仲間ができてバカ騒ぎ
授業が終わるなりアクトはさっさと教室を出ていった。頭の上には、新しく仲間になったスライムが乗っている。
このスライムは史上最強のスライムを目指しており、そのためには魔物使いの力が必要だと思ってアクトの仲間になった。
なお、前日の冒険で仲間となったことスライムにアクトは『スラミー』と名前をつけていた。
廊下を堂々と進む二人。その目的地はダンジョン室だ。
「いいかスラミー。ダンジョンでは魔物と戦って経験値稼ぎつつ、素材とか資源を拾ってくぞ!そうでもしないと生活費が足りない!」
「おう、まかせとけ!バンバン倒して、じゃんじゃん拾いまくってやる!」
「稼げなかったら飯ヌキな」
「なんでぇえええ!!」
一晩共に過ごしただけだと言うのに、この一人と一匹の仲は、互いに本音を言い合えるまでに深まっていた。
「俺はそんなに金持ちじゃねーんだよ!生活していくには少しでも稼いで節約しなきゃならねーんだ。マジで」
「お、おう……」
それこそ、家計簿の寒さを嘆きあうくらい。
アクトとスラミーはダンジョン室に辿り着くや否や、すぐに受付へと向かった。
「こんにちはアクト様。今日も探索に向かわれますか?」
受付の人が変わらない笑顔を見せる。ただでさえ美しい顔がより一層美しく感じられる。
「ああ、昨日と同じで《ゴルドーⅠ》で」
「承りました」
受付の人が頭を下げると金色の短い髪も連られるように揺れる。そして、頭を上げ直すと申請の作業を始めた。
それにしてもこの人、性別はどっちだろう?顔は美しいってだけで、美少年か美少年かは判別がつかない。声も歌手を思わせる美声だが、女声のようで男声のようでわからない。
胸は……平たいな。だから男って言って違ったら逆鱗に触れることになる。
「むむむ……」
「あ、あの~、私を見詰めて何を悩んでるんですか?」
「えっ?あ!いや……」
考え事に集中して見ていたせいで声を掛けられてしまった。
別に悪いこと考えていたわけではないのだが、考え事の中心だった人物に突然声をかけられると、
「べ、べつになんでもないですよ!なんでも!」
こうやって思わず誤魔化してしまう。
「……そうですか。それではこれを」
受付の人は納得がいかないようだが、《緊急帰還コイン》を渡してくれた。
「ありがとうございます!それでは!」
アクトは脱兎の如く、受付から離れて転送の魔法陣に足を踏み入れる。
魔法陣から光が溢れ、アクト、彼の頭の上にいるスラミーを包み込むと一緒になって跡形もなく消えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴルドーⅠ
岩だらけの道に3匹の魔物がいた。
緑色の肌、イボガエルのようなぶつぶつ、みすぼらしい服装、バランスの悪い頭身、気味の悪い顔立ち、などが特徴的で醜悪な見た目をしている奴等こそ《ゴブリン》である。
ゴブリン達は火を囲んでいた。これから食事のようだ。
食べ物の調理中だったこともあり、ゴブリン達は影から迫る襲撃者に気づけなかった。
コツン、と言う音が響き、3匹は一斉に音のした方を向く。しかし、そちらには転がる小石ぐらいしか動くものを確認できなかった。
近くにいた一匹がよく確認しようと小石の方に向かおうとした瞬間
「グガァアアアアアアッ!!」
突然仲間の悲鳴が聞こえた。
反射的に振り返ってみると、仲間の一人が人間──アクトが手にしているナイフで首の付け根を後ろから刺されていた。
さらに、もう一匹の仲間は頭全体を青い液体に覆われており、息ができずにもがいていた。
アクトはゴブリンからナイフを抜き取り、スラミーが拘束しているゴブリンの胸元にナイフを思いっきり振り下ろす。
刺さった瞬間、ゴブリンの体がビクンッと跳ねる。まだ体力があるようで腕を振って抵抗する。
アクトはもう一本のナイフを取りだし、二本のナイフでゴブリンの体をめった刺しにする。
何回か刺した時、ゴブリンは急に動かなくなり、倒れた。
2体目のゴブリンを倒した所でアクトの体に悪寒が走った。
3匹目の存在を忘れていたせいで、気付かぬうちに背後に迫られていたのだ。
それに気付いた時にはゴブリンの爪がアクトを引き裂く直前だった。が、その時、ゴブリンの顔面にスラミーがバネのように飛びかかった。
ゴブリンは『突然溺れる』状態になった為、パニックになり攻撃を止める。
急いでスラミーを引き剥がそうとするが、掴む度に指の間からすり抜けてしまう。弱点である核も移動させて手の届かないようにしている。
アクトはゴブリンがスラミーに集中しているこの隙にナイフを二本構えて、ゴブリンの胸元目掛けて突進した。
深々と刺さるナイフから、皮膚を貫き、骨を断ち、筋肉ではない何かをズブリと刺した感覚が伝わる。すると、ゴブリンは膝から崩落ちて動かなくなった。
アクトとスラミーは見事、初戦闘を勝利でおさめた。
「はぁ……はぁ……。なあなあ、スラミー」
「どうした、アクト?」
「意外と戦闘の手応えみたいなのを感じたんだが」
「実はオイラもだ」
「案外すんなりと魔物を倒せるんだな」
「ああ、オイラもびっくりだ」
「じゃあ、次行っちゃいますか?」
「行っちゃいましょう!」
「「ヒャッハーーー!!」」
二人は奇声を発しながらダンジョンを走り回り、資材回収や魔物討伐を行った。
この日、ダンジョンの醍醐味を知った二人はまるで子どものようにはしゃいでいた。それはそれは、他の探索者が二人を新手の魔物だと勘違いするほどだったと言う。
二人には戦闘狂の素質があるようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴルドーⅡ
とある場所に一匹の魔物がいた。
成熟すると邪竜となる小さなドラゴン『パープルコドラ』。
その名の通り、紫色の美しい鱗に被われている竜なのだが、この個体は違った。所々が白かった。
その白い部分が更に不気味で鱗の質感などなく、まるで骨のような質感をしていた。
小さなドラゴンは幾日も前からここであちこちをさ迷っていた。その表情は疲れきったようで瞳には光が灯ってないようだ。
「死にたくない……死にたくない……」
ぶつぶつと呟きながら今日も彼女はさ迷う。