5-6:第二プレイヤー村
「よーし、こっちだー」
「これ組み立てたらひと段落だな、村長」
「いや、ここでも村長なの? こっちの村長は現地の人でいいじゃん」
クィーンキメラの討伐に成功して三ヶ月。
この世界の英雄達が築いた南側唯一の小さな町を、今プレイヤーの手で拡張している。
嬉しい事に教会も機能していて、『帰還』魔法での移動が可能な場所だ。
北側で木を伐採し、プレイヤーのインベントリに入れられるだけいれ、『帰還』魔法でここに戻って来る。
その木材で囲いをまず広げ、さらに家を幾つも建設した。
この作業は100人程度のプレイヤーで行い、他の攻略組はモンスターを生産している奴を探し、それを倒す――という作業を行っている。
ゲームだった頃に『ネームドモンスター』と呼んでいた奴等が、まさにそれだった。
低レベルの北側にいるネームドも処理しなければならないが、それはプレイヤー村に残っている人たちに任せてある。
「おーい、フィンのチームが帰ってきたぞー」
「お、どうだったんだろう?」
クィーンキメラ討伐に参加できなかったのを妬んで、今度は俺がっ、と進んでネームド探しに行ったフィンが帰ってきたらしい。
チームといっても、実際80人規模で行動している。大所帯だ。
理由は簡単。
洗脳されたプレイヤーのPK対策の為だ。
「フィン、おかえり。どうだった?」
「たらーいま。二匹見つけたぜ。どっちも撃退完了と、洗脳されてたプレイヤーの妨害がやっぱりあった」
「そうか。ってか、人数増えてるってことは――」
出発時には80人だったはず。それなのに、どう見ても100人超えてるんじゃ?
にぃっと笑うフィンは、妨害してきた洗脳プレイヤーの救出にも成功したんだぜっとドヤ顔だ。
そして……
この世界に来て離れ離れになった仲間との再会を喜ぶ声が、あちこちから聞こえてくる。
片や洗脳を解かれ、片や洗脳されたまま、南北に分かれてしまったプレイヤー達。
それが少しずつ、混ざり合っていく。
「こっちで変わったことは?」
フィンが留守中の事を尋ねてきた。
変わった事というか、なんというか。ここも洗脳プレイヤーに一度襲撃を受けたことかな。
人数も多かったし、何より壁の拡張最中だったから防御壁も未完成でかなり焦ったよ。
ここで作業にあたってたプレイヤーの人数も少なかったしね。
けど、改めて実感したのは、この世界の英雄達の強さだ。
魔法職はみんな、今まで見た事も無い魔法を使ってるし、魔法が使えない人たちの強さも尋常じゃない。
これが本当の勇者って奴なんだろうな――と。
襲撃者たちは多少怪我をしたものの、全員にコマンドを施して正気を取り戻させる事も出来た。
それもこれも、この世界の人たちに助けられたお陰だ。
町の拡張がほぼ終わる頃には、アズマ社長に連れて行かれたプレイヤーの半数がこちらに戻ってきた。
人数での対比としては、もう逆転している。
幸いなのかどうなのか、洗脳されていたプレイヤーの記憶は、断片的ながら残っていた。
お陰でアズマ社長が潜伏している場所も解ったし、彼の計画が思いのほか上手くいっていないのも解った。
「ゲームを作る知識はあるってのに、なんていうか詰が甘いよなー。知能の低いモンスターしか従えられないんだから」
「ゲームに出てくるモンスターはプログラムで管理できても、実物のモンスターはそうは行かないからなぁ。そこをちゃんと理解出来てなかったんだろ」
完成した分厚い壁の上で、フィンと肩を並べて遠くを見渡す。
遠征先でフィンが見つけた、緑の葉を茂らせた森のある方角を見つめる。
ここから更に南へ一週間ほどの場所にあるらしい。
「お前の保護者がいるっていう森だよな」
「あぁ。ライラさんが教えてくれた位置とも合点するし、あとは行ってみないと解らないけど」
「再開したらさ、やっぱ胸に飛び込むのか?」
「はぁ?」
フィンが悪戯っぽく笑っている。
いくらなんでもこの年齢でそれは恥ずかしいだろう。
「おーい、そこのホモ二人ぃ〜」
「「誰がホモだ!」」
下から掛けられた声に、同時に抗議をする俺達。
声の主はフェンリルだが、彼女の周囲ではひそひそと囁き合う女性達の姿があった。
違う、違うんだってばぁー!
「勘違いされるようなセリフを大声で叫ぶなよっ」
「しょっちゅう二人で黄昏ているではないか。一部の腐女子には人気のカップリングだぞ」
「マジか!? 勘弁してくれー。俺は女子が好きなんだぁ〜」
そう叫びながらフィンがひそひそやっていた女の子達を追いかけていく。
馬鹿だ……。
二人になった俺とフェンリルは、そのまま寝泊りしている家へと向った。
横に長い大きな家で、中は部屋がいくつもある。一部屋に二段ベッドを四つ置き、一軒で200人近くが寝泊りできる。
正直、部屋は広くないが安心して眠れればそれでいい。
8人での共同生活も悪くない。誰かが眠るまでは常に会話が絶えないから賑やかでいい。
そんな暮らしも、もうじき終わるのかもしれない。
家へと到着した俺達は、それぞれの部屋に戻って出発の準備を始める。
迷いの森へと向うための準備だ。
一週間分の食料、水。各種装備に野営用のテントやその他道具一式。
それと、ポーション類。
インベントリにそれらを突っ込み準備を整える。
これからあの二人に会いに行くんだ。
ライラさんに聞いた話だと、エルフの女性ティネーシスさんは元気だが、シグルドさんの方は肉体的には元気とは言えない状況だという。
それを聞いて焦ったが、命にか変わる事ではないからと言われ、少し安心した。
二人に会えたら何と言おう。俺の事、覚えてくれているだろうか。
いやそれ以前に、俺の事が解るだろうか?
確か、1年かそこいらしか一緒に暮らしてないんだし。当時はまだよちよち歩きの子供だった訳だし。
そんな事を思いながら家の外にでると、いつもの仲間達と、他の参加者達が集まっていた。
総勢100人。
何が起こるか解らないからというのもあるが、時空間転移の魔法があるとして、それを学ぶための人数でもある。
「全員集まったら出発しよう」
「大丈夫。村長が一番ビリだったから」
「あれ……えーっと、じゃー」
更なる南へ向けて出発だ!