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01  うわっ、私の異世界詰んでる?

 「………………ほぇ?」


 彼女は周囲の光景を見て、理解できない様子で鳴いた。

 彼女の目に映るのは、膝丈まである草が生い茂る緑一面の草原と、どこまでも見通せる澄みきった青い空。はるか上空には、ぽつぽつとマシュマロのような白い雲が泳いでいる。

 太陽のようにこの星を照らす存在がある。大きいものがひとつと、小さいものがふたつ。


 彼女の持つ本が、バサリと地面に落ちた。


 「……ここ、どこ?」


 放心状態で周囲を見回す。

 ふと我に返り急ぎ地面に落ちた本を拾い上げ、心の拠り所とでも言いたげに強く胸に抱きながら、また周囲を見回す。


 「おっ……落ち着け……私……」


 恐怖と興奮とその他諸々の感情が入り乱れ、心臓の鼓動が早くなる。

 少しの物音にも敏感に反応し小さく悲鳴を上げてはそちらを見やり、何もないことに安堵する。


 「……これって……これ……だよね?」


 彼女は強く握り締めている本を確認。その表紙には、こう書いてある。

 ――異世界で助けた女の子が勇者様でした――。

 ライトノベルである。

 もう一度言うが、ライトノベルである。

 しかも異世界転移モノである。




 「……ふひっ……」


 ニヤリと口元が緩み、醜態とも言えるほどの恍惚の表情を見せる彼女。


 「うひぇぁー……私、ちょーマジで異世界に来ちゃったかもー!? ふひひひひーっ! えー? えへへー? ふひひひー」


 ――彼女の名前は御前崎私(オマエザキ=ワタシ)。14歳の中学二年生である。

 背丈は年齢相応の平均。胸は平均よりも少し大きめ。

 服装は中学校の制服のまま。茶色のブレザーに灰色のチェック柄スカート、紺色のハイソックス。なおパンツの色は秘密である。

 メガネをかけているが、視力はそこまで悪くはない。一応度は入っているが裸眼でも問題なく生活が出来る。伊達メガネではないがファッションでかけていると言って差し支えない。

 一方の勉強はからっきしであり、赤点の常連。そしてアホの子。

 ぼっちではなく、2人友達がいる。コミュニケーション能力は充分備わっている。


 彼女の名前だが、本来は”渡詩”と書いてワタシと読ませるはずが、両親が漢字を書けず、役所への提出前に急遽書いたのでこの漢字になってしまった。漢字がまともであったとしても音がアレではあるが。

 両親はいわゆるダメ親であり、彼女が赤ん坊の頃に離婚。母親に引き取られ、その後ダメ男と再婚。しかし虐待とは無縁で、おかげで性格が歪んでいるということはない。

 彼女自身この名前には承服しかねる心持ちもあったのだが、今では持ちネタへと昇華し、周囲にはワタと呼ばせている。


 そんな彼女は、趣味をふたつ持っている、そのひとつがライトノベル読書。

 ――もっとも、漢字のほとんどを読み飛ばすのだが。




 「わったしぃーを呼んだのぉーはだーぁれっかなーっ?」


 突然に広い草原のど真ん中に放り出されるという、普通ならばありえなさすぎてパニックを起こすこの場面で、御前崎私は鼻歌にスキップを披露。

 この女子中学生、ド級の能天気である!


 ――――――


 数分前。

 ここは某市駅前にある本屋。制服姿の彼女は、学校帰りに寄り道をしていた。


 「あざっしたー」


 やる気のないアルバイト店員の声が響く。

 本屋から出てきた彼女の手には、あのラノベ本。


 「ふひひ……クレアの活躍がようやく拝める……」


 すぐ近くのコンビニ。彼女は袋を「燃やせるゴミ」に躊躇なく突っ込むと、ニヤけ顔を隠さず、さっそく歩き読み。

 もう慣れたもので、顔を上げずに赤信号で停止。

 青信号になり、顔を上げることなくまた歩き出した。


 感覚で自宅近辺まで来たと思い、顔を上げた彼女の目に映った光景は、既に自身の知るものではなくなっていた。

 しかし彼女は能天気。

 死んで転生したのか? それとも歩いている最中に転移したのか?

 そんな疑問すら抱かないのだった――。


 ――――――


 「こういう時って、まずは自分の状況把握だよねー」


 独り言を炸裂させつつ、改めてぐるりと周囲を見渡す彼女。

 前方には山。山脈ではなく、女子中学生でもギリギリ登れそうな山である。

 左は森。さすがの能天気女子中学生も、こちら方面は行くべきではないと判断した。

 後ろは遠くに湖が見える。対岸にある木の幹が視認出来る程度の、小ぶりな湖だ。

 右を見ると、遠くに何か、人工物の先端が見える。


 「いよぉーし、あの町に向けて、れっつごー!」


 お気に入りのラノベ原作アニメの曲を歌いながら、元気に歩き出した彼女。




 「つーかーれーたー……」


 出発から、まだ10分少々である。

 しかし普段アスファルトの地面しか知らない彼女にとっては、草の生い茂る草原を歩くのは重労働。

 それでも体を引きずるように歩いていると、唐突に前方が開けて、土の道が姿を現した。

 町の側を見れば、確かに遠くに建物が見える。逆側を見ると、森の中へと道が続いている。


 「ふえぇぇ……ちょっとひと休み……」


 土の道は往来で削られ踏み固められ、草原の地面とは若干の段差がある。彼女はそこに腰掛けた。


 「ぅぶぇっ!」


 失礼、腰掛けようとして目測を誤り、そのまま大股開きで後方に転がり倒れた。




 「……ふひひ……クレアかっけー……」


 いつの間にか彼女は休憩そっちのけで読書。


 「ウアゥオオオオオオオン」


 唐突に、森の中からと思われる、ナニモノかの遠吠え。

 その声は読書中の彼女の耳にも入り、素早く声の側を向くと、自身の状況に命の危険が存在することを肌で感じ取った。

 生唾を飲み込み、急いで本をカバンにしまい立ち上がった彼女は、足早に町へと向かう。


 「やっべ、このままじゃ私死ぬわ」


 能天気女子中学生も、ようやくそれを理解した。




 それから1時間以上経過。


 「ヴェァァァ……」


 とんでもない声を出したのは御前崎私である。

 というのも、ようやく町に到着し、すぐそこにあったベンチに腰掛ける事ができたのだ。

 町の名前は『ソメ』。トメでもホメでもなく、ソメ。


 「異世界厳しすぎー! もっと私に甘い世界になれー!」

 「ははは」

 「ぶーぶー!」


 駄々をこねて叫ぶ彼女を、通りすがりの町民が笑う。

 それを見て彼女は余計に頬がふくれた。


 「あぁー。……どうしよ……」


 大きくため息をつき空を見上げると、ふと冷静になり、今後のことが頭をよぎる。

 今の彼女にあるのは、異世界では当然使えないスマホ、こちらも異世界では使えない通貨の入った財布、ラノベ本の入った学校指定のカバン。以上だ。


 「うわっ、私の異世界詰んでる?」


 とある有名広告そのままのポーズを取りつつ、本気で現実に直面する彼女。


 「……まいっか! はーやく来い来いイベントフラグー!」


 能天気女子中学生、めげない。




 とりあえずは町を散策することにした彼女。

 フラグは待っているだけでは立たないと考えたのだ。

 そんな彼女の目線の先には、露天の果物屋がある。


 「ふひひ、これも異世界の醍醐味でしょ? でしょ?」


 いそいそと果物屋の前へ。

 果物屋の店主は到底果物を売る人相には見えない。あんなブツやそんなブツを売るほうがよっぽど似合う、そういう風貌のスキンヘッドおじさんである。

 しかし彼女の目線はとっくに果物に移っている。

 木箱に入って陳列されている果物の数々は、一見して彼女の知る果物と同じだ。


 「すみませーん。これ、なんて名前ですか?」

 「んあ? リンゴだよ。当たり前じゃねーか」

 「だったらこっちは?」

 「バナナ」

 「これは?」

 「オレンジ。なーねーちゃん、買う気がないならどっか行ってくんねーか?」

 「……はーい」


 心の底から、本当に本当に残念がる彼女。

 異世界なのだから名称も何もかもが違うと思っていたのに、見た目も名前も日本のものと全く同じ。

 唯一”味”が違うかもしれないのだが、彼女の財布には27円しか入っておらず、そもそも異世界で”円”が使えるはずもない。

 彼女は、異世界での大きな楽しみを失ったのだ。それもふたつ。

 ひとつは物の名前。もうひとつは現地の言語。


 「どーせいいんだけどー。言葉覚えるの面倒だしー」


 すっかりすねている彼女。




 「もし」

 「………………」

 「もし!」「うわっ!?」


 ふて腐れしょぼくれて歩く彼女を、これまた露天で商売をしているお婆さんが呼び止めた。

 露天は、テーブルに紫の布をかぶせ、その上に赤い小さな座布団と、その座布団に大きな丸い水晶球が乗っている。

 お婆さんの風貌は、黒いローブを頭まで被り、首には紫水晶のネックレス。

 彼女は一瞬で理解した。これがこの異世界での重要人物一号、占いババアであると。


 何事かと疑う彼女をお婆さんは手招き。

 彼女も興味を持ったので、その手招きに導かれ、テーブルを挟んだお婆さんの向かいにある椅子に座った。


 「なんですか? お金は持ってないですよ?」

 「いやいや、見たことのない服装なので、ちょいと興味を持ったのじゃよ。ワシから引き止めたのじゃから、お代はいらない。ひとつ見させてはもらえないかね?」

 「タダで占ってくれるんですか!? やったっ! ……あ、でもジジ様がタダより高いものはない。勧誘は騙す奴のやること。先っちょだけは全部入れるつもりだって」

 「全部微妙に違っていると思うんじゃが……」


 苦笑いのお婆さん。

 それを疑いの目で睨む彼女。

 ちなみに御前崎私はお爺ちゃん子であるが、親がアレなので仕方がない。


 「ともかく、約束しよう。お代はいらんよ。どうじゃ?」


 正直なところ、すごーく興味がある御前崎私。

 しばらく悩む”フリ”をしてから、ため息をついて頷くという演出。




 「……ふむ。やはり娘さんは面白い人じゃな」

 「それで? それでそれで?」


 占いが始まればすっかり目が爛々と輝いて、身を乗り出している彼女。


 「まずは娘さんの能力。ワシはナウいヤングの頃から占いをしておるが、こんな能力は初めてじゃ」

 「それで? それで?」

 「娘さんの能力は、『ソーゾー』じゃ」


 なにを言っているのかと、一瞬で思考回路がぶっ飛んだ御前崎私。


 「そーぞー?」

 「そうじゃ。この『ソーゾー』という能力は、むー……」


 いい所でまた水晶球を見つめるお婆さん。


 「……端的に言ってしまえば、想像したものを創造する能力じゃな」

 「余計に分かんない」

 「じゃろうな。言っておいてなんじゃが、ワシも分からん」

 「いやいや、説明役でしょ? お婆さん。せっかくフラグ立てたんだから回収してよ」

 「フラグ? んむー若いもんの言葉は分からん……。ともかく、実践してみればよかろう。自分の手の平に、なにか小さなものが現れるイメージを持つのじゃ。そうすれば能力が発動する……はずじゃ」


 最後に自信のない声を出したお婆さんに、彼女も苦い顔。

 しかし面白い能力だというのは理解したので、実践してみることに。

 彼女が想像したのは、小さなガラス玉。水槽に入れるビー玉を思い浮かべれば正解だ。


 《手の平にガラス玉》


 「……んー、難しい。本当にできるの?」

 「いやいや、出来ているではないか」

 「おあっ!? マジだ!」


 彼女の手の平には、赤色の絵付けがある透明なガラス玉。

 何も感じず、突如として現れたそれをしげしげと見つめ、つまんでは様々な角度から見て確認する彼女。


 「ふんりゃっ!」


 唐突に地面へと投げつけ、ガラス玉を粉砕。

 本物のガラス玉であるという確証を得て、彼女はひとつの確信を得た。

 ――御前崎私は、チート能力者である――。




 「……ふひひ……異世界チート……ふひひひひ……」

 「な、なんじゃ? この子、怖いぞ……」


 うら若き女子高生にこの言葉を使うのは忍びないが、しかし今の彼女の表情は、はっきり言って気持ち悪い。

 キモいではなく、気持ち悪い。

 口は半開きでよだれが垂れていて、目はどこを見ているのか分からない。


 「んんっ! それでじゃな、この能力はなるべく人に悟られぬようにすべきだと進言するぞ」


 咳払いをして、お婆さんは彼女に忠告を放った。


 「ふひひ……って、え? なんで?」

 「ようやく戻ってきたか。簡単に言えば、娘さんが想像すれば金銀財宝を作り出すことも、人を殺めることも自由なんじゃよ。例えばこう、頭がパーン! と破裂するイメージを作り、それを相手に向かって放てば、そうなってしまう。そしてこの町丸ごとや、万単位の命を一瞬で消滅させることも可能なはずじゃ」

 「……悪用できちゃうってこと?」

 「端的に言えば、そうじゃな」


 理解した彼女は、まるで乗せられたとでも言いたげに、またニヤニヤ。


 「い、いや。やれとは言わんぞ! 絶対に言わんぞ!」

 「”絶対に”って、やれってことだよねー」「違うからっ!」


 思わずテーブルを叩き、年齢を感じさせないほどに勢いよく立ち上がったお婆さん。

 それを見て彼女はびっくりし固まっている。

 御前崎私は能天気だが、怒られるのだけはすごーく苦手なのだ。


 「ともかくっ! その能力と、異世界から来訪したということは伏せるべきじゃ!」

 「は、はいっ!」




 「ふう。……その顔はまだ占ってほしいと言っておるな」

 「正解でーす。私これからどうしたらいいかな?」

 「それは占わなくても分かること。街道を南に進むと『ニツバ』という主要都市がある。そこからさらに南へと進めば、ここ『ステージ王国』の王都『ボミット』じゃ。ステージ国王に謁見し、自らの道を問えばよかろう」

 「ここからずーっと南ってことね。おっけーラジャー了解」


 フラグが成立し、次のシナリオが示されたことに安堵する彼女。

 と同時に、ようやくエンジンのかかってきた異世界冒険に胸が躍っている。


 「そうじゃ、袖振り合うも多生の縁と言うからの」


 お婆さんは背後にある物置き場をガサゴソ。

 しばらくして、シンプルなシルバーのネックレスを持ってきた。


 「これを娘さんにやろう」

 「ネックレス? タダより高いものは」「さっき聞いた」

 「このネックレスはアーティファクトでな、簡単な退魔の術がかかっておる。コボルト程度までならば、相手から逃げていくじゃろう」


 アーティファクトとは、魔力を込められる特殊な物のこと。アクセサリの他に、武器防具や置き物、さらに巨大な建造物としても存在する。

 魔術師がそこに魔力を込めることで特殊な能力を発揮する、いわばマジックアイテムだ。


 「でも」「いいんじゃよ。ふっ、こんな面白い娘さんと知り合えたんじゃ。そのほうが何倍も価値がある」

 「だけど、それじゃあ私が納得しないっていうか、やっぱりなんかないと……」


 意外とキッチリしているな、と思うお婆さん。

 そう、御前崎私は能天気でアホの子だが、常識は持っているのだ。


 「それでは、こんなのはどうじゃろ? いつかワシに会いに来ておくれ。そして娘さんが見聞きしたことを、ワシに語って聞かせておくれ。これがお代じゃ」

 「うん。それなら納得。それにツケも払えるし。それじゃーねー」


 あっさりと立ち上がり手を振り何処かへと向かう彼女。


 「あ、ちょっと! アテはあるのかい?」

 「ない! でもそろそろヒーローが助けてくれるからだいじょーぶー!」

 「それは大丈夫とは言わんじゃろ……」


 走り去る彼女を見送るお婆さんは、心配顔で最後にポツリ。


 「……失敗だったかのぉ……」




 一方能天気女子中学生は元気を取り戻していた。


 「さぁー、私を助ける異世界ヒーローはどこかなー? イケメン剣士さん希望だよぉー?」


 そんなことを口走りながら、挙動不審に周りをキョロキョロ。

 このままではヒーローの前に憲兵や警察組織が来るのは明白である。が、彼女がそれに気付く可能性はない。

 それでも容赦なく日は陰り、既に東の空は茜色だ。


 「お嬢さん」

 「……来た来たキターッ! はーいお嬢さんでーっす!」


 元気よく振り向いた先にいたのは、どう見ても良からぬヤカラ。

 ヘラヘラと笑いナイフをチラチラさせている、トカゲのようなウロコを持つ緑色の種族が二人。

 一度は自身に命の危険があることを感じ取っている御前崎私は、これもまた命の危険であると感じ取り、即反転し逃走!


 「あ! 待て!」

 「待てと言われて待つバカはいないよーだ!」

 「ってかあいつ足はえぇーなおい!」


 彼女はこんななりだが、小学生時代の運動会の徒競走では、六年間一度も一位の座を明け渡さなかった程度には、足が速い。

 彼女の問題は、体力とやる気である。


 「うわー、逃げちゃったけど怖がってるほうがフラグだったかもー」


 それとこの能天気な性格。




 しばらく逃げ、追手がないことを確認した彼女は、近くの酒場へ。

 息が上がっているが気にせず、そのままカウンター席へ。


 「いらっしゃい」

 「えーっと……お金ないんですけど、お水ください」


 酒場のマスターは、口ひげを生やしたダンディーなおじさま。見事に酒場のマスターの格好である。

 そのマスターは彼女の身なりを見て、(ああこれは厄介な客だな)とすぐに感じ取った。

 それでも放り出さないのは、娘が同年代だからである。


 「はいよ。……あんたどこから来た?」

 「異世界。んで『ソーゾー』っていうチート能力持ってるから、王様に会いに行く予定。占いババアには言っちゃダメだって言われたから、言っちゃダメだよ」

 「それをオレに言ってんじゃねーか……」


 あきれるマスター。


 「お金がないなら、ここから歩きで王都までかい?」

 「うん。あ、その前にナントカっていう町まで行く」

 「ニツバかな。でも歩きじゃ丸一日かかるぞ?」

 「げっ。でもなんとかなるよ。異世界ってそういうものだもん」

 「何なんだよ、その自信……」


 再びあきれるマスター。


 「はぁ……その様子じゃ今晩の寝床もないんだろうな」

 「どうにかなるって。私の読んだラノベは全部どうにかなってるもん」

 「……正直に言わせてもらうんだが、あんた頭大丈夫か?」

 「怪我はしてないよ」

 「大丈夫じゃねぇ……」


 心が折れたマスター。


 「……あぁーもうっ! あんた名前は?」

 「御前崎私。ワタでいいよ」

 「すげー馴れ馴れしいなおい。んじゃワタちゃんよ、ウエイトレスのバイトしてくれるなら泊めてやってもいいぞ?」

 「いい。お水ごちそうさま。それじゃ!」

 「あ、おい! ……行っちまったよ。何なんだよ、あれ……」


 嵐の過ぎ去ったあとには、呆然とするマスターと、盗み聞きしていた客数人だけが残った。


 「マスター、ああいう手合いは早く忘れる事だよ」

 「……だね。はっはっ「やっぱ泊めてー」おいっ!」


 空の暗さから、結局戻ってきた彼女。




 その晩。

 彼女はウエイトレスの仕事をやりきった。しかも天職かと思うほどにバッチリと。

 あまりにも人懐こく愛想が良いので、様々なテーブルに招かれては一品を頂きおなかも膨れ、そしてチップで財布も膨れた。

 店を閉めれば、彼女は眠気眼で大あくび。


 「ふわぁあぁあぁ。私どこで寝ればいいの?」

 「あそこにソファがあるだろ」

 「……おじさん、私これでもうら若きJCだよ? JCをあんな場所で寝かせるなんてリョウシンのカシャクはないの? あ、分かった! 私に乱暴する気でしょう! エロ同人みたいに!」

 「しねーよ! とっとと寝ろ! ったく……何なんだこいつは……」


 ただの能天気なアホの子です。




 それでもなんとか異世界生活一日目を終えた御前崎私。

 果たして無事に王都まで――それどころか、この町を出発できるのだろうか?


 「あ、制服にシワがつくから脱いで寝よーっと」


 風邪引くぞ?



 三つ目の作品、投稿開始です。

 今回は今までと書き方も視点も変えているので、投稿ペースはのんびりになると思います。

 なおメインキャラクターは3名です。

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