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学長

 俺の名前はアクト=アマギ。父親の影響で探索者になる夢を抱いていた一般男子だ。歳は18。


 夢を叶える為にジョブ関係専門の学校に入りたい一心で、世界でも珍しい《天使》が校内にある学院《ゴルドー学院》に入学することができた。なのだが……学校が授業が始まる初日、ジョブを授かってない者は《天使》がいる洗礼室にてジョブを授からなければならず、俺もその一人だった。

 ジョブの審査を受けて授かったジョブは、まさかまさかの悪神のジョブの一つ《魔物使い》だった。


 俺自身《魔物使い》がどんな特徴があるのかよくわかってないが、過去に悪神のジョブを授かっていた者のほとんどが歴史に名を残す大犯罪者になっているので、悪神のジョブを授かっている者たちは除け者、つまりは《はぐれ者》として扱われるのだ。

 

 こうして俺の学生生活は、誰かと楽しく過ごせたらラッキーだね、ぐらいのものになっちゃったと言うわけだ。 


 初日の授業が全て終わった。この後は学生寮にて説明会が行われるはずなので、学生寮に移動しなければならない。

 早速、向かおうかと思ったその時、緑長髪+眼鏡+ムチムチプリン体が特徴的な歴史の女講師であるシーナ先生に呼び止められた。

「そうそうアクトくん。ちょっといいかしら?」

「はい、なんでしょう?」

 初日に先生から呼び止められるなんて嫌な予感しかしないけど、ここは冷静を装い答える。

「実はね、学長があなたに用があるのよ」

 学長!?まさかの学長からのお呼びだしですか!?


 さすがに学長からの用事となると無感情だった顔も一気にひきつる。ついでに顔も真っ青だろう。血の気が引いてくのがわかるんだ。

 そんな俺の不安一色の心など知らず、シーナ先生は変わらない調子で俺に告げる。

「だから、はやく行って話してきて。くれぐれも粗相のないように、ね?」

 ね?で首を傾げる感じが年下っぽさを漂わせる女講師。そんな人を前に俺は挙動不審の怪しい人みたく、腰を曲げて何度も首を縦に降った。


 まさか悪神のジョブだからって強制退学ってのは……ないよな?あんなに頑張ったのに。

 一番起こってほしくないことと、ここに入学するまでの苦労が頭に浮かび、胸が締め付けられたように痛くなった。

 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ここか」

 校舎の中でも行くのが面倒な場所にある学長室。その扉の前に俺はいる。

 扉は鍵つきの押し引きするタイプのもので、俺の身長の2倍の高さはある。横幅に至っては更に大きい。パッと見た感じメッチャ重そう。

 変な所に学長室があるのは防衛目的?……扉がこんなにデカイのは……まさか、学長はそれほどの大男なのか!?だから学長なのに入学式にいなかったのか!

 勝手な推理を立てながら扉をノックする。


 ガチャリと音がすると大きな扉の片側が開いた。……少しだけ。

「え?」

 俺が通れるぐらいは扉が開く思っていたのに覗きこむ程度だけで、思わず固まってしまう。


「だれかのぉ?」

 開いた扉の少しの隙間から老人の声が聞こえてくる。覇気の感じられない平凡な老人の声だ。

 声のする隙間をよく見てみると、頬骨が浮き出ふほど痩せている老人の顔が隙間から張り付くようにこちらを覗いていた。

 ま、まさかこの老人が学長ですか?


 取り合えず考えるのは一旦やめて、老人の質問に答えることにする。

「はい、俺、じゃなくて私はアクト=アマギと言う者です。学長に呼ばれまして……」

「ああ、ああ、アクトくんか。こんな遠いところにようこそようこそ、入って入って」

 隙間の向こう側で何度も頭を下げる老人。

 メッチャ腰低いな。この人は学長じゃないのか?

 

 老人は扉を開けてくれることもなく部屋の奥に移動したようで扉の小さな隙間が閉まってしまった。

「開けてくれないのか」

 ちょっと落胆しつつ、扉に手を掛けて引く。


「え?」

 びくともしなかった。力一杯引いても動かない。押してもみたが、無理。

 一寸も動く気配のない扉は鍵を掛けられた感じはない。ただ、単純に重い。なんでこんなに重いの?

 

 扉を開けようと四苦八苦していると扉の向こう側から老人の声が聞こえてきた。

「すまんすまん。ここの扉は普通の人には開けられなかったことを忘れとったのぉ。アクトくん、離れとるように」

 老人の言葉通り後ろに下がると、あんなに重かった扉が意図も簡単に細い老人の手によって開かれた。

 呆気をとられている俺に老人は手招きしながらこう言った。

「ここの扉を開けるにはちょっとしたコツを掴む必要があるでのぉ」

「コツで開くですか、この扉」

「覚えたら簡単じゃし、アクトくんならすぐできるようになると思うのぉ。ささ、中でお話しをしようじゃないか、のぉ?」

 孫でも家に入れるような笑顔で陽気そうに言った。

 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「初日から気の毒じゃのぉ。ま、これも必要なことじゃったと諦めるしかないのぉ」

 部屋の中心にある、机を挟んで向かい合うように座れる椅子に腰かけて老人、ゴルドー学院学長 シューゼリン=バッハと話をする俺。


 シューゼリン学長の見た目が、片眼鏡、へそ辺りまである白髭、タレ目と、正に気の弱そうな老人と言うイメージのまんまで、まさか本当に学長だったとは思わなかった。

 人は見かけによらないもんだと思いしったよ。


「で、私はなぜ呼ばれたのでしょうか?」

「それはのぉ。気の毒なアクトくんの為にせめてもの特権をやろうかと思うてのぉ。ほれ、これ」

 シューゼリン学長がポケットから鍵を一つぽいっと投げて机に置く。

 これを俺にくれると言うことだろうか?

「なんですかこれ」

「これは学生寮から離れた場所にある特別寮の鍵でのぉ。アクトくん専用の部屋、というより家じゃのぉ」

「え?一軒家が俺の寮ってことですか!?」

「そう言うことじゃのぉ」

 

 まさか一軒家が俺の住む場所になるとは……。

「なにか裏でもあるんですか?」

 やっぱり疑ってしまう。

「いやなに、アクトくんは魔物使いじゃからのぉ。君の相棒になる魔物達も住むには一部屋じゃ狭かろぉと思うてのぉ」

「あ、そう言うことですか」

 少し拍子抜け。でもいいか。役得だ。

「あとダンジョンの探索許可も出しておくからのぉ」

「え?いいんですか?」


 ゴルドー学院の校則として、どんなに優秀な生徒でも入学から三ヶ月間はダンジョンの探索許可を出してもらえないはず。

 それなのに、学院のトップは特に躊躇する気配も見せず、

「いいんじゃよ。たいていの校則には特別な場合は除く、と端っこに書いてあるからのぉ」

 いいのか、学長がそんなことで……。


「まあ、君の場合はどれだけ学院で体を鍛えても他のジョブの者と違ってあまり強くならんからのぉ。魔物使いが強くなるには多くの魔物を仲間にし、心を通わせるほかないからのぉ」

「学長、やけに詳しいですね」

「そりゃわしはここの学長じゃからのぉ。まあ、頑張りなさい」

「はい、ありがとうございます」

 俺は立ち上がり、腰を折って頭を下げてお礼を述べた。


 さっそく自室を見たくて、学長室からはやく退室しようとすたる。が、扉の前に来たときにあることを思い出す。

「そういえば、この扉が重かったんだったな」

「ああ、ああ、そうじゃったのぉ。約束通りコツを教えるからよく聞くんじゃのぉ。まずは扉の大体腰の辺りの高さに手を置いて、下に向かって扉を押すと、触ってやっとわかる程度の振動がくるから、その後に持ち上げる様に扉を押すと……」

 シューゼリンの腕に押されてゆっくりと扉が開いた。

「ほれ、この通りじゃのぉ」

「なるほど。ありがとうございます。それでは失礼します」

 開けてもらった扉を通り、今度こそ退室しようとする。


「あ、ちょっと待ってくれんかのぉ」

 突然シューゼリンに呼び止められる。

 なにか話忘れでもあるのかと思い、立ち止まって振り替える。

「どうしました?」

「いやなに。気が向いたら何時でもここに来なさい。相談でも世間話でも歓迎するからのぉ」

「……ありがとうございます」

 俺はお礼だけ言ってその場を去った。

 独りぼっちの学生生活ってことにはなりそうにないな。

 俺は学長室の扉の開け方を何度も呟いた。たぶん、またお世話になるだろうから。


 

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