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11  焼けば大体食べれるって!

 ニツバの領主屋敷に到着してから三日目。


 「ふわぁあぁあぁ」


 ベランダのウッドデッキで大あくびを披露するワタ。

 すっかり金持ち生活をエンジョイし、怠惰になりきっている。


 一方のキースとクーは、何かが起こった時のために鍛錬を欠かさない。

 日に数回は二人で模擬戦闘をしており、現在までに勝率は五分五分である。


 「キースも相当に強いんですね」

 「意外でしたか?」

 「正直」

 「俺も。あはは」


 ただしこれはクーがスキルを封印しているからであり、その封印を解けば勝敗は明らかになる。


 「とはいえ、対魔獣戦となれば俺はサポート程度ですけど」

 「それは仕方がありませんよ」


 キースは弓と格闘術だが、この世界ではどちらも対人用。

 一方クーの使う剣術は、対人対魔獣の両方とも行ける。


 そんな三人の前を通過する牛車が一台。

 「……あ、なんかイヤーな予感」と何かを感じ取ったワタ。




 三人が執務室に呼ばれた。

 ワタは悪い予感があるので眉間にシワが寄っている。

 そんなワタ以上に厳しい表情をしている領主。

 それを見て残り二人も、何かが起こったのだと悟った。


 「突然だが、ソメの町が魔族に襲撃された」

 「うわー」「被害は?」

 「現在までに、町の4分の1ほどが焼け落ち、死者行方不明者多数。そして理由は不明だが、教会の神父様が連れ去られたとのことだ」

 「あーあの派手なピンク髪の神父さん」

 「知り合いかい?」

 「牛車に乗る時に、お金を払ってくれた。3,200タクスって高すぎない?」

 「まあ確かに。……ともかく、緊急事態ということだ」


 「我々は?」

 「相手は11番魔王スリーエフに間違いない。……だが判断が難しい。ワタちゃんをおびき出すための罠とも考えられるし、次はニツバだという私への脅迫である可能性も充分に考えられる。キース君の話を全面的に信用するのであれば、国王はスリーエフと裏で繋がっており、そして今頃は命令に従わない私に業を煮やしていることだろう」

 「……分かりました。我々はライオットへと向かうことにします」

 「すまない」


 厳しい表情になったキースとクー。

 一方能天気女子中学生は意味が分かっていない。

 だがキースも慣れたもので、聞かれる前に噛み砕いてワタに説明。


 「俺たちがここにいると、この街が国王と魔王に狙われる。だから別の街に移るよ」

 「わかった」

 「よし」「魔王ぶっ殺せばいいんだよね」「って違うし!」


 ほぇ? という表情のワタに、領主が負けてふき出し笑い。


 「ぶわはは! いやぁ本当にワタちゃんには癒されるよ。キース君からしたらそれどころではないだろうけど」

 「まだ出会って数日ですけど、飽きはしませんけど疲れましたね。ははは……」

 「これはこれは、ご愁傷様です」

 「やめてくださいよ……」




 準備が終わり、そして軍資金をたっぷり頂いた三人。

 玄関先で領主とお別れ。


 「またいつでも来なさい。……と言いたい所ではあるのだが、事情が出来てしまったからね。だが約束は最後まで(たが)えない。それをまた約束しよう」

 「領主さんこそ仕事で倒れないでよ? 顔色悪いよ」

 「んーむ……ここ数日案件が山積みなのだよ。だが他人が見て分かるのだから、少し抑えることにするよ」

 「んじゃそれを約束ね」

 「はっはっはっ」


 領主もすっかりワタのペースに慣れた様子。


 「キース君。道中イカス渓谷では何かがあるやもしれん。もちろんその先でもだ。しっかり頼むぞ」

 「はい。こう言うのも少し変ですけど、王国兵としての責務を果たします」

 「それでいいのだよ。兵というものは王の指示の下、国民を守るのが仕事だ。そして王に何かがあれば……分かっているね?」

 「はい」


 領家の知り合い同士、この二人にしか分からないような意思の疎通があった様子。


 「姫殿下」「だからやめてくださいって」

 「ははは。……では、クーさん。ワタちゃんは能力こそあれど、戦闘力は皆無。キース君も魔獣には厳しい。魔獣との戦闘においては、あなた様こそが(つるぎ)となりましょう。二人の事、よろしくお願い致します」

 「お任せを。わたしもお二人には大きな借りがあります。それに、元王族として、ステージ国王の蛮行を放ってはおけませんから」

 「なるほど。しかし無理はなさらぬよう」

 「領主様も」


 こちらも、幼少期とはいえ姫という位の高い場所にいたクー。物事はしっかりと分かっている。


 しっかりと直された魔車に乗り込む三人。

 その際クーが何かに気付き立ち止まり、魔車の一点を見つめた。だがすぐに乗車。


 領主が最後に、助手席の窓から車を覗き込んだ。


 「キース君、シートの下に無線機を積んでおいた。それを使えば相互通信が可能なので、何かあれば使ってくれ」

 「ありがとうございます」

 「それではな。気をつけて」


 領主が一歩離れ、動き出す車。

 するとワタが窓から顔を出した。


 「領主さーん、いい言葉教えてあげるー!」

 「なんだねー?」

 「約束は、破るためにあるー! あははは!」

 「……はっはっはっ! さすがはワタちゃんだ!」


 手を振り、大笑いしたまま三人を見送る領主。


 「……さて、やるか。皆、準備を始めろ!」




 一方こちら、車内。

 当然ワタの最後の一言に、大笑いである。


 「あはははは!」

 「あーお腹いたい……」

 「本当にいい言葉ですね。ぷっははは!」


 「でも何故このタイミングなんですか?」

 「んー……なんとなーく。っていうか、キースさんなんか企んでる?」

 「俺かよ。企んで……る。けど今言うことではないから。ライオットにある俺の実家、マーリンガム家に到着してからね」

 「えー」「えー」


 ワタに続いてクーも催促する声を出した。

 だけどキースは笑うだけで、話しはしなかった。


 ―――――


 ステージ王、アーヴィン・ガーネットは現在、執務室にて机に向かって書類仕事の最中である。


 「……ん? のあっ!?」

 「突然失礼致します。アーヴィン様」


 眼前に突如として現れた魔族に、さすがの国王も驚き――すぎて、椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。

 そんな国王の顔を覗き込む、新しいパイプ役の魔族。

 前回は影の薄い男性魔族だったが、今回は全く真逆の、”ボンキュッボン!”のナイスバディでセクシー衣装のサキュバス。雰囲気は『お姉様』である。


 「どうぞ、お手を」

 「あ、いや。自分で起きられる」

 「……アッチも起こしますか?」

 「や、やめいっ!」


 目のやり場に困るほどの露出度を誇る、新しく配属された魔族。。

 国王と言えども男性なので、それはそれは顔が赤くなっているのでござんすよ。


 「んんっ。あー……あやつの後任の者……か?」

 「はい。スリーエフ様より、計画遂行のためにアーヴィン様にお仕えしろとの命を受け、参じました。これよりわたくしは、貴方様の(しもべ)となりましょう」

 「……サキュバス……でよいのだな?」

 「はい。……ベッドはいつでもご用意できております」

 「やめいっ!」


 と言いつつ、心はウキウキ下はモリモリ――に、なりそうで我慢している国王。


 「ふふっ。それではさっそくではありますが、報告がございます」

 「……なんだ? はぁ……」

 「ニツバの領主屋敷にてかくまわれていた三人組が、イカス渓谷へと出発した模様です」

 「動いたか。目的地は?」

 「そこまでは。しかし王都は避けると思われますので、マーリンガム家か、カーライル家へと出向くものかと」


 (あれ? こいつ有能かも)と思う国王。


 「……マーリンガム家だ」

 「ではそのように。……ベッドの準備はいかが致しますか?」

 「まだ言うか!」


 とは言いつつ、ちょっと嬉しそうな国王なのでした。


 ―――――




 「邪念を感じる」

 「突然なんだい?」

 「ううん。こっちの話。んで、どー行くの?」


 三人組は現在、イカス渓谷へと向かっている。


 「渓谷にも命令は行っているはずだけど、とりあえずはチャレンジ。ダメだったら……ワタちゃんに頼むかも」

 「ん?」

 「適当な所で、対岸までの橋を作ってもらう。俺たちが渡った後に橋を消せば、逃げやすくもなるからね」

 「あー。……あんまり乗り気しないなぁー」


 「おや、それまたどうしてですか?」

 「いいようにこき使われてる気がするー」

 「あはは。では何か貢物をしなければですね」

 「おっ」「ダメですよーこの子すぐ調子乗るから」「ぶーぶー!」


 何だかんだで和気藹々とした車内。

 だが、勘の鋭いクーが何かに気付き車を停車させた。


 「なんですか?」

 「……見られてる」

 「えっ!?」


 その目は真剣。二人もこれが演技ではないと確信。


 「どこ?」

 「……分からない。だけど確実に付けられています」

 「どうすんの?」

 「場所さえ分かれば俺が狙い撃てるんだけど」

 「それが……殺気はあるんですよ。でも……」


 「《殺気の犯人が出てくる》ってのは?」

 「あーぁあ。……いた」


 遠く、岩陰からこちらを狙っていた人物が何かに驚き逃走。

 その慌てふためく光景に三人とも目を凝らす。

 弓兵という職業柄か、この中でもっとも目のいいキースが最初に気付いた。


 「あ、ありゃ毒蛇だ。咬まれたら死ぬぞー」

 「助け」「ない」

 「……即答とは。ワタ、意外と冷酷なんですね」

 「だって向こうが悪いんだもん。キースさん行くよー」

 「はいはい」


 ワタの指示に従い車を出すキース。




 しばらくしてイカス渓谷に到着。

 やはりキースの読みどおり、ここも雰囲気が変わり、空気がピリピリと張り詰めている。


 「止まれ!」と、渓谷に差し掛かった途端に、三人の兵士に止められる車。

 道中の会話で、キースが対策があると言っていたので、ワタとクーはそれに従う。


 「なんですか?」

 「……王国兵か? それと……女二人」

 「手配書のとおりだな」

 「よし。話がある。降りてもらおうか」

 「いいですけど、先に隊長さんを呼んできてもらえますか?」

 「抵抗を」「する気はありません。でも俺たちは隊長さんに用があります」


 兵士三人が顔を見合わせ、どうしたものかと困り顔。

 しかし一人の兵士が走り隊長を呼びに行き、しばらくしてその隊長が来た。

 隊長は先ほどの兵士のように威圧するわけでもなく、むしろ笑顔を作ってきた。


 「すまないね」

 「いえいえ。以前もお世話になりましたので」

 「以前も? ……あっ! あの時のか! あーそうだそうだ。お嬢ちゃんあの時はありがとう」

 「いえいえぜーんぜん」


 しっかり余所行きの笑顔を見せるワタ。

 隊長は次に、車のとある部分に目をやった。


 「……これは……」

 「隊長さんならば、意味が分かりますよね?」

 「まさかこれを自分の目で見ることになるとは思わなかったけれどね。分かった。通せ」

 「しかし隊長……」

 「俺の判断だ」


 そう言われては部下である兵士たちは反論できず。


 「君、これはアーヴィン様のことで間違いないのか?」

 「俺はマーリンガム家の人間です」

 「……なるほど。ならば渡った後は渓谷沿いに西へと向かうといい。途中に魔獣のいる森を抜けることになるが、最短三日でライオットに着ける」

 「分かりました。信じていただき感謝します。それでは」


 車はワタの作った『渡し橋』を行く。

 揺れることもなく、落ちるような要素もないこの頑強な橋。


 「……そういえばこんな橋ありましたっけ?」

 「ワタちゃんがやらかしたんですよ」

 「えっへへーん」

 「へぇ。あ、だから渡し橋……?」


 一方隊長は、会話の意味を兵士に聞かれ、その兵士の頭を叩いていた。




 橋を渡り、渓谷沿いに西へ。

 こちらはあまり整備されていない道なので、ガタガタである。


 「ゆゆゆれれれるるるぅぅぅ」

 「我慢して」

 「能力使っちゃるぅー!」

 「だーめ」

 「ぶーぶー!」


 ものすごーく、ご機嫌ナナメなワタ。

 ハンドルを取られるせいで笑う余裕のないキースと、逆に振動を楽しみつつ笑っているクー。


 しかし既に夕刻。ある程度進んだところで、野宿と相成った。


 「……で、料理は誰すんのー? 私ムリー」

 「俺も」

 「わたしも……」

 「全滅かよー!」


 響き渡るワタの声。


 「あはは。でも焼けば大抵のものは食べられますから」

 「あー! ママも同じこと言ってた! 焼けば大体食べれるって!」

 「ならば」「カビ生えてる黒こげトースト出された!! 最悪な思い出!! あーもうっ!! 忘れてたのに思い出した!!」


 激怒するワタに、これはまずいと大人二人で緊急会議。


 「どどどどうします??」

 「あーとえーとあれだなんだえーっと……イカスまで戻ろう!」

 「いやいや追っ手が来てますって!」

 「じゃ、じゃじゃじゃじゃぁ……作るしか?」

 「……ですよねー……」


 一応日持ちのする食料は積んであるので、料理というものに初挑戦することにした二人。




 車から道具を下ろしてガサゴソやっている大人二人。


 「あれっ? 包丁……」

 「剣使いますか?」

 「でかすぎない?」

 「でも刃物これしかありませんよ?」

 「……よしっ! 切るのは任せましたっ!」

 「はいっ!」


 「鍋ナベなーべー……ってフタだけじゃねーか!」

 「これは?」

 「それ木の器だから火にかけたら燃える」

 「あら……」

 「仕方が無い、鎧を鍋代わりにするか」

 「さすがにそれは……臭そう」

 「ま、まあ……あ、鍋あった」


 その後なんやかんやで、とりあえずは料理がスタートした。

 しばらーく時間が経ち、料理に夢中? の二人。

 そんな二人は気付いていないが、背後では草木が燃え上がりそうなほどの怒りを抱いているJCが一名。


 「こんな感じですか?」

 「んー? 太っ!」

 「そっちだってすごい色してますよ?」

 「あーまあ俺ら初めてだし」

 「それもそうですね。というかこうして並ぶと新婚さんみたい。ねえあなた?」

 「なんだいお前? って、俺らには似合わなさすぎ! あははは!」

 「ですね。あははは」


 「……テメェら……」

 「ひっ……」「ひっ……」


 このあと二人は、カビ生え黒こげトースト以上の地獄を見たそうです。




 ―――――


 とある城。ステージ王とのパイプ役である、サキュバスの部屋だ。

 彼女は電話で報告を聞いている。


 「……え? 死んだ!?」

 『毒蛇に咬まれたようだ。全くあいつらしくない。連中はイカス渓谷で捕まっているはずだから、以降別の奴が監視に付く』

 「分かったわ。話したとおり相手は正体不明の能力を持っている。気をつけなさいね」

 『あいよ』


 受話器を置いた彼女の手は、少しだけ震えている


 「……一体、なんなの……?」


 正体不明の能力で、遠くにいる監視役を毒蛇を用いて殺した。

 そう考えた彼女は、謎の能力に一層恐怖する。


 ―――――




 辺りはすっかり夜の闇に包まれた。

 夜空には星たちが瞬き、二つの月が明るく地面を照らしている。


 ワタはあの後怒り疲れ、今は車内で後部座席を占有して熟睡中。

 キースとクーは火を焚き交互に仮眠しながら周囲を見張っており、現在はクーが見張り番。

 大あくびをしつつ、小枝を火にくべるクー。

 運転席から降り、交代でキースがやってきた。


 「代わりますよー。ふいぃさぶっ!」

 「ふふっ。あと二時間ほどで夜明けですね」

 「ようやくかぁ……」


 今はまだ夏の終わり。しかしキースは寝起きであり、場所的にも渓谷からの冷たい風が上ってくるので余計に寒く感じる。

 ため息混じりにクーの正面に座るキース。

 ちらっとキースの顔を見たクーが、話題を振った。


 「今更ですけど……」

 「はい?」

 「わたしたちは、どこを目指しているんでしょう?」

 「……巻き込まれた側ですからね。俺も姉さんも、そしてワタちゃんも。だけど最終的な目標は、魔王の討伐と国王の弾劾」

 「やはりそこですか」


 「……ひとつ、キースさんに確認したいことがあります」

 「なんですか?」

 「あの紋章のことです」


 クーは、魔車に付いているエンブレムを指差した。


 「気付きましたか。さすがはスキルを使えるほどの猛者ですね」

 「ふふっ。ということは理由があるのですね?」

 「はい。御三家には表の顔と裏の顔があります。三つの家とも、当の昔に裏の顔は廃業しているんですが、あれは裏を示しています」

 「……わたしの予想を申し上げても?」

 「多分合ってますし、我が家で改めて説明が入ります。なのでその時に答え合わせをしましょう」

 「分かりました。……それでは見張り番お願いします。ふわぁあぁ……」


 また大あくびをしつつ、助手席に乗り込み眠るクー。

 一方あくびの移ったキースは、暇そうに火に枝を放り込むのだった――。



気付けばストックが10話分も貯まってしまったので、週2ペースに変更します。

それと本作はあまり長くない予定で、プロットはエンディングに辿り着きました。

今のペースならば50話前後で書き終わりかな? と、そんな感じです。

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