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竜の病

「それでは返答を聞かせてもらおうか」

 目の前で翼をパタパタ羽ばたかせながら俺を睨み付けてる《パープルコドラ》。その体は所々が骨のように白くなっている。


 返答を聞かせてもらおうかって……初対面の相手にいきなり「下僕になれ」なんて言われたら考えちゃうでしょ。

 こいつそうとう頭悪いなって。


「えと、ちょっと時間もらっていいっすか?相談を……」

「わかった。許そう」

「どうも」

 俺はスラミーをひっつかみ、パープルコドラに背を向け、小声で話し始める。

 作戦会議だ。

「どうするよ?」

「どうするもなにも、下僕とか意味がわからないよ」

「だよなぁ。でも……」

「でも?」

「あの雌子竜、断ったぐらいじゃ諦めないって顔してるぜ?」

 スラミーと一緒に後ろをチラリと確認する。

 パープルコドラの眼はお宝を目の前にした探検家のような欲望に満ちた光を発していた。

「無理だね」

「無理だろ」

「じゃあ、どうすんだよ?」

「まあ、断る意思を見せつけて無理矢理にでも納得してもらおう」

「適当だな~」

「今までの俺達の戦い方も最初だけ作戦決めて、後は臨機応変に対応するスタイルじゃないか。今回も一緒よ」

「それもそうだな」

 作戦会議終了。

「まだ終わらないのか?」

 ちょうど良いタイミングでパープルコドラが痺れを切らした。


 俺達はパープルコドラの方に向き直り、答えを述べる。

「またせたな。返事はこうだ。俺達はお前の下僕になる気など毛頭ないので、お断りさせていただく」

「ダメだ!」

「じゃあなんで聞いた!?」

「そんなものお約束だろう。要望など最初から決まっている!」

 胸を張ってふんすと鼻息を吹く姿に、俺は呆れるばかりだ。

「最悪だこいつ」

「俺達は下僕なんかに絶対にならないからな」

「ならば、力ずくでも下僕にしてやる!」

 交渉は決裂し、パープルコドラは戦闘意欲のこもった咆哮をあげる。

 やる気に満ちた表情からは、最強の種族、《ドラゴン》としての風格が満ち溢れていた。

 

 しかし、相手のやる気など知っちゃないと俺達は全力で逃げ出していた。

「えーー!?なんで逃げてるんだよ!」

 俺達がさっさと逃げ出していることに驚きを隠せないようすのパープルコドラ。 

 だが、俺達には彼女を構ってやる考えはない。

 ひたすら全力で足を動かすだけだ。

「ちょっとお前ら!待て!待ちやがれーー!!」

 少し遅れてパープルコドラが声を荒げて追いかけてきた。

「追いかけてきたぞスラミー!スピードを上げろ!ギアをMAXだ!」

「おうよ!」

「心臓が止まっても足は動かせ!ランナウェーよりランナウェーだ!」

 自分でも無茶苦茶なこと言っていると思うが、兎に角逃げろと言うことだけ伝わればいい。

 

 俺達の逃げ足は更に上がる。

「は、早いッ!クソッ!」

 パープルコドラが後方から必死に追いかけてくるが、どうやら俺達の方が早い。このまま行けば逃げ切れる。

「逃げ切れると思うなよ!」

 俺の心を読んだかと思ってしまうようなタイミング。

 なにか策があるのかと後ろを確認すると、パープルコドラは口から黒い煙が漏れているのが見えた。

 次の瞬間、パープルコドラの口から黒紫の炎のような球が発射された。

「攻撃が来たぞ!回避ィィ!」

 俺達は互いに反対側へと横っ飛び。攻撃を回避した。

「まだまだ!」

 パープルコドラは諦めぬと次々と口から球を発射する。

「スラミー!どんどん来るぞ!」

「了解!どんどん避けるぞ!」

 俺達はジグザグに走って攻撃を避けようとする。

 パープルコドラの攻撃が単純でこう走るだけで、当たることはなかった。

「ま、待て……待てよ、お前らぁ……」

 攻撃を無駄射ちしまくったせいでパープルコドラの体力も絶え絶え、息が上がっている。

 これなら余裕で逃げ切れる。

 そう思った瞬間、足が軽くなりどこまでも走れる気がした。




「待って……待ってよ……」

 パープルコドラは必死に前に進んでいた。

「やだ……いかないで……」

 それでも彼らには追い付けない。

「ダメ……ダメなんだよ……」

 0から1を出すような気持ちで声を捻り出す。その声色に、最初の高圧的な感じはなく、正真正銘少女のものだった。

 そして、その声に混じる隠しきれない必死さが彼女の心境を現していると手に取るようにわかる。

「やっと……やっと見つけたんだ……あッ」

 吊るしていた糸が切れかのように地面へと落ちるパープルコドラ。頭では動こうとしているのに、体は指先とて思ったように動かない。

「いやだ……アタシ、死にたくない……死にたくない……くぅぅッッ」

 流したくもないのに涙が出てくる。

 でも悔しくて悔しくてやりきれない。

 視界にはすでに二人の姿がないとわかると、血の気が引いて、胸が苦しくなり、不安にやられ胃の中のものをぶちまけそうになる。

 せっかくのチャンス。やっと生き続けることができると思ったのに。

「死にたくない……死にたくない……」

 瞳からは光るが消え、まるで石像のように動かなくなり、呪詛を呟くように生への願いを吐く。

「死にたくない…………死にたく「あ~お嬢ちゃん、大丈夫か?」……?」


 突然聞こえた声。聞き覚えのある声はすぐ隣から聞こえた。

 首だけ動かし横を向くと岩の裏からこちらを覗く人間とスライムがいた。

 アクトとスラミーである。

「なんで……いるの?」

「え、っとね、全力ダッシュしてある程度離れた、大回りして戻って来て隠れてお嬢ちゃんをやり過ごす作戦だったんだけど……。んなことより、お嬢ちゃん。取り敢えず話は聞いてやるから、普通にしてろ。下僕にとか変なキャラ作りとかはなし。いいな?」

 パープルコドラがこの条件を二つ返事で承諾したのは言うまでもない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「リュウコツ病?それがお前の患っている病気の名前か」

「そう。《竜骨病》とは読んで字の如しで、段々と体の表面から骨のように変化していき、最終的には石像のように固まって死んでしまう病気だ。そのせいでオレは群れから追い出されたんだ」

「そうか。……で、なんでまた口調が戻ってんだよ」

「これぐらいは許してくれ。……こだわり、みたいなものだ」

 俺はパープルコドラから事情を聞いて、少し同情の気持ちが生まれた。

 話によるとこいつは、放っておいたら死んでしまう病にかかり、仲間の元から追い出されて、今日まで一人で必死に生き続ける為の方法を探していたそうだ。

 さっきまでガチ泣きしてたから相当辛かったんだろうな。


「んじゃ、なんでそんな話し方してるんだ?」

 スラミーがしれっと聞く。すると、彼女の食い付きが急に変わった。

「よく聞いてくれた!実はオレには夢があるんだ!遥か昔、善悪神の大戦の時に悪神側として多くの敵を闇に葬りさった邪竜、《アジ・ダカーハ》みたいな強いドラゴンになるのがオレの夢なんだ!だからまずは、強く見せるために強そうな口調にしてるんだ!」

 目をキラキラさせながら語るパープルコドラ。

 そして、その夢語りに同じような目をしてスラミーが反応した。

「つまりお前も最強を目指してんだな!オイラもなんだよ!オイラ、史上最強のスライムを目指してんだ!」

「スライムと同じと言うのは癪だけど、同じ志を持ち主に会えたことは喜ばしいことね。お互い頑張りましょ!」

「おうよ!……だけど、スライム甘く見んなよ?」


 このまま2匹に会話をさせ続けるのは退屈なので、さっさと問題を片付けてしまおう。

 そう思った俺は会話を中断させ、パープルコドラに視線を向ける。

「なあ、気になることが幾つかあるんだが、答えてくれるか?」

「答えられることなら」

「わかった。まず一つ目、なんで群れから追い出された?病気なら同じ種族として看病すべきなんじゃないか?」

「……いきなり答えにくいこと聞くなぁ」

 俺の質問に苦虫を噛み潰したような顔をするが、それでもしっかりと返答してくれた。

「まずな、竜骨病ってのは特殊で成熟していない、つまりは子どものドラゴンにしかかからないんだ。普通はね。でも、病気を持つ竜のそばにいると成体のドラゴンでもこの病気が感染するんだ。だから、追い出すんだよ。群れの全滅を防ぐために」

「……治す方法は?」

「とあるドラゴン、《治療竜ヒアリングドラゴン》の力を借りるか、《薬剤師》のジョブを持つ人間に薬を作ってもらうかの二つだ。オレは最初、治療竜を探し回ったけど、あの種類は稀少で全然見つからなかった。人間に遭遇すれば逃げられるか、攻撃されるかで散々。半ば、生きるのを諦めていたんだ。そしたら、君たちを見つけた。《魔物使い》ならオレの言葉も通じるし、もしかしたらって希望が生まれたんだ。けど、ダメだったみたいだね」

 そう言って、大きなタメ息を吐くパープルコドラ。


「な、なあアクト。こいつ、助けてやれねぇかな?」

 スラミーが俺にそう提案してきた。

 同じ夢を持つ者として何とかしてやりたいってことだろうか。しかしだな。

「あのなスラミー。俺は今日会ったばかりの奴の為に無償で時間を割くほど善人じゃないんだよ」

「なっ!」

 スラミーか俺の言葉を聞いて絶句する。

「いやいや、なにを驚く必要があるんだ?俺が困っている人を手当たり次第助けていく物語の主人公みたいな奴じゃないって知ってるだろ?」

「でもここは、助けてやるって言う場面じゃないのか!」

「お前がこいつを助けてあげたいって気持ちは、同じ志を持っている親近感からだろ。いきなり訳のわからないことを言われ、あげくのはてに攻撃してくるような奴って印象しか話してみるまでわからなかったわけだし」

「お前はどうしてそこまであいつを助けてやらないんだよ!」

「それはな……あれだよ」

 そう言って指をさす。

 そこには今にも死にそうな顔で絶望的な笑みを浮かべるパープルコドラがいる。

「いやね、拒否すればするほどああなってくのが見てて面白くて」

「お前鬼畜外道のクズだな!悪魔なのか!?鬼なのか!?」

「俺、人間、《魔物使い》」

「やかましいわ!中身の話だよ!」

「ハッハッハ、さて、仕返しはこれぐらいにしてやるか」

 追いかけ回された鬱憤は十分晴らしたしな。

 さて、頑張って説得してみましょうか。


 俺はパープルコドラの目の前で屈む。

 パープルコドラは、今度はどうやってオレを苦しめるつもりだ?と言いたげな目で俺を見つめる。

 別にもう仕返しする気はない。

「今までのわかったと思うが、俺はお前の下僕にならないし、特にこれと言った関係のないやつを無償で助けたりしない。前の俺だったらわからないが……まあ、色々あってこう言う嫌な性格になったんだ。悪く思うなよ」

「別にいい。もう諦めたよ」

 そう言ってそっぽ向く。

「まあまあ、そう言うなって。提案があるんだ」

「なんだ?死ぬ前にオレの鱗を剥ぎ取って売りたいって?ハッ、お断りだね」

「残念だが違う。これはお前が生き残ることができる提案だ」

「どういうことだ?」

 パープルコドラの反応が変わった。


「さっきの話しの続きだ。俺が性格が悪いのはわかったな?」

「ああ」

「それで俺な、友達が少ないんだ。結構寂しがり屋なのに」

「そうなのか」

「おう。だからよ、お前俺達の仲間にならないか?」

「なんだと?」

「俺は他人を無償で助ける気にはならないが、友達は話は別。全力で助けてやる。悪い話じゃないだろ?」

「ふざけるな!散々拒否して、今度は助けてやるとぬかして、オレをバカにするのも大概にしろよ!」

「でも生きたいんでしょ?」

「ッッ……それは、そうだけど」

「だったら、素直になるって言えばいいんだよ。と言うかなってください。お願いします」

「お前、偉そうになったり、腰低くしたりなんなんだよ!」

「あくまで俺は互いに悪口を言い合える関係を望んでいるんで、そこまで高圧的な態度はよくないと思いました。だから、お願いします」

「うぅ、でもな~……」

「いや俺らスライムと人間だけなんで、君みたいな強いドラゴンがいると助かるんだよ。攻撃の主軸、《エースアタッカー》として!」

「強い……エースアタッカー……し、しかたねぇな!なってやるよ仲間に。その代わり、ちゃんと病気治すの手伝ってよ」

「おっしゃー!!いやー、結構無茶苦茶なこと言ってたと思うけど、仲間になってくれて嬉しいよ」


 俺は今にも踊り出しそうな気分のまま、バックからコインを取り出す。

「んじゃ、さっそく帰って歓迎会だ!」

「よっしゃーー!飯だ!」

「え?病気を治す手掛かりを探すんじゃないの?」

「そんなの明日からだ!」

「そんなのってなによ!」

「ヒャッハーーー!飯だ!」

「あんた、オレのこと早く助けてくれるんじゃなかったの!?オレより食い物なの!?」

「バカヤロウ!病は食事から治すんだよ!」

「無茶苦茶じゃないか!」

 

 コインが消え去ると、3人を飲み込むほどの光が溢れる。

 光が消えると、3人の姿は消えていた。

 無事にゴルドー学院のダンジョン室に彼らは戻ることができた。

 

 


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