3-7:焼き鳥うまうま
ようやく全ログハウスの完成。
ようやくと言っても、昨日から作り始めてだからなぁ。無茶苦茶だよな。
昼飯食ってようやく狩りへと出かけた俺たち。
なんせ経験値二倍だからな。ここ数日まともに狩りしてないから、気合入れてレベル上げるぜっ。
今日は新しい狩場発掘も兼ねて徒歩で移動。
プレイヤー村のある森を西に向って抜け、そのまま南西に歩いてみた。
「マップだとこの先にも町があるね。メルシュタットより大きそうだ」
「町に行ってみるかニャ?」
ミケの提案に首を左右に振って見せた。
「今日は狩りしようぜ。なんか移動と家作りばっかりでまともに狩りしてる記憶が無い」
皆も同じ思いなのか黙々と頷いている。
そうと決まれば――
マップを開いてダンジョンくさそうな場所に目星をつける。
南西の町に向う途中、街道の分かれ道で真っ直ぐ南に行くと森だな。
「よし、ここに行こうっ!」
張り切って俺が声を掛けるが、
「どこだよ」
「ソーマの地図は俺たちには見えないから」
「君が指差しているのはハスキー君の尻尾だ」
「解ったニャ。カゲロウの尻尾に行くニャね」
「えいっ」
「キャイン! ちょ、アデリシアさん、尻尾握らないでっ」
俺が悪かった……。
弄られながらも先頭を歩き森を目指す事小一時間。
街道を通って来たのであまり戦闘はしていない。それでも時折見かけるモンスターのレベルは38から41と、経験値の期待できそうなラインナップだ。
俺がレベル37になったばかりで、フィンとカゲロウとミケがもう直ぐ38か。フェンリルも39目前でアデリシアさんは40の半ばほど。
なんとかレベル差が減って来たかな。
「よーし、祝福の珠使うぞー」
「幾つ残ってる? 俺あと五つ」
「結構使ってるのなフィンは。カゲロウもか?」
俺の問いにカゲロウが頷く。ま、兄弟だしな、同じタイミングで使ってるんだろう。
こっちの在庫は――
「あと十二個あるな。この前のメンテの補填を使ってなかったし」
「うぇー、そんなにあるのかよ」
「私は一〇個だな。補填で貰った分しか珠なんて貰ってないけど」
「まだ一個も使ってないのかニャ」
「勿体無いから」
「えー、私なんて一個も残ってないですよー」
アデリシアさんは暁に居た頃に全部使ったんだろうな。だから今あんなレベルな訳だし。
珠を使って早速狩りを開始する。
森の中だと流石にモンスターの数も多いな。
「さぁきやがれ鳥どもっ!」
ヘイトスキルでタゲを固定。
今ほどヘルメットがほしいと思った事は無い。
上空から下降してきて、俺の脳天をくちばしで突いていく鳥モンスターたち。禿げるからやめろよっ!
その怒りを『挑発』に代えて叫ぶ。するとまた突かれる。
恐ろしい……負の連鎖だ。
「なぁフェンリル」
「なに?」
「禿げってヒールで治せるか?」
「……それは真剣に答えてやるべきか? 嘲笑うべきか?」
「いや……聞かなかった事にしてくれ」
マジレスされたほうが恥ずかしい。
しかしあれだ……なんでこの森には――
「あ、また鳥モンスターだ」
「ここって鳥多いですねー」
多いっていうか、鳥しかいねーだろっ!
何なんだ、この鳥率の異常さは。
これってつまりアレだろ? フラグだよな?
そう思いつつ鳥を撃破していくと、あっという間に俺のレベルが38に。もちろんアデリシアさん以外はレベルが上がってるけど。
「さすが経験値四倍だな」
「皆ずるい〜。祝福持ってない私だけ二倍だもん」
「君は一番レベル高いでしょ。それに私だって珠は使ってないぞ」
「あれ? フェンリルは使ってないのかニャ?」
「んむ。勿体無いから」
どこまで出し渋る気なんだろうか……。まぁ俺もあと一個使ったら残りは取っておこう。
結構森の奥のほうまで来た。ここに入ってからずっと、鳥モンスターしか見ていない。普通の野生動物はいるけど、襲ってこないしレベルも出ないからモンスターじゃないのはすぐ解る。
そのうち――
「あの鳥ぶっ倒して、村に持って帰ったら焼き鳥できるんじゃね?」
「モンスターだよ兄さん。お腹壊しそうで嫌だよー」
「それ以前に倒したら煙になって消えるニャよ」
「えへへ、丸焼きなら任せてくださいっ」
だから煙になるんだって――そう突っ込もうとしたが俺はある事に気づいた。
「なぁ、モンスターのドロップの中にさ、なんとか肉とかってよくあるじゃん?」
「あー、あるな」
生産の中でも料理に使われる素材だ。だったらこれ、食えるんじゃね?
と思ったんだけども、
「えー、いつからインベントリや倉庫に入れてるか解らないものだし、それこそ腹壊すだろー」
「でもよく考えたらそれを材料にして、ステ強化料理とかあるんですよね?」
……。カゲロウの言葉が森を静寂に変えた。
か、考えないようにしよう。
「と、とにかくさ、倒したら煙になるんだし、だったら倒さないで持って帰れないか?」
「どうやって? 紐で括るとか?」
「まぁそうなるな」
「誰か紐もってるかニャ?」
誰も答えない。まぁ持ってるわけないよな。
「持ってないが、使えそうなのなら、ほら、そこに」
フェンリルが木を指差している。見たら蔓のような植物が――
行けるじゃんっ!
あとは美味そうな鳥を……いやモンスターだけどさ、その中でも比較的美味そうなヤツを探す事にしよう。
ほら今、お誂え向きそうな鳴き声が聞えたじゃないか。
そう、こけこっこーって……。
森が突然開けて、そこには巨大な卵と、それを暖める鶏がいたっ。
「ちょ、三メートル以上もある鶏とか、連れて帰れるわけねーだろっ!」
「でもこれ一羽で何人分のチキンになる?」
「おいフィン、よだれでてるぞ」
「おっと、じゅるり」
俺たちの目の前には尾羽の派手な、何処からどう見ても鶏にしか見えないモンスターがいる。
いや、これモンスターか?
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モンスター名:狡猾なコカトチキン
レベル:42
種族:動物
属性:風
備考:その瞳には石化能力がある。また食せば美味。
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食えるのかっ!
石化は厄介だな。
とか思ってたけど、要は見なきゃいい訳で。しかも頭まで三メートル以上あるから、普通に見る分には奴の足しか見えてない。
それでも、鶏が餌を突く時みたいに頭を下げてくる事がある。運悪く眼が合ったりすると……
「ちょ、フィンが石化した!」
「捨てておけ。残念ながら石化はリカバリーじゃ解除できないからなっ」
「あ、私、石化解除できますー」
おぉ。
最近アデリシアさんが輝いてるな。
後ろから聞えた頼もしい声が魔法の詠唱に代わる。直ぐに光の粒がサラサラ飛んでて、それがフィンに掛かるとヤツの石化が解かれた。
「どうせなら美人なメデューサとかに石化されたかったぁーっ!」
「ダメだこいつ。次石化したら放置でいいよ、アデリシアさん」
「え? え、あ、はいっ」
「俺を見捨てないでアデリシアちゃん!」
馬鹿は放置してコカトチキンの相手をしよう。
レベル差もちょっとあるせいで、特殊スキル攻撃なんかが飛んでくるとかなり痛いな。
しかも奴は風属性だしなー。誰も風に有効な地属性スキル持ってないっていうね。
ま、こうなりゃゴリ押しするしかない。
結構時間も掛かってようやく残りHP三割まで削ってやった。
どうせここから取り巻き召喚するんだろっ!
『ゴゲエエエエエェェェェェェェェッ』
おぅ、なんつー嫌な鳴き声だすんだよ。
で、案の定出てきた取り巻き軍団……。
おい、これ……普通の鶏じゃないか? サイズ的にはちょい大きめだが、逆に食べ応えありそうな量じゃんか。
そして俺はふと思いついた。
「フィン!!」
切迫した声で叫ぶ。
「な、なんだソーマ、どうした!?」
「今すぐ木を切って籠を作ってくれ!」
「は?」
「誰かこの鶏を眠らせたり、一時的に動けなくしたりできないか?」
「ね、眠り粉のスキルはあるニャよ」
「頼む!」
取り巻きの鶏を眠らせ、ボスを連れてちょい移動。
これは取り巻きを起さないようにするためだ。
そしてフィンが言われた通りに籠を作っていく。
俺は全力でコカトチキンを斬るっ、突くっ、そして斬る!!
どぉーっという轟音を上げて倒れたコカトチキンを無視して、
「フィン、籠は!? ミケ、追加で眠り粉掛けてくれっ」
「で、出来たぞ」
「解ったニャ」
出来上がった籠の中に、奴等を入れていく。もちろん、召喚された取り巻き鶏だ。
「おい、まさか君……飼うつもりか?」
「俺は持って帰って食うつもりだったんだけど、それもいいな」
「あ、じゃー、鶏小屋も作らなきゃ。ね?」
「うぉー! チキンだぜ、チキン!!」
畑はある。
これで肉の確保も出来るじゃん。
今日は良い狩りをした。
おぉう、危うく更新するの忘れる所だった……