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ダンジョンにて

 学長室から退室した俺は使用許可をもらった一軒家の特別寮で一休みしていた。

 この家、かなり状態がいい。外装や内装に修理が必要なところはないし、埃を被っている良質な家具が一人暮らしには十分すぎるほどあるのだ。

 贅沢な気がして少しばかり罪悪感。まあ、相棒になる魔物達もここに住むんだから、それでおあいこってことで。


 さて、かなり暇な時間ができたわけだが……取り合えず部屋の掃除をすませるだろ。それでもかなり時間が余るわけで……あ、そうか。もう一個別の《許可》を貰ってたんだったな。

 俺は急いで掃除を終わらせると、簡単な装備を整えた。



 さあ、ダンジョン探索だ!



 ゴルドー学院には敷地内に三つほどのダンジョンが存在している。学院の所有のものとして。


 ダンジョンとは神と神の戦いの後に、世界各地に残留していた悪神の力が中心となってできた迷宮である。 

 ダンジョン内は悪神の力により、魔物達が棲みやすい環境になっており多くの魔物は各地のダンジョンから湧き出ている。

 現在、悪神の力手を消し去る手がないことと魔物が棲むだけに多くの資源が生まれると言うことで、ダンジョンを無くそうと言う動きはない。

 ハイリスク・ハイリターンと言うわけだ。


 ゴルドー学院にあるダンジョンは中々にバランスの良い構成で、下級者、中級者、上級者、それぞれに向けた難易度となっている。外から来た探索者が肩慣らしや仕事で、学院に許可を貰って潜ることもあるほどだ。


 今回、三つのダンジョンの中でも一番簡単とされる『ゴルドーⅠ』に挑む。


 俺は学院内にある『ダンジョン室』に向かう。

 ダンジョン室の使い方は、まず受付に向かい、受付人に行きたいダンジョンを言う。生徒手帳などの身分証明できる物を見せて、ダンジョンの推奨レベルに似合った実力を持っていると判断されたら、移動魔法でダンジョンの出入口に送ってもらえる。こんな感じだ。

 他の使い方としては、簡単な物の売買と学生の小遣い稼ぎとしてクエストの受注などできる。


 今回はただ単に、ダンジョン探索だ。

 早速、手続きを行う。

 受付の人が俺の生徒手帳を見て一瞬顔をしかめたが、すぐに納得した様な表情に変わると、

「アクト=アマギ様ですね。お話は学長様からうかがっております。……どうぞ、いってらっしゃいませ」

 と言って、笑顔で見送ってくれた。

 彼にとっては、仕事として当たり前の対応なのだろうが、俺にとっては感動する出来事だった。


 俺は心の中で、いってきます!と念じて、気合い十分の状態で魔法陣に乗った。



《ゴルドーⅠ 入り口》

 目の前に存在する大きな大きな洞窟の入り口は真っ暗で先が見えない。

「迫力あるなぁ」

 率直な感想が独り言として出てくる。

 

 何時までも動かないわけにはいかない。早速出発だ。

 俺は《ゴルドーⅠ》に足を踏み入れた。




 《ゴルドーⅠ》の内部はよくある洞窟型ダンジョンで、少し視界が悪い以外の難はない。とても初心者にやさしい。

 

 今回の目標としては、戦いになれることと、魔物を1匹仲間にするといったところだ。

 できるかどうかはわからないけど、やるだけやってみよう。高望みするだけならタダだからね。


 現在の装備は、

・鉄製ナイフ×2

・布グローブ

・道具ポーチ(小)

・傷薬

・緊急帰還コイン

 以上である。

 全て学院からタダで支給された物。正に超貧乏ラインナップである。

 ダンジョンに慣れた者が見たら、ダンジョン舐めてるのか!と怒られそうである。

 しかし、ここは超初心者向けダンジョン。大丈夫。……たぶんね。


 お金になりそうな物を少しずつ拾いながらゆっくり進んでいると、近くの岩の影で何かが動いた。

「ッ!?」

 ビックリした俺は反射的にナイフを構えた。

 なにかあったら武器を構えて様子をうかがう。探索の基本だ。

 

 動いたものが何なのか確かめるためにそろりそろりと足を運んで岩の裏側に移動しようとする。

 気のせいならそれが一番だ。そんなことを思った次の瞬間、岩の影から俺に向かってそいつは飛んできた。

 思った以上に速い!

 

「うわぁあああああああああッ!!?」


 べちゃり、ヌメリ、ヒヤリ、三つの感覚が俺の体を刺激してきた。

 不意打ちで気持ち悪い感覚を味わされ、飛んできたものに凄まじい嫌悪感が生まれる。

 それ以上に暗い場所でのこれは、肝試しの蒟蒻ばりの効果があり、俺は驚きのあまりヒビって情けない叫び声をあげてしまった。

 

 気持ち悪い気持ち悪い!なんだよこれ!?

 俺は体に引っ付いている異物を引き剥がそうと転がって暴れるが、中々に落ちてくれそうにない。

 思いきって掴んでみても、そいつは水のように指の隙間から脱け出してしまう。

 俺の抵抗策は全く歯が立たなかった。


 しかし、なにもできないのはこいつも同じのようで、暴れる俺に引っ付いているのが精一杯なのか攻撃をしてこない。

 まあ、精神的にはかなりダメージを受けているが……。

 ともかく、この勝負、先に諦めたほうが負ける。


 俺は自分の体に引っ付いている訳のわからない生物との格闘を暫く続けた。

 体力は限界に近付き、動きにもキレがなくなってきた。

 このままでは負ける。そう思った時、好機が訪れた。


 俺は最後の力を振り絞り、もう一度奴を掴みにかかる。

 

*ニュルン*


 今までと同じで指の隙間から液体が逃げる感触。 

 ダメか!……ん?

 握り締めた手の中にビー玉のような物があるのを感じる。

 なんとなく力を込めてみると、

「みぎゃあ!」

 何者かの声が聞こえ、体に引っ付いていた物が嘘のように地面へと落ちた。


「な、なんだ?」

 体から落ちてきた物を確認しようと視線を移すと、そこには元気のない様子でピクピクと痙攣のような動きをしているゲル状の青い生物。

「こいつは、『スライム』じゃないか」


 スライム。この世界の魔物中で無害な位置付けをされている魔物。

 雑食で主食は生物の分泌液や汚れなど。

 大きな被害としては服やテントなど繊維品を溶かされるあたりだ。

 かなりの雑魚で初心者探索者にとっては絶好の戦闘練習相手だ。


 しかし、このスライム。スライムの割りに中々いい動きをしていた。あれはそこら辺にいるスライムの動きじゃない。

 決して、自分が苦戦していて面子を守る為に言っているとかじゃないからな。


「た、助けて……誰か……」

 スライムが喋った。

 別に驚きはしない。一般人なら驚くだろうが、俺は魔物使いだ。魔物の言葉ぐらい理解できて当然。そう考えている。実際はどうなのか知らん。


 このスライムどうしたものか。

 俺に襲いかかったのは許せんがここまで弱っている姿をみると止めを刺しにくい。声を聞いてしまったから尚更だ。


「し、死にたく……ない……」

 うん、殺せないね。ダメだねこりゃ。


「おい、死にかけスライム。大丈夫なら大丈夫って言え」

 俺はスライムに突っついて声をかける。

「え?……ニ、ニンゲン……どうして……?」

「いや死にたくないんだろ?助けてやるからどうすればいいか言え」

「助けて、くれるのか?……オイラ、魔物なのに。と言うか、なんで言葉が」

「はよ言え帰るぞ?」

「わかった!わかったから!言うから!あんたが持ってるオイラの核、それを戻してくれれば大丈夫になる……」

「核?もしかしてこれのことか?」

 手を広げて、握っていたビー玉の様なものを見せる。

「そう!それ!は、はやく返して!」

「お、おう」

 俺は核をスライムの中に押し込んでやる。


「・・・どうだ?」

「・・・馴染むまで待ってて。そうだ、それまでの間、話でもしようよ。なんでオイラの言葉がわかるんだい?」

「ああ、それはな……」


10分経過


「いや~、いきなり襲いかかって悪かったよ」

 元気を取り戻したスライムはぷるぷると震えながら声を発する。

 表情は無いが声から感情が読み取れる。

「気にするなよ。お前は魔物として当たり前のことをしたまでだ」

「そう言ってくれるとありがたいね。しっかし、君が魔物使いだなんて思いもしなかったよ!」

 スライムは急に活気に満ちた声をあげる。声の感じからそうとう興奮しているようだ。


 スライムが元気になるまでの10分間、俺はスライムに自分のことを話していた。

 その中でも俺が魔物使いのジョブを持っていることに関して、スライムは強い興味を示していた。


「そこで、ものは相談なんだけど、オイラをお前の仲間にしてくれ!」

「え?本当か?」

 と、言うが。話をしているときにはそんな気はしてた。

 だって俺が魔物使いだって話したときから急に相づち打ってくるんだぜ?今にも死にそうだったのによ。


 スライムは俺の反応をみて手応えを感じたのか話を進めた。

「おう!オイラ、いつか『勇者』も倒せる最強のスライムになるのが夢なんだ!だけど、群れのみんなはそんなのできっこないって言うんだぜ?だからオイラ、一人でここにいたんだ!そしたらそこにあんたが来た!魔物使いのニンゲンが!魔物が強くなるのに魔物使いほど適任な奴はいない!この出会いは絶対運命とかそう言ったやつだよ絶対!だから、だからさあ、オイラをあんたの仲間にしてくれよ!!」

 言いたいことを全部吐き出せたのか、落ち着きを取り戻しつつあるスライムは俺の返答を静かに待っている。 

 当然、俺の返答は決まっている。


「もちろんいいとも。これからよろしく頼む」

「ぉぉお!おうおう!こっちこそ!よろしく頼むぜ!」

 スライムは俺の周りを走り回り、溢れんばかりの喜びを体で表現する。


 最強のスライムになる。そんな夢を抱えた孤独のスライムが俺の最初の仲間になった。






 

 

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