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30  ……ま、いっか

 魔王スリーエフが死んでから3日が経った。

 ワタたちは先日泊まった宿屋にまた泊まっており、そして事態が一度冷めるまではソメの町から出ないようにと、御三家から通達を受けている。


 ―――――


 時を遡り、魔王城を後にし、ソメの町へと帰る途中。


 「あ、なんか光った」

 「あれは発光信号。うちの私兵が遠くの仲間と通信してるんだよ」

 「ほぇー。んでなんて?」

 「途中からだけど……俺たちの脱出と魔王の討伐を確認、だね」

 「見えてたの? 目がいいなぁー」


 実はキースが盗聴マイクを隠し持っているのだが、秘密。


 その後、ついうっかり町の中に着地してしまうコスモ。


 「ふぃー着いたー」

 「着いたーじゃないよ。町には姿を見せないようにって注意したじゃないか」

 「フアッ!? キュン……」


 ワタたちを降ろすと、小さく萎縮して必死に怖くないアピールのコスモ。

 だが町民はそれぞれホウキやクワなどを手に集まってきてしまう。


 「あー皆さんこれはですね」「貴様も魔族の手先だったか!!」

 「いえ、そうではなくて」「そんななりしたってあたしゃ騙されないんだからね!」


 聞く耳を持たない町民。

 だが、こんな時こそ能天気女子中学生の出番である。


 「あーねー、魔王スリーエフっての死んだからーよろしくー」

 「そんな嘘に騙され……え? 死んだ?」「魔王が死んだ??」「まさかあんたらが倒したってのか!?」


 「倒したっていうかー、あれって自殺だよね?」

 「まあ、ワタちゃんに頼んでだから、自殺って言えば自殺かな」

 「魔王が……自殺??」


 「うん。そんで、これコスモ。私のペット。草食系だからよろしくー」

 「ワイバーンがペットぉ!?」「ソーショクケーって何だ??」


 その後ワタはコスモに殴る蹴るの暴行を加え――ダメージで表現すれば『0』しか表示されないレベルの攻撃だが、ともかく何をされても静かにしているコスモを見て、町民はコスモに対する敵がい心を解いた。


 ―――――


 なので今は町中に堂々と黒いワイバーンがおり、ワタたちも含め、すっかり町民の知る顔となっている。




 「ワタちゃん、今日も?」

 「うん」

 「わたしは最後までお付き合いしますよ。なんたってワタは私の妹ですから」

 「……まあ、俺も暇だからいいんですけど」


 この3日間、ワタはずっと占いババアを探している。

 キースが気を利かせてマーリンガム家も動員し方々で捜索しているのだが、アタリはゼロ。


 そんな中、宿屋にマーリンガムの私兵がひとりやってきた。


 「キース様、ご報告申し上げます」

 「見つかった!?」

 「いえ、そちらの用件ではありません……」

 「そう……」


 早とちりしたワタ。落ち込む様子に私兵も複雑な表情。


 「それで?」

 「あ、はい。次期国王が決定するまで、代行者にフォーキン卿が選定されました」

 「ああ、あの人ならば安心だ」

 「誰?」

 「国の東側を仕切る領主だよ。マーリンガム家にも遊びに来る仲だ」

 「ふーん」


 聞いておいて興味のない返事をするワタ。


 「それから、ルパード様より、帰宅の許可が下りました」

 「ようやくか。分かった。こっちは……ワタちゃん次第だって伝えておいて」

 「はい。それでは失礼します」


 私兵が帰ったところで、今日の行動を決める。


 「……もう一回あそこに行く。今日いなかったら、それで諦める」


 あそことは、ワタが占いババアと出会った場所だ。

 周囲からの話とワタのかすかな記憶で場所は特定できたのだが、やはりそこには何もなかった。


 「了解。それじゃあ行こうか」

 「うん」




 場所への移動中、クーがキースにコソコソと耳打ち。

 真剣な表情で頷いたキースを、ワタは見逃さない。


 「なぁーにぃー?」

 「いや、なんでもない。こっちの話だよ」

 「ええ、こちらの話です」

 「……そう言われたらさーぁ? 余計に気になるじゃーん」

 「ははは、ですよねー」

 「やはりですね」


 「……ワタちゃん、なんかさ、予感しない?」

 「んー?」

 「わたしもキースも、胸騒ぎ……というと大げさですが、少しだけ何か違う空気を感じているんです」

 「ふーん。……あ、コスモ。珍しい」


 普段コスモは空き地におり、ワタたちからコンタクトを取らない限りは空を飛ぶのを控えている。

 そのコスモが、まるで二人の感じた違和感と示し合わせたかのように、上空を旋回し降りてきた。


 「どしたー?」

 「……フキューン……」


 妙に元気のない鳴き声。

 病気か何か、コスモ自身に非常事態が発生したのではと質問をするが、コスモはそれを否定。

 それなのに今まで以上にワタにくっ付きたがり、そして何故か時折通せんぼをする。


 「んもーなにー?」

 「キューン……」

 「言葉で言ってくれないと分からないし」

 「フアー!」

 「だーめ」

 「……フキュン……」


 怒られても、その行動をやめないコスモ。

 キースもクーも、そしてワタもその理由には気付いている。

 翼を広げ実力行使に出る姿勢を示すコスモだが、やはりワタの一言で静かになる。

 そんなことがしばらく続いたが、それも終わり。




 「あ、いた」

 「いちゃったかー……」「ですね……」「キューン……」


 そこには小さな机に紫の布をかぶせ、赤い小さな座布団と、その上に大きな丸い水晶球の乗った、露天の占い屋があった。

 店主のお婆さんは、まるで待っていましたとばかりに、ワタたちを優しい笑顔で手招き。


 「久しぶり。おばあちゃん元気してた?」

 「もちろん。後ろのはお仲間さんかな?」

 「うん。キースさんにクーさんに、コスモ」

 「そうかい。良き仲間を持ったようだね」


 キースたちも頭は下げるが、無言になってしまう。


 ワタは、いきなり本題に踏み込んだ。


 「ねえおばあさん。……アルトールさんって呼んだほうがいい?」

 「……ふっふっふっ。なるほど、全てはお見通しということじゃな。ならば遠慮はいらんじゃろう。ちと場所を変えるぞ」


 そう言ってお婆さんが立ち上がると、三人と一体は何もない空間に立っていた。


 何もない。

 音も光も熱も匂いも感触も、何もない。


 「―――!? ……――?? ―――――!?」

 「――? ―――?? ―――!」

 「……―――? ……――――!」


 キースもクーもコスモも、お互いが見えず、そして自身の声が出なかった。

 何もない。

 自分の存在すら感じ取れない。

 そんな状態に置かれてしまっては、自我も保てなくなる。


 「――――、―――――――。《音出して、明かりつけて、温かくなって、花の香りして、自分に触れる》ようにしないと。なんで私にやらせるのさー」


 ワタが能力を使い、春の陽気のようにぽかぽかと暖かい花園が形成された。風の通るさわやかな音が花のいい香りを運ぶ。まるで楽園か天国である。


 「……え、なん……」「ワタ!?」「フキューン」

 「あ、みんないた。ねーあの神様イジワルなんだから。私に全部用意させたんだよ? もー!」

 「ワタちゃん……っていうことは、あのお婆さんが……」

 「はい。そうです」


 後ろから聞こえた声に全員が振り返ると、そこには先ほどまでのお婆さんではない、別人が立っていた。

 女子高生ほどの容姿と、何故かセーラー服。

 髪は純白で、少し青みがかって見えるほど透き通っている。


 「この姿ではお初にお目にかかります。私がこの世界の創造神、アルトールです」


 「私より美人だ」

 「ワタちゃんは中の中でしょ」

 「えー! せめて中の上がいいー」

 「はいはい。じゃあ中の上ね」

 「わたしは?」

 「姉さんは酒癖で論外」「ひどいっ!」


 「あはは。本当に仲がいいのですね」

 「あっ! も、申し訳ございませんッ!!」

 「いえ、構いません。私も賑やかなほうがいいですから」


 思わず普段の雰囲気で会話をしてしまったが、目の前にいるのは本物の創造神である。

 改めて冷静になったこちら世界のキースたちは一斉にひれ伏し、ワタは「ほぇ?」と鳴いた。




 「まずはワタさんに謝らなければいけませんね」

 「あー、私試されてたんでしょ? なんでかは知らないけど」

 「はい。私は秘密裏にワタさんを試していました。申し訳ございません」

 「おーやっぱり。っていうか私、神様に謝ってもらった。すげー」

 「あはは、そう言われればそうですね。すげーです」


 (神様と普通に会話してる時点ですげーよ!)と心の中で盛大にツッコミを入れるキース。クーにコスモも同様。


 「これは皆様方にも関係のあるお話です。実は私アルトールは、創造神を引退しようと考えているのです」

 「あー、んで私が次の創造神ってことだ。……あー! だから『ソーゾー』なんだ!」

 「はい。ご名答です」


 「全てを白状しますと、ワタさんを選んだのはその性格ゆえです。ワタさんならば能力を使いこなし、世界を良き方向へと導けると判断しました」

 「ふひひ。神様に褒められた」

 「……しかし、予想外の連続でした」


 キースとクー、すっごく納得しています。


 「最初の予想外は、このソメの町に到着した直後。ワタさんはいきなり世界を書き換えてしまいました。『もっと私に甘い世界になれー!』と叫んだこと、覚えていますか?」

 「うん。……え、あれマジでそうなったってこと!?」

 「はい。突然だったので大焦りで占い師として接触したのですよ?」

 「あははー、ごめんなさい」


 「初日に酒場で一夜を過ごせて、二日目という早い段階でキースさんと出会えて、混乱する城内で偶然にもクーさんと出会えて、そしてあなた。ワタさんを一目で気に入る強い翼、ブラックワイバーンのコスモと出会った」

 「……あのおかしい依頼って……」

 「わたしの剣が折れたことも……」

 「フアッ……」

 「はい。全てワタさんの能力で世界が書き換わったからです」


 二人と一体で顔を見合わせ、納得。


 「のわりに、私『ネズミ事件』で結構キツかったんだけど?」

 「あれは私の介入です」

 「あ、やっぱり?」

 「ええ、やっぱりです。あれがなければワタさんは能力を際限なく使い、世界を崩壊させていましたから」

 「……否定できない自分がいるー」

 「あはは。でもご安心ください。私が介入したのはその一度きり。そしてワタさんは私の用意した試練を乗り越え、私の後継者、創造神となる資格を得ました」

 「おー。やだ」




 「や……へ? やだ??」

 「うん。やだ。神様とかちょーめんどそうだもん。絶対やだー」

 「い……えーっと……世界を司る神になれるのですよ?」

 「余計に面倒そうじゃん。それに、これの新刊読まないと」


 ワタがカバンから取り出したのは、例のラノベ本。


 「今すんごくいいところで終わってんの。私ずぅぅぅーっと! 続きが読みたくて読みたくで、我慢しながら旅してたんだから! 神様になんかなったら読めなくなるじゃん! ぜぇーっったいっ! やだ!!」


 ポカーンとしてしまうアルトール。

 一方後ろでかしこまっているキースたちは、笑いを堪えるので手一杯。


 「ってか、なんで引退しようとしてんのさ? そのまま神様やればいいのに。アルトールさんJKでしょ? 若いじゃん」

 「……えっ!? あっ、えと……少し時間を下さい」


 神様でも読めないことがあるんだなと思う一同。

 アルトールは必死に頭の中を整理し、どうにか冷静さを取り戻した。


 「んんっ。私が引退する理由ですが……クーさん。世界創造の神話はご存知ですね?」

 「はいっ! アルトール様は元は『彼の地』の神様でありまして、四人の女神たちと旅立ち、こちらの世界を創造なさられました!」

 「はい。ありがとうございます」「滅相もないっ!」


 信仰心の強いクーなので、アルトールに褒められて舞い上がっている。


 「んでそのカノチってのが、私のいた世界?」

 「そこまで読んでいるとは。はい、大正解です。私と四人の娘は、そちらの世界で職業神、簡単に言えばその職を極めたものに力を与えるという、表には出ない神でした。そしてもうひとつ。魔術工房を作り、人に魔法を与えて世界を良き方向へと導いていました」

 「……えっ!? 私の世界って魔法あるの!?」

 「はい。ただし私たちが選んでいたのは、魔術師ではなく工房でしたが。……この話は長くなるので置いておきますが、そこで私は出会いを間違え、人を殺めてしまいます。神の力で復活はさせたものの、私は贖罪の意味も込めて彼と三年間の高校生活を行い、その経験から、新たな世界に旅立つことにしたのです」




 「……あー、分かった。クーさんネックレス」

 「あっ。えーっと……はい」


 クーから渡されたネックレスを、アルトールに返却するワタ。


 「それのイニシャル……でしょ?」

 「うっ……は、はい……。それで、その……この世界も安定しましたし、戻りたいなと。でもそうするとこの世界に創造神がいなくなりますから……」

 「あー……のさー? 私怒っていい? それすっごく自己中でしょ。そんなのに私巻き込まないでよ!」

 「自己中心的なのは、否定できません……。私だってすごく、すごくすごくすっごーく! 悩んだのです。でも……あの生活が愛おしいのです……」


 肩を落とし、瞳に涙まで浮かべるアルトール。

 その姿にワタは言いすぎたかなーと思ってしまう。


 「んーまー寂しいだろうなーってのは分からないでもないよ。だけどさ、この世界作ってから何年経ってんの? その人たちもう死んでるって」

 「……それは……その……こちらの世界での一万年は、あちらの世界での一秒に設定してありまして……」

 「はあ!? え、待って待って! じゃーさ、私1ヶ月以上こっちにいるけど、戻ったら1秒も経ってないってこと!?」

 「はい」

 「えー!! やーだー!! せっかく新刊楽しみにしてたのにまた1ヶ月待たなきゃならないじゃん!! ちょーありえないんですけどー!!」


 え? という表情になるアルトールとキースたち。


 「もー! それだったら早く帰る! 帰る方法教えて!」

 「あのワタちゃん、さすがにすぐ帰られると、俺たちもその、心の準備とか……」

 「そうですよ。別れは覚悟していましたけれど、ここまで突然だと、準備が追いつきません」

 「フンッ! フンッ!」

 「えー。んじゃ方法だけ教えて」

 「では、ワタさんが元の世界へと帰る方法ですが……」


 全員が耳に神経を集中させた。


 「自分で作り出せばいいのです。世界を渡る扉を」


 静寂。

 そして全員が呆れた。




 「えー、ちょっ……マジー? そんなんでいいの?」

 「ははは……気付いていたら一日とかからず帰っていたわけだ」

 「残念すぎですね……どっと疲れが出ました」

 「フンッ」


 さすがのアルトールも申し訳なさで苦笑い。

 そしてワタは早速《私の世界に帰れる扉》を創造。

 間髪いれずコスモが扉の前に立ちふさがった。


 「ンフアッ! フキューン! フキューン!」

 「あはは、分かってるってー。アルトールさん、あっちとこっちの時間、一緒にしない? それだったらアルトールさんもいつでも行ったり来たりできるし、私も行ったり来たりできるよ?」

 「え、そうですけど……」

 「こっちの世界って安定したんでしょ? だったら神様が一年くらいいなくっても大丈夫じゃない? 他に神様四人もいるんだから、その人たちに留守番してもらうとかさ」

 「……検討します。ですが、ワタさんは一度帰ると往来することはできません」

 「なんで?」「え!?「」は!?」「フアッ!?」


 「ワタさんはこちらの世界に呼ばれてから『ソーゾー』能力を授かったので、能力がこちらの世界限定なのです。あちらからこちらへと渡るには、こちらの世界出身であり、こちらの世界で能力を授かる必要があるのです」


 残念ながらよく分かっていないワタ。


 「しかしワタさん。これは私からのお詫びと感謝の印です。この事案について、少々時間はかかりますがしっかりと検討し善処します。任せてください」

 「神様に任せろって言われたら、任せるしかないよね」


 ワタはキースたちに目配せ。

 キースたちはそれを”追ってきてね”という意味に捉えた。

 だからこの別れを、寂しくも悲しくも思わなくなった。




 「ワタちゃん。……さようならじゃないね。これは、また会おうだ」

 「いいですね。ではワタ、また会いましょう」


 「……フキュン……」


 覚悟を決めた大人二人に対し、コスモはまたワタに甘える。


 「あははー。ほんとにコスモったら甘えん坊さんだなぁ。なんか、妹ができたみたいで嬉しい」

 「キューン」

 「それじゃコスモも私の世界に「フンッ! フンッ!」なんちゃってって言おうとしたんだけど。あはは」「フキューン……」


 「気持ちは嬉しいけど、ダメだよ。魔獣は私の世界にはいないし、ワイバーンなんて来たら絶対大変なことになって、コスモが一番悲しむよ。……あはは、泣かないでよ。また来るから。ね?」

 「……キュゥーン……」

 「あはは……」


 本当にポロポロと涙を流すコスモ。

 つられてワタもキースもクーも、そしてアルトールも涙腺が緩んだ。




 「はぁ。あー、このままだったら帰れなくなっちゃうから……うんっ! 私帰るね。だけどまた来るから。まだまだ色々見たいし」

 「ああ。俺たちも見せたい風景がまだまだある」

 「うん。私は……例えばキースさんとヘンリエッタさんの結婚式とかー」

 「あはは! 相当先の話だなぁ」


 「あと、クーさんがしっかり禁酒できてるかも確認しないとー」

 「ワタも呑める年齢になれば分かりますよ」

 「やめる気ゼロっ! 怒るよ?」

 「ふふっ、すみません」


 「そしてコスモもね」

 「フンッ……ンー……」

 「コスモが人だったらもっとお喋りしたかったなぁ」

 「フキュゥァアン……」

 「じゃあね」


 ワタは花園に立つ扉に手を掛け、ゆっくりノブを回し、扉を開けた。

 その先には、ワタの見慣れたアパートの玄関があった。


 「……神様。ありがとうございました。私、本当に楽しかった。じゃあねみんな。また会おうね」


 必死に涙を堪え、みんなに最後の笑顔を見せた。

 それに応え、キースもクーも笑顔で、そしてコスモも何度も頷き、ワタを見送った。




 ―――――


 扉をくぐり、静かに閉めた御前崎私。


 「……んー……んすんっ……」


 声は出さず、ポロポロと涙が頬を伝う。

 そしてドアノブから離れない手をまた捻り、玄関ドアを開けた。


 そこにあったのは、鉄の柵にコンクリートの壁とアスファルトの道路。

 腰まである草の生い茂った草原も、ガタガタ揺れる石畳の道も、鼻息の聞こえる牛車も、剣も魔法も、仲間もなかった。

 一歩外へと踏み出し、その光景が嘘ではないかと疑うも、既に覆ることはない。


 ついに膝から崩れ落ち、近所中に聞こえるほどの大音響で号泣する御前崎私。




 「なんだ、ワタちゃんらしくないなぁ」

 「ふふっ、意地悪な人なんですから」

 「まったくだ」




 「聞き慣れた声……」


 (……え? 聞き慣れた声? 幻聴??)


 疑いを確認するため、振り返る。


 「やあ、さっきぶり」

 「とはいえわたしたちは一ヶ月ぶりなんですけど」

 「それを言えば混乱するだろう」


 「……え、なんでいんの!? ってか……誰!?」


 彼女の目の前に現れた”彼ら”は、彼女の知る彼らとは少しだけ違っていた。

 キース・マーリンガムは薄灰色の髪が茶髪になり、さわやかな水色のポロシャツ姿。

 クインキュート・アンダーフィールドは赤髪が綺麗な黒髪に変わって、白いTシャツ姿。


 そして、彼女の知らない人物が追加されている。

 見た目は黒系のゴスロリで、事実、小学校低学年のような背の小ささ。


 「我は強靭かつ高潔なる魔獣、ブラックワイバーンのコスモ。我はアルトール神に頼み込み、貴女(あなた)と同様の能力と、この姿を得た。……ワタおねえちゃん。会いたかったぞっ!」

 「えっ……えええっ!?」


 驚嘆絶句の御前崎私に、全力で抱きつく”元”ブラックワイバーンのコスモ。

 そう、彼らの世界ではこの一瞬で一ヶ月もの時が過ぎ、そしてこちらの世界に来るため、神の試練をくぐり抜けたのだ。


 その事実に、御前崎私はこう一言。


 「……ま、いっか」


 能天気女子中学生の、全てを許容する言葉に、大きな笑いが起こった。




 異世界は私の想像どおり。――完――。



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