3-6:みんなの家造り教室
「みなさぁ〜ん、夕ご飯ですよ〜」
「「おーっ!」」
汗水垂らした男たちが一斉に集う。いや、女の人も混じってるけど。
しかし、結果的に五〇〇人近い人が集まったなー。この人数を収容するためのログハウスが、いったい何軒必要なんだ?
って思ったが、流石に建設業界の人がいただけあって面白い物が出来上がったな。
「ログハウスアパートか……」
「シェアハウスって言えよ。まぁ何軒かはカプセルホテルみたいにしたけどね」
たまたま配給の列が一緒だった建築士の人と話をする。
皆して木製のお皿やスプーンフォークを持って並んでいる。昼前に何人かで作ったって言ってたな。
「まぁ雑魚寝仕様なら全員は入れるぐらいの規模は出来上がってるよ。っつか一日で五〇〇人分の家が出来るなんて、ぶっとんでるだろっ」
「あー、壮観だよな。夕日をバックにログハウスがこんなに並んでるのって……」
俺たち二人だけじゃなく、近くに居た人たちが一斉に湖の方を見た。
沈み行く太陽が湖を照らして赤く染める。それを背景に立並ぶログハウスの集合体。
こじんまりしたのから、横にながーいタイプのもある。
元々パーティーだったりギルドだったりで来た人たちは身内用のログハウスを作ったし、ソロラーなんかは協力しあってシェアハウスやカプセルホテル系の大人数収容ハイスを作ったりもした。
俺もフィンたちと入れる、わりと小さめのログハウスを完成させている。金持ちぼんぼんのーってのは、十五人ぐらいの小規模ギルドの人たちに使ってくれるらしい。
「あとは窓を付けて内装整えて――まぁ寝られればそれでいいけどな」
「そうそう。寝るのが大事」
あちこちから笑いが上がった。みんなよっぽど寝たかったんだな。気持ちは解る。だからこの計画を立てたんだしな。
上手くいってよかったよ。
「こうしてみてみるとアレだな……ちょっとした村みたいだよな」
唐突に口から出た言葉。それを聞いた建築士の人が笑い出す。
「じゃー、あんたが村長だ」
「え? な、なんで??」
「だってさ、発案者だろ? そう聞いたぜ。それに、いろいろ率先してやってたじゃん」
「いや、だからって村長はやめろよ、恥ずかしい」
「なになにー? 村長さんなの?」
「いや、違うって」
だが事既に遅し……。
村長コールが湧き起こり、更にコールはどんどん広がって……。
っは!?
なんか今凄く不吉な予感がした。
フェンリルに「私の騎士なのだから」と言われた後、確かにステータス欄の職業ん所がそうなってた。
まさか……。
ステータス欄を呼び出す。
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ソーマ・ブルーウッド レベル37 カルマ:+365
クラス:村長になった騎士
HP:9113
SP:2594
STR:73+
VIT:70+
AGI:40+
DEX:25+
INT:5+
LUK:7+
□:0
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「ぬわぁーっ! 職業に村長が付いたぁぁぁぁっ」
俺の悲痛な叫びは周囲を笑わせ、興味を抱いてステータス欄を見たらしいプレイヤーが更に阿吽の呼吸で叫びだす。
「木こりキターーッ」
「農夫ウォリアーって何だよっ!」
「私なんて村民だよ! やだもう、恥ずかしい」
……このゲームの仕様がいまいち理解できません……。
けど、皆が笑ってるならそれでいいか。
あとは今夜だな。
奴等が来るかどうか――。
「んーっ」
心地のよい朝を迎えてやる伸びは格別に気持ちいい。
「おはよーっす」
「おう、フィンおはよう」
「昨日は流石によく寝れたなー。あのちみっこいの来なかったみたいだな」
「あぁ。俺も途中で目も覚まさずに寝れたよ」
三人で寝るにはちょっと大きめの窓の無い部屋で、俺とフィンは挨拶を交わす。カゲロウはもう起きてるのか、ベッドには姿が無いな。
部屋を出るとすぐにリビングな仕様。カゲロウはそこで寛いでた。
「おはよー。早いな、カゲロウ」
「おはようソーマ。その代り寝たのはたぶん俺が一番最初だよ」
うん。解ってる。ベッドに入った途端寝てたからな。
「そういえば昨日の夜もアモンリア来たんだって」
「え? マジで?」
「うん。見張りしてくれた探求者ギルドの人が言ってた。ただ――」
ただ?
「三〇人ぐらいで見張りしてたらしいんだけど、プレイヤーの姿見た途端、逃げたんだって」
「……どんだけ小悪党なんだよ」
「やっぱ数集めて正解だったな」
「そうだねー」
三人で笑っていると一階奥から、
「ご飯できたニャー。みんな顔を手を洗ってくるニャよー」
というミケの声。ここは保育園か何かかと一瞬思ったが、素直に顔と手を洗いにいく。
朝食後、午前中のうちに未完成のログハウス造りを終わらせてしまおう。
あとは食料の確保だな……。
昨日はあちこちの村から野菜やら肉やらを買わせてもらったが、この人数の食材を集めるのは骨が折れる。
「畑作って野菜育てたり出来ないかなー」
丸太を組み上げつつ、なんとなく話題を振ってみた。
一緒にログハウス造りしてをしているのは、全員知らないプレイヤーだ。
「食材? 家庭菜園だって何ヶ月かかかるよ」
「や、やっぱりそうだよな……」
俺ん家もばーちゃんが家庭菜園やってるから、なんとなく解ってはいた。でも希望を持ちたかったんだよなー、出来るかもしれないって。
「あ、出来るかもしんないよ」
「「え?」」
唐突に魔法職らしい装備の女の子が言った。
彼女は杖をインベントリから取り出し、魔法の詠唱に入る。
丸太に跨って器用に杖を振ると、そこに掌サイズの土の塊が出来た。いや、よく見ると人形みたいな形をしているな。
それがもにょもにょ動いたっ!
「ちょ、きもぃです」
「きもい言わないでよー。ゴーレムちゃんなんだから。この子ね、土の精霊なの」
あ、この子、精霊使いか。でも精霊を使ってどうするんだ?
「えっとね、土の精霊の説明にさ……植物の栽培が大好き。って書いてあるんだ。それが気になって前にやったことあるの」
そういうと、彼女はゴーレムを肩に乗せて地面へと降りて行った。降りてから今度はインベントリから何かを取り出して地面に置く。
「見てて」
彼女に言われるがまま、俺も地面に降りてゴーレムと地面に置いた何かをじっと見つめた。
ゴーレムが地面をぐりぐりして、何かを埋めて――あ、種か?
そう思った瞬間、地面からニョキっと双葉が生えた。
ちょ、早すぎね?
いやいや、そんなもんじゃない。
瞬く間に伸びていって、一分もしないうちに花が咲いた。
「ちょ、これ早すぎて笑うわっ」
「でっしょー。私も初めてのときは大笑いしちゃったー」
集まっていた面子で大笑い。何故かゴーレムは踊っている。もしかして、嬉しいのか?
「だからね、畑を作ってくれて種があればあとは精霊使い集めてゴーレム出せば……」
「新鮮野菜取り放題か」
精霊使いの女の子が頷く。足元のゴーレムもドヤ顔しているような気がした。
じゃー早速……
ログハウス造りの手伝いを抜けさせてもらって、精霊使いの子を連れて人手を集める事にした。
「おーい、誰か畑造りできる人いないかー? ついでに鍬とか作ってくれる人ー」
「精霊使いさーん。ゴーレムと野菜造りしませんかー?」
二人で叫びながら歩き回ってると、意外とぞろぞろ人がやって来た。
精霊使いっぽい人が多いな。
「鍬なら作ってやるよ。実家が農業だから、よく触ってた奴だし」
「あ、頼みます」
「畑作るならさ、あっちの切り株取ってしまわないか? 地味に邪魔だし、ついでにあっこを畑にすればいい」
「STRあるヤツよろ」
「まじか。おし、やったるわー」
何人かがその場で話し合って切り株のほうに突撃していく。
おぉ、見事にぼっこぼこ引っこ抜いていくなー。
こうしてみると、プレイヤーって存在自体がチート性能だな。
そんな事思ってたら横では「鍬二〇本ぐらいできたぞー」なんて声も上がってるし。
「あれ? まさか畑造りも生産仕様だったりして?」
出来たてほやほやの鍬片手に切り株のあった場所までいってみる。そして一振り――
ざざっと言う音と同時に土がこんもりして『ここに種埋めてね♪』とでも言わんばかりの形になった。それが一振りで五〇センチ分ぐらい。
「生産仕様だったな……」
「あぁ……」
切り株を担いだ一人が唖然として俺の耕した畑を見ていた。
俺含め二十人で、大体グラウンド一個分ぐらいを一気に耕していく。その作業も一〇分程度で終わってしまった。
恐るべしプレイヤー。
それから暫くして、野菜の種を町から仕入れてきた人たちが戻ってきた。いつの間に買出しいったんだろうか。
ここからはゴーレムの仕事だ。
三〇人ぐらいの精霊使いが、それぞれ一体ずつゴーレムを召喚していく。そのゴーレムに種を持たせて……あとは見てるだけ。
「すげーっ! もう芽が出た――え、花咲いたぞおいっ」
「ちょ、トマト実ってるー」
あちこちで歓喜する声が聞こえてくる。俺も目の前でカボチャが成長していく様を見ている所だ。
けどあれだ……。
ゴーレムたちが好き勝手に種を植えていくもんだから、畑の意味がまったく無い。しかも種類ごとに綺麗に並べたりとかもないから、トマトの蔓が横に伸びちゃって人参に絡まってたり……。
「うーん、これって野菜の種類ごとに分けたほうがいいよね?」
「蔓系は支柱立ててやらないと、上手く成長できないぞ」
「ゴーレムに渡す種は、最低限一種類ずつにしないとダメだな」
という結論になった。
とりあえず今収穫できる野菜を取ってしまおう。これは流石に手作業だったがゴーレムも手伝ってくれるので時間はそれほど掛からなかった。
畑のほうは経験者と精霊使いにお願いしてログハウス造りに戻ろう。
――が、戻ったら完成していたっていうね。