第四章 20 二人
翌日。
「待っていたわ。あたしの、大好きな人」
「お待たせ。僕の、好きな人」
保安局の屋上の真ん中で、僕とニメは向かい合って立っていた。
「ジゲン、好き。大好きだった」
「僕も今なら、はっきり言えるよ。ニメが好きだってこと」
「あたしね、最初に会った時から、ちょっといいなって思ってたの。ジゲンのこと」
「一目惚れしてたの?」
「その時はまだ、一目惚れじゃなかったわ。少しいいなって思うくらい」
「そうなんだ」
「だけど、悪鬼を倒したのがあなただって分かった時には、もう惚れていたと思う。ジゲンが変身を解いて、元の姿に戻った時には、もう好きになってた」
「それは嬉しいなぁ」
「今思えばあたし、結構ジゲンにフラグ立ててたわよね」
「そうだね。キャラクターっぽく、結構分かりやすいフラグだった」
「ジゲンを仲間に勧誘した時も、これでこれからも一緒だ、って思っちゃって、つい興奮して言葉の歯切れが悪くなっちゃった。何とか建前は言えたけどね」
「はは。あの時は僕も、ちょっと変だなって思ったよ」
「それから課長にジゲンのことを話して、仲間にしてもらった時。あの時は本当に嬉しくて、嬉しい顔がもう抑えられなかった」
「あの時のニメの顔は、今でも覚えてるよ。ほんと嬉しそうだった」
「それから覚えてる? 初めて、仮眠室とシャワールームを案内した時のこと」
「うん、覚えてるよ」
「あの時、ジゲンがあたしの肩を掴んで、感謝しながら好きって言ってくれたわよね。かなり茶番入ってたけど、それでも好きって言ってくれて、ちょっと照れちゃった」
「あー、あの無言はそうだったんだ」
「思い出してみると、こんなにフラグを立てていたのよね」
「僕たちはキャラクターなんだし、たぶんこのくらいでちょうどいいんだよ」
「ん、そうかもね」
あの日、あの時、あの場所で。――そこであった、ニメの真相。
「それから二体同時に悪鬼が出現した日。あの日はあたしが、ジゲンと一緒のペアになりたかったのに。ジゲンはサディとペアになるんだもの」
「残念だったね」
「しかもサディと、あんなに仲良くなるなんて。抱き合って茶番までするし」
「あれはサディを助けたくて。……え、何? ニメ、もしかしてやきもち?」
「あの時はね! あの時は!」
「ニメは可愛いなぁ」
「うるさい。あたしはもともと可愛いの。はい次。ゲームセンターのこと」
「あれは面白かったし、楽しかったよ。うん」
「もっと。もっと深く、感想」
「ニメとサディのいろいろな面や姿が見られて、とても良かったです。特に良かったのは、バッティングセンターで、ニメがバットを振る時。あのバットを振った瞬間の、ニメのスカートがふわりと動いて、脚がいつもより少しだけ見えるのが、特に良かったです」
「うわぁ」
「あれ? 僕はちゃんと、深い感想を言ったんですけど?」
「それはちょっと、マニアックというか、ニッチというか……。でも、ジゲンだから受け入れてあげる。感謝しなさい。じゃあ最後、サディの家で愛の語らいをしたこと」
「あれは、サディに感謝しないと」
「そうね」
「最初はふざけてたけど、僕も途中から本当に、その気になってたと思う。はっきりとじゃなかったけど、やっぱり僕もずっとニメのことが好きだったんだ」
「あたしも、最初は困ったようなことを言ったけど、本当はめっちゃドキドキしてた。ジゲンとこんな展開になるなんてヤッター! って内心では盛り上がってたわ」
「やっぱり、サディには感謝だね」
「ええ、本当に」
僕とニメの間に、優しい風が吹く。
その風は、おそらくサディが吹かせたんだと、僕は思った。
そしてたぶん、ニメもそう思ったに違いない。
――そして。
僕とニメは、二人同時に――変身をした。
背に剣を携えた黒い少女の姿をした僕と、フリフリした魔法少女のような服装のニメ。
それから僕とニメは、再び二人同時に――黒い瘴気に包まれた。
ニメの姿が、目に見えて黒さを増していく。綺麗な白と赤だったその服も、今は黒ずんだものへと変わってしまった。まるで闇に落ちた、悪い魔法少女のように。




