28 二人だけカッコ良くてずるい!
魔王城の強行偵察に終わった、その翌日。
「ひゃっはー!」
開幕から元気なワタ。
今日は本格的に魔王城へと突入するために、最初からコスモで山を越えることにした。
「ワタも考えましたね。コスモに鞍を付けるだなんて」
「ホント、おかげで俺もようやく安定できました」
「ふっふーん!」「フンッ!」
―――――
昨晩のこと。
またいつの間にかキースの部屋に入り浸る女性二人。
「あ、ねーねー。つまりキースさんは落ちそうだから怖いってことだよね?」
「まあ。だってあれで突然動かれてみな? 遠心力で吹っ飛びそうになるから」
「んー……あっ。ふひひ……」
ワタのいつもの含み笑い。
二人も反応し、何かを閃いたのだとニヤニヤ。
「おっとー、その笑いの意味はー?」
「うん。だったらさ、馬の鞍みたいにコスモにも鞍つけて落ちないようにすればいいんじゃない?」
「……なるほど。試してみる価値はある」「ですね」
―――――
「でもコスモは少し窮屈そうですけど」
「三人乗りだから余計にでしょうね。コスモ、大丈夫?」
「フンッ!」
問題ないと言いたげに頷くコスモ。三人も大船に乗った気持ちだ。
ぐんぐん高度を上げ、山頂を見下ろす高さに到達。
「うぅ~寒ぃっ」
「姉さんは余計でしょうね。ワタちゃんは?」
「セーター着てる」
「用意周到ですこと」
コスモは一旦山頂付近の開けた場所に着地。あちらからは陰になっている場所だ。
岩陰から魔王城を覗く一行。
「……大砲ある?」
「あるにはあるけど……なんだろう? 反対側を向いてる」
「好機か罠か……判断が難しいですね」
「もう少しよく見えたらいいんだけど……俺でもちょっと遠い」
「あ、だったら《双眼鏡を3つ》作って、ほい。両目で覗いて」
もう誰も驚かなくなっている。
「相変わらずすみません。さてと……」
「……キースさん逆。こっちから覗くの」
「うわー俺すげー恥ずかしい」
赤っ恥のキース。
だが本領はここから。
「あそこの魔族、なんか喋ってますね」
「んーどれどれ……」
クーが城のベランダ部分で話している二人の魔族を発見。
「ああ、えーっと……『洗礼の準備は順調だ』とさ」
「……え!? なにそれ!?」
「さあ?」
「じゃなくて! キースさんここからでも聞こえてんの!?」
「あーあはは、違う違う。読唇術って奴だよ。口の動きから何を喋っているか当てる技術。マーリンガムのお家芸ってところかな」
「あー」「ならば納得ですね」
最初は驚いた二人だったが、”マーリンガム家”と聞いて一瞬で納得。
気を取り直して再度双眼鏡を覗く。
「お、別の発見。えーっと……『歓迎しよう。盛大に』だって。どうやら俺たち、すごーくおもてなしされちゃうみたいだ」
「裏があるのにおもてなしってねー」
しばらく観察していると、警備している少数を除き、魔族たちが城内へと引き上げ始めた。
「……さて、どうしますか?」
「俺はワタちゃんに委ねる」
「えー……」
嫌そうにだが、しかし真剣に考えるワタ。
能天気女子中学生であっても、この選択には全員の命がかかっていることを理解している。
「……行く」
「その理由は?」
「んー、勘?」「おいおい」「ははは……」
首を傾げるワタに、呆れ声の二人。
「んだけど、なんか引っかかってるんだ。時間かけないほうがいいかもって」
「漠然とではあるけど、ちゃんと理由があるわけか。……分かった。姉さんは?」
「もとより暴れるつもりですよ」
「ははは、さすが。コスモもいい?」
「フンッ!」
全員、心は決まった。
「ということで、ワタちゃん。行こう」
「……うん。そして、みんなで帰ってくる」
ワタは心の中でみんなにありがとうとごめんなさいを告げ、コスモの鼻を撫でた後、確信を持ってその背中に乗った。
キースもクーも、そしてコスモも、そんなワタに信頼感を持っている。
「コスモ、遠慮いらないよ」
「フンッ!」
ワタの言葉に頷き、速度を上げるコスモ。
地上では大急ぎで迎撃体制が取られるが、いざ対空迎撃が始まる頃には、コスモは魔王城の上空へと到達。
「突っ込め!」
ワタからの指示が飛んだ。
コスモは魚を見つけた海鳥のように真っ逆さまに急降下!
ワタたちは風圧で息ができない。しかし鞍のおかげで振り落とされずにいる。
そのまま魔王城の中庭エリアへと強引に着地、早速戦闘態勢へ!
襲撃を伝える鐘の音と笛の音、怒鳴り声が響く。
コスモはすぐさま飛び上がり、上空に展開したワイバーンを叩き落としながら退避。
「さて……どっち行けばいいんだこれ?」
「私の勘でいい?」
「……お任せいたしましょ」「ふふっ」
口には出さずとも大人二人が同時に、道の選択を全てワタに任せ、自分たちはその守りに徹することに決めた。
「んじゃお祭り開始ー!」
ワタの指示通りにあっちへこっちへ。
しかし不思議なことに、召集の警笛は聞こえるのだが、肝心の魔族たちが来ない。
「なんかおかしくない?」
「確かに全然来ない。これも罠か?」
「……かもだけど、もひとつおかしいのがある」
「もうひとつ?」
「うん。……多分だけど、3回くらい同じ道通ってる」
「あの森と同じですね」
「……となると、ワタちゃん頼みだ」
「そのつもりだから、《この魔王城の罠が全部壊れて動かなくなる》ってしとく」
さすがといった感じに苦笑いのキースとクー。
すぐさま現れた十字路で左右を確認し、右に折れるとそこにあった扉に入るワタたち。
部屋はどうやら食料庫。ここで一旦休憩である。
「おいしそう」
「見たことのない食材だらけだなぁ。……さて、何故魔族が来ないのか。罠か偶然か」
「……これが原因かもしれません」
クーが取り出したのは、ワタから預かっているネックレス。
「あー魔よけ効果出てるってこと?」
「可能性としてですけど」
そんなクーの目をじーっと見つめるワタ。
「……ねえクーさん。私になんか隠し事してる?」
「なっ、え? なんですか突然?」
「うろたえたー」
「………………」
思わず黙るクー。キースは頭を掻いて目線を逸らす。
クーは一瞬ほんの少しだが、このネックレスに畏怖した。それをワタはクーの目の動きで察知したのだ。
「そのネックレス、ただの魔よけじゃないんじゃない?」
「……何故?」
「私の中で疑惑があるのだー。それ高級ってだけじゃなくて、実はすんごぉーい、お宝なんじゃない? たーとーえーばー……神話に出てくるとか」
ギクッと反応してしまうクー。
「やっぱりー。だと思ったー」
もう隠せないとため息をつく二人。
「いつ疑念を持ったんですか?」
「酒場でおばあさんの話を聞いた時」
「……ああ、あの妙な反応……」
「そ。確か女神様が今この世界に来てるって話があったよね? んで私を占ったお婆さんがネックレスを持っていて、『ネズミ事件』の日にいなくなった。もしもあの事件が、女神様が私に能力の危なさってのを教えるために仕組んだことだって考えたら、繋がったんだよね」
大人二人は顔を見合わせ、降参した。
「正解。そのネックレス、この世界のじゃない文字が刻まれてるんだよ。アルトール教徒ならば一度は見たことのある図柄。それだけならば模造品で済んだんだけど、それにはさらに別の文字が彫られている。こっちは神話でもそういう彫りがあるっていう記述だけで、図柄は不明」
「そしてワタの能力と、それを手に入れたという事実を加味し、わたしたちはそれが本物であると判断したんです」
「……久しぶりにわかんない」
「ははは。久しぶりにか。えーっと、簡単に言えば神話に出てくる、そのものだってこと」
「おー。んじゃなんて書いてあるのか見せてー」
ネックレスがワタの手に渡る。
すると「おいこっちだ!」とすぐさま扉の外で声がした。
ワタは思わずネックレスをキースに放り投げ、キースは何故かクーにパス。
なんで!? という表情をしたクーに、笑いそうになるワタとキース。
「どこ行った!?」
「分からん。あっちを探すぞ!」
「………………ふぅ」
魔族がまた何処かへ。
もう三人ともが、この現象の理由がネックレスにあると確信している。
「つまり、ワタちゃんが持つと退魔効果が薄れるんだね」
「むー……なんかヤだ」
「ふふっ。恐らくですが、このネックレスはワタが過剰に能力を使わないよう、リミッターの役割を果たしているのではないかと。その副作用で退魔効果が限定されてしまう」
「神話ではどうなの?」
「神話では、アルトール様がまだ『彼の地』の神だった頃、この世界を創造するために旅立つ時に、人間から選別としてもらった物のはずです」
「え、女神様も異世界から来たんだ。まんま私みたいじゃん」
「……そう言われてみれば」
自分の常識外にいるワタの疑問符に、何故そこに気がつかなかったのかと自身にも疑問を感じる二人。
「んじゃさ、クーさんが持ちながら、私に見せて」
「なるほど。それならば安全ですね」
じーっとネックレスを見つめるワタ。
ふと、メガネを外した。
「……あっ!」「えっ?」「なに?」
「私、読めちゃった」
「メガネ外しても?」
「うん。これローマ字のイニシャルだ。んで最後は……英語はわかりませんっ!」
とんでもないことが判明したが、それ以上にワタの残念さにずっこける二人。
「ワタちゃん、せめて自分の世界の言葉くらいはさ……」
「だって私の国の言葉じゃないんだもん」
「……別の国なのか」
「うん」
納得する二人。
すると扉が突然開いた!
「歓迎ってそっちの……って!!」
お互い驚き固まってしまった。
だが切り替えが早いのも能天気女子中学生の長所。すぐさま《能力消去》し、この魔族を引きずり込んで扉を閉めた。
「なっ……あっ……」
「しーっ! 大きい声出したらハゲ頭にしてやるから!」「それはやだ!」
キースとクーも武器をこの魔族へと向け、ワタが近くにあった荷造り用のロープで縛った。
魔族は無抵抗。
「っていうかその服装、コックさん?」
「は、はい。……見習いですけど……」
こちら世界でもよく見る白い服に白い帽子。帽子には若葉色の線が巻いてあり、それが見習いを示している。もちろん現在はどうでもいい話。
「なんでここに……ってここ食料庫だもんね」
「はい……」
お互いどうしていいものか分からず、会話が続かない。
「……っていうか、まずいね」
「料理が?」
「状況が。これのどこに料理に繋がる要素があるのさ?」
「だってコックさんだもん」
「……まあ、そうだ」
思わず真顔のキースと、笑いそうになってしまうクーと見習いコック。
「ともかくだ、彼を生かしても殺しても、俺たちの居場所がバレるってこと。生かして帰せば告げ口、帰さなければ次の人が来て見つかる」
「あーなんとなく分かった。ってかコックさん、死ぬの?」
「え、ど、どういう?」
「自殺。プライド傷付いたら自殺するんでしょ?」
「……あー。いえ、自分はこれでは自殺しません。戦闘は専門外ですし、料理でもまだ見習いで、プライドを持てるほどの地位にはいません」
「ワタは魔族ならば見境なく自殺すると勘違いしていたんですね。でも実際は自分の専門や得意分野において、著しく尊厳を傷つけられる場合に、自殺という選択肢を躊躇なく持ち出すという話なんですよ」
「んー……?」
「例えばだ。俺が弓で素人の姉さんに負けたとする。人間ならば”死にたいほど恥ずかしい、死にたいほど悔しい”だけで済むけど、魔族は本当に自殺する。人間に負けて逃げ帰ったなんて、それこそ最大の恥になるんだよ」
「あー、そーいうこと」
納得したワタ。
「あ、あのー」
「だからって見逃す選択肢はないよ」「ひぃっ!」
すぐさまコックの眉間に銃口を向けるキース。
「あのー……ですね、お三方のことだと思うのですけど……スリーエフ様がお呼びだとのことなんです」
「そりゃ城に乗り込んできたんだから」
「いえ、その……歓迎の晩餐と洗礼をと……」
コックの言葉の意味をはかりかねる三人。
顔を見合わせ、ワタが再度質問。
「えーっと、兵士さん一杯で歓迎して、最後の晩餐に血の洗礼を浴びせてやるーってこと?」
「自分たちもそうだと思って戦闘準備をしていたのですが、どうも言葉どおりの意味だったようで……」
「……ってことは、ようこそいらっしゃいませーって?」
「はい」
余計に疑念が深まる。
さすがの能天気女子中学生もこれには懐疑的で、首を横に振る。
「さすがに罠だって。私だってさ、人間と魔族が嫌いあってるの分かってるもん。実際そうだからコックさんたちも勘違いしたんでしょ?」
「ま、まあ。しかし……」
と、城内放送が入った。
『全戦闘員へ告ぐ。即刻戦闘行為を中止せよ。繰り返す。即刻戦闘行為を中止せよ。これはスリーエフ様の命である』
「……余計に罠っぽいんですけどー」
「すみません、逆の立場ならば自分もそう勘違いすると思います。ですけどスリーエフ様には本当にそのような意図はありません」
困惑しきりの三人。
最初に覚悟を決めたのは年長者。
「仕方ありませんね。相手方が敵対した場合には、わたしが命を懸けてもお二人を守ります」
「姉さんにそんなこと言われちゃあ、男の俺だって黙っていられませんよ。それに、いざという時のためにライフル銃を持ってきたんだし」
「……ここで私もーって言ったら『どうぞどうぞ』って言うつもりでしょ!」
「はっはっはっ!」「あっははは!」
思わず声を出して大笑いの二人。それだけ覚悟が出来たということだ。
コックの縄を解き、キースとクーは深呼吸。
「ふぅ……。さてっ」「やりますか」
その表情は真剣で、しかし緊張はせず、少しだけ笑顔だ。
「……なんかふたりだけずるい」
「ずるいって?」
「むー……なんか! 二人だけカッコ良くてずるい!」
頬を膨らませるワタに、自信に満ち溢れた笑顔を見せる二人。
そして目を合わせ頷き、扉を開けた。
魔族撃破数:0人




