4-20:異世界でのレベリング
フェンリルの『帰還』魔法を使って、多くのプレイヤーが中央都市サームへと移動してきた。
目的は――レベルを上げるため。
多くのプレイヤーがレベル45を超えていて、北側だとレベリングの効率が悪くなってきたからっていうのが理由だ。
それ以上に、傍若無人な振る舞いで無理やり異世界に転移させられ、いろいろと苛立っていたプレイヤーは北側で大暴れ。
確実にコアを潰す作業もしていたので、雑魚モンスターが全滅の危機に瀕していたって訳だ。
まぁ、それ自体は良い事なんだが。
「俺らってさ、結構馴染んでるよな、この世界に」
「そうだな。もっとこう――世界の終わりだー、二度と地球に戻れないんだーって……地獄絵図みたいなの想像してたんだけどな」
フィンと二人で肩を並べて立つ。
少し前までは、二度とこんな光景も見れないかもしれない。なんてちょっと思ってたりしたけど。
今ではすっかり、ゲームだった頃以上にお馴染みの光景になっていた。
「そこ二人! 黄昏てないで、構えとけ!」
「はいはい」
「任せろ、ボス」
フィンが返事を返した直後、彼の後頭部に聖書が飛んでくる。
おいおい、大事な本を投げるのかよ。
律儀に拾いに来たフェンリルが、ついでと言わんばかりに防御魔法を掛けていった。
南側へと降りるための、長い坂道の中腹。
初めてサームに来た時には無かった、太い丸太を突き立てて作られた壁が、今背後にある。
数百人のプレイヤーで坂道の下側を守り、数百人のプレイヤーが丸太を抱えて地面に突き立てて作った壁だ。
ログハウスを作るより単純で、呆気なく完成したもんだ。
扉を作るのが面倒だったので、真ん中付近だけ丸太を立てず、そこから出入りする構造にしてある。
モンスターの大群がやってきても、大きなモンスターなら一匹ずつしか通れない幅なので、各個撃破も容易だ。
この壁を破壊しようと、結構な頻度で大群が押し寄せてくる。
――が、これがプレイヤーにとっては絶好のレベル上げチャンスになるっていうね。
崖沿いや丸太の壁の要所要所に遠距離プレイヤー用の足場を作っている。
前衛がモンスターを引きつけ、遠距離プレイヤーが安全な位置から一斉攻撃。
パーティーを組んでいるので、経験値の分配に与れるし、美味いの何の。
「来ましたーっ。二、三〇〇は居ると思います」
「ちょっと多いな。こっちって何パーティーだっけ?」
「えーっと、六人以上のパーティーばっかりだけど、5かな?」
カゲロウの報告を聞いて即座に計算する。
まぁ1パーティー辺り六〇匹倒せば……いや、多いか?
「村長、援軍呼ぶ? 俺のフレがサームに来てるから、人集めして貰おうか?」
「あー、んじゃそうするかな。追加の群が来ないとも限らないし」
「オッケー」
別パーティーのリーダーからの申し出で、援軍要請を出して貰う事に。
これも最近では良く見かける光景だ。
彼が友人とのチャットが終わる頃、目前にはトロルやオーガといった亜人モンスターの群が迫っていた。
「さぁきやがれ、禿げっ!」
トロルの挑発に最も効果的な言葉が『禿げ』だというのを最近知った。
事実、禿げなんだが……モンスターのくせに気にしていたとは意外だなぁ。
隣でもフィンが「はーげはーげは〜っげ」と楽しそうに戦斧を振り回している。
彼は『挑発』スキルを持っていないはずなんだけどな〜。
他のパーティーの前衛とも協力して、壁の出入り口をしっかり固める。
頭上から矢の雨が降り注ぎ、左右からは魔法が飛び交う。
『――、メテオストライク!』
うっひぃ。キタアァァァ。
誰かが放った小さな石礫が、モンスターの群の最後尾付近に降り注ぐ。
これがなかなか、振動やら爆風やら轟音やらでド派手だ。
注意するのはこの後――
「お前らの相手はこっちだろっ!」
「死に損ないどもめ、引導渡してやるよ!」
「禿げ、カス、悔しかったらこっち来なっ」
「皆普通に挑発できないの? もう……糞モンスター、地獄に落ちろやぁ!」
「……女は怖ぇーな……。おいでー、ポチ。こっちだよー、ほらほら」
「わははははははは『バスター・インパクト!』どっかーんっ」
五人の盾が挑発スキルを叫ぶ横で、高火力武器を振り回す前衛アタッカーもいる。
前に出すぎるとフルボッコされるってのになぁ。
まぁ、そんな前衛アタッカーを守るのも盾の仕事なわけで。
『ヘイトアップッ』
一定時間、何もしなくても勝手に周囲のヘイトを集めるスキル。
効果は低いが、先に使った『挑発』の事もあるのでタゲ取りとしては十分だ。
これで『メテオストライク』によってヘイトを取ってしまった魔導師から、ヘイトを奪い返す事も出来る。
これをやっておかなかったら崖沿いにモンスターが集まって、下手したらモンスター同士を踏み台にして崖を登ってしまうからなぁ。
一度それをやられて魔導師軍団が慌てて逃げ出したし。
「おーい、援護に来たよー」
背後から呑気な声が聞こえてきた。
おや、この声はもしかして?
「あれ、モグモグさん。こっちに来てたんですか?」
「うんー。東側のモンスターも、ほぼ殲滅できたからねー。こっちに来たのー」
「モグ。みちる姉はどうした?」
「奥さんはねー、サームでお留守番お願いしてるー。だってレベル低いから、連れて来ちゃマズいでしょ」
後ろからやってきたフェンリルとも言葉を交し、その後モグモグ氏は魔法の詠唱に入った。
魔法使い系は後方――のはずなんだけど……。
『さぁ、出ておいで僕の友達――ベヒモス』
「ベヒモス?」
召喚魔法か?
と思った瞬間、地面が大きくゆれ、モンスターの足元の大地がパックりと割れた。
中から現れたのは、大型のダンプカーほどもある大きな――猪?
いや、形はそれっぽいけど、皮膚は蜥蜴みたいだし……頭や背中にはトゲトゲした針なのか角みたいなのがあるし。
「突撃ぃー!」
っというモグモグ氏の号令に合わせて、ベヒモスとかいうのが暴れだす。
「うぉ、ちょ、揺れる!」
「あははー、すぐ収まるから待ってねー」
そう、直ぐに収まった。
ほんの数秒間暴れただけで、ベヒモスの体はすぅーっと消えていった。
同時に数十匹のモンスターも消えた。
あんなのに踏み潰されたんじゃ、コアも残ってないだろう。
「モグモグ、そんな強力な魔法があるなら――」
「あ、今のMPの半分以上がぶっ飛ぶスキルなんだー。だから一発だけねー」
「っち、役に立たない奴め」
「まぁまぁフェンリル。全部モグモグさんが倒してたら、俺たちに経験値入らないじゃないか」
「そうそう。ソーマくんの言う通りだよー」
にこにこしながらモグモグ氏が後方に下がっていった。
俺たちも頑張ろう。
怪我人は当然でるが、すぐに全回復する。
ほとんど一方的な勝利だ。
「ま、狭い場所での戦闘だしな。南側に完全に下りてしまうとこうはいかない」
「そうだな。だだ広い場所じゃ、俺たちが囲まれる可能性も高くなるし」
けど、いつかは降りなければならない。
地球に戻る『時空間転移』の魔法を知るために。
もしくは、全モンスターを殲滅するために。
その為にも今はレベル上げだ。
「よし。レベル55突破っと」
「経験値三倍うまー!」
「60まではあっという間ニャね。それを超えたら、南に行くニャ」
「はぁー、やっとかー。ボクはもう60なんだけど、一人じゃ流石に南へは降りられないし」
「レスターは最初から廃人だったからな」
レベル60に達しているプレイヤーもいるが、まだ人数は多くない。
出来るだけ、足並みを揃えて南の攻略に乗り出そうという、プレイヤー同士での会議でも話し合った。
攻略に参加するのは一六〇〇人ほど。
ほぼ全員が60になったら、南への進軍を開始する。