち、車のライトと村の明かりだけが頼りになっていた。

 おじさんはここイカス村にある食堂の店主だそうで、ヒッチハイクのお礼に今晩のご飯と、名物のイカス焼きをご馳走してくれるとのこと。


 「俺は食べたことあるよ」

 「へぇ。どんなのかなー? ……って! これイカ焼いただけじゃん!」

 「そうですよー。イカの素焼き。なのでイカス焼きというわけです」

 「オーヤージーギャーグーじゃーん……」


 盛大にガッカリするワタに、キースも店主も大笑い。


 ちなみにだが、ここイカス渓谷では渓谷イカと呼ばれるイカが釣れる。

 成人男性の握り拳程度の大きさで、渓谷を流れるのは当然川なので淡水のイカであり、普通に食べると泥臭くて仕方がない。

 しかし釣り上げてから塩水に一晩泳がせておくと泥臭さが抜け、焼くと塩加減が丁度よくなるのだ。

 鉄板で挟み焼きにするイカ煎餅もあるのだが、こちらはお土産なので少々値段が上がる。


 ワタはぶつくさ文句を垂れながらもイカス焼きを一口。


 「……あ、これ美味しい。醤油ある?」

 「しょーゆ?」

 「あー異世界には醤油ないんだ……んじゃ味噌は?」

 「……脳味噌?」

 「惜しいけど違う! もう……いいや。美味しいし」


 キースはそれがワタの元世界にある調味料だと感付いたが、店主は当然ながら分かっていなかった。


 ご飯も食べておなか一杯になった二人は、店主に手を振り別れ、宿へ。

 宿は村でも平均的な宿。可もなく不可もなくであり、今回も二部屋取った。


 「ふわあぁあぁ。それじゃおやすみー」

 「おやすみ。明日は早いから、そのつもりでね」

 「ふぁあぁあぁーい」


 あくび連発のワタだった。


 ――――――


 とある部屋。豪華な装飾に、大きな本棚には本がぎっしりと埋まっている。


 「……んぬぉっ!? ……何だ貴様か。何用だ?」

 「ご報告を。先日ソメ南の森およびニツバの街にて、特異な反応を感知致しました。事後で申し訳ないのですが、先ほどこの特異点に接触、排除を試みたのですが失敗に終わりました」

 「失敗?」

 「はい。どうやらこの特異点は王国兵か、それと行動を共にする存在であるようです」

 「……消せ」

 「承知致しました……」


 ――――――




 翌日。

 キースは危惧していた。ワタが寝坊することを。

 そして案の定ワタはまだ部屋から出てこない。

 (……はぁ。そろそろ出ないと到着した頃には謁見時間が終わるよ……)

 ため息が出るキースは、ワタの部屋をノック。


 「……はぁーい」

 「まさかの起きてた! そろそろ出るよー」

 「着替えてるから待ってー」


 部屋の中から聞こえる音は、かなり急いでいる様子。

 そんな音を聞きつつ、笑いを堪えているキース。


 「あっ! キースさんいる!?」

 「いるよーどしたー?」「外見て! 外!」


 明らかに何かが起こったという語気。キースは急ぎ窓から外を確認。

 すると上空には何体もの赤いワイバーン。


 「やっぱりか! ワタちゃ「おまた!」よし。狙われてるのは俺たちだ。ここは一気に橋を渡って、対岸で連中の相手をしよう」

 「渡ってる最中に落とされたら?」

 「祈れ」

 「えええっ!?」


 宿代は先払いなので気にせず、急ぎ車に乗り込んだ二人。

 さっそく橋へと向かってアクセルを踏み込むと、丁度目の前でつり橋の支柱が破壊された。


 「祈る?」

 「遅いね。仕方がない、連中を迎撃しよう」

 「私も?」


 ワタの質問には答えないまま、キースは車を安全な場所まで移動。

 停車しエンジンを停止させてから、ワタの目を見た。


 「ワタちゃん、昨日俺が話したこと、覚えてる? ここは腕利きが集まっている」

 「……私はいらないってことね。りょーかい」

 「まずは詰め所まで走るよ!」

 「走るのは任せたまえ!」

 「ははは」


 しかしいざ走り出すと、キースは少々戸惑ってしまった。

 ワタの足がキースの予想以上に速く、女の子相手に自分が置いていかれてしまうのだ。

 「マジかよあいつ……」と愚痴をこぼしつつ、詰め所からの援護もあり無事到着。


 詰め所には兵士がわんさと集まっており、周囲から逃げてきた村民や旅行者も多数の大混雑。


 「俺も王国兵です。合流します」

 「助太刀感謝する。……奴ら、橋を落としたらこちらに狙いを変えやがった。とことんまでやるつもりだぞ!」

 「はい!」


 それが誰のせいなのかは、言っても仕方がないので口をつぐむ二人。

 兵士の士気は高く、皆それぞれに王国兵という存在に誇りを持っている。


 そしてワタは怪我をして離脱、床に寝込んでいる兵士を発見。


 「キースさん。私、自分のできることしてるね」


 キースの答えを聞く前に、ワタは兵士の治療を開始。

 手をかざすだけで見る見る回復する兵士たちに、現場からは小さな歓声が上がる。


 「嬢ちゃんまさか、魔術師か?」

 「能力のあるただの14歳。怪我したらうら若きJCが治してあげるよー!」

 「あははは!」


 緊迫している現場に響く野太い笑い声。

 これも能天気の成せる業かと感心するキースだった。




 戦闘が再開された。

 優秀な回復役がいるという事実は、兵士たちの不安を和らげるのに一役買っており、橋が落ちようともその士気は落ちない。


 「てめーら! 皆さんに少しでも怪我させてみろ! 渓谷に紐なしバンジーの刑だからな!」

 「嫌でーす!」「死にまーす!」「泳げませーん!」


 侃々諤々ながらも統率が取れているという、いかにもこのような事態に慣れているという雰囲気の兵士たち。

 一方兵士に怪我人が出ればワタがすぐさま回復させ、ものの数分で現場復帰。


 「嬢ちゃんマジで何者だい?」

 「私の名前は御前崎私。それ以上教えてほしかったら5千万タクスちょーだい」

 「5千万って、一生かかっても払えねーよ!」

 「あはは」


 ちゃっかり兵士がどれくらい給料をもらっているのかを調査しているワタ。

 問題はワタ自身がそれに気付いていないことだ。


 攻防は、当初はこちらが不利な状況だったのだが、力関係の逆転が起こり始めている。

 ワタひとりが物量を押しのけて回復させているので、必然的にワイバーンの数だけが減っているのだ。

 これもチート能力があるからこそ。だがやはりワタは気にしていない。


 「ワイバーン、残り十体を切りました!」

 「よし! そのまま押し通せ! 我らがステージ王国兵の力を見せつけてやるのだ!」

 「うおおおお!」

 「隊長、中央より通信です。……今すぐ、迎撃を中止せよ……だそうです」

 「なぁーにぃー!?」


 ありえない命令に、兵士全員が固まる。その中にはキースもいる。


 「……おい。その通信はいつ届いた?」

 「つい今しがたですが……」

 すると隊長は重い通信機を持ち上げ、床へと落とした!

 「た、隊長!?」「いよぉーしお前ら! 襲撃時に通信機が壊れ、中央からの指令が我々の元に届くことはなかった! 一匹残らず掃除するぞ!」

 「はいっ! ははは」


 この隊長、齢65にしてイカス渓谷勤続45年を誇る大ベテラン。

 まさにイカす男である。




 「最後の一体の撃墜を確認! 我々の勝利です!」

 「よし。諸君ご苦労だった。残念ながら橋は落とされてしまったが、形あるものはいつか壊れるという言葉もある。なによりも誰一人として欠けることなく勝利したのだ! 誇れ!」

 「うおおおお!!」


 歓喜の雄叫びを上げる兵士たちにキースも混じっている。

 そしてワタも治癒をしながら、片手で「おー」と喜んでいる。


 ひとしきり喜んだ後、キースはワタと合流。


 「橋、落ちたね」

 「仕方がないさ。命あっての物種とも言うからね。俺はこの後ちょっと用事があるから「用事って?」ははは。一応俺たちが一番早く王都まで行くだろうから、橋の状況確認だよ。上に報告しなきゃ」

 「んじゃ私もー」


 キースはワタを休ませるつもりだったが、邪魔にはならないだろうと了承。


 橋の跡まで来た二人。ついでに隊長や野次馬も。

 つり橋は支柱が合計八本あったのだが、現在残っているのは対岸の一本だけという状況。

 復旧には相当な時間が掛かるということは、誰の目にも明らかだ。


 「んーむ……。この分では橋の再建には数ヶ月を擁するだろう。申し訳無いが、大回りで対岸へと向かってほしい。これはひとえに我々の力不足によるものだ。皆様には心からのお詫びを申し上げる」


 隊長が深々と頭を下げ、それに呼応して周囲の兵士も同様に村民や旅行客に謝罪。

 だがそのことに怒る人は誰一人としておらず、むしろ命を助けてくれたのだからと感謝の言葉を返している。

 そんな光景をしばし見ていたワタは、改めて落ちた橋の痕跡に目を向ける。


 (……ふひひ……私が橋造ればよくね? うは、私頭いい……ふひひひひ……)

 「ワタちゃん?」

 「ねえキースさん。つり橋よりも立派で壊れにくい橋がここにあったら、便利?」

 「……あー頭痛くなりそうだなーそれ……」

 「あはは」


 キースはワタが何を考えているのか読めた。

 読めたせいで、頭を抱えて大きなため息。


 「……俺しーらないっ!」

 「投げた! ってことは……ふひひ……」

 《片側二車線ある鉄筋コンクリート製の橋が架かる》




 まあーそれはそれは大変なことになりました。

 突如として出現した物凄く立派で頑強な橋に、二人以外そこにいた全員が目を白黒させて、それが幻ではないかと疑い、中には失神する人まで出る始末。

 そしてこんなことを人間ができるはずがないというところから、この中に創造神アルトールがいるのではないかとなってしまい、大騒ぎ。


 「やりすぎたかも」

 「かもじゃないね。しかしこんな立派な橋……もしかしてワタちゃんの知ってる橋?」

 「うん。私の通学路にある橋。長さとかは違うけどね。それじゃ行こっか」

 「……その能天気さには感服するよ」


 二人はこの大騒動を放置することに決定。

 車に乗り込むと周囲の喧騒が幾分か静かになる。

 すると何故か、二人とも笑いが込み上げてきた。


 「……ははは」

 「あはは。なんか……あはは」

 「なんかってなんだよ。ははは」

 「なんでしょう? あははー」


 「さて、行こうか」

 「はーい。一番もらっちゃおー!」「おー!」


 こうして二人は橋を渡り切った第一号となった。

 なお余談だが、後にこの橋は『渡し橋』と呼ばれるようになった。




 ―――――


 「……んおっ!? っと、また貴様か。心臓に悪いぞ……」

 「影が薄くて申し訳ございません。謝りついでにもうひとつ。イカス渓谷での能力者排除に失敗いたしました」

 「知っている。全くあいつら、私の命令を無視しおって……。だが誰が能力者かは分かったのであろうな?」

 「……申し訳ございません。現場に人が多かったことと、ワイバーンが全滅してしまい、結局能力者が誰なのかは不明なままです」

 「はぁ……魔族というのはこうも馬鹿ばっかなのか?」

 「………………」

 「まあいい。どうせその能力者の目的は私であろう。なれば自ら見定め、消すまでよ」


 ―――――




 悠長にドライブを楽しむ二人。

 王都がかすかに見えてきた――。



 どうしよう。13話まで書き終わっちゃった。

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