第四章 17 真実と真相
「まず、ジゲン。君がこの悪鬼対策課に来たのは、偶然ではない。わたしが悪鬼対策課の増員を進言したところ、あてがわれたのが君なんだ。ジゲン」
「僕が、あてがわれた……?」
「そうだ。君は前世の作品内で、戦う力を持たされたキャラクターだった。そして、悪鬼対策課のメンバーになるには、ある一定力量以上のその『戦う力』を持っていなければならない。ジゲン、君は、その水準に達していた。だから、君があてがわれたのだ」
「じゃあ、あの時の謎のタイムラグも……」
「そうだ。あれは君が悪鬼対策課に来るために、仕組まれたものなんだ。ニメとサディが君の実力を知って、悪鬼対策課に勧誘する。その行動を起こさせるために、あのタイムラグをあそこで発生させたのだ。そして見事、君は悪鬼対策課にやってきた。表向きは、ニメとサディに勧誘されてね」
あの時ニメとサディに勧誘されたのは、最初から決まっていたのだ。
勧誘自体は二人の思いによるものだけど、その状況を引き起こしたのは、この世界のどこかにいる誰かで。そして、課長の増員の進言によるもの。
「そして次に、リュウとハナ、サディが連続して悪鬼になったことだが。あれは、ジゲンが悪鬼対策課に来る前から、半分ほどすでに決まっていたんだ」
「前から……決まっていた……?」
今度はニメが、課長の言葉に反応を返した。
「一昨日と今日、リュウとサディが悪鬼になるのは、ジゲンが仲間になる前から決まっていた。だからこそ、悪鬼対策課の増員を進言したんだ。一気に二人もメンバーがいなくなるからな」
「リュウとサディが……?」
「そう。一昨日と今日、リュウとサディが悪鬼になるのは、本当の偶然なんだ。そして、ジゲンが仲間になるあの日、同じタイミングでハナも保安局にやってきた」
「ハナが?」
「ああ。保安局のどこぞの誰かが、ハナを保護したんだ。ハナはあの見た目だからな。守ってやりたくなるのが人ってもんだ。保安局の誰かがそういうわけで、ハナを保安局に連れてきたんだ。そしてハナを、保安局で一緒に働かせることにした。……といっても、簡単な雑用だったり、マスコット的なことばかりだったが」
ハナちゃんの過去を、僕たちは今初めて知った。そんな過去が、そんな経緯があったなんて、一つも知らなかった。訊きも、しなかった。
それから、ハナちゃんと僕が保安局にやってきたのは、ほとんど同じタイミングだという。だから、ニメはハナちゃんを知らなかったのだ。二日目の朝、ニメにハナちゃんのことを訊いても、知らなかったのはそういうわけだったのだ。
「保安局の人員になった以上、わたしは悪鬼対策課の課長として、ハナも詳しく知ることにした。上から伝えられたのは、ハナの悪鬼化がリュウのサディの、ちょうど間の日にあるということと、彼女にも戦う力があるということだった」
「嘘、でしょ……?」
「残念ながら、これが事実であり真実だ。偶然に、偶然が重なり、さらにまた偶然が重なったのだ。事実は小説より奇なり、とはまさにこのことだ。しかもお前たちは、作品のキャラクターなのだから、二重の意味で奇なるものだな」
偶然に、偶然が重なる。いくつもの偶然が重なって、今のこの状況が生まれた。
僕たちは、偶然という名の運命に流され、こうなってしまった。
――そうなって、しまったんだ。
「ハナの悪鬼化と戦う力が分かったわたしは、ハナを悪鬼対策課に引き入れた。リュウが失踪したのはやや想定外だったが、あとはお前たちのたどってきた過去の通りだ」
「…………」
課長によって、これまでたどってきた過去の、その真実が明らかになる。
「……これが、真実……」
ニメのその呟きには、様々な感情と思いが混ざっているような気がした。
これが、僕たちの知りたかった過去の真実。
たったこれだけが、僕たちの過去の真相。
その中に、僕たちの日常は存在して。
その中で、僕たちの日常は粉々に破壊された。
「四日前、二体同時に悪鬼が出現したことがあっただろう? あれはな、お前たちに最後のオフを与えてやろうと思って、翌日の悪鬼を前日に持ってきたんだ。わたしが上に進言して、そうしてできたのが、あの日のあのオフだ」
悪鬼が二体同時に出現した日の、真実。そしてオフの日の、真相。
「ジゲンが加わって、四人になるのは分かっていたからな。二体にしても問題はないだろうと思い、事実、それは上手くいった。あの日のオフは、自分たちで作り出したものだ」
「……それにも……真相があった、のね……」
全ての出来事に、僕たちの知らなかった真相が――存在した。
「ここまでが、お前たちの身の回りで起きたことの真実だ。……そしてここからは、お前たちの存在に関わる、この世界の真実についての話だ」
「この世界の、真実……」
ここまで来て、引き返すわけにはいかない。僕たちは、知らなくてはならない。
たとえ知ったところで、何もできなくても。たとえ知ったとして、消えて忘れてしまうとしても。たとえ知っても、意味がないことだとしても。
リュウとハナちゃんとサディのために、そして僕たち自身のために。
この世界の真相を――僕たちは知らなくてはならない。




