5-2:森
カゲロウとレスターがそれぞれ、一匹ずつモンスターをおびき寄せる。
大抵モンスターは徒党を組んでいるのが南側の常識だ。
案の定、合計で六匹のモンスターがこちらに向って来る。
「さぁ、こいっ!」
簡潔な『挑発』でヘイトを取る。
すぐさま『ライジング・バースト』で範囲攻撃を繰り出し、ヘイト量を調節。
それを確認したかのように、フィンとミケが最大火力でモンスターへと攻撃を開始した。
通常攻撃を挟みつつ、CTが明けた『挑発』をもう一発入れる。
すると、通常攻撃で応戦していたレスターとカゲロウのスキル攻撃が始まり、アデリシアさんの高火力範囲攻撃が始まった。
フェンリルは何もしてこない。
こういう大群を相手にするとき、彼女は悪ふざけは一切せずMPを節約しつつ支援に徹している。
百花さんも同様に、全員のMP付与を優先にしてくれた。
「追加、呼ぶよ?」
「あぁ。頼むレスター」
続けざまに矢が飛んでいき、再び六匹が向かってきた。
殲滅しきる前にレスターがタイミングを見計らって追加のモンスターを引き寄せ、これを何度も繰り返す。
付与要員の百花さんの判断で吊りを止め、全員のMPが満タンになるまで待つ。
一時間以上もこれを続け、ようやく森の入り口に居たモンスターを殲滅し終えた。
「多かったな……」
「あぁ。皆、少し休もう。俺が見張るから――」
「いや、見張りは私がやろう。一番楽しているのだからな」
そう言ってフェンリルが岩の上にひょいと飛び乗る。
「ヒーラーが楽してるって事は、俺達の腕も上がってるってことだよな。良いことだ」
「自惚れは自滅に繋がるぞぉ」
あー、また嫌な笑みを浮かべやがる。
皆と合流してからっていうもの、また男装癖が出てる気がするんだよなー。
一時は女らしくなったかなと思ってたのに。
十五分ほど休んでから、全員で森へと入っていく。
木の根がうねり、あちこち地面から突き出ていて足場が悪い。
そしてアデリシアさんがこける。
以前はフェンリルが道連れにされていたが、今はレスターがその役をやっていた。
一緒にこけてるのに何故かにやけているレスターが、正直怖い。
「前方、20匹ほど居ます」
カゲロウの緊張した声が聞こえた。
俺の目だともぞもぞ動くモンスターの塊が見えるだけで、数までは把握できない。
獣人で、且つ弓職という事で視力がかなり良いカゲロウならではの索敵能力だ。
盾を構えで前進を続け、敵が射程距離に入る直前で足を止める。
その瞬間に後ろから支援魔法が飛んできた。
スキルの回数を数え、俺が知る限りのスキルが全て飛んできたら盾と剣を打ち鳴らして敵の注意を引きつける。
音に反応したモンスターは当然駆け寄ってくる。
「こい! 化け物どもめ!!」
見た目はまちまちだが、共通しているのは『複数の動物の融合体』のような外見だという事。
「こいつら、全部キメラか?」
「かもな。ってか、キメラってこんな群れるモンスターなのかよ」
魔法生物に分類されるこいつらは、何種類かの動物を合成して作られるモンスター……ってのが王道な設定だ。
小説やゲームにも登場するメジャーな奴だけど、群れるような描写はあんまり見ないな。
「魔法、来るぞ! 『マジック・シールド』」
言いながらフェンリルが盾を構えてミケの前に立つ。
広範囲の強力な魔法だ。
これでミケへのダメージがかなり軽減されるのだ。
「ありがとニャ」
飛び出したミケが魔法攻撃をしかけて来た奴を狙って跳躍。
同じく後ろから物凄い速さで何本もの矢が飛んでいった。
俺も自分の役目をしっかりやらないとな。
「うおおぉぉっ! 『シールドスタン』」
盾を突き出し、先頭のモンスターの懐へと潜りこむ。
そのままバッシュ、ソードダンスと立て続けにスキルを繰り出し、一匹を仕留める。
こいつのコアは……。
「ソーマくん。その子のコアは両羽の付け根です」
「ありがとう、アデリシアさん」
キメラが個体によってコアの位置が違うから、魔力感知で位置を把握できるウィザードは頼もしい。
逆に、ウィザード不在でキメラ種と戦うのは厄介だけどね。
ピクリともしないキメラの背中に急いで剣を突き立てる。
パキッという音が聞こえると、死体は溶ける様にして消え去った。
何度もモンスターと遭遇し、その都度殲滅していく。
どのくらいの時間、森を彷徨っただろうか?
「一度引き返すか? 思ってたほど広いみたいだし。他のパーティーも呼んで、共同殲滅がよくね?」
「フィンの言う通りニャ。そろそろ引き返さないと、陽が暮れてしまうニャし」
「そう……だな。目的の森じゃないってのは確実だけど、ここも殲滅する必要があるし。二、三パーティー、助っ人を頼もう」
そう思ってきた道を引き返そうと踵を返すと、どこからともなく獣達の咆哮が聞こえてきた。
ぞっとするその声は、複数の獣が同時に叫んだような、それでいて一匹の声にも聞える。
何か居る。
進もうとしていた先に、何かが居る。
「どう、する?」
俺は皆を振り返り、引き返すか再び進むか意見を伺った。
「声の主を確認するのは、いいかもしれないね」
「この森のボスなら、倒しゃー良い物落とすかもしれねーな」
レスターとフィンは進む派か。
カゲロウは慎重派だが、引き返すとは言ってない。
女子たちは「任せる」派ばかりだ。
なら……。
「行こう。ただし慎重に、だ。やばいと思ったら、フェンリル――」
「解っている。戦闘中も『帰還』魔法陣を極力維持させておくよ」
「頼む。じゃ……行くぞ」
向きを変え、再び奥へと進みだす。
異様な魔力をひしひしと感じ、この先にやばそうなものが居る事がハッキリと解った。
なのに――だ。
俺の心は、どこか不思議と踊っていた。