第四章 6 そんな人ではないと
「こないなら、ハナから行くからね!」
ハナちゃんはいきなりそう告げると、攻撃の人形であるアリスとセリカを、僕たちの方へと向かわせてきた。狙いは僕と、そしてサディだった。
二本の剣を携えたアリスが、僕の眼前に接近してくる。アリスの二対の剣によって繰り出される連撃を、僕は自分の剣を使って何とか防いだ。
「……くッ!」
しかし、何とか防いだものの、まったく反撃のチャンスがない。
人形という、小さな体を活かした素早い連撃と、体力の概念というもののなさ、そして空中を自由に飛び回れるという機動性。それらの、人形にしか持ち得ないもののせいで、まったくと言っていいほど反撃を差し込める機会がなかった。
僕は攻撃の合間を縫って、ちらりとサディを見る。
サディは、しっかりともう一つの人形であるセリカと対峙していた。
心の優しいサディは、ハナちゃんに対抗することをためらってしまうかもしれないと、少し不安だったけれど、とりあえずそんなことはなくて良かった。
……あとは――。
「ニメ! やれ!」
僕はニメにそう叫ぶ。ニメは未だ何もせず、ただその場に立っているだけだった。
人形アリスの攻撃を防ぎ、回避ながら、僕はさらに叫ぶ。
「ニメ! ハナちゃんをやれるのは、ニメしかいない!」
「…………」
「ニメの爆炎なら、ハナちゃんの盾も防ぐことができない! ハナちゃんをやるには、ニメのピンポイント攻撃しかないんだ! ニメ!」
ニメの爆炎なら、ハナちゃんに直接攻撃することができる。いくら鉄壁の二枚の人形盾があろうと、その内側に直接攻撃されれば、どうやっても防ぐことはできない。
加えてハナちゃんは、ドールズ・ウォー中には動けない。人形操作中には動けないのだ。おそらくそれは、人形操作に全神経を傾けているからなのだろう。
ハナちゃんを倒すには、ニメの爆炎しか方法はない。
「ニメ! ニメやるんだ! ニ――」
「分かってるわよッ!! 分かってるってのッ!!」
「……ニ、メ……?」
「もうちょっとあたしにも……気持ちの整理をさせてよッ……! あたしは、そんなに冷酷じゃないし……無感情でも無機質でもないのッ……!」
………………。
……いつも、誰よりも、飄々としているニメが。
――実は一番の、同情とためらいを持っていることを、僕は知らなかった。
そんな人ではないと、勝手なイメージを持っていた。
「…………ニメ……」
掛けるべき言葉が、見つからない。
何と声を掛ければよいのかが、分からない。
「何で……どうして、こんなことにッ……! こんなの……こんなの嘘よッ……! ……でも、あたしがッ……! あたしがやらないとッ……! やらないとッ……!」
その独り言は、気持ちの整理で。
「ごめん、みんなッ……! 班長なのに……あたしは班長なのにッ……! こんなためらいを持って、ごめんねッ……! ごめん、ほんとにごめんッ……!」
自分の気持ちを、ただ正直に漏らす。
「……ッ……! ……つッ……! …………っ! …………ッ!!」
ニメが、気持ちに折り合いをつける。
気持ちを、感情を、整理する。
「………………」
――そして。
「……ごめんなさいッ、ハナッ!!」
ニメが右腕を振るう。
ニメの魔法が発動し。
ニメの爆炎が、ハナちゃんを包み込んだ。
爆裂の轟音が河川敷に響き渡り、大気を震わせる。
そして炎が消えて。
炎の中心にいたハナちゃんは、仰向けにどさりと倒れ込んだ。
ハナちゃんが倒れると同時に、その魔法の糸も消え。
とさっと音を立てて、人形たちも地に落ちた。
「ハナちゃんっ!!」
「ニメ! 大丈夫デスか!?」
僕はハナちゃんのもとへ、サディはニメのもとへ駆け寄る。
小さく震えるニメを、サディが優しく抱きしめた。それを確認すると、向き直って僕はハナちゃんのそばへ。仰向けに倒れるハナちゃんの隣に屈み込んだ。
「ハナちゃん!」




