第四章 2 ざわざわする
ニメがソファーの定位置に戻ると、課長が口を開いた。
「こちらでも、リュウの安否は確認してみる。お前たちも何か、捜索としてやりたいことがあったら、遠慮なく言ってみてくれ。――では、今日のブリーフィングは終了」
課長がいつものように締めくくり、今日のブリーフィングは終了した。
いつものように保安局に外に出ると、課長からメールが届く。
毎度お馴染み悪鬼詳細のメールである。今回の内容は、
『出現日付:五月三十一日
出現時間予測:10時00分~13時00分
人物予測:3DCG・十代未満・女
出現ポイント予測:地図 』
と、なっていた。
仕事の始めは相も変わらず、変身とパワーアップタイム。
ニメとサディが変身とパワーアップをし、僕もいつものようにあの姿へ変身する。
――ソウル・アウト! ―――……。
変身プロセス。変身完了。僕は一時的に女の子になりました。
「……ジゲンの変身って、本当に特殊デスよねー」
僕の変身を見ていたサディが、何の気なしに呟くようにそう言った。
「確かに特殊よね。ただ自分の姿のまま強くなるんじゃなくて、肉体的にもがっつり変身するし。あたしもどうせなら、変身して男になってみたかったわ」
フリフリの魔法少女のような格好をしたニメが、サディのあとに続けてそう言う。
「あー、私も男の人に、一回でいいからなってみたいデース」
「サディはあれよね、めっちゃイケメンになりそう。身長高めのイケメンに」
「ニメは、たぶん小さい美少年になりそうデスよ! お姉さんに人気が出そうデス!」
いつの間にかニメとサディの妄想が花開く。
「ねー、じげんおにーさんおねーさん。おとなってー、いせいになりたいのー?」
ハナちゃんがそんな二人を見て、不思議そうに僕にそう尋ねてくる。
うーん……。
これは非常に困る質問だ。さて、どう答えるべきか……。
「……えーっと、みんな一回くらいは、異性になってみたいんじゃないかな? たぶんみんなそう思ってると思うよ。ハナちゃんも大人になったら分かるかも」
とりあえず、そう答えることにした。
「へー、そうなんだー」
それから僕たち四人は、悪鬼の予測出現ポイントへと向かった。
もちろんハナちゃんは、僕がお姫様抱っこで連れて行く。今日もジェットコースターに勝るとも劣らないスリルで、ハナちゃんは楽しそうにはしゃいでいた。
……しかし。
その悪鬼の予測出現ポイントにたどり着くと、ハナちゃんの様子が少し変わった。
「うー、じげんおにーさんおねーさん……」
「ハナちゃん? どうしたの?」
建物が立ち並ぶ歩道で身を屈め、僕はハナちゃんに目線を合わせる。
「なんかねー、へんなかんじがするのー。むねのなかがー、ざわざわするのー」
「痛いの?」
「ううん。ざわざわへんなかんじがするだけー」
「我慢できそう?」
「うん。これくらいならだいじょうぶー」
「さらに変になったり、痛くなったりしたら言ってね」
「はーい」
それから僕たちは、いつものように街を探索しながら、悪鬼出現の時間を待つ。僕はハナちゃんの動向に気をつけながら、街の把握と人物チェックを行なった。
「……それにしても、今日の人物予測は『3DCG・十代未満・女』デスか。十代未満がターゲットになるなんて、珍しいデスよね」
「そうね。十代未満は、滅多にないわね」
「気づいたのデスけど、この条件ってハナちゃんに当てはまっているのデスよねー。ハナちゃんは3DCGデスし、見た目十代未満デスし、女の子デスから」
「何よサディ、ハナが悪鬼になるかもって言いたいわけ?」
「そ、そんなわけないデスよ! ハナちゃんが、悪鬼になんてなるわけないデース!」
街を歩き回っておよそ二十分後。
ハナちゃんの様子が、またさらにおかしくなった。
「……うー、ざわざわするー。ざわざわするのー」
「大丈夫? つらそうだけど」
「ううん。つらいんじゃないのー、いやなかんじなのー」
そう言って、ハナちゃんが自分の胸に手を当てる。どうやら胸の辺りで、ざわざわが渦巻いているらしい。
「じげんおにーさんおねーさん、てをつないでほしいのー」
「いいよ。もちろん」
僕はハナちゃんと手を繋ぐ。それからまた、悪鬼出現の時間を待つことになったけど、ハナちゃんはそれからずっと胸に片手を当てたままだった。




