4-16:再会
ファーイーストから南西にある村にある小さな教会に到着すると、すぐさま村を出て更に南西へと走った。
村を走りぬける際、村人の会話からさっきの揺れがここでも起きていたことを知る。
残り少ない課金馬を使い、プレイヤーが最初にログインする地点を目指すと――
「っ居た!!」
「なに? フィンたちか?」
「いや、解らない。解らないけど――」
遠くに人影が見える。
それも、相当数の人数だ。
っくそ。
ログインしてたプレイヤー全員召喚しやがったのか!?
人影はゆっくり移動しているのが見える。
っちょ、なんで南に向ってんだ?
そこから北東に行けば村、更に北東ならファーイーストがあるって、プレイヤーなら知ってるよな?
「あぁ、見えた。って、南に歩いて行ってるんじゃ?」
後ろに乗るフェンリルが俺の肩越しに前方を見つめて言う。
なんで南に向っているのか解らない。
解らないが、全員南に移動してるって、なんか不自然じゃね?
「フェンリル、馬にブレス使ってくれ」
「課金馬に効くかどうか……『神よりの祝福を与えよう。ブレシング』ついでに『スピード増加』」
一気に馬の速度が上がった。
課金馬でも、馬は馬という事だな。
ぐんぐん目的地へと近づき、歩く人影の正体もはっきりした。
色とりどりの装備を身に付け、ヒューマン・エルフ・獣人族と多種多様な種族の人たちだと解る。
どの町に行ってもヒューマン以外の種族を目にする事なんて無い。
こっちの世界に来て、その事を理解した。
つまり、あの集団は冒険者だ。
南へと向う集団の中で馬を降り、彼らに声を掛けていく。
なのに誰も応えてくれない。
「フェンリルっ」
「全然見えてないな……肩を掴んでも構わず南に行こうとしてる……意識が無いみたい」
「っ糞。まさかモンスターを一掃させるために、女神が操って皆を南に行かせようとしてるのか」
こんな位置から南に行ったら、モンスターを一掃するどころか崖から落ちて死ぬだろっ。
「操られてるとして、どうやって正気に戻せばいいんだ?」
「魔法でなんとかならないかな……『汚れし気の浄化。リカバリー』」
聖書を片手に凛とした声で彼女が神聖魔法を唱える。
彼女の手が白く輝き、その輝きが狭い範囲に広がった。
状態異常を起こしている人は、プレイヤーであれNPC――この世界の住民であれ、この魔法で正常に戻る……はずなんだが。
「ダメか……状態異常扱いではないらしい」
「っくそ。おいっ、目を覚ませ!」
近くにいたフルプレートを着込んだ男の肩を掴んで揺さぶる。
目は虚ろで、じっと前方を見つめているだけ。
力を入れて揺さぶっても、見ているのは前方の、南だけだ。
あぁ、っくそ!
「そっちはダメなんだってばっ!」
思わず男を突き飛ばしていた。
後ろに倒れこんだ男は、そのままぼぉーっと空を見つめている。
やべぇ、脳震盪でも起したら大変だ。
男を起き上がらせようとしたとき――
「待って! そのまま――」
離れた所から男の声がした。
慌てて駆けつけた男は真っ白な服を着た、水色の長い髪をした中性的な容姿をしていた。
倒れた男に触れ、そして何事かを呟く。
「うっ……」
え?
倒れた男の意識が戻った?
「君たち、正気があるみたいだから手伝ってくれ。チャットを開き『シャープ』『カンマ』『これよりボットを強制排除。ボットで無い者は意識を覚醒せよ』と打ち込んで、エンターを押したら相手に触れるんだ」
「え? ボット……?」
「アルファベットでビー、オー、ティーだ。急げ!」
俺は意味が解らずフェンリルに説明を求めようとしたが、彼女はこの男の指示に素早く反応して既に実行している様子だった。
解らないまま、俺も彼女に習って指示を実行する。
横をゆっくりと歩く男を捕まえ、チャットを開き――っく、片手で男の腕を掴んだままだと文字を打ちにくいな。
なんとか入力し終え、エンターを押すと男が呻いた。
あ、そうか。最初から触ってるから『触れる』動作がいらなかったのか。
なんとなく意識を取り戻したっぽいが、逆に今度は倒れて寝込んでしまった。
「あのっ! 本格的に気を失ったんだが!?」
「それでいい! 暫くすればちゃんと目が覚めるから大丈夫――なハズだ」
「ハズって、おい!」
「ソーマ! とにかく気絶させてでも、今は南に行かせるのを阻止するほうが先だ!」
「あ、あぁ」
見るとフェンリルを杖に持ち替え、移動速度を減少させる範囲魔法をあちこちにばら撒きはじめている。
これで少しでも南への移動時間を稼ごうって訳だな。
しかし……
「何人居るんだよ……俺たち三人だけじゃ無理だろ」
何百、いや、全プレイヤーなら何万と居るはずだ。
チャット開いて文字打って、それだけでも時間が掛かるってのに。
せめて意識を取り戻した奴等が直ぐに目を覚まして手伝ってくれれば……。
初めに倒れた男を振り返ると、そこには――
「カゲロウ……お前もなのかっ!」
のそりとこちらに向って歩いてくるハスキー犬の姿があった。
あの時から一ヶ月も経ってないが、随分懐かしく感じる。
っと、再会を呑気に喜んでいる場合じゃないな。
カゲロウを捕まえチャットを開く――が、誰かにぶつかられ、動いた事でチャットウィンドウが閉じてしまった。
っく。人が増えてきて棒立ち状態も維持しにくくなってきたな。
動けばチャットウィンドウが閉じる仕様が、こんな所で仇になるなんて。
「って、フィンかよっ! おい、待て――あ、カゲロウ動くな。オリベ兄弟、止まれって!」
兄弟仲良く南に向ってんじゃねーよっ。
「っ糞馬鹿双子! 止まれってっ。止まってくれよっ! せっかく再会したのに、何で手間かけさせんだよっ」
右手でカゲロウを、左手でフィンを掴み……チャットが開けなくなってしまった。
フェンリルは――
ダメだ、彼女も手一杯だ。
仕方ない、片方ずつやるか。
まずは……フィン、許せ。
頑丈なほうのフィンに『シールドスタン』を食らわせる。
振り向き様にカゲロウを捕まえ――
あれ?
「おいおい、なんで弓を構えてんだ? ってか、意識がある?」
真っ直ぐ俺に向って矢を番えているカゲロウ。
その目は虚ろだ。
拙い、攻撃されるっ!
咄嗟に盾を構えたところに、今度は左足を捕まれ転倒した。
犯人はフィンだった。
「お前ら、意識あるのかよ!?」
返事は無い。
どうなってんだ?
「だぁー! もうっ。しっかりしろ、二人とも!!」
二人だけに構ってる時間は無いんだぞ!
悪いが、別の意味で気絶しててくれっ!
起き上がったフィンに目掛け、思いっきりパンチを食らわせる。
すると背後のカゲロウが反応して矢を番え、攻撃態勢に入った。
が、フィンの背後に回り込めば躊躇して射ってこない。
そのままフィンを突き飛ばし、カゲロウにぶつける。
うん、意識が戻ったら謝っておこう。
どぅっと倒れた二人を見て、今のうちだとばかりにチャットウィンドウを開く。
「ぁ、痛ぅー……おわっ!? 隆明!!」
「っぐ……重い……どいてよ兄さん」
「え? ちょ、お前ら!?」
「「え? ソーマ!?」」




