27 コンビニの店員とかテレアポとか
朝が来た。
三人はこれから山越えチャレンジだが、その前に一旦コスモと合流。ついでにイスルも同行している。
「ぅゎ……」
「イスル君、声に出てるよ」
「あ、これは失礼。……でも声出ますって」
「だね。ははは」
コスモは相変わらずワタにべったり。イスルは腰が引けている。
そんなイスルに目が行ったコスモは、睨みを利かせて軽く脅しをかけた。
「い、いやぁ……」
「コスモ、イスル君はこちらの味方だよ。ね? ワタちゃん」
「知らなーい。洗脳は解いたけど味方ってのとは別でしょ?」
「フアアッ!」「ひぃぃっ……」
男らしさのカケラもなく、一番頑丈なクーの後ろに隠れるイスル。
当然みんな大笑いである。
「さてコスモ、これから俺たちは山を登る。何があるのか予測のできない道だ。とりあえずは俺たちだけで登るけど、何かがあればワタちゃんが笛を吹くから、動ける準備だけはしておいてほしい」
「フンッ」
「それから昨日も話してあるけど、町の上はなるべく飛ばないように。やっぱりあそこにコスモが姿を見せるのはまずい」
「フンッ……」
残念そうな表情を見せるコスモ。
するとその横で笛をくわえるワタ。
フッとコスモがワタの顔を見て、ワタはにっこり笑顔で笛をくわえたままモグモグと喋る。
当然よく分からないのでコスモも周囲も頭上に大きなハテナマークを掲げた。
「ワタちゃん、それはないわ」
ガーン! というショックの表情で口を開け、笛がポロリと落ちた。
「……ぶふっ! あははは! なんだよそれ!」「ワタったらぁーあっははは!」「ブファッ!」「ははは!」
コスモにイスルまでも大笑い。
ワタの仕掛けた作戦は大成功だった。
コスモは平原でお留守番、イスルはマーリンガム家へと向かい、そしてワタたちは山登り開始だ。
途中までは魔車でも登れそうなので、行けるところまで行く予定。
さすがに緊張感の漂う車内。ワタも顔に出ているのだが、しかし能天気ゆえにどうにかなると思っている。
「……そーいえばさー」
「ねーねーそーいえばさー」
「ねーってば!」「はいはい聞いてるから」「むー!」
「それで?」
「うん。あの人……居留守さんだっけ?」「イスルね」「あそうそう。五十鈴さん」
結局間違えているワタ。車内の空気が1℃ゆるんだ。
「あの人、優しい人だね」
「まあね。でもなんで?」
「だってさー、あの時、普通だったら私を人質にしたりとか、そもそも私の話聞かないよね? でも会話成立してたから」
「……成立してたか?」「ふふっ」
「ぶーぶー! ってそうじゃなくて!」「はいはい」
「それは俺よりも姉さんのほうがいいかな。俺はイスル君を知りすぎているから」
「また無茶振りですね。でも答えは簡単。相手がワタだったからですよ」
「余計にわかんないんだけど」
「そうですね……簡単に言えば、ペースを乱されたからですよ。緊迫した場面にワタのような能天気が入ってくると」「なんかひどい言われ方」
思わず話の途中でツッコミを入れるワタ。
「あはは。まあともかく、そうなると自身のペースが崩れて、しかもワタは自分のペースに引きずり込むのが上手いですから、そのまま飲み込まれてしまうわけです」
「んー……納得しちゃいけない気がする……」
「ははは」「あっはは」
結局は能天気なワタのおかげで笑い声が響くのだった。
しばらく進むと、いよいよ道幅が車を拒み始めた。
少しでも広い場所で停車し、ここからは徒歩である。
「さぁーて……」
「コスモ呼ぶ?」
「まだ。コスモには悪いけど、行きには使いたくないんだよ。……俺のトラウマ的な意味で……」
「あー」「あー」
キースはヨーフォー山でコスモの背に乗って以来、高い所が苦手になってしまった。
正確には屋根よりも高い場所というべきか。
なので、コスモを使い空から向かうと、魔王城に乗り込むまでに精神力を全て使い切ってしまいそうなのだ。
登り始めると早速のお出迎え。ただし普通の魔獣。
2トントラックほどはあるウサギさんで、茶色のロップイヤーっぽい垂れ耳な外見を持つ。
「なんか可愛い! コスモよりも可愛いかも!」
「当人に聞かれたら食われるよ?」
「あはは、だね」
「ワタ、ひとつ「だいじょーぶ」ですか。ならば」
可愛いウサギさんも、斬れば可哀想なウサギさんになるわけです。
しかしワタもそれは承知している。
そんな感じに解説を挟んでいるうちに戦闘は終了。腹を切られたウサギさんは谷底へと消えました。
「クーさん。私だってもう1ヶ月……30日以上こっちにいるんだよ? だからこれくらいじゃー凹みませんっ」
「……分かりました。ちょっと過保護でしたね」
「俺も慣れないと」
大人二人は、やはりどうしてもワタの子供っぽい部分に、血を見せるのを躊躇っているのだ。
ちなみにワタが1ヶ月を30日と言い替えたのは、この世界には週と月の概念がないからである。
次は出番の多いタウロス種が二体同時。一方は立派な角を持つ雄鹿の頭。もう一方はモコモコしてて角が巻いているので羊の頭だ。
幸い二体とも、こちらにはまだ気付いていない。
「こう見ると……牛の頭が一番まともな気がする」
「っ……笑わせないでよ」
「ふふっ……」
冷静なワタの感想に、笑いを堪えるキースと静かに笑っているクー。
「キース、援護を」
「了解。ワタちゃんは適当に」
言うが早いか早速飛び出したキースとクー。
「私だけ扱いがヒドいんだけど……。もー」
一方ワタは単純に周辺警戒を選択。
クーはプルマン信奉の加護で一気に肉薄、先に気付いた鹿タウロスに《スタンクラッシュ》を食らわせ動きを封じると、羊タウロスには《ダブルアクセル》で二連撃ダメージを与え瞬殺。
振り返り残した鹿タウロスを――と、バンッ! という銃撃音。
キースが鹿タウロスの脳天を見事撃ち抜き倒した。
ちなみに《スタンクラッシュ》は剣の腹で相手を殴り、一時的に動きを封じるスキル。《ダブルアクセル》は高速二連撃で大ダメージを与えるスキルである。
「……一撃ですか」
「でしたね。姉さんもですけど」
「まあ。……しかしそれが世に出回れば、剣は行き場を失う予感がします」
「それはワタちゃんがよく知ってると思いますよ。ってワタちゃんどうなったんだろ?」
振り返ると、手を振り安全を確認しているワタ。
キースも手を振り返し、ヒィヒィ言いながらワタ到着。
「うえぇ~山道やだぁ~」
「ははは。まだ半分も来てないよ?」
「笛吹きたぁーい……」「だーめ」
ワタの体力は、魔獣や魔族以前の問題だ。
「ワタ、キースの持つ鉄砲は、ワタの世界には沢山あるのですよね?」
「うん。私の国にはないけど」
「……剣は?」
「ない。だいぶ前にキースさんに言ったんだけど、戦車とか戦艦とか戦闘機だから」
こちら世界の二人が顔を見合わせ、キースは『ね?』という表情。
実は戦車・戦艦・戦闘機という言葉自体が、そもそも翻訳されていないのだ。
「つまり、わたしのような職業は……」
「いない。けどクーさんだったら別の仕事でもやっていけそう」
「例えばどのような?」
「んーっとね、ラノベで向こうからこっちの世界に来た人は、コンビニの店員とかテレアポとか、あとファストフードの店員とか」
頭上に三つのハテナマークが出るキースとクー。
その顔を見てワタも気が付いた。
「あー翻訳されてないんだ。えっとねー……あ、お店の看板娘」
「かんっ……」
クーを見て思わず笑いそうになるキース。
「なんですか!?」「いやいや!」
剣を抜きキースへと向けるクー。キースは冷や汗がふき出した。
「っていうか、クーさん歌上手そうだよね」
「いきなり話が飛んだ。確かに姉さん、声綺麗だし歌も上手そうなんだよね。実際どうなんですか?」
「…………切り殺されたいんですね?」「いやいやいや!!」「待った待った!」
次はワタも冷や汗が引き出た。
「……ワタちゃん……」
「分かってる。クーさんに歌の話しちゃダメ」
歩き始めた三人。クーが一歩先行しているので、ワタとキースとでヒソヒソして「聞こえていますよ!」っということで思わず物凄く姿勢を正した二人でした。
進めば進むほどワタのペースが落ち、顔が溶けてきている。
「ヴェアァァ~もーあるぎだぐなーいずびずば~……」
「ははは。姉さん、ワタちゃんがずびずばーだそうですよ」
「ずびずばーですか。ならば休憩にしましょう」
それで通じてしまうのかお前らは。
ともかく木陰で一休み。
「これでどれくらい?」
「んー、半分かな」
「うえぇ~……」
「ここからさらに険しくなるので、時間的には半分以下でしょうね」
「ヴェェ~……」
とんでもない声を出すワタに二人とも大笑い。
と、空気が変わった。
「木の裏に」「ほい」
急ぎ隠れるワタたち。
道の先から低空飛行で赤いワイバーンが三体現れ、山道をトレースするかのように飛行していった。
「……なに?」
「魔族の偵察だろうね……。あれが折り返して……まずいな」
「ええ。風が山を下っているので、においでバレます」
ラノベ知識をフル活用し、ワタもこの事態を理解した。
「におい消す?」
「……できる?」「しなきゃでしょ」
《私たちのにおいが消える》
「……くんくん。おー」
「ふふっ。ワタ、犬みたい」
「わんわん……って戻ってきた」
折り返してきた三体のワイバーンは、ワタたちには目もくれずそのまま飛び抜けて行った。
しかしクーは違和感を覚えた。
「……戻ってくるのが早すぎる。気付かれている可能性があります」
「とっくに気付いてて、威嚇行為だった可能性もあるよね」
「ワタちゃんの口からそんな言葉が出るとはね。とはいえ予想はできていた。このまま登るよ」
作戦に変更は無し。
だが状況に変化はあった。
「いやあああ!!」
「うおぉマジすか!!」
「んがあぁぁ!!」
やはり先ほどのワイバーンはワタたちに気付いており、ついでに倍に増えてワタたちを強襲してきたのだ。
対空武器がキースのライフル銃だけの状況ではどうにもならず、山頂へと向け全速ダッシュで逃走!
「ワタ! なんか!」
「あー……あー……なー……」
脳に酸素が行っていないワタの頭では、”なんか”も思い浮かばず。
そして「うぐぇ」と前のめりにスライディングすっ転び。
「……っぁあああん! いだぁああい!!」
頬と膝を擦りむき、マジ泣きのワタ。
急いでキースとクーが反転しワタに手を伸ばす。後ろからはワイバーンが口を開ける。
一手届かない!
次の瞬間、ワタを襲おうとした先頭のワイバーンは、横から飛んできた巨大な影に鷲掴みにされた。
「……え、コスモ!?」
「自発的に……ともかく今はワタです!」「はいっ!」
ぺたんと座って泣いているワタを無理やり背負うクー。キースは残りのワイバーンに発砲し足止め。
するとコスモが先ほどのワイバーンを掴んだままワタたちの頭上をかすめ、他のワイバーンへと向かって掴んでいる個体を投げ飛ばした!
「当たった! すげーな」
「今のうちに!」
これがボウリングの起源――ではありません。
六体の赤いワイバーンは、程無くコスモに蹂躙された。
相変わらず狭い山道だが、コスモは器用に着地。
「私もぉー帰るぅー!」
そしてワタは駄々っ子になってしまいました。
「……俺たちは歩きで、ワタちゃんはコスモと空からって手もありますよね」
「えーそれってキースが嫌なだけじゃないですか。巻き込まないでくださいよ」
「辛辣っ! とはいえ否定できないんだけど。……一旦戻って作戦の立て直しにしますか?」
「ご主人は何泊でも無料でいいと仰ってくれましたけど……でも、まだ半分でこれですからね。強行して待ち伏せに遭う可能性もありますし、ワタの体力では頂上に着く前に日が暮れますし……」
「かといって明日になれば迎撃体制が整うと……」
「……キース。ワタに頭を下げなさい」
「何故命令口調? っていうか何を謝ればいいんですか?」
「謝るのではなくお願いするんですよ。高所恐怖症を能力でどうにかしてくれって」
「姉さん大胆だなぁ……」
顎に手を当てしばし考えるキース。
その頃ワタは帰る気満々で、困るコスモの背中に乗ろうとしている。
「あ、ワタ!」
「もー!」
「……はぁ。こういうことはしたくなかったんだけど……」
この事態に、ついに覚悟を決めたキース。
「ワタちゃん、話があるからこっち来て」
「むー!」「いいから」
怒られると思っているワタは渋る。
気を利かせてコスモが鼻で背中を押し、キースの前へ。
「ワタちゃん」「ふーんだ!」
取り付く島もないワタ。しかしキースもしっかり作戦を考えてある。
その作戦とは、無視!
「ワタちゃん、俺の高所恐怖症を能力で消して」
「っふーん! ……ん?」
「そうすれば後はコスモに頼むだけ」
「……? 怒って」「ない」
あれれ? という表情のワタ。一方キースは無表情。
「……どう」「消して」「あ、はい」
《キースさんの高所恐怖症が治る》
妙な威圧感のあるキースに、ワタは素直に従った。
「おあー!」「コスモ温かい」
相変わらず楽しんでいる女性二人。
一方キースは無言でしがみついており、(怖くはないけどやっぱダメだぁ)と半べそ。
山頂を飛び越えた先、未踏の地には確かに城があった。
黒色の外観に、禍々しい彫刻の数々。どこからどう見ても立派な魔王城である。
「よっしゃー見っけたー!」
ワタが盛大に喜んだ次の瞬間、コスモは何かに気付き急反転。
目のいいキースはその何かも見えていた。
「大砲だ! 完全にこっち狙ってる!」
「用意周到ですね。地形が分かっただけでも上出来。今は引きましょう」
「分かった。コスモ、帰るよー」
「フンッ」
この日、結局は強行偵察に終わったが、その収穫は決して少なくはなかった。




