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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第4エリア『真実』
82/95

4-15:大型アップデートの日

――地球では




 某月某日。

【Second Earth Synchronize Online】が正式サービスを開始して初となる、大規模アップデートが行われる事になった。

 その告知を受け、ゲーム外ではお祭りムードとなり、ゲーム内では一部プレイヤーが不安を抱いていた。

 だが不安を抱くプレイヤーも、ログアウトすれば『不安』の元凶たる記憶を失い、アップデートに胸を躍らせる事になる。

 再びログインしては記憶が蘇り不安になる。

 その繰り返しだった。


「明日のアップデート……東側地域の開放とレベルキャップの解放だってことだけどさ。それだけで済むと思うか?」


 ファルドナの都を拠点にして活動を続けるフィンが、明日に迫った大型アップデートへの不安を口にする。

 一度はファーイーストに向い、そこからひたすら南に進んだ事があった。

 そこに消えたソーマとフェンリルの手がかりがないかと思ったが、結果は――

 大地そのものが無くなっているだけだった。

 それも人によって見え方が異なり、断崖絶壁の下には暗雲が立ち込め一切の大地が見えず、ある者は海が見え、ある者は奈落が見えたという具合だ。

 ファーイースト方面から南に下ることを断念し、次は大陸中央を目指そうとしたが……。

 ファルドナ国より東は現時点では未実装であった。


「とりあえず、東側に地域拡大されるなら、中央まで行けるといいんニャが」

「ただのアップデートなら行けるかもしれないね」

「レスターは、ただのアップデートじゃないって思うのか?」


 フィンの問いにレスターは首を傾げる。

 確証は無い。

 何も無いかもしれないし、あるかもしれない。

 つまり、解らないのだ。

 それは全員が同じ気持ちだろう。


「もしもの事を考えてさ、ログアウトする前に準備はしておこう」

「準備って、何をすればいいのぉレスター?」

「アイテム整理かな。各種装備やポーション類、レア素材とか、倉庫から出して持ってたほうがいいと思うよ」


 レスターの言葉に首を傾げる一同。


「なんで?」

「なんでってフィン……もしもだよ、もしもアップデート後にログインしたら、そこは異世界でしたってなったら、どうするんだい」

「いやいや、いきなりそれは……な、ないよな?」


 慌てて弟――カゲロウの顔を見る。

 振られた弟も困惑気味だが、少し考えてから――


「無い、とは言い切れないね。うん、準備はしたほうがいい。心の準備は、残念だけど出来ないだろうし」


 ログアウト中は記憶が書き換えられているから――と付け加えた。

 彼らがたまり場としている広場。周囲には見知った顔のプレイヤーも多い。

 話を聞いたのだろう、いそいそとその場を離れ、貸し倉庫へと向うプレイヤーの姿が見える。


「よし……考えたって仕方ないよな。準備はするとして、なぁレスター。なんで持ってなきゃいけないんだ?」

「そうやねぇ。倉庫に入れといたほうがぎょうさん入るのに」

「んー、ボクの仮説なんだけどね、倉庫って完全にゲームならではのシステムじゃない? 異世界にそれがあるとは思えないんだよね」

「あぁっ。だから大事な物は手に持って、異世界に行こうってことねのね」

「う、うん。そうなんだけど。別に好んで行く訳じゃないからね……」


 アデリシアのはしゃぎようをみて、一抹の不安を抱くレスターだった。






 そして翌日。

 無事にアップデートが完了した【Second Earth Synchronize Online】では――


「っふ。何事もなくログインしたぜ。ここはゲーム内か? それともものほんのセカンド・アースか?」

「んー、見たところ、何も変化は無いね」


 オリベ兄弟は町中をぐるっと一周してみたが、町の様子に変わったことは無く、倉庫の存在も確認済みだ。

 次第に増えてくるプレイヤーたち。

 ゲーム内で半日ほどが過ぎると、彼らの仲間達も全員揃った。


「だいぶ接続者も増えてるね」

「インして早々、不安になってログアウトする知り合いもいるんだけどさ、暫くするとまたログインするんだよね」


 なんでも、ログアウトすると記憶が改ざんされるせいで、すぐに遊びたい衝動に駆られログインしてくるのだとか。

 何度か繰り返して、無駄だと解って大人しくログインしたままでいる。そんな所だ。


「ともあれ、なんとなくだけどまだゲーム内だと思うんだ」

「ですねぇ。NPCさんもいつもと変わらないし、倉庫もありますし」

「ってことは、中央を目指すかニャ?」


 だな――とフィンは頷く。

 移動するならと、倉庫に余分な荷物を預けようと話し合っている最中。



『これより、大規模アップデートを行います。プレイヤーの皆様には第二ステージへの移動を開始させていただきますので、その場にてお待ちください』

 ――これより、皆様を真なるセカンド・アースへとお招きいたします。――


 運営スタッフであろう男の声と、以前も聞いた女の声とがほぼ同時に木霊した。

 周囲でざわめきが起こる。

 フィンたちも身構えた。


 大地が揺れ、周囲では次々とプレイヤーたちが光の粒子となって空に舞う。

 見上げたフィンの視界には、空の一点に黒い渦が見えた。

 光は全てその渦へと吸い込まれて行く。


(あの向こうがセカンド・アースかよっ)


 そう思った瞬間、彼もまた光の粒子となって舞い上がった。


(やばい……隆明カゲロウっ)


 咄嗟に弟の名を口にするが、既に声は無く、光り以外の物も目にする事は出来ない。

 不安が過ぎる。

 セカンド・アースに送られたとして、弟と一緒なのだろうか。

 逸れてしまったら、弟は無事でいられるだろうか。

 弟にもしもの事があったら……。


 更に不安を煽るかのような声が響く。


『冒険は楽しかったですか? 次のステージではもっと難易度の高い冒険が待っていますよ。

 っくひひ。

 しかし、君たちは自分の意思で冒険する事は出来ません。

 なぜなら、君たちには私のBOTぼっととして働いて貰うからです。

 魂の入ったBOTなんて、なかなか珍しいでしょ?

 さぁ、私が神たらしめるために――』


 そこで声は途切れた。

 男の声だ。

 若くは無い、だが年寄りでもない。

 威厳があるようにも聞えず、どちらかというと下品な声色だ。


(はぁ? BOTだぁ? ふざけんな! 誰だてめーっ)


 問いかけても返事は無い。

 代わりに、彼の意識は深い闇の中へと落ちていった。


(くそっ。くそっ。隆明、無事でいろよ。ソーマ、フェンリル……隆明を、カゲロウを見つけてくれっ。たの……む)


 そして意識は消えた。

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