第四章 11 疑問を覚えてしまえば
サディのカレーをご馳走になった、その翌日。
僕はいつものようにニメと朝食を取り、いつものように課室へと足を運んだ。
ニメが課室のドアを開ける。中に入ると、いつものようにサディが先にいた。
「二人とも、おはようデース!」
「おはよー」
「おはよう、サディ」
サディに朝の挨拶をすると、僕とニメは向き直って課長にも挨拶をする。
「課長もおはよー」
「課長、おはよう」
「ん、おはようさん」
いつものように挨拶を済ませると、ソファ姉に腰を下ろす。今日もソファ姉の優しさが身に染みた。いつもありがとう、ソファ姉さん。
ふと課長に目をやると、課長はデスクの左寄りにあるパソコンに視線を向けていた。何か、パソコンに表示されたものに目を通しているようである。
そして数分後。
「すまない、待たせたな」
課長がそう言うとともに、今日のブリーフィングは開始された。
「……あれから一日経ったが、大丈夫かお前たち」
課長が手始めにそんなことを言う。リュウとハナちゃんを失った、僕たちのことを心配してくれているのだろう。
「大丈夫よ。あたしたちは、そんなに弱くないわ」
「そうデス。少し寂しいデスけど、もう平気デスよー」
課長の心配に、ニメとサディはそう答えた。確かに、少し寂しいし悲しいけど、弱音ばかり言ってはいられない。まだ生きる者として、前を見なければ。
「そうか、ならいいんだが。……何か変わったことはなかったか?」
次に課長がそう訊いてきた。ニメが小首を傾げて訊き返す。
「何かって、何よ?」
「いや、本当に何でもいいんだ。小さなことでも何でも」
「……うーん、特にはないわ。何もない」
「わ、私も特にないデス」
「僕も」
「……そうか。だったらいい」
…………。課長はなぜ、そんな質問をしたんだろうか。質問の意図がよく分からない。単純に心配だったから、という可能性もあるけど、それにしても漠然とした質問だった。
まるで何かを探っているような、そんな感じがするような……。
いや、そんなことはないか。純粋に心配してくれただけだろう、たぶん。
それからいつものように話は進み、そして今日のブリーフィングは終わった。
三人で保安局の外に出ると、スマホにメールが届いた。
課長からの悪鬼詳細のメールである。今回の内容は、
『出現日付:六月一日
出現時間予測:11時00分~14時00分
人物予測:3DCG・二十代前半・女
出現ポイント予測:地図 』
と、なっていた。
僕はそれを見て、これまでは何とも思わなかったのに、今になってふと疑問に思った。
「……これって、誰がどうやって予測してるんだろう?」
疑問が呟きとなって、僕の口から出た。
「? ジゲンどうしたの?」
「あ、いやさ、このメールにある時間予測とか人物予測って、誰がどうやって予測しているんだろうって。それをちょっと疑問に思っただけ」
「…………」
ニメは少しの間黙ったあと、それから口を開いた。
「……そんなこと、今まで考えたこともなかったわ。疑問に思ったことすらなかった。それが当たり前だと思ってたし」
当たり前。疑問に思うことすらない。考えたこともない。
スマホを日常的に使っていても、なぜそのスマホがそのように動くのか、考えたこともない。悪鬼に関わる様々な予測も、それとまったく同じで、一回も考えたことすらなかった。
当たり前に、疑問に思うこともせず、そのことを受け取っていたのだ。
「僕も今まではそうだったんだけど、今になってふと疑問に思ったんだ」
リュウとハナちゃんの一件があった今、僕たちは疑問に思う機会が多くなった。
その余波、心の変化によって、その悪鬼の予測も疑問の対象に入ってしまったのだ。
――一度疑問を覚えてしまえば、その不明瞭な部分が途端に恐ろしくなる。
「……この話の続きは、出現ポイントに着いてから改めてしましょう」
「あ、うん」
ニメにそう言われ、僕たちは先に予測された悪鬼出現ポイントに向かうことにした。
変身とパワーアップをそれぞれしたのち、いつものように超人的フリーランで移動。街の光景を頭に入れつつ、一応人物に目を付けながら、僕たちは先ほどの話を再開した。




