第四章 15 さようならデス
「……ジゲン。ニメを、どうかよろしくお願いするデス」
サディは『メニュー画面』を出現させて、それを右手で操作する。
「……待って!」
サディの左手に、鋭い刃の短刀が現れる。
「サディ!」「……だめ」
僕とニメの言葉も聞かず、サディはその短刀を首筋に当てる。
「サディ!!」「だめッ!」
――そして。
「さようならデス」
――サディは勢いよく首を斬り、そして続くようにそのまま短刀を心臓に突き刺した。
サディの首と心臓から、黒いモヤが溢れ出す。
サディが、その場に崩れ落ちる。
「……あ……ぁ」「……やだ……や、だぁ……」
そのままピクリとも、サディは動かなくなり。
そしてサディの体は、粒子となって空気中に消え始める。
「……ぁあ……」「……ぃ……ぃゃぁ……」
サディの体が、サディという存在が、この世界から消えていく。
僕たちの手の届かないところへ、消えていく。
もうその笑顔も、その仕草も、その行動も、その言葉も、感じることはできず。
彼女の全てが、僕たちの前から消えてなくなっていく。
消えて。なくなって。
溶けて。いなくなって。
――僕とニメの前から、サディという存在は、完全に消えてなくなった。
死んだじゃない。肉体的に、死んだんじゃない。
存在から、キャラクターという存在から、何もかも全てが消えていったんだ。
それは肉体的な死よりも、比べものにならないほど悲惨で。
残酷で、無慈悲で、残忍で、無情で。
けれど、誰もそれを知ることはなく。
そうして『消えていく』キャラクターは。
現実の人間の死と同じくらい、痛くて暗いことだと、僕は強く強く――感じた。
「…………な、んで……」
ニメが呆然と呟き、その場にへたり込んでしまう。
僕はそのニメを、女の子の状態のまま後ろから優しく抱きしめた。
「……何で……、……何でよぉ……。どうして……急に、……こんな……こんなことに、なるのよぉ……。……何でぇ……、……どうしてぇ……!」
ニメが涙声で、そのやるせない気持ちを口にする。
僕は何も声を掛けることができず、ただそっとニメを抱きしめることしかできなかった。
「……ああぁぁ……! ……ああぁぁぁ……。………………」
もはや言葉もなくなり、ニメはただただ今の状況に呆然とするしかなかった。
……いつまで、そうしていただろう。
長いこと、ニメを抱きしめていたような、そんな気がする。
「…………はぁ――――――っ」
ニメが長く長く、全てを吐き出すかのように、大きく息を吐いた。
「……ごめん、ジゲン。あたしはもう、大丈夫」
それから立ち直ったかのように、ニメははっきりと僕にそう告げた。
「抱きしめてくれて、ありがと」
「……もう、いいの?」
「ええ」
そう言われ、僕はゆっくりとニメから腕と体を離す。僕の腕から解放されたニメは、そのままくるりと僕の方を向いた。ニメと目が合う。
「ジゲン。やっぱり課長は、何か知っていると思うのよ」
そして、芯の入っているいつもの顔と声で、ニメはそんなことを言ってきた。
「どうして?」
「流れが、完璧すぎるのよ」
「流れ?」
「そう。リュウがいなくなって、ハナが仲間になって、ハナが悪鬼になって、そしてサディも悪鬼になった。その一連の流れが、完璧すぎるのよ。まるで、仕組まれたみたいに」
「……うん」
「こんなの、最初から仕組まれてないと起きるわけないわよ。もしこれが本当に偶然だとしたら、宝くじの一等が当たるレベルよ」
「確かに、そうだけど」
「これだけ人……キャラクターがいるのに、悪鬼になるのはあたしたちの周りの人だけ。これが何も仕組まれてないと思う? 思える?」
「でも、それだけだと理由としてはまだ弱いような……」
ニメの推測はまさにその通りだけど、もう一歩何かが足りない。まだ疑う理由としては、弱い気がする。あともう一歩何かがあれば……。




