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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第4エリア『真実』
71/95

4-4:お嫁さん候補が現れた?

次話は3/5予定。

 無事に朝を迎えられた。

『魔法のテント』の効果は絶大だな。確かにモンスターが近寄ってこない。

 月明かりの下、ギリギリ見えるぐらいの距離までは近づいてきていたんだが、それ以上こっちには寄ってこなかった。

 二時間ぐらい様子見ていたけど、一匹も近寄ってこないので安心して寝たんだが……。


「ルイビスに付いたら寝袋を買おう……」


 そう呟きながらテントを片付けた。

 要は、毛布も何も持って来なかったから寒いし、背中が痛いしであまり寝れなかったってこと。


 昨夜残しておいたケバブもどきを早々に食べ、山越えを再開。できれば昼前には、ルイビスは無理でもソドスの村には到着したい。


 さっそく歩き始めたが、こちらもさっそく襲ってきやがった。


『ぐるるるるるっ』


 岩肌だらけの山道で、その岩陰から三羽のウサギが飛び出してくる。

 ウサギのくせに鎌なんて装備して、俺を切り刻もうってのか。


 一羽の鎌を盾で受け止めるのではなく、叩きつけて同時に昏倒させる。

 二羽目は剣で受け止め、引くと同時に左手の盾で殴り飛ばす。『シールドスタン』はCT中で、昏倒は発生しないか。

 三羽目に対しては、引いた剣に力を込めそのまま一閃させ『ヒートバッシュ』をお見舞いする。

 最初の奴が昏倒している間に『ソードダンス』を三羽目の奴に仕掛けて、これで止めを刺す――と同時に残り二羽にもダメージを与えた。


 なんとか三羽全部を倒し終わったが、『ソードダンス』のモーションが長く、流石にダメージも食らってしまった。

 HPは残り七割は残ってるが、歩きながらでも少量ずつ回復するし、ポーションは残しておこう。






 峠を越えると景色は一変する。ルイビス側の斜面になると次第に緑が深まっていき、途中からは完全な森状態だ。

 少し脇の道を進めばヒヒの居た洞窟になるが、もちろんそんなのは無視して前進する。

 登ったり下ったり、また登ったり。

 木々の合間からモンスターの襲撃を受ける事数十回、ようやく麓の村が見えてきたのは昼過ぎだった。


「一度村で休ませて貰おう。飯食わせてもらって、急いで出発すれば夜遅くにはルイビスに到着できるだろ」


 山越えは思っていたより時間が掛かった、前回の山越えは確実にゲーム内だったけど、今回ほど足を取られることは少なかった気がする。

 いろいろと現実的になって、思うように行かない事もあるな。


 山を降り、ソドスの村へと到着した俺は、村人の姿を探して歩き回った。

 村人の姿はすぐに見つかる。ただし、子供だけど……。


「あの、こんにちは。大人の人はいるかな?」


 なるべく優しく、驚かさないように話しかけた。相手は十歳ぐらいの女の子だ。

 なんとなく見覚えがあるのは、襲撃後にでも見たのかな?


 女の子は俺の顔を見てきょとんとしたような表情を浮かべたが、すぐに「あーっ」と叫んだ。

 驚いたのは俺のほうだ。


「村を救ってくれた勇者さまだーっ」

「え、ゆ、勇者?」

「おかーさーん、勇者さまがまた来たよー」


 また……。

 あー、そういえば緊急メンテ明けに村に来たか。その時の事を知っているのかな?

 そう思ったが、女の子が連れて来た女の人に見覚えがあり思い出した。

 あの子、御者のおじさんの娘さんだ。

 前に倒れた時、御者さんの家でお世話になって――帰るときにちらっと見た子か。


「まぁ……えぇっと、ソー……」

「あ、ソーマです」

「そうそう、ソーマさん。どうなさったんですか?」

「あー、実は……」


 メルシュタットから山越えをしてきて、少量の朝飯だけでここまで辿り着いた……という事を話すと、御者の奥さんは笑って手招きをした。


「お腹が空いているんですね。生憎この村には食堂なんてないから、うちにお越しください。もうお昼は終わっちゃいましたが、簡単なものならすぐにお出しできますよ」

「た、助かります! あ、お金はちゃんと払いますから」

「何言ってるんですかっ。ソーマさんたちには村を救って貰った恩だってあるのに、お代なんて頂けませんよ」

「いや、でも……」

「いーからいーから、勇者さま早くーっ」


 女の子に背中を押されながら、俺は見覚えのある家へと案内された。






「御者さんは、お仕事ですか?」

「えぇ。あ、といっても馬車の方じゃなく、畑仕事ですけどね」


 新鮮な採れたて野菜のサラダ、肉がたっぷり入ったシチュー。そしてパン。

 昨日の朝だってロブスさんの奥さんが作った暖かい飯を食ったってのに、一晩寒い思いをした後だとまた格別に美味く感じるな。


 奥さんと娘さんの話だと、夫の御者さんは普段は農夫として村で畑仕事をしているらしい。

 その野菜を運ぶときには荷馬車を引いたり、五日に一度だけルイビスからの定期便馬車の手綱を握っているんだとか。

 要望があれば山越えしてきた旅人や商人を乗せて、ルイビスに行く事も。


「ソーマさんは、これからどちらへ?」

「お泊りするの?  お泊りしていってくれるの?」


 期待の眼差しで見られても……食事が終わればすぐにでもルイビスに行くつもりだ。

 それを話すとあからさまに残念そうな顔をされてしまった。


「勇者さま、お泊りしていけばいいのに……ねぇ、泊まってこうよ、ねぇ」

「こら、タリア。ソーマさんだって忙しいんだから、無理言わないの」

「……っちぇー」


 女の子=タリアちゃんが不貞腐れて家を出て行ってしまった。

 俺、何か悪い事でも言っただろうか?

 奥さんの方に助けを求めるような目を向けると、


「あの子、ソーマさんの事を気に入ったみたいで。その……小さい子って、年上に恋をする事って、あるでしょ?」

「……え?」

「んふふ。だからね、タリアったら、ソーマさんに憧れてるんですよ。村を救ってくれた方ですし。初恋ですわね」

「は、はつこ!? お、俺にですか?」


 奥さんがにこにこ顔で微笑む。

 いや、その……困った……。

 まぁシチュエーション的にはありがちな展開だよな。村を救ってくれた人に恋をするって。

 でもなぁ……相手は十歳ぐらいの子だし、十八歳の俺としては……ロリコンだろ。

 一〇年後ならいけるかも?


 なんて不埒な事を考えていると、奥さんと視線が合って気まずくなる。

 慌てて視線を逸らし、出された果汁ジュースを口に含む。


「ソーマさん、好きな方、いらっしゃるの?」

「え」

「いえね、変なお話なんだけど、勇者さまですもの、ずっと村に居てくださればここも安泰だもの。娘を結婚なんていうのも、いいかなーなんて……」

「っぶ」


 思わずジュースを吐き溢してしまった。

 それを見て、また奥さんが笑い出す。


「んふふふふ。冗談ですよ、冗談。この前の司祭さまなんて、きっとソーマさんの恋人ですわよね? だってほら……ベッドの上で」


 ベッド?

 一瞬考えた。

 そして思い出した。

 地震があって、倒れた俺の上に覆いかぶさっていたフェンリルの姿を。


「襲われてらしたものね〜」


 何故この奥さんは楽しそうなんだっ。

 にこにこと満面の笑みで俺を見つめる奥さんに、俺はあたふたとするばかりだった。






 フェンリルに襲われていたのは誤解だと話し、それでもにこにこ微笑む奥さんからは「片思いなんですねー」などとロブス夫妻と同じ突っ込みをされてしまった。

 違うっ。

 っと断言できない辺りが恥ずかしい。

 あー、うん。もう片思いなんだろうな。

 そう思ってフェンリルの顔を想像すると、決まって鬼の面が出てくる。

 途端に恋心が冷めてしまうのは言うまでも無い。


「おや、ソーマくん。ルイビスまで行かれるって?」

「あ、御者さん」

「娘から聞いて戻ってきたんですよ」

「え……」


 そう言った御者のおじさんの手には、馬を御するための鞭が握られていた。


「送りますよ」

「いや、でも畑仕事が」

「あー、大丈夫ですよ。村のもんでやってる畑ですから、私が抜けても困りませんし。ついでに野菜を運ぶようにも言われたんで、荷馬車ですけど」

「そういう事でしたら。荷物運ぶの手伝いますよ」


 俺と御者のおじさんは揃って家を出た。

 奥さんとタリアちゃんにお礼を言って――。


 荷馬車を畑の傍まで移動させ、木箱に詰まれた野菜を乗せて行く。数はそれほど多くないので直ぐに終わった。


「いやー、力がありますなー。二箱同時に持ち上げるなんざ、たいしたもんだ」


 三箱でも行けそうな気がしたが、バランスが悪そうだったから辞めた。二箱でも感心されたから、三箱いかないでよかったかもしれない。


 荷物を詰み終り、俺も御者台のほうに乗せてもらって出発した。


 目指すはルイビスだ。

 そこにフェンリルが居る事を祈ろう。

 

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