4-12:宴会の場で
バグズの数は三十匹ほどだった。
コアを叩けば即死する仕様のお陰で、一人の犠牲者も出す事無く撃退に成功。
「いやー、神聖魔法があると、こんなに戦闘が楽になるもんなんだなー」
「本当だぜ。ねーちゃんがいて助かったよ」
「そんな怖いお面なんか外して、顔を見せてくれよぉ」
「エルフっていやー、男も女も美形揃いって言うからなー」
「だが断るっ」
仁王立ちして全力拒否の姿勢を取るフェンリルに、戦闘に参加した男達が大声で笑った。
「さて、町に戻るか」
サームの町――といっても、この町ひとつが国なわけだが――に戻る間に俺たちは軽く自己紹介をした。
男の名前はロイド。三十路前の見た目通り戦士だ。ゲーム風に言えば狂戦士って所かな。よく見ると、顔には幾つか小さな傷がある。もちろん、古い傷なのでヒールでは治せなさそうだ。
ロイド曰く――
「勲章ってやつさ」
とのこと。
俺もそんなセリフ、言ってみたい。
そのまま俺たちはロイドと、彼の仲間達に連れられ一軒の酒場へとやって来た。
二階は宿になっているので、そのまま部屋も取ることに。
「なんでー、別々の部屋かよ」
「なんでそこで一緒の部屋だと思うのか。俺はそっちのほうが不思議なんですけどね」
「そりゃーおめー。男と女が二人で旅してんだ。そういうことだろ?」
「だだだだだから、どういうことなんだよっ!」
ロイドにからかわれながら鍵を受け取り、一つをフェンリルに渡して酒場へと向う。
フェンリルにも絡もうとするロイドたちを、彼女は一言「うぜーっ」とだけ言ってあしらった。
「おいソーマ。エルフってのは皆あーなのか? もっとこう……神秘的っつーか、お淑やかっつーか……そういうのを想像してたんだが」
「あー……個人差だと思うよ」
まぁ純正ファンタジーのエルフだとそういうイメージだよな。
でもアレは純正エルフじゃないから。うん。
酒場ではちょっとしたお祭り騒ぎだ。
中心にいるのは本人にとって不本意のようだけど、フェンリルその人だ。
「いやー、久々に魔法が使える奴が現れたな」
「そんなに珍しいのか?」
俺の問いに周囲の男達が一斉に頷く。
武器を持って戦うのは、実際誰にでも出来る事なんだと。もちろん、中央都市付近のモンスターと渡り合えるレベルになると、誰にでもという訳にはいかないが。
そして魔法ともなると、それこそ希少な存在だという話だ。
俺も一応、他人限定の治癒魔法を持ってるし、武器に属性を付与した物理攻撃もできる。
それを話すと驚愕した目で見られた。
「おめー……もしかして冒険者か? ファルドナの南のほうに降って湧いてきたっていう」
「降って……って……。まぁ、冒険者ではあるけれども。冒険者の事、知っているのか?」
「噂程度にはな。まぁこっちには冒険者って奴等が来てないから、直接見るのは初めてなんだがよ」
そっか。
まだゲームだった頃だと、このあたりまで来てたプレイヤーは居なかったんだろうな。まぁ、課金馬も利用して四日掛かる距離だ。道中の狩場を無視してサームに直行するようなプレイヤーが居るとも思えない。
せっかくなので、俺たちが地球から来たっていう話は上手く伏せて、冒険者がこつぜんと消えたという話をした。
「仲間を探しにサームへ来たのか」
「探しにっていうか、仲間の下に戻る為の方法を探しに――かな?」
「転移魔法の応用で戻れないだろうかと思って、魔法関連の書物を見せてもらおうととね」
フェンリルと二人で、微妙に濁しながら手がかりが無いか話を持ちかける。
とはいえ、魔法とは縁の無さそうな人たちに聞いても得られる情報があるもんだろうか……。
「魔法かー。使える奴自体が稀だからなー。書物なら大聖堂に行けばあるだろうが、誰にでも見れる品じゃねーぞ」
「許可がいると?」
「いる。金もいる」
「金取るのかよ……」
信仰心を復活させたいがための教団だって話だが、なんだか妖しいなぁ。
「まぁ数日待ってりゃ、南に行ってるパーティーが戻ってくるだろうし、魔法の事なら直接魔導師に聞けばいいだろう」
「魔導師? い、居るのかっ!?」
「稀とは言ったが、居ないとは言ってないだろう。魔導師や神聖魔法の使い手は、みんな南の殲滅部隊に入ってんのさ」
ここの防衛は町の壁でも十分出来る。怪我をしても町中にはちゃんとした医療施設もある。だから魔法を使える者は、より必要とされる南側で戦っているんだとロイドが教えてくれた。
とはいえ、さっきみたいな襲撃は数日に一回はあるらしく、常に戦士が何十人かは町に留まっていないといけないらしい。
「南側と北側じゃ、断崖絶壁で阻まれているんじゃ?」
「お前らファルドナの南側から来たんだったな。あっちじゃ南北で高低差があったからバグズどもも上がってこれなかったんだろうが、ここじゃそうもいかねーのさ」
「南の大地に下りるための、唯一の道があるんだ。町から半日の距離なんだがな。それに、中央付近は他より標高が低くなってるんでね。上昇気流に乗ってバグズが上がってくることもある」
都市国家サームは、元々南側から上がってくるモンスターに対する防衛都市として、数百年前に築いた町だという話だ。
腕に自信のある者や、使命感を持ってここに集まる戦士達。彼らを相手に商売をしようと集まった商人達。そして教団。
これらが集まって、いつしか巨大な都市国家になったと。
「ここが陥落すれば、世界はおしまいさ」
「古い力を持つ連中は、ほとんどここに集まってるからな。魔物どもが他所へ行けば、まともに戦える人間はほぼゼロに等しいんだ」
古い力?
なんの事だろうかと思ったら、まだ信仰心が失われる前の時代には当たり前にあった戦う力の事だった。
古い力を持っている、ここにいる男達や今南で戦っている人たちには共通してあるモノがある。
信仰心だ。
名も無き女神の存在を信じている――というよりは、存在を感じているらしい。
ロイドなんかは、直接見た事は無いが声を聞いた事はあると。
「そりゃー女神っていうぐらいだ、やっぱ女の声だったぜ。落ち着きのある声で、ありゃー意外と若くねーな」
なんて罰当たりな事を口にしている。大丈夫なのか?
でも、俺が聞いた声も、確かに若い女の声っていう印象じゃなかっな。
同一人物なんだろうか。
もしそうだとしたら……女神と話をする機会は得られそうだ。
宴会は終わりそうにない。酒も入ってどんちゃん騒ぎだ。
「酒飲みの相手はすかん!」
そう言ってフェンリルは早々に部屋へと引き上げてしまっている。
彼女が居なくなると、おれは根掘り葉掘りと彼女との関係を聞かれることに。
何も無い。ただの旅の仲間だ。
そう話しても誰一人納得しやがらねー。
ったく、これだからよっぱらいはよー!
そして結局、ある一人が俺の反応を見て――
「つまりてめーの片思いかっ。よし。俺らに任せなっ」
なんて事を言えば、全員が口笛を吹き、歓声を上げて楽しそうに、いや、いやらしそうに笑った。
何を任せろって?
いやもう勘弁してくださいっ。
何もするな。しないでくれーっ!
無理やり俺も酒を飲まされ、酔っぱらいに囲まれたまま翌朝まで酒場の床に転がる事になる。
その間に見る夢は、まるで悪夢のような内容ばかりだった……。
あぁ、現実になりませんように。
完全に不定期更新になってます。
申し訳ないです。




