25 言っちゃ悪いけどさ、いまさらだよ
イカス渓谷にかかる渡し橋を渡り、イカス村に到着。
三人は一応お尋ね者なので、兵士に止められた。
「貴様ら、例の三人組みだな? すまないが、隊長の所までご同行願う」
「……連行ではない、ということですか?」
「そうだ」
車内の三人は顔を見合わせ、無言で降車。
しかしそれを見ていたコスモが勘違いをして、低空飛行で兵士を威嚇。
「おあっ!? なっ、なんだ!?」
「あー、あれ私のペット。ちょっと待っててー」
ワタは笛を吹き、両手を振ってコスモにアピール。
コスモはしばらく上空を旋回し様子を見ていたのだが、自分の勘違いであると理解し、広い場所に着地。
剣を抜こうとした兵士をキースが止め、ワタがコスモを伏せさせた。
「彼女が無闇に人を襲うことはないし、ワタちゃんの言うことは聞くので、ご心配なく」
「……黒の……ワイバーンだぞ……?」
「でも、ほら」
ワタはいきなり威嚇行為をしたコスモを叱っており、コスモも顔を地面につけて上目遣いの反省ポーズ。
「あれが危険な存在に見えますか?」
「……自分の目を疑いたい……」
村人も何だ何だと集まってきているのだが、当然ながらコスモは手を出さない。
再度コスモにおとなしくしているようにと言い付けて、ワタが戻ってきた。
「それじゃー隊長さんのところまでお願いしまーす」
「あ、ああ。こっちだ」
兵士の詰め所に到着。
以前襲撃された際には、ここに村民が避難した。
「今だから言うけど、お嬢ちゃん、助けてくれてありがとう」
「私なんかしたっけ?」
「怪我した俺たちを一人で治癒してくれたじゃないか」
「あー、そういえばそうだった」
本気で忘れていたワタ。
そのまま隊長室へ。
兵士がノックをして、ワタたちが入る。
こういう時はキースが対応。
「お呼び立てして申し訳ない。ご存知のとおり、王国兵は岐路に立たされており、手が離せないもので」
「承知していますのでお気遣い無く」
「それでは」
「貴君らに来ていただいたのは他でもない、我がイカス渓谷守衛隊のこれからについてだ。……正直に言えば、国王陛下のやり方には我々も反感を抱いている。しかし王国兵としてはそうそう反発できるものでもない。……私はこの歳なので、引退も視野に入れている。しかし部下どもはそういうわけには行かない。かと言ってこのまま見て見ぬ振りなど……」
頭を抱えている隊長。本気で迷っているのだ。
だがキースは、これにすぐさま答えを出した。
「王国兵は、国を守るためにある存在です。よね?」
「……そうだ」
「では、国が成り立つには、何が必要ですか?」
「それは……国民や国土だ」
「ですよね? そして今、”彼”はそのどちらもを脅かしている。魔族と結託し、恐怖政治により国民と国土の両方を脅かしている。ならば、それを守るのが王国兵としてのあり方なんじゃないですか?」
「それは私も理解しているつもりだ。だが……」
「私たちが勝つよ」
ポンと一言、あっさりと言ってのけるワタ。
「だって、私が言うんだもん」
当然ですが何か? という表情のワタにこちら二人は笑ってしまい、隊長は困惑。
「隊長様はこの反乱に加担し、そして失敗すれば部下を路頭に迷わせてしまう、という部分が一番ネックになっているんですよね?」
「……そのとおり」
「ならばそれは杞憂というものです。勝ちますから。俺たち」
「ふふっ、キースもすっかりワタに毒されましたね。わたしもですけど」
「何故そんなにも余裕を持っていられるのか、疑問なのだが?」
「強いて言えば、経験から。ワタちゃんが本気を出せば、この国……いや、この世界そのものが書き換わる」
「でしょうね」
「えー私そこまですごくない……はずだよー」
「一瞬の間は何なんだよ」「あはは」
ワタもいい加減感付いているのだ。キースの言った冗談のような事象を、自分ならばできるということに。
しかしワタは能力に対し一定の恐怖心を持っており、それがしっかりとブレーキになっているので、一線を超えない。
またワタ自身の性格、すなわち能天気でアホの子な部分も有効に作用している。
一方キースもクーも当然それはお見通し。
なので、分かっているからこそ、ワタの恐怖心を笑ってスルーしたのだ。
「……正直なところ、お話を聞いた限り参考には……。長々と拘束させてしまい申し訳ない。どうぞ」
三人を見送るために、自らドアを開ける隊長。
その視線の先に、コスモ。
「……え? てっ……「あれ私のペット」敵襲だあああ!! ……って、ペット??」
「うん」
ワタが窓越しにコスモに手を振ると、コスモもしっぽを振ってお返し。
そしてワタが「伏せ!」というと、コスモはそれに従いゆっくりと伏せた。
コスモを囲んでいる兵士や観衆は大盛り上がりで、コスモもノリノリで鼻息を吹きかけて遊んでいる。
「隊長様、これが俺たちの余裕の源である、『経験』なんです」
「……ふふっ……あっはっはっ!! なるほど! これは大いに参考になった! ふふっ、私が賭ける相手が決まったよ」
「そうですか。ならばニツバ様か、マーリンガム家に連絡を入れておいてください」
「承知した。……黒のワイバーンか。私もちょっとご挨拶を。ははは」
すっかりご機嫌な隊長さんと共にコスモと合流。
しばらくコスモ”が”遊んだ後、隊長さんがお昼をご馳走してくれ、その後出発となった。
道中、今までよりも低空を飛ぶコスモ。
ワタはともかく、キースとクーも若干の警戒をしている。
「……ワタ、ひとつ頼ってもいいですか?」
「なーにー?」
「道中襲撃がないようにと」
「……あー! だからみんななんかアレなんだ。おっけーりょーかい。とりあえず《ニツバに着くまで、魔族からの襲撃はない》ってのでいい?」
「ええ」
「ふぅ……」
キースも安心のため息。
もう二人にとっては、ワタの能力は既成事実の確認のような扱いなのだ。
――だが。
突然左前輪がバンッ! と破裂。
ハンドルを取られた車はそのまま茂みに突っ込み停車。
「ったぁーい……」「バーストかよ」
「……いえ、何者かからの攻撃です」
冷静なクーの一言に、一気に車内は緊張する。
コスモは上空を旋回しており、何故か降りてくる様子がない。
「なになにー? 嫌な予感がするんですけどー?」
「わたしが確認します」
姿勢を低くし、右手ドアを開けると車を盾にするクー。
車内ではワタの頭を押さえつけ、覆い被さるように守護するキース。
クーは前から慎重に回り込み、左前輪の状況を確認。
次に右回りで後ろを通り後輪も確認。
そこには一本弓矢が刺さっており、それを抜くとそそくさと車内へと戻った。
「左前輪は完全になくなっています。左後輪もペタンコになっていまして、そこに弓矢が刺さっていました。これです」
弓矢といえばキース。
刺さっていた矢を確認したキースの顔から、見る見る血の気が引いてゆく。
「……イスル君だ……」
「確か、殺されたか捕らわれたかと言っていた?」
「そう。間違いない。……ワタちゃん、タイヤ直して。逃げるよ」
「うん……っていうか重い……」
キース、覆い被さったままです。
ワタの能力でタイヤを直し、フルアクセルでその場から逃げ去る。
二度目の襲撃はなく、どうにかニツバに着いた一行。
茜色に染まる空。あと一時間もしないうちに星空に変わる。
街にはセルウィン家の私兵が配置されており、緊張感が漂っている。
「おなかすいたー」
「………………」
渋い表情で無反応のキースを、チラチラと横目で見るワタ。
最近少しは成長してきたワタは、空気を読んでキースには触れないことにした。
交差点で停車した所、丁度セルウィン家の私兵がいたので、ワタが車から顔を出した。
「すみまっせーん」
「はい? どうしましたか?」
「私たち……これ。なんですよ」
ワタは魔車についているマーリンガム家の家紋を指差した。
「マーリンガム家……ならばこちらで連絡を入れておきますので、このまま領主屋敷へと向かってください」
「はーい。おつかれさまでーす」
そこから領主屋敷まで、無言の車内。
九十九折を登り、領主屋敷の門前へ。私兵が二人と執事が一人、お出迎え。
敷地内に入れば、すぐさま門は閉じられた。
一旦停車し、車内からキースが執事にご挨拶。
「すみません。キース・マーリンガムです」
「お待ちしておりました。お食事のご用意ができておりますので、そのままお進みください」
「分かりました」
ちなみに執事は馬――っぽい動物にまたがり、後を追ってきた。
玄関前に到着し、準備をして降車。
すると丁度執事が追いついた。ほぼ同時にコスモも着地。
執事は颯爽と馬から飛び降り、そのまま平然とワタたちを案内。
ワタに小さく「おー」と感嘆されている。
実はこの執事、以前クーと対決してボロクソに負けた人だったりする。なので汚名返上とばかりに、少しでも格好を付けたいのだ。
玄関をくぐれば、メイドさんが二名お出迎え。
「お待ちしておりました」
「おじゃましまーす。おなかすいたー」
「既にご用意は出来ております。こちらへどうぞ」
ワタも屋敷の構造自体は把握しているので、足取りは軽い。
そしてここでようやくキースが普段の表情へ。
「ニツバ様はいませんけど、泊まれますよね?」
「はい。連絡は受けておりますのでご心配なく。お部屋ですが、以前ご使用いただいたお部屋を、今回もご用意させていただきました」
「それは分かりやすくて助かります」
ちらっとキースの表情を確認し、少しほっとするワタ。そんなワタの表情を見てほっとするクー。
食事も済んだ所で、次の話。
先ほどの執事がワタたちに確認を取る。
「旦那様より、数日間滞在の用意をしろと命を受けております。キース様は何日ほど滞在されるご予定でしょうか?」
「んー……」
「キース。わたしたちに遠慮は要りませんからね」
「たちって、私も入ってるんだ。いいけど」
「ははは。……やっぱり気付いてますよね? ワタちゃんも姉さんも」
「うん」「はい」
キースの心情。
自分が指示したせいで、もっとも仲のいい、家族と言っても差し支えないほどの友人であるイスルを、失いかけている。
後悔もあるが、それ以上に一秒でも早く彼の生存を確認し、もしも魔族に操られているのであれば、それを解きたい。
当然それは焦りとなって表面化し、そうなれば危険が増す。
本来ならば自分自身の問題である今回の事態に、二人を巻き込みたくないのだ。
「言っちゃ悪いけどさ、いまさらだよ」
「ふふっ。ですね。いまさらです」
「……それで済ませて、本当にいいの?」
「いいよー」「いいですよ」
「ってことで執事さん、私たち朝ご飯食べたら早速出発しまーす」
「それでよろしいので?」
「まあ、そのほうがあちらとしても都合がいいだろうし。そうします」
「わたしも同意します」
「……承知いたしました」
表情には出さないが、少々残念がっている使用人たち。
というのも、二日目のディナーは豪華にするつもりだったのだ。
そして残ればそれは自ずと――という算段も。
主であるリヨーシュ・セルウィンが不在の時だからこその悪巧みであるが、ワタの活躍により、見事に阻止された。
「……ところで、外の……」
「ああ、彼女は自分で狩りができるのでご心配なく。大人しい子だから人を襲うようなこともありませんから」
「承知いたしました」
(そりゃーあんな大きいのがいきなり現れれば困惑するよね)と、三人とも心の中で納得していた。
そのコスモは、あくびをして既に寝る体勢。
夜中。
キースの部屋にクーが来て、今後を話し合っている。
「わたしは元々フリーなので気にしませんが、キースは……」
「俺だってもうフリーみたいなものですよ。家は兄が継ぎますし、王国兵の仕事もとっくにあってないようなものですから」
「……剣、学びますか?」
「ははは。可能性の一つには入れておきます。とはいえこれがあれば魔獣ともやり合えそうですけど」
キースは傍らに立てかけてあるライフル銃に目をやった。同時にクーも。
「ワタはきっと強さを知っているんでしょうね」
「だと思いますよ」
「キースは?」
「……見学はしました。俺のこんなレザーアーマーなんか余裕で穴空けますよ」
「うわぁ。こっちには向けないでくださいね」
「当然です。これでも自称弓の名手ですよ?」
「あはは。ならば信じましょう」
お互いが笑顔をこぼしたので、次の話へ。
「……でも、もうひとつ可能性はありますよね」
「もうひとつ? ……ワタが元の世界に帰る?」
「正解。姉さんが合流するより前に、丁度このお屋敷でニツバ様と同じようなことを話したんですよ。ワタちゃんホームシックなんじゃないかって。その時は外れたんですけど……今回、森の手前でワタちゃん泣いたじゃないですか。それで、ついに来たのかなって」
「なるほど。否定はしていましたが、『帰りたい』と言ってしまいましたからね。んー……」
「それで、仮にの話ですけど、今度は立場が逆転したら、どうしますか?」
「わたしたちがあちらの世界へ、ですか。あの『すまほ』という機械であちらの様子は少し教えてもらえましたけど、文字通り住む世界が違いましたからね……」
「……意外って言っていいですか?」
「と、言うと?」
「姉さんがですよ。『それもアリですねー』くらいのノリが出るかと期待したんですけど。ははは」
「それもアリですねー」
口調を真似たキースに対し、クーはその真似た口調を真似た。
しかしすぐに真剣な声色へ。
「……アリだとは思います。でも、姫から一転して無一文になったわたしの経験が、多大な苦労がそこにあると警告を発しているんですよ」
「その苦労、ワタちゃんもしてるんですよね」
「……してないでしょ」
「あーぁあーワタちゃんに言ってやろー」
「ふふっ。笑わせないでくださいよ。ワタが起きますよ?」
「……起きないでしょ」
「あーぁあーワタに言ってやろー」
「ははは」
じゃれ合う二人。
しかしお互いに相手の考えも理解している。
今宵の話はこれでお開きとなった。
翌朝。
朝食を終え、ついでにお弁当も作ってもらい、出発準備。
ワタとキースが車に乗ったところで、クーはコスモの下へ
「コスモ、ちょっといいですか?」
「……?」
コスモは首をかしげて聞く準備。
「今、ワタもキースも少々余裕に欠けているので、今後何かがあるかもしれません。一応ですが、念頭に置いておいてください」
「フンッ」
「それと、これから行くソメの町は、最近魔族の襲撃を受けていまして、その襲撃には恐らくワイバーンが使われています。なので、今あなたが町に姿を現すと、住民の持つ恐怖や怒りの感情が爆発しかねません。町の手前には草原がありますので、ワタが笛を吹くまで草原で待機し、その後は町を迂回するように飛行してもらいたいんです」
一瞬考えたコスモ。
そして深く二度頷いた。
「……あなたは、どうするんですか?」
「?」
思わず声に出たクーの不安。コスモは首を傾げるのみ。
クーは大きく息を吸い込み、気持ちを切り替える。
「いえ、こちらの話です。では行きましょうか」
三人を乗せた魔車はソメの町へと出発し、それを見届けてから、コスモは空へと舞い上がった。
まるで、自分が見守っているから大丈夫だと、背中を押すように。
現在最終30話を執筆中。
来週日曜日までに書き終われば、このまま1日1話ペースで行けそうな感じです。




