3-9:村民は村長の為に
「あれ? レスターもう居ないのか」
朝起きたら、リビングで寝ていたはずのレスターの姿が無かった。
ドヤ顔で「泊めてくれるんだよね?」なんて聞いてきたくせに、朝になったらさっさとお出かけか。いいご身分だ。
「レスターはね〜、北のほうにレベル45以上の狩場があるって、村の人に聞いたみたいで。お弁当持ってそっちに行っちゃったの」
「弁当まで作ってあげたんだ……ってかレスターってレベル幾つなの?」
朝食の用意をしていたアデリシアさんに問うと「50だよー」という返事が。
どんだけ廃狩りしてんだ、あいつ。
朝食後、今日はどこに行くか聞くが、オリベ兄弟とフェンリル、それにアデリシアさんまでもが「生産をするから」と【メルシュタット】の町に行く予定にしたらしい。
「レベルがどんどん上がるのはいいんだけどよー、武器のランクが下がってきたしな」
「同じく、防具を作り直さないと、格上モブの攻撃が痛くなってきましたし」
「運営のアナウンス以降、市場のポーションが品薄になっているらしい。せめて村人分ぐらいは確保しようって、ここの調薬メンバーで話し合ったんだ」
「私はお料理の生産を始めようかと思って〜」
残されたのは俺とミケの二人。
「まぁ、無理しなきゃペアでも行けるよな?」
「はニャっ? ペ、ペア!?」
「そう。あ、大丈夫。この前覚えた新しいスキルが不思議な事に回復魔法なんだぜ」
マンドラゴラヒヒ戦で覚えたスキルは三つ。
盾を攻撃に使った『シールドブレイク』。昏倒効果は無いものの、ノックバック効果を与えられる。
回復魔法の『状態再生』は、自分以外の対象一人のHPを最大値の半分回復し、ついでに状態異常を解除してくれる優れものだ。
自分には使えないっていう辺りが泣けるが。
三つ目の『蒼い閃光の剣』は、対象一体に対して、高速連打攻撃をする『ソードダンス』に似ている。違うのは多段回数が圧倒的に多く、雷と水という二つの属性だって事。
水で雷の帯電効果を増幅するっていう、なんとも不思議な効果だ。
「な? 行けるだろ。あ、それともミケも生産するとか?」
「べ、別にしないニャ。ペ、ペアでも、まぁ、いいニャよ」
「よし、じゃーどこに行くかなー。あ、まずはさ、昨日行かなかった町に行ってみね?」
という事で、生産組みを見送った後はミケと二人で南西の町へと向った。
町に到着するまでにレベルも一つ増え、俺が39、ミケは40だ。
「メルシュタットより大きな町だなー」
「そうニャねー。あ、どうせなら教会メモしとくニャ」
「あれ? ミケって支援やるのか?」
教会のメモ。すなわち帰還魔法を使える状態んする事だな。でも聖書の熟練度上げなきゃ使えないはず。
「ま、前に二人で鉱山行った時、帰りは転送珠使ったニャ?」
「あー、うん。あれ結構高いんだよなー」
「そうニャ! だから帰還が使えるまで、聖書のレベル上げたんだニャ」
そうだったのか。
まぁあれがあれば珠なんか買わなくて済むし、便利だよな。俺も初心者装備の罠を知らなければ、帰還用に聖書ぐらい装備してもよかったと思っている。糞っ、捨てなきゃよかった……。
「で、聖書の熟練度って幾つなんだ?」
他のバフスキルでも覚えてるなら、ペア狩りも楽になるかもしれないな。
「2」
「……で覚えるのか……」
「う、うん。他のバフスキルも覚えられたら良かったんだけど、あっさり帰還覚えちゃったニャ」
ま、まぁ……いいんじゃね?
それ目的で聖書育てた訳だし。
早速教会へと向かい、中へと入る。で、これでメモ完了なのでさっさと出て行く。
それから町をぶらぶらし、あちこちのお店に入っては目新しいものがないか見て周った。
「武器にはめ込む珠が店売りだったなー」
「うニャー。でも効果はドロップのに比べるとかなり低いニャね」
「だったな。でもドロップっつったって、早々拾えるものじゃないし」
俺の武器にだって珠なんてはまってない。そもそも武器自体ははめられる、はめられないってのがあるからな。
今の俺の武器は一個だけはめられるが、はめるものが無い。
「一度はめると二度と外せないしなー。はめるならそれなりの物じゃないと、勿体ないよな」
「うニャ」
そんな感じでウィンドショッピングを終わらせ、どこかで昼食を取ろうと店を探す。
カフェテラスのある店を選んでテーブルに腰を下ろすと、店員よりも先に三人組のプレイヤーに声を掛けられた。俺たち、にではなくミケに――だ。
「ねぇ君さ、ミケ子猫ってキャラでプレイしてた事ない?」
弓手っぽい男がそう言ってミケに近寄る。
ミケを見ると、どことなく青い顔をしているようだ。
「そうなんだろっ?」
大きな剣を背負った男が、こちらはやや乱暴な口調で追及する。
もう一人はヒーラーか。そいつは俺を観察するように見ていた。
なんだ、こいつら。感じ悪いな。
「ミケ、知り合いか?」
尋ねるが返事は無い。
代わりに席を立ち、男たちとどこかへ行こうとする。
「ミケ、知り合いか?」
「う、うん。ちょっと、ね。待ってて」
そう言って路地のほうへと向った。
なんか気になる。ミケの顔、ちょっと青ざめてたぞ。
ミケたちが消えた路地は細く、所謂店の裏手側になっている。ゴミを出したりする時以外、人の気配なんて無さそうだ。
男が三人、女の子が一人。この構成で路地裏なんて、嫌な事しか想像できないな。
慌てて席を立ち、俺も四人が向った路地へと走る。
聞こえてきたのはミケの必死そうな叫び声。
「違うニャ! あれは私じゃないニャっ。何度も説明したとおり、新規の子が突然ギルドを脱退して、その時に――」
「その子は君は盗んだって言ってたよ。ログのSSもある。君以外に居ないんだけど」
「そのSSは偽物でしょ!? だって加工した後があるって、ギルマス言ってたニャ」
「言ってたのはギルマスだけ。他は皆そうは見えないって意見だったけど?」
「なぁ、さっきの男は知ってるのか? お前が盗みをしてたって」
「そ、それは……」
「知られたくないんだろう?」
剣を背負った男がミケの腰に手を回すのが見えた。
あいつらゲーム内で何しようとしてんだ。
「おい、お前等! 女の子一人に寄ってたかって何しようとしてんだ!」
剣は腰に指したまま、だが柄に手を掛けて四人に駆け寄る。
男の舌打ちが聞えた。こいつら、絶対如何わしい事しようとしてただろう。
「何って別に? なぁ?」
男のひとりが仲間に目配せをする。
二人は頷き、互いに武器を構えた。
「知り合いのよしみでちょっと金を借りようと思っただけさ。あとついでに遊んで貰おうかなーってね」
薄汚い連中だな……。レベルは41が二人に42が一人か。モンスター相手なら勝てなくもないが、対人だとどうだか。
「ところでさ、知ってんのソーマさん?」
「何をだよ」
名前を知ってるって事は、キャラクター情報でこっちのレベルを確認しやがったな。
「ミケってさ、前ゲーで持ち逃げとかしてたんだぜ? こっちでもやってると思うが」
持ち逃げ……それを聞いて悪寒が走ったような感じを覚える。
確かに俺との初対面では、フェンリルから預かった巾着を――。でもミケはそれをちゃんと返してくれた。だから俺はミケを責めないし、今では大事な仲間だと思ってる。
「ミケとはこのゲームが始まって直ぐぐらいからの知り合いだけど、物を盗まれた事なんて無い」
ミケの唖然とする顔は無視する。
男たちも顔を見合わせて何事か呟いていた。それからこっちを見て笑い出す。
「あー、お前ってさ、おめでたい奴だよ。信用させておいて盗むのが常套手段だぜ」
「そうそう。それともミケに惚れたとか? ケモナー好きには猫耳とか、たまんないよなー?」
「は? 何言ってんだお前等。ミケが盗んだんじゃないって言ってるんだぜ」
「俺たちより泥棒猫の言う事を信用するのかよ」
剣を背負った男が食って掛かるように身を乗り出し、威圧してくる。
「当たり前だろ。なんで今会ったばかりの、それも失礼な物言いの奴等なんかを信用しなきゃいけないんだ」
「てめーっ。人が親切に言ってやってんのに」
「もういいじゃん。ちょっと痛い目でも見させときゃ金出すだろ」
弓に矢を番えた男がそう言った時――
「あれ、村長じゃん? 何、町中でPVやってんの? 村民として村長をお守りしましょうか?」
「あっはっは。それウケるー。俺も混ざりてー」
背後から聞えた声、どこかで聞いたようなその声で救われた。
人数差で逆転されたせいか、ミケを脅していた三人は何も言わずさっさと逃げていった。
振り返ると五人のパーティーが。
「なんだったの、あいつら?」
「助かったよ。なんか別ゲーでの知り合いと名前が似てるからって勘違いして、金せびりに来たみたいなんだ」
「へー。村長気を付けなよー」
「え? なんで」
あー、聞き覚えのある声だと思ったら、切り株突撃部隊の人達だな。パーティー組んだのか。
「運営の例のアナウンス以降、ちょっと精神的にゆとりなくなってる連中が増えてるらしい」
「ログアウトするのも多くなってるけど、ログアウトしないで自棄になってきてるのも居るってさ」
「NPCやプレイヤーの女の子に痴漢する馬鹿も出てきてるって、午前中に行ったファーノーブルで噂になってた」
うわっ、マジか。
「だから女の子は一人で行動しないようにって、村民に広めようって話してたところだったんだ」
「そしたら村長が焦った顔して路地裏に向うし、まさか村長が痴漢しに行ったかって疑ったよ」
「ちょ、村長なのに村民に信用されてないって」
「あっはっは、冗談ジョーダン」
でもマジ助かった。流石に対人戦で勝てる自信は無かったし。
五人にお礼を言ってから、まだ怯えていたミケの手を引きさっきの店へと戻った。
おぉう、昨日更新するの忘れてたよTT