22 貢ぎ物キタコレ!
カーライル家に来てから8日目。
マーリンガム家でのコスモの受け入れ準備や、国王に対する反攻作戦の計画立案と準備で、ワタたちはそのままカーライル家にお世話になっている。
一方キースとヘンリエッタの仲だが、両者共にお互いを受け入れ始めており、時期が来れば本当に付き合いそうな雰囲気。
ちなみに5日目には海岸で水遊びとなったのだが、既に水が冷たくなってきており、水着になってキャッキャウフフとは行かなかった。
なので全カット! 慈悲はない。
さて居間で今後のことを話し合っていると、執事が来てキースに耳打ち。
「……分かりました」
「なにー?」
「コスモの受け入れ準備が完了したってさ。船の準備もできているし、いつでも帰れるよ」
「おー。……でも船にコスモ乗る?」
「とは思うんだけど、後で相談」
「うん、分かった」
庭に出て、のんびり寝ているコスモを『いつもの方法』で起こすワタ。
その方法はなんと、鼻先にパンチである。
「いよっ」
「ンフガァッ!?」
びっくりして跳び起きるコスモ。
「あはは。ちょっと話あるんだけど」
「その前にさワタちゃん、いい加減この起こし方変えようよ。コスモに悪いよ?」
「フンッ! フンッ!」
思いっきり肯定しているコスモ。
ここ数日ずーっと同じ起こされ方なので、さすがに参ってきていたのだ。
「……中々起きないのが悪いんじゃん」
「ワタ、鏡見たほうがいいですよ」
「うっ……分かりました……」
クーの一撃で沈んだワタ。
この中ではワタが一番寝起きがよろしくない。
「んで話戻すけど、コスモって船乗れる?」
首をかしげた。
「そもそも乗ったことがないだろうからね。というかコスモはどれくらいの行動範囲を持っていたんだい?」
そう言われても――という困惑の表情。
「わたし地図を借りてきます」
クーが借りてきた地図を広げ、キースが説明中。
コスモはそれにしっかりと頷いており、木の枝を咥えてある程度の自分の行動範囲を示した。
「結構な範囲いけるね。海が荒れると危険だし、コスモには陸上を移動してもらうほうがいいかも」
「そうですね。少々寂しいかもしれませんが、より安全を優先すべきでしょう」
「んー……うん」「フンッ」
コスモも頷いた。
「ならば一つ提案が。ワタ、笛を作れますか? コスモに音色を覚えてもらい、笛を吹けばそこへとやって来られるようにするんです」
「あー、犬笛みたいな?」
「そうです」
「おっけー。《コスモを呼び出せる笛》って感じ」
ワタが作ったのは、タバコ一本とほぼ変わらないサイズの小さな銀の笛。
チェーンが付いており、ネックレスのように首に提げられる仕様だ。
「んじゃコスモ、この音ね」
コスモはしっかり頷いているが、しかし吹いてもワタたちには音が聞こえなかった。
不安になる三人を尻目に、コスモは一旦飛び立ってヨーフォー山の裏、自分の住んでいた巣穴へ。
途端にニヤニヤするキース。
「これでもう一回吹いて、コスモが来れば成功ですね」
「そうですね。……ねーワタちゃん、意地悪しちゃう?」
「えー。私、キースさんのそーいうところ……結構好き」
「ははは」
ワタたちはマーリンガム家ではなく、車を借りて移動、近くの空き地で笛を吹いてみた。
「相変わらず音は聞こえないなぁ」
「でもコスモは頷いていましたし、人間には聞こえなくてもワイバーンには聞こえる音なんですよ。多分」
「こればっかりは、ワタちゃん頼りだからね」
「……緊張してきた」
それからカップメンが出来上がるほどの時間が経過。
いい加減不安になってきた三人だが、その上空を黒い影が通り過ぎた。
「おおっ!」
「成功だ」
「ほっとしましたね」
コスモは一旦上空で旋回してから、静かに着地。
自然と三人から拍手が上がった。
「よかったー。最初から音の場所分かった?」
ドヤ顔で頷くコスモ。
「じゃーこれちゃんと音鳴ってるんだね。コスモ、今度からはこの音がしたら来てね」
「ンフアアッ!」
翼を広げ、大きく返事をしたコスモ。
これで不安は解消。
と、コスモがカーライル家の方向を気にし始めた。
そしてワタに何かを伝えようと小さく鳴いた。
「ん? なんかあった?」
「フンッ!」
「急ぎの用事?」
「フンッ! フンッ!」
次にキースが質問。
「……襲撃?」
「フンッ!!」
三人が顔を見合わせ、急ぎ車に乗り込み出発。
コスモは先行して屋敷へと飛んでいく。
「そろそろじゃないかなーって思ってたんだよなぁ」
「情報入っていたんですか?」
「いや、俺の勘。……ワタちゃん、ここからは人間と魔族との命の奪い合い、戦争だ。改めて覚悟しておいて」
「……うん。いきなりでちょっとアレだけど、ちょっと自信欠けてるけど、覚悟する」
ワタの不安はキースたちも痛いほど分かる。
だからこそ、この襲撃は勝利で終わらせる必要がある。
屋敷に戻ると、コスモが上空を旋回し他のワイバーンを威嚇中。
そして車を降りるとすぐにカーライル家の人と、マーリンガム家から来ている守護者がやってきた。
「状況は?」
「上空はあの通り。街中には魔族が続々とテレポートしてきています。現在は我々マーリンガムの手で押さえていますが、多勢に無勢です」
「カーライルからは街に避難勧告を発令しました。住民はヨーフォー山を目指しているはずです」
上空には赤いワイバーンの群れ。街からも煙が立ち始めている。
キースはなりふり構っていられない状況だと悟り、最初から奥の手を出すことにした。
「ワタちゃん。魔族が街にこれ以上入れないようにできるかい?」
「やらなきゃでしょ? 私だってそれくらい分かる」
「ごめん。実家に帰ったらステーキでも何でも食べさせてあげる」
「おおっ! 貢ぎ物キタコレ!」
途端に目が爛々とするワタ。
キースもクーも、これがあるから冷静でいられている。
「俺はウチの連中と屋根の上から狙撃。カーライル家と姉さんはそこいらにいる剣士かき集めて地上の掃討頼みます」
「任されました! 早速ですが剣士と牛車をありったけ用意してください」
「はいっ!」
「あとは……ワタちゃん悪い。コスモを呼んでくれる?」
「おっけ」
早速笛が役に立った。
ワタが笛を吹くと、急降下し少々強引に着地するコスモ。
強風で砂塵が舞うので、みんな小さく声が出てしまった。
「……っと。コスモ、上のワイバーンを任せたい。遠慮はいらないから全部落としてほしい」
「私からの指示だと思って」
「フンッ!!」
鼻息一つ、再び一気に上空へと舞い上がり、早速暴れ始めるコスモ。
状況が状況なので仕方がないのだが、強風でワタのスカートがめくれ上がった。
「み、見た?」
「何が?」
誰もこんな時にワタのスカートの中なんて気にしていません。
「……いい。んじゃ次私いくよー。えっと……んー? なんかイメージ湧かないなぁ」
「ここで!? 頼むよマジで!」
「……魔族のテレポートって魔法だよね?」
「魔法だよ」
「んー……あっ。《この街は魔法の対象外》ってのならいけるかな? こう、ドーム状にバリア張られてる感じ」
「どうか分からないけど、とにかく行こう」
「ワタはこちらに付いてください。わたしたちが一番怪我をしますからね」
「おっけーマジ了解」
市街地への移動中、上空ではコスモが次々と赤いワイバーンを叩き落としている。
他とは倍以上の体格差があるので、まさにボスに相応しい暴れっぷりだ。
「コスモやるぅ!」
「伊達に黒ではありませんね」
「おかげで建物に被害が出てるけど。……俺はここから別行動。粗方片付けたらそっちに合流します」
「はい。お気をつけて」
キースは牛車からそのまま建物の屋根へと飛び上がった。
アルトール教の女神たちをとっかえひっかえして戦うキースならではの芸当である。
「……ヘンリエッタさん、あんなのと結婚したら大変だと思うんだけどなぁ」
「あっははは! まあ神への信奉と婚姻関係とは別なんじゃないですか?」
「それはそれでナンパな男ってのじゃない?」
「ならばキースが硬派だと?」
「絶対ない!」
こんな状況でも笑いが漏れるワタの乗る牛車。
市街地に入り、車列が散って各所で戦闘開始。
ワタとクーの乗る牛車も魔族グループを見つけ戦闘を開始だ。
「でもって当然私は《魔族の能力消去》しちゃうんだもん!」
いきなり攻撃手段を失う魔族たち。
こうなれば自前の剣を振るしかないのだが、付け焼刃の剣術がクーたちに敵うはずもなく、あれよあれよという間に倒される。
数分とせず一度目の戦闘は終了。
「ワタ、後ろを向いていてもいいんですよ」
「言いたいことは分かるけど、もう遅い。とっくに見てる」
「……でも、無理はしないでくださいね」
「うん。ちゃんと分かってます」
目の前には血にまみれ横たわる魔族の遺体。
ワタは心の中で手を合わせ、次の戦場へと走る。
一方のキースはマーリンガムの私兵を従え、地上を援護。
マーリンガム家は弓に長けており、遠距離射撃はお手の物だ。
「味方に当てたら海に沈めるぞー!」
「うおおーい!」
男所帯なのでノリは完全に体育会系である。
しばらく地上の援護をしていると、偵察に出ていた私兵から報告が入った。
「敵増援は見られず、敵の首領と思われる一団が港へと進攻しています。またこちらのとある一団が高い戦果を挙げており、勝利は確実かと」
「終わる前に勝利を口にした奴は死ぬよ」
「はい。すみません」
「それじゃあ俺たちは港へと進むよー」
「うおおーい」
とは言うものの、キースはなんとなーく、後方に見えるカーライル家が気になっている。
(これが嫌な予感じゃなければいいんだけど……)
と思っていると、「おーい」と声を掛けられた。見るとワタとクーだ。
キースは一旦屋根から下り、合流。
「結構暴れてるらしいじゃないの」
「えへへー」「えへへー」
「んでだ、ボスと思われる連中が港に向かっている」
するとクーはキースの目を見て、軽くニヤリ。
「キースは別のところに行きたがっている様子ですけど?」
「ははは、姉さん鋭すぎ。カーライル家が気になってるんだよ。漠然とね」
「あーそれフラグだ。ヘンリエッタさん危ないかも」
「……どういう「ラノベ知識」なるほど」
部隊のこともあるので迷うキースだが、その手を引いたのはワタ。
「迷ってるってことはフラグ立ってるってこと。早くしないとマジヤバかもよ」
「ワタちゃんには敵わないね。ちょっと待って」
キースは指笛で遠くの私兵を呼び止め、指の動きで自分はカーライル家へと向かうと伝える。
すると上空ではコスモがぐるぐる。
見れば斑点模様にも見えるほど飛んでいた無数の赤いワイバーンたちが、一体残らず綺麗さっぱり。
「あれには勝てないな。ワタちゃん、コスモだけ先に向かわせてくれる?」
「おっけ」
笛を吹き、腕を振って指示するワタ。
コスモも意味を理解してカーライル家へと先行。
ワタたちは乗り捨てられていた牛車を拝借。
キースが御者席に座り、カーライル家へと急ぐ。
一方そのカーライル家。
カーライル家は皆戦闘には向かず、入り込まれたら終わりとも言えるほど弱い。
そしてキースの勘は当たっており、今まさに魔族の襲撃を受けている
敵魔族は三名。
火の魔法を使う者がおり、そのせいでカーライル邸に火の手が上がった。
包丁とおぼんで武装したメイドがメインの戦力である現在のカーライル家に、この進撃を止める術はない。
クレアさんとヘンリエッタはメイドを盾にして後退しており、徐々に上層階へと追い詰められている。
「エッタ、わたくしはここで……」
「お母様! 弱音を吐くには早すぎます!」
「ふふっ、すっかりパパに似たわね」
「……私はあの人とは違いますし、何があろうとも諦めません」
「余計にそっくりよ?」
照れるヘンリエッタ。
クレアの夫でありヘンリエッタの父は、一介の兵士だった。
大恋愛の最中、クレアは何度も諦めかけ、その度に彼が励ますことで結ばれたのだ。
――あ、パパさんは死んでませんよ。現在も情報屋として世界中を飛び回ってお仕事しています。
そのおかげでなのか、この夫婦は現在もラブラブであり、ヘンリエッタはそのあおりを受けて、大の父親嫌いなのだ。
しかし現状に笑っていられる余裕はない。
二人の上る階段はなくなり、あとは長く続く廊下のみ。
魔族からの魔法攻撃を避けるために走る二人。
「はいはいはい。全くあんたらんトコの国王様はしっかり仕事してんなぁ? なんたって俺らに二面作戦で行けだなんて『スバラシイ』アドバイスくれてんだ。おかげで街を囮にあんたらをこうやって燻製にできるって訳だ」
「ふっ、所詮は魔族だな! 獲物を前に舌なめずりとは素人のすることだ!」
「ヒヒヒッ、言ってくれんじゃねーの。そっちこそもう逃げる場所がねーぞ?」
既にここは三階廊下の角。
左には窓ガラス、右には使用人部屋への扉。
ここで窓越しに外を見て何かに気付いたヘンリエッタ。
「お母様、無理をしてください」
「既にしていますよ」
「ならばもっと!」
使用人部屋の取っ手に手を掛けるヘンリエッタ。
だがカーライル家の使用人はとっても教育が行き届いており、なんと鍵が掛かっている。
しかしここでクレアさんが無理をした。肩からの体当たりで扉をぶち抜いたのだ!
二人が部屋に逃げれば、好機とばかりに魔族も部屋へ。
「使用人部屋が主人の最期ってか? 皮肉が効いてんねぇ」
ヘンリエッタはクレアさんに何かを指示し、クレアさんは部屋の窓際へ。
これを横目で確認した後、ヘンリエッタは静かに笑った。
「……私は諦めないと言ったはずだ。また会おう、愚者どもよ!」
ヘンリエッタが振り向くと同時にクレアさんが窓を開け放ち、二人揃ってその窓へと飛び出した!
次の瞬間、窓から覗く光景に一瞬だけ闇が通り過ぎた。
「……なんだ?」
何が起こったのか理解できずにいる魔族。窓から外を確認するも、何もない。
「はっはっはっ!! また会ったな! 愚者どもよ!」
笑い声にすぐさま振り返ると、廊下側の窓の外にヘンリエッタの姿。
このイリュージョンに、急ぎ窓へと駆け寄れば、そこには隠し切れない大きなタネがあった。
「なっ……ワイバーン……」
そう。コスモが二人を救出していたのだ。
タネを明かせばこうだ。
部屋に入る前、廊下の窓越しに外を見たヘンリエッタは、コスモが一直線に屋敷へと向かっていることに気付いた。そして気付くと同時にコスモと目が合った。
(こちらの動きを計算している)と感じたヘンリエッタは、屋敷の構造上より近くを飛行できる裏側からの脱出に賭けた。
部屋に入り母親の盾になりつつ、魔族の肩越しに廊下の窓からコスモの動きを見たヘンリエッタ。コスモが屋敷を迂回するコースを取ったことで、自分の狙いに気付いていると確信。
あとは魔族には気付かれないように煽りつつ、クレアさんにタイミングを計ってもらい、指示が来たので窓から飛び出し、コスモの足にしがみ付いたのだ。
「あぁあぁ……手がすべえええっ!?」
「お母様! コスモ、私の指示ですまないが……っと、言うまでもないのか」
しっかり飛べたおかげで足にしがみ付けたヘンリエッタに対し、クレアさんは飛距離が足りず指先にぶら下がる状態。
コスモは自分の考えで屋敷から距離を取り、ゆっくり降りて芝生の上に着地。
丁度のタイミングでワタたちも到着した。
「家燃えてる!」
「見れば分かる! クレア様、エッタ、お怪我は?」
「私たちよりも、屋敷内で倒れている使用人たちを」
「ってことは私の出番だよね。ふひひ……盛大にやっちゃうもんねー!」
《お屋敷が火事になってた、なんてことはなーい!》
プスンという火の消える音がしたと思ったら、カーライル邸は焼け落ちた形跡もなく、本当に元通り。
キースとクーは島を吹き飛ばしたワタを見ているが、それでもこの創造には度肝を抜かれ、クレアさんとヘンリエッタ、そしてコスモに至っては、目が飛び出そうなほどの驚きよう。
屋敷内にいた魔族三名も何が起こったのか全く理解できず、ただ呆然と立ち尽くしている。
「魔族どこにいる?」
「あそこと……あそこに二人」
「……いた。んじゃ《あの魔族三人の能力消去》して、クーさん突入!」「はいっ!」
屋敷に突入するクーと、一歩遅れながらも続くキース。
ワタは庭に残り、脱出した二人とコスモ、そして負傷し倒れている使用人の治癒に専念。
屋敷内での戦闘は、もはや武器を持たないただの魔族が相手なので苦労することもなく終わり、二人は倒れている使用人を担いで庭へ。
「ワタ、頼みます」「こっちも」
「はいはーい。まだいる?」
「いる。だからそれが終わったらワタちゃん自身が」「それ間に合わなくない?」
「……でも、治癒能力を持つのは」「私は『ソーゾー』で能力を追加しただけ。だから今だけ《キースさんとクーさんにも、私と同じ治癒能力を付与》させておく。じゃ、頑張って」
話の最中に二人の体が淡く光り、ワタからの鼓舞を聞き届けた二人は急ぎ屋敷内へ。
二人が屋敷に入ってしばらく。
キースとクーの治癒能力は順調に成果を発揮しており、動けるようになった人から順に庭に集合している。
ワタは慣れているので、二人が見落とした箇所を改めて治癒している。
「ふえぇ~、つかりた~」
「ワタ君には大きな恩ができてしまった。我々カーライル家ができることならば、手を貸そう」
「んー、今のところ特になしー。っていうか人数これで全員?」
「……いや……仕方のないことだが……」
視線が落ちるヘンリエッタと、カーライル家一同。
「……だよね。あれだけ燃えてたんだし……ね……」
二人が戻ってきた。
やはり表情に明るさはない。
丁度マーリンガムの私兵が来て、キースに戦況報告。
一方屋敷内のことはクーが報告。
「廊下と入れる部屋は探しましたが、それ以上は屋敷を把握していないわたしたちよりも皆様のほうが良いかと」
「……分かった。皆、すまないが頼む」
ヘンリエッタの指示で、動ける使用人が屋敷内へ。
次にキースが報告。
「市街地での戦闘は終了。現在は港で篭城している首領と膠着状態。地理的にもあちらが有利な状況だから、長引きそうだ」
「……長引かせない。コスモ、飛べる?」
「フンッ」
「ワタちゃん?」
「私、やられたらやり返す人なんだ。これやったの、魔王スリーエフだっけ? やられたんだから、やり返すよ」
氷のような表情のワタを見てしまったキースとクー。
途端に不安感が爆発し、ワタを止めようとする。
「ワタちゃん! ワタちゃんがそこまでする必要はないよ!」
「そうですよ。御三家がすべてこちら側に付いた今、ワタがそこまでする必要はありません!」
「……ありがと。でもね……なんかムカつくんだもん」
(え、それだけ?)という周囲の心の声はいざ知らず、コスモに乗って港へと飛んでいったワタ。
おかげでキースもクーも追うのを忘れてしまい、ワタが戻ってきた頃には、勝利で戦闘が終わっていた。
―――――
「……失敗……だと?」
「申し訳ございません……」
王の自室。
書類仕事の最中にサキュバスからこの報告を聞いた国王は、憤りから手に持つ羽根ペンを曲げ折った。
「言い訳は聞かないが、報告は聞いてやろう」
「それが、市街地には我がスリーエフの万の軍勢と、カーライル家にはエリート三名を向かわせたのですが、進攻間もなくヨーフォーへのテレポートが行えなくなってしまい……」
「その理由は?」
「不明、です……」
「心当たりは?」
「……あの能力者が何かしらを行ったとしか……」
ため息をつき、立ち上がり窓の外を眺める国王。
「そんな能力が存在するとは思えないが……。しかしこれで御三家は私を断罪する材料を揃えた訳だ。奴らの動向は?」
「はい。今朝方セルウィン家もマーリンガム家へと向かったとの報告がありました」
「……好都合じゃないか」
「と、言いますと?」
「御三家が揃った所で、物量で押し潰せ。事前にテレポートさせておけば済む」
「お言葉ではございますが、マーリンガム家はこちらの動きを察知しております。事前の準備は徒労か……と……?」
サキュバスに向かい、無言で口の前に指を立て、静かにしろと指示をした国王。
そして扉を指差した。
サキュバスはその意味を察し、扉を開けた。
―――――
それから7日後。
ワタたちは、クレア・カーライルとヘンリエッタ・カーライルを連れ、マーリンガム家へと帰宅した。




