間話3-3
十六年前、月の裏側で起きた科学実験により発生した時空の歪み。
その歪みの先には別世界があった。
実験の失敗により生じた歪を、日本政府を初め各国が隠蔽したが……。
だが歪の向こう側から送られてきた意思を、一人の少年が受け取っていた。
彼は漫画やゲームをこよなく愛する少年で、時折、現実と妄想の区別が付かなくなるほどの重度の妄想癖の持ち主だった。
だからこそ、異世界から話しかける者がいると大人達に話しても相手にされることはなく、次第に周囲との距離感も開き、孤独な人生を歩む事になった。
それでも少年は異世界の者との会話を続け、そして――
『私のセカンド・アースを蹂躙する魔物どもを一掃したいのです』
「世界を救う……協力します。まかせてくださいっ」
こうして少年は、神と名乗る者と協力して異世界を救うための術を模索した。
数十年後、少年は一つの会社を設立し、オンラインゲーム【Second Earth Synchronize Online】の発表を行った。
某所ビル内の一室。
数人の男女が慌しくキーボードを叩く。彼らの前にあるモニターには、朝日を背にしたプレイヤー達の困惑する姿が映しだされていた。
「急げっ。これ以上落とさせるなっ」
「サーバーの強制ダウン出来ませんっ。あっちとのシンクロ率が高すぎて、今落とせばプレイヤーが取り残される危険が高すぎますっ」
「っ糞。ゲームマスターコマンドを使ってアカウント単位での対応を続けろ」
そう命令する男もキーボードを弾き、モニターに映るプレイヤーから順に強制ログアウトを実行する。
作業そのものは、キャラクターにカーソルを合わせ、強制ログアウト用のコマンドを入力するだけという単調な作業だ。
だが対象プレイヤーの人数は数千人にものぼる。
イベント中にホームシックに掛かったプレイヤーも多く、半数近くが自主的にログアウトしていたとはいえ、それでも数千人はまだ残っていた。
「チーフ、穴に落ちた三人はどうします?」
「あの穴の中まではモニターで追尾できないからな……どうするも何も、どうしようも出来ないだろ」
ゲームマスタールームで作業に追われる数名は、実の所ゲームマスターではない。
このイベント期間中は一部のプログラマーが直接、サーバーの監視を行っていた。
【Second Earth Synchronize Online】の実情を知る彼らだけが、今回の夜勤任務についているのだ。
そしてチーフと呼ばれた男は、額に冷や汗を浮かべながら祈った。
(あの三人がもしあっちに落ちたとして、社長の言う通り記憶の書き換えが行われるのを祈るしかないな)
さもなくば、ゲームプレイ中に起きた失踪事件として世間を騒がせる事にもなる。
実際に失踪することにはなるのだが、この計画を途中で無に帰す事はしたくない。
いちプログラマーとして、いちゲーマーとして。
そして、異世界に憧れる一人の人間として、この計画は成功させたいのだ。
ここにいる数名の男女が皆、同じ想いでいた。
セカンド・アースを救う。
そのための英雄となるのは自分たちだ――と。
だが、そうは思っていない者もいる。
いや、かつてはそう思っていた。
だが月日が経つにつれ、彼の心は醜く変貌してしまったのだ。
その事に気づく者は誰一人として居ない。
かの神さへも……。
間話これにて終了です。
明日はキャラ紹介と4章の1話をUP予定です。
やっと……やっとメインストーリーだぜ。




