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ねぎざむらい

作者: 5757

― 本日はインタビューのゲストで、時の人として一躍有名になった根元銀次さんにお越しいただきました。根元さん、よろしくお願いします。


― こちらこそよろしくお願いします。夕暮新聞さんにインタビューしていただけるなんて光栄ですね。


― ありがとうございます。早速ですが、質問などに移らせていただきたいなと。


― はい。何でもどうぞ。


― まず、もしかしたらまだ根元さんを知らない方がいらっしゃるかもしれませんので、約一年半前のあの事件のことからお聞きしていきたいと思います。2014年の10月2日の午後6時ごろ、都内某所で包丁を振り回して暴れていた男に偶然出くわしてしまったのが、帰宅の途中だった根元さんでした。犯人のことを最初に見たとき、どう思われましたか?


― そうですね、驚きと困惑が混ざり合った感情というか。そういう気持ちでしたね。現実感がなさ過ぎて、何かの撮影なのかな?とさえ思ってしまいました。


― なるほど。しかしそう思っているうちに、犯人が根元さんの方に寄ってきてしまった。この時、恐怖はありましたか?


― ええ、当然。怖くて、何か身を守れるような物は無いのかと考えていました。


― そこで買い物袋から咄嗟に取り出したのが?


― ネギです。


― はい、ネギです。ネギなんです。なぜか。


― 動揺していたので、逆さに持ってしまって緑色の方を掴んでいました。


― それはいいと思いますが(笑)。 それで、その時の犯人の反応はどのようなものでしたか?


― 立ち止まって、驚いたような表情をしていましたね。ネギを手にしたことに関しては僕が一番驚いていたんですけど。


― その後はどうしたんですか?


― とりあえず、構えましたね。学生のときはしばらくテニスをやっていたので、半分無意識にそんな感じになってました。


― そして、ハッとした犯人は根元さんに斬りつけてきましたね。どう動きました?


― とりあえず一度下がって、振り払った一太刀目を躱しました。ヒヤッとしましたね。ヒュンとした感覚がありました。


― 何がとは聞きません。


― それでそれからすぐに、犯人が振り切った右手を狙って思いっきりラケットを振りました。…あ、いやネギを振りました。


― それから?


― 結構な音と共に、犯人の右手から包丁が弾かれたんです。彼は呆然とした表情を浮かべていましたね。そして、無防備になった顎にネギを振るいました。昔読んだボクシング漫画をちょっと思い出したんですね。


― すると、犯人は膝から崩れ落ちた、と。


― ええ。予想以上にキレイに当たったみたいで。それからは周りで固唾を呑んで見守っていた人たちが犯人を取り押さえてくれました。


― 以上が、事件の顛末になります。ネット上には動画がいくつも上がっているようですね。


― そうみたいですね。自分でも後から見てみて、あんな動きをしていたんだと少しだけ感心しました。


― その後この事件が全国的なニュースとして取り上げられて、それから1か月もしないうちに根元さんには映画のオファーが来たんですよね。


― はい。正直、驚きました。日本ではかなり大きい映画会社の方からお話がしたいという事を伺ったので。ただ、もしかしたらという気持ちは少しだけあったんです。この出来事が小説なんかになることがあるのかな、なんてことは考えていましたから。


― なるほど。想像が形になったわけですね。


― そうですね。ですが、更に驚いたのは僕を主演にという話が出てきた時ですね。最初はあの事件を題材にした映画を作りたいとの話を頂いて、許可が欲しいという事ですぐに許可は出したんです。まさか役者として出てくれないかと言われるとは。


― 話を受けるかどうか、迷いましたか。


― ええ、当然迷いました。正直面白そうですからやってみたかったんですけど、仕事のこともありますしね。でも、家族に話し、上司にも話してみたところ、どちらもやってみればいいって背を押してくれて。


― そうして根元さんが出演されたのが、「ねぎざむらい」。この作品は日本中で空前の大ヒットとなり、興行収入は驚異の150億超えとなりました。数か月前からは翻訳されてアメリカを始めとした海外で上映されています。海外でも根元さんの演技の評価は高いようですね。下世話な話ですが、相当なお金が入ってきたんじゃないですか。使い道は?


― 結構グイグイ聞いてくるんですね(苦笑)。そうですね、とりあえず家のローンを支払うのにあててもらうようにしました。両親には反対されたんですが。


― おや、それはなぜ?


― 両親いわく、お前とその将来のために使えと。その言葉だけで泣きそうになりましたね。僕はなんていい親を持ったのかって。まあ、親に似て僕も頑固なので、育ててもらった恩を少しでも返すことが僕のためだと話して押し通しました。


― もう、それだけでもまた映画ができそうな。親子の絆を描いた愛と感動の物語。私だったら観に行きますね。


― ありがとうございます(笑)。まあ、それと…使ったのは掃除機と炊飯器を買うぐらいですかね。あんまりお金に手は付けてません。


― 私としては高級車だとか家を買ったとかいう話を期待していたんですけどね。


― 買ってないですよ(苦笑)。そんなことしてたらすぐに無くなりますし、僕なんかが俳優を気取ってもな、という気持ちが大きいので。


― 謙虚なんですね。


― いえいえ。分を弁えているです。あとは怖くて使えないという小市民的な考え方もあります。


― なるほど(笑)。でも、引っ越しなんかは考えなかったんですか?マスコミやファンの方が家の前にやって来ては大変でしょう。


― こんなに大きなことになるとは思っていませんでしたし、若干は楽観視していたところもあります。ですが、マスコミの方やファンになってくださった皆さんに声を掛けていただけるのも楽しいんですよ。サインを家族で考えたりとかもしましたし。


― そうなんですか。ああ、そういえばお仕事はどうなさったんですか。


― 今も続けてますよ。上司の方も社長さんも良い人で、映画に関する仕事がある時は休んでいいって言ってくださって。親戚へのサインは確約しましたけど。


― WIN‐WINの関係なわけですか。理解がある職場でよかったですね。


― ええ、本当に。


― それはそうと先日、映画の第2弾製作が発表されましたが。


― はい。正直なところ、もう一度オファーが来るとは予想外でしたね。正気かと。


― (笑)


― まあ、せっかく僕をまた出すことを検討して頂いたんですし、監督さんや映画会社さんの期待に応えるしかないかなって。即座にOKしましたね。


― 次回作に対して何かありますか。


― そうですね。まだ続編になるのか別作品になるのかは分かっていないんですが、一作目に比べて明らかに失速するなんてことがないようなものになればなと思っています。「ねぎざむらい」に負けず劣らず、衝撃的で正気を疑うような尖った作品にしていきたい。そのために、微力ではありますが僕も全力で演技に取り組んでいきたいと思います。

前作を見た方もそうでない方も、ぜひ劇場にネギを持ってお越しください。


― なるほど。良い作品になるといいですね。劇場はネギ臭くなるかもしれませんが。因みに、小道具のネギは今回も模造ネギを使うんですか?


― でしょうね。本物を使ったらもったいないですし、強度もあまり無いですから。


― だって?


― ネギだから。


― 流行語大賞を受賞した「だって、ネギだから。」のワードをいただきました。


― 良いフリでしたね。


― いえいえ、反応して頂いて恐縮です。それではこの辺でインタビューを締めさせていただきたいと思います。本日は大変ありがとうございました。


― こちらこそありがとうございました。


― また何か続報がありましたらその機会に。


― ええ、ぜひよろしくお願いします。



文・刀祢正義





御拝読いただきありがとうございます。

前日の夕飯を買いに行ったときに、買い物袋にネギが入っているのを見て突発的に書こうと思ってしまいました。

なんだこれ意味わかんねえ!と思ったら是非言ってください。私にも分かっていないので(白目)


ネギを振るネタとか加えたかったけど、入れるところが思いつかなかったのがちょっとした後悔。

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