第四章 18 この世界の真相
「教えてください。この世界の、真相を」
課長に対し、僕ははっきりとそう告げる。
「いいだろう。……この世界は、現世から忘れ去られた作品の、そのキャラクターたちが集まる世界だ。現実世界で誰からも忘れ去られた作品の、そのキャラクターは、その者の意思に関係なくこの世界に召喚される。……ハナがお前たちに語ったことは、間違いではない。それは、全て真実だ」
あの時、ハナちゃんが言ったことは、全て真実。
本当に僕たちは、誰からも忘れ去られた作品の、そのキャラクターなのだ。
だから、この世界に呼ばれた。この世界に、召喚された。
「まったく、ハナには驚かされた。この世界の真実を、ずばり言い当てていたのだからな。キャラクターというのは、やはり侮れないものだ」
課長が薄く笑いながらそう言う。
「……あたしたちは、どうしてこの世界に呼ばれたの?」
「転生、のためだ。お前たちは、転生のためにこの世界に来させられたんだ」
「転生……?」
「現実の人間にも前世・輪廻転生があるように、キャラクターも転生しなければならない。キャラクターとは、現実の人間を模して作られる存在だからだ。だからこそ、キャラクターも転生をしなければならないんだ」
課長のその台詞は、妙にすんなりと僕の心に入ってきた。それは僕も、ある作品の中のキャラクターだからなのだろうか。
「この世界は、言わば転生前の待機所だ。この世界で、お前たちは転生するまで過ごすことになる。そして、転生の時が来た者は、悪鬼となり――殺され、この世界から消えていく。そうして晴れて転生し、次の世界へ行くんだ」
「どうして……悪鬼になってから、倒される必要があるのよ?」
「それは、転生するためには、悲しみや苦しみ、つらさや絶望、そして諦めが必要だからだ。別の世界の新しいキャラクターとなるためには、今のキャラクターを捨てなければならない。今のキャラクターを自分の意思で早く捨てられるように、そのために、悲しみや苦しみ、つらさや絶望を与え、そして外側から他の者によって自分を殺してもらうのだ」
課長の説明は続く。
「他人に殺させるのは、いくら苦しみなどがあっても、本能が自分の存在を守ってしまうからだ。それでは、転生に必要な最後の諦め、『今の存在をなくす』というものが生まれない。それを生まれさせるために、他人の手によって、自分の死というものを認識させてもらうのだ。……悪鬼になる――姿が怪物のようになるのは、お前たちのような討伐者が、攻撃を躊躇しないようにするための、言うなれば対策なんだ」
「対策……。あたしたちが、躊躇しないように……するための……」
「どうやら、ハナとサディはまったく姿が変わらなかったそうだな。それはおそらく、二人には耐性があったんだろう。戦う力を持つ者は、優れた精神耐性を持つ者でもあるからな。……しかも、サディはお前たちに倒されることなく、自ら死に向かったらしいな。彼女はやはり、素晴らしい存在だったようだ」
サディの優しい顔が、脳裏によみがえる。悪鬼となっても、死ぬ直前となっても、怒りや憎しみなんてものはなかった、彼女のあの優しい顔が。
「記憶がなくて、そして戻るのは……もしかして……」
ニメがぽつりとそう呟く。勘の鋭いニメは、またしても何かに気づいたようだった。
「あたしたちの記憶がないのは……。そして、悪鬼になる前に記憶が戻るのは……。もしかして、そういうことなの……?」
「さすがはニメだ。よく気づく。わたしはお前の、そういうところが好きだぞ」
課長はそんなことを言ってから、説明を始めた。
「この世界の人物は、全員記憶がない。それは、その方が生きていきやすいからだ。過去の嫌な記憶を全て忘れていた方が、何も知らない世界で生きていきやすい。過去の自分の記憶なんて、なくても困らないからな。戸惑いはするが、困りはしない。……だから、この世界に来る人物の、自分の過去に関する記憶は全て消されているのだ」
記憶にまつわる真実が、課長によって語られる。
「そして、記憶のないまま転生まで時を過ごす。もう、分かっただろう? 転生の前、悪鬼になる前に記憶を戻すのは――悲しみや苦しみ、つらさや絶望を与えるためだ。その、自分の過去の記憶には、そういった悲しみや苦しみ、つらさや絶望が嫌なくらい存在しているからな。……そして記憶を一旦消して、それから再び記憶を取り戻させているのは、その方が落差が大きく、感じるつらさや苦しみも大きくなるからだ」
――落差。
記憶がなかったものの、これまで平穏に過ごしてきた。そこに、自分の過去の記憶を無理矢理戻される。平穏が、一瞬で苦しい記憶に侵され、闇の底に沈んでいく。
そうすることで、悲しみや苦しみ、つらさや絶望が相対的に大きくなる。
「……でも、どうやって過去の記憶だけを……?」
「忘れたのか? キャラクターは、現実の人間を模しているということを。そして、あの日ニメが教えてくれた、人の記憶に関することを」
「―――ッ!?」
その瞬間、背筋がぞくりとした。
そうだ。あの日、あの時、ニメが人の記憶に関することを、丁寧に教えてくれた――。




