ゴルドーⅡ《リベンジ》
俺は売店で装備を整え、再び《ゴルドーⅡ》に潜っていた。
現在の装備は、
・鉄製ナイフ×4
・サバイバルナイフ
・鉄鉈
・鉄板入りグローブ
・リュック
・治療セット
である。
《ゴルドーⅠ》にて一ヶ月間、資源集めに勤しんでいたためお金には余裕があったのが幸いし、装備を充実させることができた。
鉄製ナイフは今まで使っていた、軽くて使いやすい安いナイフ。
サバイバルナイフは鉄製ナイフより重いが、その分丈夫で切れ味がいい。多少乱暴に扱って問題ない点を見ると、鉄製ナイフより扱いやすいかもしれない。
鉄鉈。重いが、攻撃力は抜群。最終兵器。両手でも片手でも使える中くらいサイズの物を購入した。
鉄板入りグローブ。その名の通り、手の甲の部分に鉄板が入っているグローブ。これを着けるだけで防御手段が増えた。
リュック。ポーチなんかより沢山入る。が、少し動きにくい。
治療セット。傷薬から解毒薬まで一通り入っている。持っておいて損無し。
これだけの装備なら前回のようなへまはしないはず。
そんな意気揚々とした思いでいるわけです。
「アクト、あそこ」
早速スラミーがなにかを発見した。
見てみると、2匹の豚の頭をした人型の魔物、《ピッグマン》がいた。
《ピッグマン》
豚と人が混同したような姿をしている魔物。
それなりに知能を有し、個体によっては装備品を身に付けていたり、道具を使ったりする。
腕力もあり、体力もあり、脂肪もありで、かなりタフ。
雑食でなんでも食べる。
基本は血の気が盛んで暴力的だが、たまに平和的な者が存在し、物々交換を申し出でくることがある。
ぶっちゃけると、《ゴブリン》の上位体。
前方にいる2匹のピッグマン。
片方は斧を、もう片方は剣を持っており、2匹とも布の服を着ているのみで他に何かを持っている様子はない。
2匹いるのは少々不安だが、殺れれば自信に繋がる。
「……いくか」
俺は鉄製ナイフを抜き取り、スラミーに戦闘すると知らせる。
「おお、いくのか!で、どうやって倒す?正面からじゃ殺られるぞ?」
「もちろんいつも通り……危なそうな奴からこっそり近付いて各個撃破だ!」
俺達は足音と気配を限界まで抑え、斧を持っているピッグマンの死角になりそうな場所に移動した。
アクト達は2匹のピッグマンの進行方向にある岩場の影に隠れている。
ピッグマンは二人に気付く様子はなく様子が変わることもなく歩いている。
実は、ピッグマンの嗅覚は犬以上で、ある程度の距離にいる生物の存在を認知できるのだ。
では、なぜアクトは気付かれていないのか。
そもそも、魔物の多くは人間よりも何かしらの察知能力が高く、対策もせずに気付かれないことなどあるはずないのだ。
しかし、アクトの存在は全ての感覚(六感)において、人間のような魔物のような、曖昧なものとしか認識されなくなっていた。
それは、彼が《魔物使い》だからとしか説明しようがない。
主な理由としては、魔物使いが魔物に警戒されていたら、心を通うどころのお話ではなくなるからだ。
自分たちに近い存在感のほうが意思疏通しやすいのは、人間と同じなのだ。
その能力をアクトは無意識に活用してステルスし、ピッグマンから感知されないでいた。
微かな人間の臭いも、一ヶ月間一緒にいるスラミーの臭いでよくわからなくなっているのも要因だろう。
二人が息を殺して潜む中、2匹は何事もないように前を通りすぎていく。
瞬間、二人は岩場の影から飛び出す。
音に反応してピッグマン達は後ろを振り向くが時遅し、すでに凶刃が襲い掛かっていた。
スイカでも割るような自然な流れで、斧を持ったピッグマンの頭に鉄鉈を叩くように振り下ろし、その豚頭をV字に分ける。
斧を持ったピッグマンは絶命した。
残りは一匹。この状況、すでに勝敗は決した。
腕力にものを言わす魔物がアクトとスラミーを相手になんとかなるわけないからだ。
仲間を殺され激昂したピッグマンは剣を構える。
そんなピッグマンの背中ではスラミーが這い上がり、首へと到達。そして、水の球となり顔を覆う。
「ごばぁっ!!?」
突然、顔の周りを液体で満たされたピッグマンは驚きのあまり、肺に残っていた酸素の多くを泡として吐き出してしまう。
さらに、液体は意思を持ち、口、鼻、耳などの穴に入っていこうとする。
苦しさと不快感から逃れようとスラミーを引き剥がそうとするが、力任せでは偶然核を掴むぐらいしか逃れる術はなく、スラミー自身、アクトにやられてからはそんなへまはしないように注意しているので、ほぼ脱出不可能となっている。
それでも逃れようともがくピッグマン。だが、そんなことをしていれば当然、アクトに隙を見せるわけである。
アクトは先ほど倒したピッグマンの斧を両手で引きずって近付いていく。
「スラミー、お疲れさん」
全力で斧を持ち上げ自分を軸に一回転し、遠心力を乗せた一撃をピッグマンの体へと叩き込む。
ズブズブと肉を掻き分けて斧は進み、背骨がある辺りで止まった。
ピッグマンは立ったままピクピクと痙攣し、動かない。
スラミーは頭から離れて、アクトの元に戻る。
その瞬間、ピッグマンは口から大量の血液を吹き出して倒れた。
『ピッグマン×2
討伐完了』
「おっしゃっ勝ったー!」
「流石、スラミー。ああいうのが相手なら敵なしじゃねーか!」
「おうよ!これでオイラ、最強スライムの夢へと一歩近付けた感じがするぜ!」
「頼りにしてるぜ、相棒」
「任せろ!止めはアクトが頼りだけどな」
「そっちは俺には任せとけ」
そう言って笑いあうと、アクトが手のひらをスラミーに向ける。スラミーはそこに向かって体当たりをする。
端から見ればスライムに人間が襲われているように思われるかもしれないが、彼らにとってはハイタッチなのである。
「で、こいつらからは何が取れるんだ?」
スラミーが2匹のピッグマンの死体を見て言う。
「そいつらからは、装備品か肉だな。でもまあ、両方とも重いくせに金にならないからな。なにも取ってかねぇよ」
「あちゃー」
「でもまあ、野生の魔物が食べるでしょ」
「そっかならいいや」
二人が話しを終えて別の場所に向かおうとしたその時、上から声が響いた。
「ちょっと、まったぁあああああああああ!!」
少しハスキーな女の子の声。
アクトは顔を上げると、なにかがこちらに向かって滑降してきているのがわかった。
それはゆっくりと減速していき、最終的にはアクトの目の前に止まった。
「え……?ど、ドラゴン?」
紫の鱗で飾られた小さなドラゴン、『パープルコドラ』がアクトの目線に合わせて、浮いている。
ただ、パープルコドラだと言うのに、体の所々が白く変色していた。
その白はまるで骨のような質感だ。
パープルコドラはドラゴン特有の鋭い眼光をアクトに向けながら話し始めた。
「オレはパープルコドラ。誇り高いドラゴンの一匹だ。人間、スライムと一緒にいるところをみるに、お前『魔物使い』だな」
「え?あ、そうですけど……それがなにか?」
その返答がお気に召したようで、パープルコドラは口端を釣り上げて高らかに言った。
「よろしい!ならば、お前をオレの下僕にしてやる!」
「はあ……?」
一人称が『オレ』の雌子竜に、初対面で「下僕にしてやる!」と言われ、流石に固まる以外の反応ができなかった。