第四章 14 サディとニメと僕と
「……作品って、普通でも……忘れ去られていくのデスよ……? それって、悲しいと、不条理だと、おかしいと、思うデスよね……? 私は、そう思うのデスよ……」
「……そう、だね……」
「だから私は……作品に触れる、全ての人たちに言いたいのデス……。面白いと言われる作品、光を浴びた作品の、その下には――無数の普通と言われる、いつ忘れ去られるかも分からない、可哀想な作品たちと、キャラクターたちがいるということを……。……私は、それを言いたいのデス。それを、伝えたいのデスよ……!」
「……うん」
「でも……きっと理解されないデスよね……。そんなの、つまらない作品を生み出す方が悪いんだ、って……。……だから、これは私の独り言デス……」
――叶うなら。
叶うなら、最後にサディの思いが、一人でも多くの人に届きますように。
僕には、そう願うことしかできない。……それしか、できない。
「……ジゲン、ニメ。……私の、悪鬼と戦うためのパワーアップが、ゲームの画面のようだったのは……本当に私が、ゲームのキャラクターだったからなのデスよ……」
「……あぁ」
「すごい、デスよね……。何と最初から、決まっていた……意味があったということなのデス……。画面に表示されている謎の文字が読めたのも、そのゲーム内でその文字が使われているからなのデスよ……。だから私には、その文字が読めたのデス。……そのゲームの、キャラクターだったのデスから……」
これまで謎としてきたところが、徐々に明らかとなっていく。
今まで分からなかった真実が、目の前に突きつけられていくのを、僕は感じた。
サディはそこまで話すと、一度息を大きく吐いた。それから切り替わったかのように、サディはあることを訊いてきた。
「……ジゲン。私のことは、好きデスか?」
彼女の口から出たのは、そんな質問。僕はそれに対し、正直に答えた。
「好き、だよ」
「なら、ニメのことは好きデスか?」
「好きだよ」
「だったら……私とニメ、どちらの方が好きデスか?」
サディが今になって、突然そんなことを尋ねてきた。あまりにも唐突な、問いだった。
いや、違う。今になって、じゃない。今だから、なんだ。
今だから、サディはそれを訊いておきたかったんだ。
「…………」
けれど、僕はその問いに、すぐには答えられなかった。そして僕がすぐに答えなかったのを確認すると、サディは何かを理解したかのように言ってきた。
「……やっぱり、ジゲンはニメのことが好きなんデスね」
「……え?」
「だって、そうデスよね。こんな危機的状況、今際の際なのに、それを言わないということは、やっぱりそういうことなのデス。そうデスよね?」
「……あ」
そう、なのかもしれない。いや、違うかもしれない。でも、サディの言うことが、全て間違っているとも言えない。はっきりと、否定することもできない。
それはつまり、サディよりもニメの方が――。
――僕の中では、大事だということ。
そういうことに、なるのかもしれない。
「……よかったデスね、ニメ。これで、両想いデスよ」
「……えっ?」
今度はニメが、驚きの声を上げる番だった。
「もう! 私が、気づいていないとでも思っていたのデスかー?」
「……ま、まって。まって」
「バレバレなのデスよ、ニメ。……そしてジゲンも、どうして私の合図に気づいてくれなかったのデスか。何度もそれとなく、『ニメはジゲンのことが好きなのデスよー』と合図を送っていたのデスよー?」
「…………。……もし、かして……」
――僕の頭の中に、過去の思い出が、次々とよみがえってくる。
「そうデスよ。ジゲンと初めて出会ったあの日、課室の外でウインクしたのも、そうデス。悪鬼が二体出た日、課室でジゲンに『一人の女として見ちゃうよ』と言われた時に、『ダメ』と言ったのも、そうデス。そして昨日、私の家でニメと愛の語らいをさせたのも、そうデス」
その全ての光景を、言葉を、表情を、僕は覚えている。
あの日、あの時、あの場所で。
サディがそうしていたのは、僕にそれを伝えるため。
「何度もそれとなく伝えていたのに、まったく気づいてくれないのデスから、ジゲンは……」
――ニメが僕のことを好きだと、それを伝えるためだったのだ。
「……なん、だよ……。分かりにくすぎるよ……サディ……」
「でも……こうして、最終的には結果オーライ、デスよ」
そう言うサディの顔は、どこか安心したような、そんな表情をしていて。
僕たちから離れていくような、そんな気がした。
「……サディ!」




