02 よくそれで人類生きてますね
酒場のソファで一晩を過ごした御前崎私。
現在彼女は、下着姿で爆睡中である。
「マジかよ……」
酒場のマスターが頭を抱え、その姿にあきれている。
そしてその後ろからはマスターの娘さん。
「え……」
「これが言ってた奴。父さんが脱がしたんじゃないぞ?」
「分かってる。お父さんは熟女専門」
「なんで知ってる!?」
御前崎私のあずかり知らない所で、御前崎私のせいで親子関係に亀裂が入った瞬間である。
「……んー……っくしゅんっ!」
クシャミで目が覚めた御前崎私。
その目線の先には、にらみ合う親子。
「ふぇあぁぇあぁ。おはよー……って! やっぱり私に乱暴するつもりだったんだ! エロ同人みたいに!」
「んな訳あるか! お前が勝手に脱いだんだ!」
「そうだよ! お父さんは熟女しか眼中にないんだから!」
「言うなバカ娘!」「何だとバカオヤジ!」
「……あ、思い出した。自分で脱いだんだった」
侃々諤々の親子喧嘩に、御前崎私が顔色を変える事はなかった。
なぜならば、自宅でも似たような光景が日々繰り返されているからだ。
なので彼女は冷静に服を着て、冷静にカウンターへと向かい、冷静にコップに水を汲んで飲み、ひと息。
「ふう。あ、ねえ。ここから次の町までどう行けばいい?」
「知るか!」「知るか!」
「えー」
全く力の入ってない表情で、あきれるように放たれた声。誰に原因があるかなどまったく考えていない。
しかし次の瞬間、彼女はガラス越しに映る町の風景に、移動手段の答えを見つけた。
「あ、馬車をヒッチハイク! 前読んだのにもあった! おじさんありがとう。じゃあねー!」
「えっ!? あっ、おい!」
「お父さんはこっち!」
荷物をひったくるように持ち酒場を飛び出した彼女は、その勢いのまま荷車に追いつき、走りながら御者に声をかけた。
「すみませーん、隣町まで乗っけてくれませんかー?」
「悪いけどこれは町内を回ってるんだ。ニツバまでだったら……あそこに塔が見えるだろ? あそこに行けばいいよ」
「塔……うん。ありがと!」
しっかり塔を確認した彼女は止まり、荷車を見送ると塔へと歩き始めた。
「っていうかあれ、馬じゃなかった」
荷車を引いていたのは、馬よりも牛に似た、角のある動物だった。
しばらく歩き、塔のたもとに到着。
さっそく塔を見上げては「ほぇー」と鳴いた御前崎私。
塔の正体は一見して西洋風の教会だ。入り口の扉は開かれており、建物の奥まで見通せる。しかし十字架のデザインはどこにもない。
そんなことを確認する間も、建物への人の往来がある。
この異世界に存在する宗教に興味を持った彼女は、手近な若い女性に声をかけた。
「すみません、ここって教会?」
「ええ、そうですよ」
「どういう宗教なんですか?」
「……アルトール教ですよ? 当然じゃないですか」
「へー。私異世界から来たから知らないんですよ」
「異世界? ……ならば神父様にご教授願えばいいでしょうね。奥におられますのでどうぞ」
当然ながら訝しがる女性だが、この能天気女子中学生には効かない。
一瞬で興味が神父さんに移った彼女は、背伸びをしたりピョンピョン跳ねたりして、より奥まで見ようと必死。
女性はそんな御前崎私の姿に思わず笑いながら、軽く会釈していなくなった。
教会の内部はそれほど広いという訳ではないが、ステンドグラスに彩られ、まるで結婚式のフラワーシャワーのように様々な色が飛び交い、キラキラと輝いている。
その光景に心が躍り、自身も周囲を見回すためにくるくると回りながら教会の奥へ。
教会の奥、他よりも一段高くなっている教壇には、白いローブを着た三十代ほどのピンク髪の男性が、女性に囲まれて鼻を伸ばしていた。
「すみませーん、神父さんですか?」
「ん? ああそうだよ。見ない顔と服装だけど、ここいらの人じゃなさそうだね」
「うん。私異世界から来ました。アルトール教ってどんな宗教か教えてください」
「また唐突だなぁ。……皆さん、ちょっとごめんなさいね」
神父さんは周りの女性をかき分け教壇から降りて、彼女を手招きして適当な椅子に座った。
彼女は彼女で一切警戒する事もなく、その横へ。
「異世界から来たって? いつ?」
「昨日。そこの草原に」
「ソメ平原ね。んー……信じない訳じゃないけど、じゃあ信じられるかって言ったら、それとは別の話だ。だから真偽は問わないよ」
「……え?」
神父さんすみません、この子アホの子なんです。
「ははは、分からないならそれで構わないけどね。えーっと、アルトール教についてだよね」
「うん。あ、ついでにこの世界についても教えてくれると嬉しいです」
「了解。まずはアルトール教について。この宗教はこの世界の九割以上の人が信奉していて――」
――以下要約。
アルトール教は、創造神である女神アルトールと、その四人の娘からなる女系の多神教である。
四人の娘にはそれぞれ火・水・風・土というモチーフがある。
火の女神プルマン、水の神フォスロ、風の神タルゴ、土の神アルストム。
どの神を主に信奉するかは自由であり、また信奉する神の変更も自由。
経典にはいわゆる”人として正しい行いをしましょう”という程度しかない、とても大雑把で自由な宗教だ。
また五人の神には、異世界らしくそれぞれステータス上昇効果がある。
火は力、水は体力、風は素早さ、土は賢さ。そして創造神アルトールは、全てのステータスが若干だがプラスされる。
乗り換え自由なアルトール教では、職業によって信奉する神を選ぶのが基本。
例えば酒場のマスターは水の神フォスロを信奉しており、立ち仕事でも疲れない体力上昇効果の恩恵を受けている。
力仕事は火の神を、立ち仕事は水の神を、配達などでは風の神を、学者は土の神を信奉し、創造神アルトールは様々な家事をこなす主婦に大人気である――。
「噂では、現在この人間界にアルトール様がご光臨なさっているらしい。とはいえ、アルトール様から自分がそうだと名乗り出ることはまずないから、会っていたとしても分からないけどね」
「……神様って実際にいるんだ。さっすが異世界!」
「ははは。君のいた世界の神様がどういう存在なのかは分からないけど、アルトール教の神様は、言わば自分の親兄弟のような存在なんだよ。そして信奉すれば目に見える見返りがある。アルトール教がここまで広まった一番の理由だね」
「ふーん」
ちなみに御前崎私は、この話を半分程度しか理解できなかった。
「次にこの世界のあらましだけど……」
と、話が次に進もうとしたところで教会の鐘が鳴った。
「……十時か」
「十字架?」
「時刻の話だよ」
「あー。……あ、そういえば隣町までの馬車っていつ出るんですか?」
「十時出発だからそろそろ出るよ」
「げ。んじゃ私行きます。またー」
あっさりと神父さんを置いて教会を出る彼女。
神父さんは苦笑いしながらも手を振っていた。
「なんだったんですの? あの子」
「さあ? なんだろうね。でも面白い子だった。そして、素直そうないい子だった」
「……まさか神父様の好みは、あのような?」
「はっはっはっ……冗談きついよ」
奥様方からの質問に、ただただ真顔になる神父さんでした。
教会の正面には、牛のような動物が引く、四輪で幌付きの車が二台停まっている。
左は一頭、右は二頭引きだ。
彼女はまず左側の御者に声を掛けた。
「すみませーん。隣町まで行きますか?」
「ニツバはあっち」
「はーい」
「すみませーん、ニツバまでってこれですか?」
「そうだよ。もう出発するから、乗った乗った」
「はーい……って、お金は?」
「あーそうだった。ニツバまで3,200タクスだよ」
「んー……これで足りる?」
酒場で稼いだチップを全額見せてみた彼女。
茶色いひげを生やしたおじさん御者がそれを覗き込み、しばらく固まった。
「……嬢ちゃん、それじゃ飯代にもならないよ」
「えー! マジかー……」
「ならば私が支払いましょう」
凹む彼女の後ろから唐突に現れたのは、さっきの神父さん。
「いいの!?」
「君が本当に異世界から来たばかりならば、無一文であることは想像できたからね。……はい、3,200タクス」
「……へい、丁度お預かり。ついでに嬢ちゃんもしっかり預かります」
「ははは、頼みました」
笑顔で手を振り、出発を見届ける前に教会へと帰る神父さん。
一方彼女はこれにいたく感動――することもなく、ラッキー程度に思って乗車。
この子本当にこういう子なんですよ。すみません――。
荷車には左右に長椅子が備えられており、一応程度にはクッションも敷いてある。
車には彼女の他に二名、若い男女が乗っていた。彼女はその正面に座る。
「ご夫婦さんですか?」
「えっ、ええ」
全く無警戒で話しかける妙な服装の娘に、苦笑いを浮かべる男女。
車が出発し、荷台が揺れる。
ラノベ知識で、こういう荷車はお尻が痛くなることを知っている彼女は、若干の不安顔。
だが彼女は能天気。
「お話いいですか?」
「ええ……」「まあ……」
「んじゃ、あの牛ってなんですか?」
車を引く牛を指差す彼女。男女が答える前に御者が答えた。
「こいつはキニアナっていうウシだよ。頑丈で力があってしかも足が速い。車を引くのに最適なんだ」
「……やっぱり牛なんだ……」
これまた異世界感のない答えに残念がる御前崎私。
だが立ち直りも早い。
「それじゃこの世界ってどんな感じなんですか?」
「どんなって……」
そりゃ答えに困るでしょ。男女もだが、聞き耳を立てていた御者も苦笑い。
しかし御前崎私、なんとこの苦笑いの空気を読んだ。
「えーっと、私異世界から来たからこっちのこと全然分からないんです。あと私が異世界から来たってのは言っちゃダメです」
「僕たちに言ってるじゃないか……」
「ははは……。それじゃあ私の答えられる範囲で答えますね」
「お願いしまーす」
常識だけはある彼女は、しっかりと頭を下げお願いをした。
説明は女性の担当のようだが、男性に御者も、暇な道中なので話に乗るつもりだ。
「この世界、と大きく言うのはちょっと私も自信がないので、まずはこの国、ステージ王国からでいいですか?」
「うん。それでいいです」
「はい。それではですね――」
――再び要約のお時間。
ここステージ王国は、大陸にある五つの国家のうち、一番規模の小さい国家だ。
五つの国は特に戦争することもなく、平和な日常を過ごしている。
ステージ王国は、規模は小さいとはいえ、牛車で移動すれば端から端まで一年以上かかる大きさ。
現在の王になってからは兵力増強に力を入れている。
暦に関しては週や月の概念がなく、一年は四百日でうるう年はない。そして現在は王国暦3207年である。
しかし異世界らしく魔獣や魔族に魔王がおり、どこぞの魔王とは違い、ちゃーんと世界征服を企んでいる。
それが12人。
確認のためもう一度言うが、この世界には魔王が12人もいる――。
「よくそれで人類生きてますね」
「ははは……」
率直な感想に苦笑いが起こったところで、牛車は森へと入っていく。
「そうだ。ゲームとかラノベでずーっと不思議だったんだけど、モンスターって町を襲わないの?」
「周囲を結界で覆っているから大丈夫。この街道にも結界が張ってあるから、僕らは魔物に襲われずに移動できるんだよ」
「へぇー。さすが異世界」
男性の説明に、しっかりと納得する彼女。
森に入ってしばらく。
能天気女子中学生は気付く気配ゼロだが、日々この街道を通る御者は普段と雰囲気が違うと感じ、警戒をしている。
――少しだけ早足になった牛車。
そのことに男女も気付き、約一名を除き不安が広がる。
「……御者さん」
「悪いけど話しかけないでください」
「分かりました……」
雰囲気に飲まれ、いても立ってもいられなくなった男性が御者に声をかけるも、その御者も余裕がなくなっている。
だが能天気女子中学生、これでも気付かない。
――気付かないどころか、カバンからラノベ本を取り出し、鼻歌交じりに読み始める始末。
突然に牛車が急停止!
その瞬間に女性は悲鳴をあげ、男性も顔面蒼白。御者も前方に起こった異変に声が出ず固まっている。
「ったぁーい……。なんかありましたかー?」
だが能天気女子中学生だけは別であった。
急停車で打った頭を撫でながら、荷台から運転席に顔を出し、前方を確認。
「うわっ、人倒れてる。……ってかあの特大の犬なに?」
「こっ……コボルトだ……殺されるっ……」
牛車の前方には男性が一名血だらけで倒れており、ライオンよりも大きな黒い犬が六体、それを囲んでいる。
コボルトも牛車に気付きこちらへと歩を進める。
――しかし襲ってはこない。占いババアからもらった退魔のネックレスが効いているのだ。
乗客の女性は男性にしがみつき、男性は必死の形相で神に助けを請うている。御者は命の終わりを感じ、震えるばかり。その雰囲気を感じ牛も後ずさり。
だが! 能天気女子中学生、御前崎私は違った!
「ふひひ……さっそくチート能力使える……あ、あの人がヒーローなんじゃね? ふひひひひ……」
御前崎私はイメージした。
《コボルトが逃げる》
「……とりゃっ!」
なんとなくそれっぽい格好をと、ボールをコボルトに投げつけるように右手を振った。
するとコボルトたちが本当に、突然何かに怯えるように森へと逃げ帰ってゆく。
能力の成功を確信した御前崎私は、興奮でハァハァ言いながらよだれを袖で拭いた。
「ふひひひ、マジ私チートだー。私ちょーすげーんだけど。ふひひひひ……」
同乗の三人は何が起こったのか理解できない様子で、ポカーンと口が開いたまま。
彼女はひとり荷車を降りて、倒れている男性のもとへ。
「想像すればいいんだから、私が回復能力を使えるっていう想像してみよーっと」
《自分に回復能力を付与する》
そう想像すると、御前崎私の体が数秒淡く光り、本当に回復能力が付与された。
倒れている男性は肉を削がれ骨が見えていて、息はあるが、数分と持たない瀕死の状態だ。。
さすがの能天気女子中学生も顔をしかめる。しかし彼女は両手を男性に向けて、回復能力を発動。
彼女の体が先ほどよりも強く光り、それと呼応するように男性の体にあった無数の咬み傷が、まるで逆再生でもしているかのようにみるみる回復。血の跡もだが、何故か服の破れまでもが直った。
一方彼女自身には何も負荷がない。これは回復能力が使い放題であるということを示している。
「回復もチートって、私すげー。ふひひ……」
「おい! 大丈夫か!?」
後ろから御者と男性が駆け寄ってきた。
彼女は自分に言ってるのかと思って手を上げたが、二人はそれをスルーして倒れている男性の様子を確認。
その手、虚しいんで下げてください――。
二人は目を合わせ同時に頷き、御者が頭を、乗客が足を持ち、荷車へ。
放置された彼女は、同じく放置されていた男性の物と思われる武器を拾い――女子中学生には重すぎて、引きずりながら牛車へと戻った。
牛車が無事に森を抜けた。
次の町はまだまだ見えないが、御者も男女もほっとひと息。
余裕の出てきた乗客の男性から、御前崎私に声をかけた。
「君、異世界から来たって言ってたけど、最初からそういう能力を持っていたのかい?」
「んーん。あっちは剣も魔法もない世界だもん」
「そ、そうかい……」
本を読んだままの御前崎私。あっさりあしらってしまい、会話終了のお知らせ。
「……んー……」
「あっ! 目を覚ましましたよ!」
「これで一安心だね」
倒れていた男性が目を覚ましたところで、牛車が一旦停車。牛の休憩である。
御者が荷台に乗ってきて、男性の様子を確認中。
一方彼女は本を読んだまま。
「大丈夫ですか?」
「……俺……生きてる?」
「生きていますよ。コボルトの群れに襲われていたところを、彼女が助けてくれたんです。……そっちじゃなくてこっち」
男女の側を向いたので御者がツッコミ。
男性は、ずーっと本を読んでいるよく分からない服装の女の子を見ると、眉がへの字に曲がった。
「……本当に?」
「私も信じられないんですけど、本当です。どうやったのか分かりませんが、コボルトを退散させてあなたの傷を治しました」
「そうですか。……んよっと」
体を起し、傷跡などを確認する男性。
咬み跡もなく、それどころか服も直っているという、奇跡としか言いようのない状況を理解した彼は、御前崎私に向き直りひざまずいた。
「どこの誰かは存じ上げませんが、命を助けてくれたことに、感謝を申し上げます」
「うん」
「……それだけ?」
「うん」
せっかくの格好いいパフォーマンスを、こちらに見向きもせず本を読む御前崎私に、たった一言で切り捨てられた彼。
なんとも言いようのない敗北感に襲われ、カクッと首が垂れた。
――しかし彼は見てしまった。14歳JCのスカートの中を。
「あれ? あなたキースさんじゃないですか?」
「え? ええ、まあ」
なんと倒れていた彼、御者が知っている人物でした。
「どうしてキースさんが?」
「街道の調査です。最近あそこの森で街道の中に魔獣が侵入した形跡があり、結界にほころびが生じているのではないかと。それで街道側から結界を確認中、後ろから突然襲われまして。……油断していました」
「そうですか……」
「結界が緩んでいることは確認できましたので、このままニツバまで同行させてください。えーっと……3,200タクスですよね」
「……はい。丁度お預かりしました」
キースという彼は腰に財布をぶら下げていたので、そこからお札を出し御者へと渡した。
それをちらっと見た御前崎私は、ひとつ疑問が沸いたので、御者に聞いてみた。
「そういえばこの世界、お金ってどうなってるんですか?」
「この世界というか、この国のお金は全部お札だよ。そうだね――」
――三度目の要約。
このステージ王国の通貨は『タクス』。お札には『TX』という表記があるが、これはローマ字ではなくこちらの文字。偶然だ。
1万タクスまでは円と同じ要領で刻まれており、さらに5万・10万・50万・100万・500万・1千万タクス札まである。
物価に関しては円とは全く異なり、嗜好品や移動手段はかなり高額。この牛車もぜいたく品であり、本来ならば丸一日かけ、歩いて移動する。
一方この世界にとっての必需品である武器防具、そして食べ物に関しては、円と同等かそれよりも安価だったりする。
もちろん高額な武器防具はあるが、それは本格的な戦士の専用品だ――。
「ほぇー。あ、じゃーこれは?」
「あっ! 俺の弓! 返してくれる?」
「うん。盗って売る気はないし」
そういうことはしない子なんです。
弓は彼女の横に置いてあったので、彼から手を伸ばし自分のもとへ。
「ありがとう。これ高いから失くしたら大目玉だったよ。そういや命の恩人に名乗ってなかったね。俺はキース・マーリンガム。マーリンガム家は聞いた事があるだろう?」
「ない」
「ありゃ。ともかく、いい所の次男坊で、19歳。今は国の弓兵部隊にいる。そっちは?」
「御前崎私。異世界から来た14歳JC。だけど言っちゃダメなんだって」
「俺に言ってんじゃねーかよ……」
そういう子なんです。
――キース・マーリンガム。
背は175cmほど。薄灰色でボサボサの髪。しかし爆発しているようなのではなく、手ぐしで整えられそうな程度。
服装は青いローブに、茶色い皮製のライトアーマー。左腕に白い無地のブレスレット。
顔はさわやかイケメンであるが、髪型からして自身の容姿には無頓着。そして御前崎私の好みではなかった様子。
武器は連装式のクロスボウ。リロードの手間も考えられており弾倉付き。アサルトライフルの弓版といった雰囲気。
現在はステージ王国の弓兵部隊に所属しているが、マーリンガム家はステージ王国の西側にある領主だ。
そんな彼が兵をやっているのは、家を追い出されたりだとか家のしきたりだとかではなく、自身の強い意思からである。
家族にはしっかりと理解してもらっているので、確執の類は一切ない。
御者が彼のことを知っていたのは、マーリンガム家が名家だからでもある――。
「……イケメンで家がすごいって、勝ち組じゃん」
「勝ち組……なのかな?」
「うわーそういう態度はモテないんだ」
「ははは……」
図星である。
そして御前崎私は、ひとつ閃いた。
「ねえ、国の兵士さんってことは、王都に行く?」
「結界のことを報告しなきゃならないし、……君のこともあるからね」
「あ、バレた」
「当然。でも先にニツバの領主様に会うよ」
「じゃー一緒に行くー。私のことはワタって呼んでいいよ」
「ワタちゃんね。じゃ俺は「キースさん」はいはい」
こうしてフラグを成立させた御前崎私、今後はワタと呼称するが、ワタはキースと共に、まずはニツバの領主屋敷を目指すことになった。
「ふひひ。異世界生活満喫なう……って充電切れたぁぁぁぁ!!」
「なんだこの子……」
そういう子なんです。すみません――。




