4-3:お掃除
行くべき所は解った。それでも俺は、一度プレイヤー村へと足を運ぶ。
ロブスさんの家から徒歩でも二十分ほどしか掛からない。実際に見て、何が起きたのか確認だけはしたかったから。
村に到着してみたが……
「家はそのまま……放り投げた丸太もそのまま……」
あの時のままじゃねーか。
最後のアモンリアと戦った時の――
辺りをうろついてみるが、人の気配は一切無い。
空きっぱなしの戸からログハウス内に入っては見るが、どのハウスにも人が居ない。
食べかけの夜食がテーブルに放置されたままの家もあった。もちろん、とても食えたような状態じゃない。腐って異臭を放っている。
それから、俺が『飛び込んだ』穴を探してみた。
正確にどこだったか覚えてないが、俺たちの家から近い位置だったのだけは解っている。
辺りをくまなく探してみたが、やっぱりそれらしい穴は何処にも見当たらない。
「何の手がかりも無し――か」
誰かがここを訪れたとき、こんな悲惨な状況だとガッカリするよな。
せめて腐った食べ物だけは処分していこう。
一〇〇軒近くあるログハウスを全部巡り、食べ残しや未使用の食材を家から持ち出し、適当に掘った穴へと投じていく。
穴掘りは生産仕様のままだ。
スコップで一掘りすると三〇センチほどの深さまで掘れる。五分も掘れば十分な広さと深さだ。
一通り終わったら汚れた服を着替え、予め脱いでいた防具を身に付ける。
戸締りもした。
これで、誰かがここに来たとしても……まぁ食べ物はなくなったけど異臭の原因は始末したし、すぐに暮らせるだろう。
次はメルシュタットに移動して、そこから転送オブジェ使ってルイビスから一番近いダンジョンに移動だな。
メルシュタットの町まで一時間もあれば付くか。
奥さんから貰った弁当は、ルイビスで食うかな。
そう思い、一路メルシュタットへ向けて出発した。
「無い……だと」
メルシュタットに着いて早々、中央広場へと向ったが、あるはずのオブジェが無くなっていた。
念のため近くを探してみるが、どこにも無い……。
どうなってんだ……。
「おや、冒険者さんだ。ここ数日忽然と姿を消していたが……あんたら、どこにいっちまってたのさ」
背後から声を掛けられ振り向くと、年配の男性が立っていた。服装からみてNPC――この世界の人だってのが解る。
この人に聞いてみるか。
「あの、ここにあったオブジェがどうなったか知りませんか? こう、塔みたいな形の――」
「塔? あー、あれねぇ。そういえばいつの間にか消えてるな。あんな大きなもの、取り壊していれば気づくんだが」
つまり、突然消えたって事か。
まいったな、お手軽な移動手段がなくなっちまったぞ。
「ところで、お仲間はどうしたんだい? 一人かい? 冒険者さんが居てくれないと、魔物が増えて困っちまうなー」
「いや、困ると言われても……」
困ってるのは俺のほうだ。
未だにここがセカンド・アースなのかゲーム内なのか判断がつかない状況だし。
確率的にはセカンド・アースのほうが濃厚だけど、システムの大部分が存在してるしなぁ。
「あの、戦える人はいるんでしょ? 冒険者だけに任せて無いで、エヌピ――現地の人たちで結束して戦えばいいんじゃ?」
「は? 馬鹿を言わないでくれ。そりゃー職業柄、魔物と戦える人間もいるさ。だけどね、冒険者ほどの力は無いし、君たちのように好んで戦っているものなんて極少数なんだよ」
「好んで……」
「まったく、早く冒険者が戻ってこないかねー」
そういいながら男は俺の前から立ち去っていった。
なんで俺が怒られなきゃならないのか……なんとも理不尽だ。
だが今の会話で解った事がある。
一応、この世界にもモンスター退治の専門職みたいなのがありそうだって事。
そういえば、巾着おじさんも戦闘が出来ていたけど、あの人なんかは職業柄って奴なんだろうな。素材集めるために戦ってるようなものだ。
オブジェが使えないってことは……。
俺は東にそびえる山を見上げた。
あれを徒歩で、しかも一人で超えないといけないのか……。
腹が減っては戦は出来ぬ。
まずは奥さんが作ってくれた弁当を平らげる。
フェンリルを見つけたらもう一度ロブスさんの所に行こう。心配してくれているだろうし、報告しなきゃな。
それから山越えに必要なアイテムを揃えていく。
買ったアイテムはインベントリに入れて――あ、レスターから貰った巾着……何が入ってるか確認してないな。
『蒼天のマント』
真っ蒼な空を模したマント。暖かい。
Def+25 AGI+5 移動速度+15%
『超祝福の珠』*5
仕様すると、三時間の間モンスターを倒して得た経験値が三倍になる。
尚、三時間とはゲーム内時間の事を言う。また、珠の重ね掛けは二個まで可能。
『魔法のランタン』
燃料を必要としないランタン。
『神聖なるテント』
モンスターを寄せ付けない効果を持つテント。一人用。
『騎馬*15
騎乗用の馬。下馬すれば消える消耗品。
『魔法の砂』
どこに居ても時間を確認する事が出来る。
『ロープ』
ただのロープ。
『高級ライフポーション』*50
HPを3500回復する。
『高級スピリチュアポーション』*50
SPを1500回復する。
『リカバリーポーション』*25
状態異常を回復する。
ロープ以下は俺も持ってるヤツだな。でも手持ちが多いに越した事は無い。
目を見張るのは馬だ。騎乗用なんて実装されてなかったよな。課金アイテムって事か。
消耗品ってことは、安易に使わないほうがいいな。山越えをして平地になってから使おう。
ランタンとテントも便利そうだ。ってか、こんなテント持ってるなら、俺らの家に泊まりにくる必要ないじゃねーか。
アデリシアさんの傍に居たかったってことだろうけど……まぁいいや。有り難く使わせて貰おう。
早速巾着からマントを取り出し、ばさっと羽織る。
うん、良い色だ。まさに俺のためのカラーだね。
防御もあるしAGIも増える。今回は徒歩ての移動も多くなりそうだし、移動速度のプラス効果は助かる。
今から町を出て山越えをしようとしたら、ルイビス到着は確実に夜中になるな。
晩飯用に屋台でケバブみたいなのを買ってインベントリに入れ、いざ出発だ。
山の麓まで一時間ちょっと。『魔法の砂』のお陰で時計が無くても現在時刻がわかるのは便利だな。
「昼の三時半か……さて、登りますかね」
ここまでモンスターとの戦闘は数回。やっぱりソロだと格下相手でも時間が掛かる。
けどこれ、装備が伝説だったりレアだったりしてなかったら、もっと時間掛かってるんだろうな。
二人に会えたら感謝しとかないと。
山に登り始めて数時間。
この山道のモンスターはメルシュタット周辺よりもレベルが低くなるから、苦戦する事も無い――と思っていたのに、
「敵はモンスターだけじゃなく、地形かよ」
足元が悪い。
いや、前に通った時だって同じ条件だったはずだ。
なのに今回はやたら足を取られてバランスを崩し、危うく死にそうな目にもあっている。
周囲の状況がよりリアルになった。そんな感じだ。
暗くなり始め『魔法のランタン』を腰にぶら下げて歩いていたが、流石にこの状況で戦うのは不味いと感じ野宿する事に。
周囲を警戒しながらケバブもどきを口に運ぶ。いつ襲われても対応できるように、左手の盾は装備したままだ。
食べながらある不安が心を過ぎる。
「この魔法のテント……本当に役に立つんだろうな……」
モンスターを寄せ付けないという効果が、リアリティさが無いとしたら……ただのテントになっちまう。
とりあえずテント広げて様子見てみるか……。
モンスターが寄って来なくなったら、寝よう。
次話は3/3の予定です。