間話3-1
「例えこの世界が現実になったとしても、俺は皆となら魔王とだって戦えるぜ」
うわっ。俺もこんなセリフ真顔で言ってみてー。
折角だし、ちょっとからかってやろうかな。
そう、思わなければよかったと後悔している。
フェンちゃんがソーマの手を取った瞬間、二人と、傍にいたアデリシアちゃんが消えてしまった。
三人の足元にぽっかり空いた穴に落ちたんだ。
慌てて駆け寄ったら、ソーマが穴の途中で何かに捕まって落ちるのを耐えていたのが見えた。
フェンちゃんもアデリシアちゃんも、なんとかソーマが助けたみたいだ。
「カゲロウ! ロープ持って来い。早くっ」
「わ、わかったよ」
弟が走っていくのを見た瞬間、頭ん中から女の声が聞こえてきた。
――真なるセカンド・アースへと誘いましょう。そこで貴方がたの望む冒険を堪能し、世界を救うのです。
貴方がたにとってそれは遊戯に等しく、至極楽しいひと時になるはず。
さぁ、セカンド・アースをお救いください――
何言ってんだ?
いや、これって運営のアナウンス……じゃないよな。頭に直接聞えてくるし。
なんなんだ?
だぁー!
そんな事よかソーマたちだ。
「おい――」
――さぁ、貴方も飛び込むのです――
「すぐに引っ張りあげるからな、待ってろ」
――貴方の求める冒険が、その下にあるのですよ――
「っ糞、頭ん中で勝手に喋んなっ」
頭を振って声を振り払ってやる。
「君も頭の声にイラついてるみたいだね」
「あ? レスター、居たのかよ」
「そりゃいるさ。アデリシアを助けるためにね」
なんだよ、ぞっこんラヴか。
ん?
俺だけじゃなく、レスターもあの声が聞こえてるって事?
じゃー、他の皆も……。
ロープを取りに行ったカゲロウを視線で探すと、ぼうっと突っ立ったままの奴を見つけた。
「おう、カゲロウ! 声なんか無視してロープ持って来い! おいっ!」
カゲロウのほうに駆け寄ろうとした時、今度は正真正銘、天の声が聞こえてきた。
『お楽しみの所申し訳ありません。運営チームです。
ただいま外部からの不正アクセスによって接続障害が発生いたしました。
緊急メンテナンスを行わせて頂きますので、強制的に接続を遮断させていただきます。
詳しい状況に付きましては、公式サイトをご確認ください』
は?
なんか一方的じゃねーか。
外部からの不正アクセスって、まさかこの声か?
――早く。早く――
穴に飛び込めって必死になってる、この声か。
なんかいろいろとやばそうだ。穴の中に落ちてる三人を、早いところ引っ張りあげないと。
「おいカゲロウ!」
大声で呼びかけると、弟の奴、情けない顔を向けやがった。
まさか――
「兄さん……強制ログアウトさせられ――」
最後まで言い終えることなく、カゲロウはロープを持った状態で消えてしまった。
弟が消えた後、ロープだけがその場に落ちた。
「ニャー! カウントダウンが始まったニャ。ロ、ロープだけでもっ」
「ミケちゃん、急げ!」
カゲロウが見つけてきたロープを握り締め、俺のほうに駆け出したところでミケちゃんは消えた。
ロープは僅か数メートル移動しただけだ。
「レスター、そこにいろっ」
言ってから俺はロープを取りに走る。
っ糞。カウントダウンが始まりやがった。
間に合え、まにあえーっ!
ここは――
俺のベッドの上か。
あー、くっそ。折角の合宿イベントだったのに。緊急メンテかよ。
公式ページ確認しとくか……。
「兄さん、落とされた?」
「落とされたから起きたんだろ。ってか勝手に部屋ん中入るなよ」
「兄さんだっていっつも俺の部屋にノックもしないで入るくせに」
兄貴はいいのだ。
さて公式公式っと。
つけっぱのパソコンの前に座り、公式サイトのページを開く――が、特に告知は無し。
「まだ告知をアップしてないんじゃない?」
「そうだなー。強制ログアウトさせるぐらいだし、かなり焦ってたんだろ」
「でもそこまでする接続障害ってなんだったんだろう?」
「さぁ?」
解る訳無いよな。
仕方ない、今日はこのまま寝るか。
「ふあぁー。俺寝るわ」
「うん。俺も寝る。また明日――」
「あぁそだ。勝手に入ってくんな。以上」
「はいはい」
双子だからってプラバシーはちゃんとしとかないとな。
勝手に人の部屋に入るなんて、言語道断だ。うん。
勝手に……?
俺、何か忘れている気がする。
なんだったかなー?
んー、思い出せない。
弟の事なんだろうか、それともゲーム内の事だろうか……。
まぁいいや。明日聞いてみよう。