13 これは骨になるぅー
ステージ王国第二の都市『ライオット』に到着したワタたち。
潮風のさわやかな香りに、ワタはくしゃみ。
「っくちゅん」
「ははは。潮風に鼻がむず痒くなる体質かな?」
「うん。花粉は全く大丈夫なんだけどね。ってかお腹すいた」
「いきなり話題変わりましたね」「ははは」
しかし食事は取らず、キースはなにやら自信有り気にそのまま車を走らせる。
とにもかくにも活気に満ち満ちている港町ライオット。
ワタの顔もあちらこちらへと忙しなく振られ続けており、そろそろ首を痛めそうである。
「見えてきた。あれがライオットの鮮魚市場世界中から魚が集まるんだよ」
「おー。私ね、カレイの煮付け好きなんだー」
「意外と渋いね」
「ふひひー。……あ! ってことはカレイあるんだ」
「ははは、そういえばワタちゃんは異世界から来たんだもんね。同じかは分からないけど、カレイっていう魚はいるよ。……丁度いいや。ちょっと寄って行こう」
一旦市場に寄り道。
奥には港があり、現役の木造帆船と最新型の鋼製外輪船が仲良く停泊している。
ワタが迷子になりそうな勢いなのでキースはクーに頼もうと思ったのだが、そのクーも爛々とした瞳で迷子になりかけていたので、仕方がなくキースが二人の手を掴んだ。
「おっ!? 誰かと思えばキース様じゃねーか!」
「おーマジだマジだ!」
「どもども。今日はカレイありますか?」
「カレイならあっちだね」
「どうもです」
とまあ、領主の次男坊なものだから顔が広い様子。
カレイの置いてある場所もすぐに分かり、実際に魚を見せてもらう。
「あー、同じだ。異世界感なーい」
「ははは。そりゃ残念」
「そーいえば左カレイに右ヒラメって言うよね」
「……言う?」
ワタのこの知識は祖父からのものである。
ならばとキースがそこにいた漁師に聞いてみたが、首を横に振った。
「カレイでも種類で目の位置が左だったり右だったりするんだよ」
「へぇ。それは私知らない。ちょっと異世界感出たかも」
ということで、お土産にカレイを一箱分ももらい、キースの実家へと出発。
ちなみに左カレイは日本近海のカレイが左型なだけであり、海外では右カレイは珍しくありません。
街に入ってしばらく。中心街を過ぎて、郊外まで来てしまった。
市場でも何も食べなかったワタは、ご機嫌がナナメになってきている。
すると右手にやたらと広い敷地が出現。
「……キースさん、もしかしてだけど……」
「ここで驚かれちゃー、興が冷めるってもんだよ」
「マージーでーすーかー……」
一方本物のお姫様は、この二人のやり取りに余裕の微笑み。
王の寝室から飛び降りる際に、その部屋の豪華さに一切驚かなかったのは、自身がそのような部屋に住んでいた、というのが理由である。
それからさらにしばらく走り、ようやく入り口の門が見えた。
門の前に到着すると、何を言うこともなく門が開かれ、キースも当然のように中へ。
その時のワタちゃん? 興奮でおかしくなっていました。
門を抜けると、ずーっと続く林。
「ニツバの領主さんは芝生敷いて庭園にしてたけど、放置?」
「いや、これにも理由がある。それともう少し行ったら生垣迷路もあるよ」
「おおっ! 私やってみたい!」
「広いから、挑戦者がたまに骨になって見つかるけどね」
「前言撤回」
「ははは」
しばらく進むと生垣が見えてきた。
建物までは一直線の道なのだが、その左右には終わりが見えない。
「あーこれは骨になるぅー」
「はっはっはっ! でしょー? 最短記録でも二日だからね」
「時間じゃなくて日なの!?」
「そう。ただ緊急脱出用のアーティファクトが所々にあるから、リタイヤはできるよ」
するとクーがひとつ疑問に思った。
「リタイヤが可能なのに、骨になるんですか?」
「ええ。アーティファクトを使うためには鍵が必要で、その鍵は屋敷にありますから」
「……あっ!」
「えーなになに?」
「ふっふっふっ、ワタもたまには自分で答えを導いてください」
「ぶーぶー!」
頬を膨らませつつも、ちゃんと考えるワタ。
だが答えが出る前に車は右折。
「あれ? どこいくの?」
「ちょっとね」
一方先ほどの会話で足がかりを見つけたクーは、この行動が何を示しているのか理解している。
すると前方に、地下へのトンネルが現れた。
「……あっ! はいはいはい!! 分かった!!」
「はいワタちゃんどうぞ」
「侵入者よけ!」
「正解者に拍手ー!」「パチパチー」
「わーやった!」
簡単ですね。
暗いトンネル内を進むと、何の変哲もない場所で停車。
きょとんとするワタとクーを尻目に、キースはニヤニヤ。
「さて、ここから先は我が家ご自慢の防衛網が張られているよ。正解しないと死ぬからね」
「うわっ、そーゆーのあるのー!?」
「面白そう……」
対照的な二人。
だがここでキースは重大なミスを犯してしまった。
《私たちには全トラップ効かない》
「……ふひひ……」
「あ……」
ワタお得意の不適な笑みですぐに気付いたキースだが、後の祭り。
せっかくのアレやコレやの仕掛け。その全てをふいにされたキースはふて腐れ、ため息ばかり。
仕方がないのでクーが後ろからワタに耳打ち。
「……ワタ」
「ん?」
「これは付き合ってあげなきゃいけない場面ですよ?」
「えーだって面倒だもん」
「それでもせめて半分くらいは」
「私やると全部間違えるよ?」
「そ、それは……」
結局クーも諦めました。
一方その諦めが、イコールでワタだと全部間違えるということの肯定だとは気付かない、能天気女子中学生なのでした。
所々に装置と思われる怪しい部分がありながらも、すごーく静かなトンネルを抜け、ついに地上へ。
目の前に現れたのは、以前キースが言った通りの、巨大なお屋敷。
まるでニツバの領主屋敷がウサギ小屋かと思えるほどだ。
「………………」
「あっはっはっ! 声が出なくなってやんの!」
「ふふっ、キースも意地悪ですね」
「さっきの仕返しですよ。じゃないと俺の気が納まらない」
しかしそこから玄関までがまた長かった。
なにせ屋敷を半周する構造なのだ。もちろんこれも侵入者よけ。
しばらーく走り、門からは三十分以上かけて、ようやく玄関に到着。
「あーもーおなかいっぱいだよ……」
「じゃあこのカレイ食べ「おなかすいた!」変わり身はやっ!」
そんな会話に、相変わらずクーは大笑い。
「ここは俺の家だからね、レディファーストです。どうぞお二方」
「似合わない」「似合いませんね」
「……傷つくよ?」
一行は玄関扉を――勝手に開きました。
屋敷内にはメイドたちと執事が並んでお出迎え。そして正面には金髪のイケメン。
「やあようこそ我がマーリンガム家へ。僕はキースの兄、ルパード・マーリンガム。以後お見知りおきを」
「似てないね」「ぅおいっ!!」「ワタ!」
「あっはっはっ! 聞きしに勝るとはこのことだね。確かに顔も性格も似ていないけれど、れっきとした血縁者だよ。立ち話も何だし、さっそくカレイの煮付けを食べに食堂へ行こうか」
「わーい!」
能天気女子中学生はただ喜び、この家の次男坊は苦笑い。元お姫様はその手際の良さに感服するばかり。
なにせ、ワタがカレイの煮付けを所望していることは、当然ながら三人以外は誰も知らないはずなのだから。
――ルパード・マーリンガム。
キースの兄にして、現在のマーリンガム家を預かる。24歳。
見た目は金髪イケメンであり、常に穏やかな笑顔を浮かべている。
しかしその瞳の奥に見え隠れする感情は、その表情と同一とは限らない。そんな人物である――。
食堂までの移動中、ワタは屋敷の大きさと使用人の多さに驚いている。
「ねえキースさん、この家何人いるの?」
「俺が住んでいた頃は家族四人だよ」
「じゃなくて、メイドさんたちも含めて」
「あー……兄さん」
「現在で僕ら家族も含めると27名。うちメイドが18名、執事が3名、料理人が3名、そして家族が3人。キースは含めてないよ」
「……すごっ!」
「あ、もうひとつルパードさんに質問。今家族3人で住んでるんでしょ? 部屋多すぎない?」
「それだけ訪問客が多いんだよ。それに、時期になれば庭師が30人くらい来て、我が家に泊り込むからね」
「あーあの迷路。もうほとんどホテルだ……」
「ははは、まあそうとも言えるかな」
ニツバの領主屋敷で慣れたはずの貴族生活だが、さらに桁の違いを見せつけられ、ワタは口が半開き。
そんなワタに最後の一撃を食らわせたのは、落ち目様――じゃなくて、お姫様。
「わたしの家はお城でしたから、この倍ほどはありました」
「あぁあぁあぁ……私ミジメになるからやめてぇぇぇ……」
溶けて消えそうなワタの悲痛な叫びに、キースの兄、ルパードも含め、皆大笑い。
到着した食堂は、家族用のこじんまり――とは言えないが、10人程度が座れそうなテーブルのある部屋。
キースが二人をエスコートして着席させる。
「……似合わない」
「いやまぁ、俺もそう思うけどさ……」
「はっはっはっ」
兄ルパードは終始ご機嫌である。
着席するとほぼ同時に、早速運ばれてくる料理。
まだ昼食だというのにフルコースディナーの勢いであり、そのどれもが一級品であり、どれもが最高の手間をかけて調理されている。
料理をしない親の元で育ち、コンビニのパン、給食、コンビニ弁当の一日だったワタにとっては、次元の違う料理たちだ。
「あのー、キースさんにクーさん? もしかして、これくらい普通だったりするの?」
「まあ」「ですね」
ワタ、今ならば泣いてもいいぞ。
「うぅー、私すごくミジメ……。でも……泣かない。ニツバの領主さんに悪いもん……」
この一言で撃ち落されたのは、ワタではなく、キースとクーだった。
食事は着々と進み、ワタは『テーブルマナー何それ食べれるの?』状態なのだが、ニツバの領主屋敷でも似たようなものだったので、二人はもう気にしていない。
そしてようやくワタご所望の、カレイの煮付けである。
「おぉー! ……いい匂い。確か醤油とみりんとお砂糖だよね」
「さあ? 異世界の味と同じ自信はないなぁ」
「んじゃ確かめる。いっただっきまーってもう言ってた」
ずっこける一同。
さてワタの評価は?
「んー! 美味しい! 私の知ってる味とはちょっと違うけど、これも好き!」
「そうか、良かった」
一安心のマーリンガム家一同。そしてキースが味の違いに心当たりがあった。
「味の違いは家庭の違いじゃないかな? 兵舎でも同じ料理作ってもみんな味付けは違ったから」
「うん。私もそうだと思う。……ってキースさん料理できんじゃん」
「いや、俺は食べるの専門」
「私と同じー」「わたしとも同じでーす」
能天気なワタのおかげか、最後まで笑いに包まれた食事となった。
「ふえぇーおなかいっぱい。これ夜入らないよー」
「わたしもお腹一杯」
「ちょっと遅かったからね。兄さん、夜は軽めで頼みます」
「承知した。皆、聞いていたね?」
頷く使用人一同。
一息ついて、そのまま食堂で会談と相成った。
「さてワタ君。僕が何故君の名前を知ってるのか、分かるかい?」
「キースさんが呼んでたから」
「ま、まあそうでもあるんだけど……。では言い方を変えよう。僕は君が異世界から来た人物であり、14歳であり、特殊な能力を有していることも知っている。ワタ君に要求される前にカレイの煮付けも出した。何故だと思う?」
「ワタちゃん、先に言っておくけど能力は使わないでよ。ニツバ様の時みたいなことはしなくても良いから」
念のため釘を刺しておくキース。そしてこれもヒントである。
「……あ、領主さんが車に無線機積んだって言ってた。それ盗聴してたんだ」
「まあ、ほぼ正解かな」
そう言うとルパードは立ち上がり、同時に執事が小さな車輪の付いた、人の背丈以上もある大きな掲示板を搬入。会議で使う大きいホワイトボードを思い浮かべれば正解。それのコルクボード仕様だ
そこには既に幾つかの資料が貼ってある。
「見えるかい?」
「うん。見えるし読める」
「では始めよう」
「まずこの国には御三家と呼ばれる大きな領家がある。覚えているかい?」
「んと、ニツバとここと、あとなんか」
「ははは。ニツバのセルウィン家、ライオットのマーリンガム家、そして最後が『ヨーフォー』の街を取り仕切るカーライル家だ」
「覚える必要ある?」
「そう言われてしまうと困っちゃうかな」
「おっけーなんとなーく覚える」
初ワタのルパード、完全に翻弄されています。
「そして、この御三家には領主という表の顔の他に、裏の顔もある」
「そんな悪いことしてるの?」
「いや、悪くはないよ。……ないよね? キース」
「兄さんが聞かれてるんでしょ。……くくく、ワタ地獄で散々もがくが良いさ」
「ひどい弟だよ全く」
キースとクーは笑いが止まらない。
一方ルパードは、まさかワタがここまでとは思っていなかった様子で、本気で頭を抱えている。
「えーっと……」
「兄さん、ヒントをひとつ。ワタちゃんには直球が一番」
「それもう答えだよね。だけど、その方が僕の頭も痛くならずに済みそうだ」
「では直球で申し上げる。この御三家は、国民の立場から王を監視、時には知力、時には武力を以って王と対峙し糾弾するという使命を持ち合わせている」
(あちゃー)(やっちゃった)という顔のキースとクー。それに気付き、ルパードは余計に混乱。
「兄さん、ワタちゃんにその説明は無理だよ」
「うん。私も無理だと思う。全然わかんなかった」
「……なっ……がっくり」
「仕方がないから俺が説明するね」
「……すまん。僕は兄失格だぁ……」
「ははは。ワタちゃんの扱い方が特殊なんだって」
すっかり自信喪失のルパード。一方ワタはよく分かっていない。
「ワタちゃん。この御三家はね、国王が悪いことをしないか監視したり、国をいい方向へと導いたりする役目を持っているんだよ」
「……あー。だからキースさんがその監視役になったんだ」
「大雑把に言えばそう。だけどこの役目はずっと昔になくなっていたんだ。それを……」
と、キースは事前に確認させておくべきだと思い、一旦話を切った。
「話は少し変わるけど、前に俺が『今の王国は恐怖政治だ』って言ったの覚えてる?」
「うん。脅してやらせるんでしょ?」
「そう。そして恐怖政治へと転換したのが五年前。俺が兵士を志す一年前だ」
「……そのキョーフセージってのがイヤだから、ずっとなくなっていた役目をもう一度ってことで、王様の監視役にキースさんがなったんだ」
「はい、大正解」
「おー! やったー!」
「ちなみに家族には一度反対されたよ。何故俺がそんなことをしなけりゃいけないんだってね。その中でも最後まで反対していたのが……」
「僕だよ」
「だってそうじゃないか。何故わざわざ領家の次男であるキースが危険を冒してまで王に対する密偵なんてやらなければいけないんだい? そんなもの、人を使えばいい。そのための地位、そのための金だ。僕は何か間違っているかい?」
「兄さん」「キースは黙って。僕はワタ君と殿下に聞いている」
「あの、もう国はないので、殿下では……なので、みなさんと同じくクーとお呼びください。そして本題ですが、わたしとしては領家の者ならばあちらも手を出しづらいという点、そして情報伝達の素早さという点から、キースがこの役割を買って出たことに納得します」
「ではワタ君は?」
「どっちでもー」
即答にして一瞬で終わりである。
「あ、いやぁ……せめてどっちかだけでも決めてもらえないかな?」
「決めるの必要?」
「……必要ありません。僕の負けです。うぅ……」
「まあまあ」
ルパードの天敵はワタだと、そこにいた全員がそう確信した。
「……そういえば兄さん、父上と母上は?」
「二人は隠居したよ」
「えええっ!!??」
「おいおい、手紙を出したじゃないか」
「……いつ?」
「もう半年以上前だ」
「あー……忙しくて忘れてたってことで」
あきれるルパード。実はキース、たまにこういうことをやらかします。
そしてつまりは、ここマーリンガム家の現当主こそが、キースの兄、ルパード・マーリンガムなのだ。
「……あとで話聞かせて?」
「話じゃなくて説教な?」
「はい……」
キースの運命は決まった。
「ともかくだ、マーリンガム家の当主となり、諜報活動により国王の裏を知った今、僕はキースに感謝している」
「……珍しい」
「誰のせいだと……まあその話は後にするとして、我がマーリンガム家およびニツバのセルウィン家は、過去の役目を再び復活させ、11番魔王スリーエフとの闇取引を行うステージ国王アーヴィン・ガーネットを、国家及び国民の敵と定め、これを討つ!」
格好よく決めるルパード。
「……んふわぁあぁあぁ」
んが! 能天気な誰かさんの大あくびにより一瞬で崩壊。
「兄さん、いいことを教えてあげる。ワタちゃんには勝てない」
「痛感しています……うぅ……」
兄の肩を抱き、よしよしと頭を撫でて慰める弟であった。
それからもワタによるルパードいじめ――じゃなくて、ルパードによる説明は続いた。
セルウィン家は国民の剣として、王の暴虐を断罪する役割を持つ。
マーリンガム家は国民の矢として、王の監視及び諜報活動を行う役割を持つ。
カーライル家は国民の盾として、王に知恵を授け、正しい道へと導く役割を持つ。
そして各家の紋章にも意味があり、表と裏の二つの顔を持っている。
「つまりわたしの予想は正解だったんですね」
「そうです。クーさんの仰るとおり、魔車に付いているセルウィン家の紋章が変化していたのは、その時が来たという掲示です。セルウィン家の紋章は表が『俯瞰して見た王冠の中に剣がある』というものですが、裏は『横から見た王冠に剣が刺さる』という構図に変わります」
ちなみにだが、セルウィン家は剣としての役割により、王を威嚇する役割も持つ。
なのであえて紋章が大幅に変わり、その構図も王への反逆を顕著に表すものとなる。
マーリンガム家は五つの花びらを持つ三本の花という紋章なのだが、スパイのような役割なので、時が来た場合にはその花びらの位置が変わるという、とても小さな変化となる。
最後のカーライル家は二重円に左向き片翼なのが、ひとつの円に右向きの翼となる。
「そして俺たちが紋章の変化した魔車で走ったことで、この話は今まさに拡大している。……よね?」
「確認済みだよ。それにとっくに王の耳にも入っている。じい。ワタ君たちが到着してから今までの侵入者数は?」
「はい。現在までに人間三名と魔族一名が侵入を試み、全て侵入から一分以内に撃破しております」
「……随分と緩いのだね。我が家の実力を甘く見ているのか、はたまたあちらの実力が無いのか」
「僭越ながら、その両方であると分析いたします」
「落ちたものだね。ともかく、この屋敷にいる限り、ワタ君とクーさんの安全を保証しよう」
一転しての強者の余裕に、ワタも惚れ惚れ。
「ルパードさんカッコイイよ」
「本当? あはは、嬉しいなぁ」
「でもそういうところはキースさんと同じ」
「同じ?」と兄弟の声が重なった。
「うん。同じでモテない」
兄弟揃って大ダメージでした。
―――――
一方こちら、ニツバの領主屋敷。
領主の執務室には次々と客人がやってくる。その誰もが歴戦の猛者であり、屈強な戦士である。
「失礼致します」
「よくいらした。話は既に?」
「はっ。しかしあの紋章、本当なのですか? 申し訳ないのですが、てっきり伝説かと」
「はっはっはっ、皆同じ質問を私に聞くよ。そして私は同じ質問を皆に聞く」
笑顔を一転させ、鋭い眼光を飛ばす領主、リヨーシュ・セルウィン。
「伝説を現実にする覚悟はあるか?」
その問に、訪問客は皆心を決める。
「ステージ王国の民として、当然の選択であり、当然の覚悟です」
「よろしい」
―――――
王への反抗を決定した二つの領家では、早速その準備に取り掛かるのだった。