第四章 8 失意の帰還
「あれはたぶん……いや、間違いなく、その『とても大事な話』っていうのは……リュウが、サディに告白しようとしていたことだと思う」
「……リュウが、私に……告白を……?」
「実は二日前、ゲームセンターに遊びに行った時に、リュウからその話をされたんだ。サディのことが好きで、告白したいんだけど、なかなかできないって」
「…………」
「でも僕が背中を押したら、決心がついたって。今度二人になったら、告白してみるって言ってたんだ。だから、あのメールの『とても大事な話』は、そのリュウからサディへの告白のことだったと思うんだ。……僕は、そう思ってる」
文字だけでは、もちろん確証はない。
けれど、男として、仲間として、友人として、間違いなくそうだと言える。
「…………ああ、リュウ。……そうだったの、デスか……」
サディは空を見上げ、ぽつりとそう呟く。
「……リュウからの告白は、今、しっかりと、いただいたのデスよ……」
誰に言うでもなく、ただ独り言のようにそう言う。
「……私も、リュウのことが好きデス。だから、返事はもちろん、イエスなのデスよ……」
しかしその言葉は、伝えたい人には絶対に、一生届くことはなく。
その言葉は、世界にむなしく消えてしまう。
「……リュウ。…………リュウ……! …………ッ!!」
静かに涙を流すサディのそばに、今度はニメが近づいていく。
この日僕たちは、二人もの仲間を同時になくした―――。
僕らはハナちゃんと、そしてリュウをなくした。
けれども、たとえどんな事態になったとしても、僕らは悪鬼対策課のメンバーだ。
個人的な感情に、いつまでも囚われすぎてはいけない。
僕たちは悲しみを胸に、保安局へと戻ってきていた。
「…………」
「…………」
移動中、そして保安局に入ってからも、僕たちは何も喋らなかった。
そして課室の前までたどり着き、やはりニメは無言のまま、そのドアを開ける。
三人とも無言の状態で、課室の中に入った。
「おかえり諸君! ……ん? どうした、そんな顔をして」
レイコ課長はすぐに、僕たちの様子がおかしいことに気がついた。
「何か、わけありのようだな。……よし、まずはソファーに座れ」
課長の指示で、僕とニメとサディはひとまずソファーに腰を下ろすことにした。
今は変身もパワーアップ解いた、普通の状態である。
「……何があった?」
課長の問いにどう切り出していいか分からず、しばらくは沈黙したままだった。
けれど、やがて班長であるニメが、ゆっくりと口を開いた。
「……ハナが悪鬼になって、あたしたちはハナを倒しました」
「…………」
「それからリュウのことも、大体分かりました。昨日の悪鬼が、おそらくリュウです」
ニメはとりあえず、それだけ課長に伝える。
「……そうか。それは、大変だったな。……すまなかった」
僕たちの心情を察したのか、課長が謝るようにそう言う。僕は課長に言った。
「課長。これまでのことで、気づいたことがいくつかあります」
「何だ?」
そういえば、いつもの砕けた口調を忘れていたけど、課長は特にそれを指摘することもなかった。たぶん今回は特別に許してくれているのだろう。
僕はこれまでのことで気づいたことを、ニメに変わって課長に話し始めた。
「まず、悪鬼になることと、記憶についての関係です」
「ふむ」
「悪鬼になってしまう人たちには、共通してその前に記憶が戻るということが分かりました。その記憶というのは、自分の過去に関することです。僕たちが忘れて思い出せない、自分の過去を思い出した人は、悪鬼になってしまうことが分かりました」
「なるほど」
「この関係は、ハナちゃんともう一人による人物で、はっきりと確認しています。そしてリュウも、急な行方不明とあの記憶が戻ったというメールのことから、おそらくそれに当てはまり、最終的に悪鬼になってしまったと思います。ニメも言った通り、昨日の悪鬼がリュウだったのではないでしょうか」
「……そうか。もうリュウはいない、と」
「はい……。それから、悪鬼が僕たちに襲い掛かってくるのは、悪鬼自身が抱える苦しみや憎しみをぶつけたいからだ、ということも分かりました。これは、悪鬼になってしまったハナちゃんが、そうだと語っていました」
「……ふむ」
「そして最後に……この世界にいる人は全て、『キャラクター』だともハナちゃんは言っていました。僕たち全員は、誰からも忘れ去られた、可哀想な作品のキャラクターたちだと」
僕はこれまで分かったことの、その全てを話し終える。




