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26  私のパンツ見たの!

 ソメの町への道中、ワタはキースと昔話に花を咲かせている。


 「ははは。だってマーリンガム家を知らないだなんて、この国では有り得ないことだからね」

 「私この世界の人じゃないもーん。あ、これ人に言っちゃダメだから」

 「そう言って散々いろんな人に正体をバラシてたのは誰だっけ?」

 「……誰?」「おいっ!」


 ワタとキースとの息の合ったコンビ芸に、クーはお腹を抱えて笑っている。


 「あーそうそう、あの時俺がせっかく格好つけたのに、ワタちゃんは『うん』の一言。今だから言うけど、なんだこいつって思ったよ」

 「だってこの本のほうが大事だもん」

 「今でも?」

 「キースさんの格好つけに値段付くと思ってんの?」

 「その言い方は酷いわ。同意しちゃうけど」


 「ってゆーか! 今思い出した! あの時でしょ!? 私のパンツ見たの!」

 「えっ、キースそんな……見損ないました」

 「ちょーっと待て! あれは事故だ!」

 「つまり見たんですね」

 「……見ました」

 「何色でしたか?」

 「えーっと……って何言わせようとするか!」

 「あっははは!」「もー!」


 そんな具合に終始明るい話題に事欠かない一同。


 森に入りしばらく進むと、キースが車を止めた。


 「ワタちゃん、覚えてる?」

 「覚えてるよー」

 「何がですか?」

 「あのね、キースさんここで倒れてたの。血まみれで」

 「血まみれ……」

 「背後からコボルトの群れに襲われたんですよ」

 「あー、あの」


 ワタとキースとの出会いは、当然クーにも話してある。


 「でも、今考えるとちょっとおかしいんですよね……」

 「おかしい?」

 「俺、ニツバ様から結界の調査依頼を受けて、ここに来たんですよ。でもなんで俺だったのか……。だって俺は弓兵で、調査員じゃないですから」

 「……話のついでに言いますけど、わたしも今考えるとちょっとおかしなことが」

 「姉さんも?」「なんかおもしろー」


 車内の空気が変わり、推理モードに入った。


 「わたし、剣が折れた腹いせに泥酔してワタに絡んだじゃないですか。でも剣が折れた経緯がありえないというか。こう……って車内ではできませんね」


 剣を抜こうとしたが、当然車内は狭いので無理です。


 「抜いて構える時に、岩にカツンと当てちゃったんですよ。そしたらあっさりとポッキリ。欠けるならば分かるんですけど、折れるって普通じゃ考えられないんですよ」

 「姉さんの剣が錆びてたってことは?」

 「いえ。あの剣は買ったばかりでして、メンテナンスでも問題は一切ありませんでした」

 「安物だったり?」

 「いいえ。200万タクスもした、工房から直接購入した剣です」

 「わお……」「クーさんお金持ち……」

 「全財産の90%以上が消えましたよ……」

 「わー……」「クーさん貧乏……」


 「あはは」


 心のこもっていない乾いた笑いで答えたクー。


 遅くなるのも困るので、残りは走りながら。


 「それで、俺ひとつ心当たりがあるんですよ。もしかしたら、姉さんの剣が折れたのもそれかも」

 「……ワタ?」

 「なに?」「はい」

 「え? なになに?? どゆこと??」

 「ワタちゃんが全ての原因じゃないかってこと」


 「だって、二人ともが普通ではない状況になって、それが原因でワタちゃんと出会ってるんだよ? ワタちゃんが気付かないうちに能力を使って、俺たちを引き寄せたとしても不思議じゃないよ」

 「……あ、そっか。だったらこの町にいる占いのお婆さんに聞いてみれば分かるかも」

 「確かワタちゃんの能力を占った人だっけ?」

 「そーそー。『ソーゾー』の名付け親」

 「戦犯……ですね」

 「ある意味」

 「ほぇ??」




 森を抜け、ソメ平原へ。

 クーの指示で車が止まると、コスモが降りてきた。


 「どしたの?」

 「魔族の襲撃があった町ですよ? ワイバーンであるコスモが現れれば、パニックは必至です。なので事前にコスモには平原で待機してもらうように言っておいたんです」

 「あー出る前にクーさんなんかやってると思ったら、こーゆーことね」

 「そーゆーことです」


 一旦みんな降りてコスモと合流。


 「上から見てて怪しいのいなかった?」

 キースの顔を見てから首を横に振るコスモ。

 「そう。よかった」


 そしてワタは平原をぐるっと見回した。


 「私ね、ここから始まったんだ」

 「あっちの世界から、ここに飛ばされたんだっけ?」

 「うん。もーねー最初はなにが起こったのか、ぜんっぜんわかんなくて「泣いた?」泣いてない」


 キースの弄るような声に即反応、冷めた声で返したワタ。

 それに対し、”ちぇっ”という表情の二人と一体。


 「だけど、丁度この本持ってたから、物語が現実になった! って」

 「恐怖よりも好奇心が勝ったのか。ははは、ワタちゃんらしいや」

 「それでソメの町まで歩いたんだけど、結構遠いの。もーね、着いたら叫んじゃったよ? もっと私に甘い世界になれー! って。あはは!」

 「ははは、この世界はそう甘くはないからね」

 「ですね。能天気なワタでも、結構やられていましたし」

 「ねーホント」


 ひと笑いして、キースが北西の山を睨んだ。


 「俺たちの目的地は、あの山の向こうにある。人間は誰も踏み入れたことのない土地だ」

 「ほんとに誰も?」

 「……いやー、誰かはいるかな? ははは」

 「生きて戻ってきた者はいない、という意味ですよ」

 「おー。んでも私たちならば大丈夫だよ。そういう想像しましたからー」

 「本当、心強い限り」

 「最早わたしたちの心の拠り所ですものね」

 「フンッ」


 コスモまで反応し、また笑いが起こった。




 コスモは言いつけどおり草原に残り、ワタたちはソメの町に入った。

 町は未だ焦げ臭さが残っており、復興は始まっているのだが、人々の表情に明るさはない。


 「宿探さないとなぁ。ワタちゃんはどこに泊まったの?」

 「お金なかったから酒場でバイトして泊めてもらった」

 「教会ならばベッド借りられたのに」

 「……その発想はなかった! っていうかそういえば、神父さん誘拐されたんじゃなかったっけ?」

 「あーそれも確認しないと。……宿探しはその後ね」

 「はーい」「はい」


 まずは教会へ。

 裏手に駐車スペースがあったので、魔車を盗まれないように簡単な細工をしてから行動開始。

 教会に入り、近くにいたシスターに話を伺う。


 「すみません。ニツバからの者なんですけど」

 「はい。……王国兵さん?」

 「えー……そうです。時間が経ってから思い出すこともあるだろうということで、復興状況の確認も兼ねて、改めてお話を伺っているところです」

 「そうでしたか」


 迷ったが、話を円滑に進めることを優先したキース。


 「誘拐されたという神父様に関して、その後進展はありましたか?」

 「いえ。平時ならば町の方も協力してくださるのですが、このような状況なので、まずは町の復興を優先させることにしたのです」

 「なるほど。では襲撃時にはどのような状況だったんですか?」

 「彼らは北方より、ワイバーンを使い襲撃してきました。被害は西よりも東のほうが大きく、特に北東地区は壊滅状態。今もなお捜索は行われておりますが、既に御遺体の白骨化が始まっています」

 「そうですか……」


 クーの読みは当たっていた。コスモを連れてこなくてよかったとほっとする三人。

 しかしワタは、たった二日だが関わった町なので、やはり複雑な表情。


 「せめて神父様の安否だけでも分かればよいのですが……」

 「……だったら」

 《神父さんの行方が分かる》


 キースもクーも、ワタの表情を見て能力を使ったのだと確信。

 すると早速、青年が一人転がり込んできた。


 「し、シスター様! 神父様が!」

 「えっ!?」

 「神父様が、山中で保護されたと報告がありました!! 生きています!!」

 「な、なんと! なんという奇跡でしょう!! おおアルトール様! 心より感謝を致します!」


 一斉に歓喜の声が上がる教会。

 ワタもほっとしており、二人はそれを見て、ワタがどう能力を使ったのかを察した。


 その後の話で状況が判明。

 神父は拉致されはしたが、連れ去られる途中で自力で脱出。

 山中を彷徨いながら、偶然見つけた朽ちた山小屋で、救助が来るまでサバイバル生活をしていたのだ。


 「拉致誘拐には慣れていますので。ははは」とは神父の弁である。




 ついでに教会で宿を聞いたのだが、忙しくて教会も把握していなかった。

 仕方がないので歩きながら町の人に聞いて回ることに。まずは露天の店主。


 「すみません。営業している宿屋って知りませんか?」

 「宿屋かぁ……どうだろうな。町はこんな調子だから、多分どこも営業していないよ」

 「そうですか」


 魔車での野宿や、空き家を間借りすることも考えるキース。

 それとは関係無しにワタが質問。


 「あのー、占いしてるお婆さん見ませんでしたか?」

 「占いしてる婆さん? お店ってこと?」

 「うん。ここみたいに露天でやってた」

 「……ちょっと分からないね。どの地区で見かけたの?」

 「んー……適当に歩いててあっちから声かけてきたから、わかんない……」

 「だったらこっちも分からないよ」

 「……ごめんなさい。ありがとう」


 落ち込むワタ。


 その後も宿と占いババアの場所を聞いて回るが、全く当たり無し。

 三人ともが諦めかけた時、ワタの目に見たことのある建物が映った。


 「あっ! あそこ! 酒場!」


 言うが早いか駆け出し突入したワタ。

 カウンターにはしっかり記憶にある顔。


 「おじさーん!」

 「誰がおじさ……ってあんた! 無事だったのか!」「無事だったんだ!」


 二人の声が重なった。後ろからキースとクーも合流。


 「あんた……ワタちゃんだったか?」

 「うん! 覚えてたんだ!」

 「そりゃーそんな格好の女の子なんて一人しかいないって。後ろのお二人は?」

 「連れです」

 「でーす」


 キースの言葉に続いたワタ。


 「その格好、王国兵ですか?」

 「はい。キース・マーリンガムと言います。こっちはクインキュート・アンダーフィールド」「どうも」

 「……マーリンガム……って、あの!?」

 「あの、です。ははは」


 「あんた、とんでもない大物釣り上げたじゃねーか……」

 「釣っちゃいましたー」「釣られちゃいましたー」




 座ってひと息、マスターから話が聞けた。


 「いやーホント突然でしたよ。こっちの地区は被害が少なくて、幸いうちの家族も店も皆無事で済みました。けれど、北東の親類や顔なじみは全滅……。うちはこのとおりなので早々に営業を再開。酒でも飲まないとやってられないですからね」

 「……お酒……」


 ポツリと呟いたクーに、ワタもキースも鋭い視線をぶっ刺しておいた。


 「えーっと、それでね、宿屋さんと占いのお婆さん探してるんだ。なんかない?」

 「はっはっはっ、また宿屋探してるのか」

 「ぶーぶー! 今回は違うもん!」

 「分かった分かった」


 前回はこちらの世界に来て初めての夜だ。

 当然お金もないので、この酒場でアルバイトをして、ついでに泊めてもらった。


 「んー……ちょっと待ってね。御客さん方! 営業してる宿屋を知りませんか?」


 ざわざわとしたが、皆の首が横に振れる。


 「あ、ねーだったら、お店やってなくてもいいから宿屋さんない? 寝られるだけでいいんだけど」

 「……だったら、ウチにおいで。宿屋だよ」


 客の一人が手を上げた。本当に普通のおじさんである。


 「まだ修繕してないから穴が空いてるけど、無事な部屋に素泊まりでいいのならば、どうぞ」

 「おーおっけー! ね?」


 ワタの確認にキースもクーも頷いて、これで宿は確保。

 次に占いババアの件だが、知ってる人がいた。若いあんちゃんだ。


 「通勤で毎日見てたからね。でも結構前にいなくなったよ?」

 「どれくらい前?」

 「えーっとー……あ、ほら。森の結界が修復された時。行きに確認して、仕事中に結界が直ったって聞いて、帰りにはもういなかった。結界が直ったから早速引っ越したのかなーなんて思ったんだよ」


 ワタは自分よりもキースのほうが詳しく覚えていると踏んで、目線をキースへ。そのキースは既に思い出す作業中。


 「ということは、えーっと……俺とワタちゃんがニツバに着いて結界が緩んでいるのを報告。その時点ですぐ動くはずだから、その翌日には修復される。つまり、ワタちゃんの『ネズミ事件』の日だ」

 「あー。……あっ……あーぁー? あー! ……ふひひ……」


 なにかに気がつき顔芸状態のワタ。そして例の笑い。

 周囲も思わず気になっているが、ワタはニヤニヤしつつ口の前で指で小さくバツ。喋る気は無いという意思表示。


 「んじゃ、みんなありがとねー。おじさんもー。また来るねー」

 「おうー」「気ぃつけなー」「ちゃんと顔見せろよ!」


 お互い笑いながら手を振り、再会を約束。




 ワタたちは宿屋のご主人に案内され、今夜のお宿へ。

 到着したのは、北西地区にあるごく普通の二階建て宿屋。

 だが、その二階部分の半分が崩れ落ちており、これでは営業どころか建物自体の立て直し案件である。


 「こんなのでも?」

 「……ははは。えーっと、一階は無事なんですよね?」

 「ええ。一階は六部屋ありまして、そのすべてが無事です。ただ、そのうち三部屋は上があの状態なので、今回は残りの三部屋をお使いください」

 「分かりました。突然だったのにありがとうございます。お代は?」

 「そうですね……」「あ、はーい。私払うー」


 ワタが名乗りをあげた。当然キースもクーも何が起こるのか分かっており、ここでそれが分かっていないのは宿屋のご主人だけである。

 そして案の定《ご主人の宿屋さんが新築みたいになる》という創造。


 「ひぃやぁっ!? ……こっ……これ……はっ……」

 「私、ちょっとした能力があるんだー。これでお支払いってことでいい?」

 「……君は……神様かい!?」

 「えっへへー。多分違う。けど、神様に選ばれたとかなら、あってもおかしくないかなーって思う」


 余計に混乱するご主人。

 ともかくこれで安全な夜を手に入れたはずだ。


 今回部屋はそれぞれで取った。二階の角部屋からワタ、クー、一部屋開いてキースの順。


 「……ハブられてるっ!」

 「だってキースさん男だもん、ねー」「ねー」

 「ぐぬぬーっ……」


 ちなみに素泊まりの予定だったが、宿の修繕費が全額浮いた上に、壊れた家具一式すらも新品同様にピカピカになってしまったせいで、ご主人が無理矢理に晩と朝食付きにしてしまった。


 「ワタの能力ならば、亡くなった人ですらも生き返らせそうですよね」

 「ははは。でもあのワタちゃんがそんなことすると思いますか?」

 「まず有り得ませんね。あはは」


 そのワタは晩御飯に舌鼓。


 おなか一杯になり、ベッドや家具もワタの能力で新品同様。

 フカフカのベッドに飛び込めば、昼間散々歩き回った疲れからか、三人ともが夢の中である――。




 (……来たか)


 夜中。キースは何者かの気配を敏感に感じ取り、心と体を目覚めさせる。

 振り下ろされたナイフ。

 キースは枕でそのナイフをガードし、寝ている状態から相手を蹴り飛ばし反動で逆側へと転がり、すぐさま立ち上がった。

 月明かりを背にしたキースからは、相手の顔がよく見える。


 「やあ、イスル君。待っていたよ」


 口元だけをニヤリとさせるキース。既に立場は逆転している。


 「……いつ気付いたんですか?」

 「強いて言えば、最初から。せっかく時間調整に森で止まってあげたんだ。白昼堂々とでもこちらはよかったんだよ? なのに教会でも宿探し中でも酒場でも、ずっとこちらに殺意を向けるだけ。飽きた」

 「泳がせていたってことですか」

 「いいや? イスル君が勝手にビビってただけだよ」


 嫌味全開。しかし全て真実。

 キースはこれでもしっかりと”マーリンガム家の人間”なのだ。


 「なにかと思えば」

 「むー! 寝てたのにー!」


 そして二人も登場。

 これでイスルは前後を挟まれ、逃げ場なし。


 「さて、何が起こったのか、吐いてもらおうか」

 「……くくく……」

 「おー悪いっぽい笑い方ー」

 「ぽいってなんだよ」「ふふっ」


 頭悪いっぽい言い方のワタそのせいで、せっかくの緊迫した場面が台無し。


 「はーぁあ。やっぱり領家の次男坊様は気付いちゃいないんですね」

 「君が俺との生まれながらの地位の違いに不満を持っていることかい? そんなの気付く素振りすら不要なほどによく分かっているよ?」

 「……やっぱり何も分かっちゃいない。俺らがどれだけあんたらに振り回されてきたか、分かってない!」

 「振り回した分の対価は払っているよ」

 「そうじゃないッ!」


 そんな言い争いの最中、ワタは大あくび。もう飽きたようです。


 「あのー!」

 「なんだ!」

 「あなた誰?」

 「………………」


 潮が引くように怒号が消え去り、そこからかよ!? という声が聞こえそうなほどの沈黙。そして怒りの表情のまま固まるイスル。


 「……俺は、イスル・クレランドだ。覚えておけ」

 「あー。あのー……なんだっけ?」

 「だぁーっ! 何なんだお前は! マーリンガム家の使用人だ」

 「あー。それで?」

 「それでってなぁ……何で俺が説明しなきゃいけないんだ? ともかく、こいつの命令で国王について調べていたら、パイプ役のサキュバスに見つかって11番魔王に洗脳されたんだよ!」

 「え、サキュバスいるの!? あー! だったら洗脳ってそっちの意味なんだ!」

 「そっちのってなんだよ!」

 「ほら! くっ殺だよくっ殺! 出るもの出尽くすまで搾り取られてプライド壊されて飼い慣らされて洗脳されるの! 18禁展開キター!!」


 目を爛々と輝かせて、くるくるぴょんぴょん舞い上がり大興奮のワタ。

 一方他の三名は、ものすごーく冷めた目でそれを見つめています。


 「……んなわけないから」

 「おほぉー……って、違うの?」

 「違う。っていうかなんで俺がお前を止めなきゃいけないんだよ」

 「んー……違うって、どう洗脳されたの?」

 「薬と魔法に決まってんだろ」

 「え、じゃー18禁展開は?」

 「んなもんあるかっ!」


 これで一気にご機嫌ナナメになったワタ。


 「えー! なぁーんだーつまぁーんなぁーい! だったらもーいい。《その人の洗脳が解ける》ってしておくから、あとはしーらないっ! 私帰るっ!」


 苦笑いしか出てこないキースとクー。

 ワタの一方的な能天気に、完全にペースを乱され主導権を握られ、そして嵐が過ぎ去った後に残ったのは、ポカーンとした表情のイスル。




 「………………はっ!?」


 正気に戻ったイスルは、体を硬直させ、ただキースからの死刑宣告を待つのみ。

 バツの悪い空気を読んだクーは、「お邪魔しました~」と静かにその場を去った。


 「……イスル君」「すみませんでしたあっ!!」


 床を舐める勢いで平伏するイスル。

 キースはそんなイスルの前で、片ひざを突いた。


 「イスル君がそういう感情を俺に抱いていることは承知していたし、他の使用人たちにも少なからず心の中に闇があるのも理解している。……だけどそれに対して改善のアクションを起こさず、みんなが感情を押し殺している姿に甘えていたのは否定しようのない事実だ。だから君が洗脳されてしまった原因は、俺にある」


 平伏したまま驚き言葉を失っているイスル。

 そのイスルよりもさらに頭を低くするキース。


 「申し訳、ありませんでしたッ!」


 さらに驚いて、急いで顔を上げるイスル。


 「いや、いや……あの……」

 「それから、それでも俺の味方でいてくれたことに、今! 不肖ながら今、感謝の念を覚えた。……遅すぎると怒鳴ってもらって構わない。見捨ててもらっても構わない。だけど、その前に一つだけ、言わせてもらいたい」


 「ありがとうございます」


 あれほど噛み付いたイスルに謝罪と感謝をするキース。

 その心は本物であり、イスルにもしっかりとそれが伝わった。

 そしてイスルは、改めてこの主と共に歩もうと心に誓った。


 「ははは、いやだなぁ。頭を上げてくださいよ。俺はマーリンガム家に代々従事するクレランド家の人間ですよ? キースさんが自分に対する目線には無頓着なこと、当然イヤというほど知っていますから」

 「それはそれで申し訳ない」

 「……それから、いい意味で頑固なのも知っています。悪い意味で優柔不断なのも知っています。……守りたいものは、何が何でも守ろうとする所も知っています。だから、俺とキースさんとの関係は、いまさらです。今回のことは……高い授業料だと思いましょう。お互いそれが一番だと思いますから」

 「すまない。ありがとう。これしか言葉がないよ」


 「……でも、今まで感謝してなかったってことですよね?」

 「真に申し訳ございませんッ!」「あはは」


 キースの弱みを一つ握ったイスル。

 ちなみにだが、イスルはこの弱みを使わずとも、キースの弱みをごまんと知っていたりする。




 「それじゃあお開きにしましょうか。俺は……外で野宿してから、マーリンガム家に戻ります」

 「気を使わなくてもいいのに」

 「キースさんだけならそうするんですけどね。というか、本当にこれでよかったんでしょうかね?」

 「ははは。そうだなぁ……とりあえず、ワタちゃんとのことは事故だよ」

 「事故、ですか。ははは。分かりました」


 こうして魔族に捕らわれ洗脳されていたイスルを取り戻したキース。

 心のつっかえが取れ、これで魔王討伐に障害はなくなった。



まさか最終話をほぼ一日で書き切るとは思わなかった。

今後は毎日朝の6時に投稿されるよう予約しておきます。

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