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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第1エリア『初心』
5/95

1-5:エルフの女の子を助けたら彼氏?に睨まれた

『ガアァァァァァッ』


 一匹の狼が口を大きく開き、俺に向って飛び掛ってきやがった。

 咄嗟に盾を構えて防御姿勢。

 ――が、金属音が聞えて狼は目前で止まった。見えない壁に阻まれているみたいだ。

 っお! そうか、シールドの魔法か。いつの間に唱えたんだろうか、俺。


「はっはっはっ! これで勝てる!」


 気合を入れれば体の底から力が沸き上がり、狼へと鈴の音と共に切り込む。

 盾を構えで防御姿勢を取れば、奴等は俺に触れることなく弾かれた。

 レベル5でこの強さっ!


 よし、今なら十匹の狼だって余裕で防げる。


「さぁ、今の内に逃げるんだっ!」


 そう叫んでエルフの少女を見ると、今まさに杖を掲げて魔法をぶっぱなそうとする瞬間だった。

 彼女の杖の先に現れた小さな火の玉。それが真っ直ぐ一匹の狼に向って飛ぶ。


『ギャヒィンッ』

 

 犬は苦しそうにもがいた後、再び立ち上がる。つまり、一撃では仕留められなかったって事だ。


 ゲームの場合、前衛職より魔法職のほうが瞬間攻撃力が高いってのは定番。

 俺より攻撃力が高いであろう彼女が一撃で倒せないって事は――

 連続して狼を切りつける。防御は……シールド掛かってるしまぁいいさ。


 ――ダメージ65

 鈴の音が聞えて、

 ――ダメージ122

 ――ダメージ63


 ん?

 二撃目だけやたらダメージ高くないか?

 ん?

 狼のHPバー……三割しか減ってないぞ?

 それに引き換え、十匹が一斉にあちこちから噛み付いてくる。とうとうシールドが割れ、遂にダメージを食らう事になってしまった。


『ガルァァァッ』


 ――被ダメージ75、68、66

 250回復

 ――被ダメージ60、69、70

 250回復


 おいーっ!

 なんだよこれ!

 四発食らったら死ぬし!

 でも地味に回復入ってるし!


 死なないが生きた心地もしない……早く狼を倒してしまわないと、なんとなくヤバい気だけはしている。

 エルフの女の子も必死に魔法で応戦してるし……って、あ、彼女が攻撃されはじめた!?


「ちょ、おいお前等、ちゃんとこっちに来いってっ!」


 叫ぶと再び狼達が俺のほうに向く。声に反応するのか? いやでも彼女だって呪文の詠唱で声出してるし。

 コンシューマーと違って他人と同時に戦闘出来る分、MMOには俺の知らない仕様がいっぱいだな。

 とにかく、この窮地を脱出しなきゃ。

 でも……できるのか? 一匹倒すのにも単純に十回は攻撃しなきゃならなんだぞ。十匹で……魔法使いの彼女も攻撃に参加しているとは言え、ヘタすれば……。


  いや、出来る。なんたってこのゲームの謳い文句は

 ――現実(リアル)の自分には出来ない事も、この|Second Earth of Synchronize Onlineせかいでは可能となる。内なる自分を、解放せよ――

 だもんな。


「よぉしっ! 内なる俺を解放するんだっ!!」


 噛み付かれながらも見えない壁に守られた俺は、大地をしっかり踏みしめ声高に吼えた。

 それに呼応するように、俺の力が漲ってくる。

 赤い闘気を纏い、心の声に従って狼の群へと突進。

 剣を上段に構え振り下ろし、返す刀で再び振り上げる。

 真横に構えなおして一閃。

 くるりと反転して更に一閃。

 フィニッシュは地面に剣先を付きたてるっ!


 痛みに悶え苦しむ狼たちは、俺を中心に僅かに吹っ飛んだ。


「わぁ〜、今のすごーい」


 す、すげーっ。これ、範囲攻撃だよな? エルフの少女も感動しちゃってるじゃん。

 四連続多段攻撃に加えて、範囲ダメージか。


 エルフの少女からも攻撃を食らっていた狼は、数匹が今の攻撃で煙になる。

 残りは七匹か。

 よしっ、今の技、もう一回だっ!


「解放っ! 解放っ!!」


 気合を入れて大地をしっかり踏みしめる。

 が――クールタイム中

 という赤文字のメッセージが目の前に浮かぶだけで何も起こらなかった。


 えーっと、クールタイム……たしか再使用までの時間っていう意味だったよな。コンシューマーでこのシステムあるのって、珍しいんだよなぁ。

 ってCTかよっ!

 いつ、いつ終わるんだよ!?






 なんとか全ての狼を殲滅し終えて、改めてエルフの少女を見た。

 遠目からでも目立つピンク色のふわふわした髪と、透き通るようなオレンジ色の丸くて大きな目。特徴的な長い耳はエルフの証だ。

 それにしても、典型的な美少女だな。かなりキャラ作成に気合が入っている。


「わぁぁ〜。全部倒せたね〜。よかったねぇ〜」

「う、うん。そうだね」


 他人事のように言ってるけど、これ連れてきたの君だから。――とは流石に言えない。

 それに、こんなニコニコ顔で言われたら、責められる訳ないじゃないか。女の子って、得してるよな。


「あのね、私、アデリシアっていうの。まだこのゲーム始めてばっかりで、レベル10なの」

「えぇ!」


 なんだって!?

 俺の二倍のレベルって……恥ずかしくてとてもじゃないが言えない。俺はレベル5ですなんて。


「ねぇねぇソーマ君。よかったら一緒にパーティー組まない?」

「え!? パ、パーティー? あれ、俺まだ名乗ってないのに、どうして名前を知っているの?」


 誘われたのは嬉しい。しかも異性からってのがまた嬉しい。

 でも反面に不信感もある。俺の名前を知ってるって……まさか不正なゲームデータを使ってたりするんじゃ!?


「えぇ? だってキャラクター情報見れば解るじゃなーい」

「キャラクター情報?」


 言った途端、俺が見ていた彼女に重なるようにして、半透明なウィンドウが現れた。

 そこには彼女の名前やレベル、HPバーみたいなものや杖が描かれた丸いアイコンが表示されていた。


「おぉぉ!」


 なるほど、これで名前が解ったのか。彼女が「キャラクター情報」と言った声は聞えなかったけど、小声や心の中でもいいのかな? 後で試してみよう。

 なんだ、彼女はやっぱり普通のプレイヤーだったのか。そうだよな、人を疑うなんて俺って最低だな……。

 ん? 待てよ。キャラクター情報でレベルも見れるって事は、彼女は俺のレベルも……。

 ひぃー! どこかに穴は無いのかっ!


「あれぇ? ソーマ君ってもしかして知らなかったのぉ?」

「はひ? あ、いやいや、そんな事ないよ。知ってたさ。あー、そうそう、ずっと一人でプレイしてたから、すっかり忘れてただけだよ」

「あはは、そうなんだ。私はねぇ、ずっとレスターと遊んでたの。あれー、そう言えばレスターどこいっちゃったんだろう」


 レスター?

 男名だよな。ってことは、彼氏か……。

 パーティーに誘われて浮かれてたけど、彼氏が居るんじゃ相手に申し訳ないな。

 丁重にお断りしよう。いろいろと恥ずかしいし。


「あの――」

「アデリシアっ! 大丈夫かい!?」


 俺が切り出そうとしたタイミングで、そのレスターってのが現れた。

 木々の間から出てきたのは、金髪碧眼のまさにイケメンですと言わんばかりのエルフ……よりは耳の短い優男。

 手には弓を握って、矢を番えた状態だ。

 まさか俺を攻撃――はしてこないか。男は矢を降ろし、アデリシアさんの元へと駆け寄ってきた。

 そうだ、キャラクター情報を試してみよう。

 小さな小声で呟いてみた。


-----------------------------------------------------


 キャラクター名:レスター・オルフェル

     レベル:11


-----------------------------------------------------


 キャラクター名:アデリシア・マロン

     レベル:10


-----------------------------------------------------


 マロン……というには、どこも栗を連想するようなものが見当たらない。

 しかし、男の方はレベル11か。


「っはぁはぁ。無事でよかったよ、アデリシア」

「うん。この人とバウちゃんを倒してたの」


 バウちゃん?


「はぁー。まったく、バウンドと戦うときには必ずボクと一緒じゃないとダメだって、あれほど言ってるじゃないか」


 あー、バウちゃんってさっきの犬の名前か。正確にはバウンドって言うのか。

 レスターが俺のほうをチラリと見て目を細める。険悪なムード……とでも言うんだろうか。

 まぁ仕方ないよな。自分の彼女が他の男と一緒だと、誰だってあーなるだろう。たぶん……。


 レスターはアデリシアさんの手を引いて歩き出そうとした。



「っさ、行こうアデリシア」

「え? 待ってレスター。ソーマ君もパーティーに入れてあげようよ」


 レスターの動きが止まって俺を睨みつけてくる。彼の顔はアデリシアさんからは見えていない位置だ。

 俺は引き攣った笑みを浮かべて、反射的に後ずさってしまった。

 美人が怒ると怖いってのは良く聞くけど、イケメンが怒るのも怖いもんだな……。


「あのね、アデリシア」


 俺を睨みつけていた顔とは正反対に、アデリシアさんに向ける顔は穏やかだ。

 こいつ、絶対彼女に惚れてるな。いや、むしろ恋人同士か?


「彼のレベルを見たかい? 5だよ?」

「うん。見たよ。5だよね」


 ごーごー言わないでくれ……。


「彼に合わせた狩場に行けば、彼がモンスターを攻撃する前にボクたちが瞬殺してしまうだろ?」

「うー……うん」

「ボクたちに合わせた狩場に連れて行けば、彼がモンスターから瞬殺されるだろう」

「……そう、なのかな?」

「そうなんだよ」


 そうなんですか……。いや、想像は出来る。レベル10とか11のモンスターはさすがに無理だってのは俺にも解る。コンシューマーですら、こんなレベル差で挑んだって大抵勝てないからな。

 

「あのね、さっきね。ソーマ君ってばバウちゃんの攻撃、全然受けてなかったんだよ?」

「……そうなの?」


 はっはっは。そうなんです。

 あー、シールド魔法があればなんとか……いやでも攻撃が通じないだろうし。


「こうなんていうか、突然見えない壁で守られて、まったくダメージ食らわないんだよな」


 そんな魔法をいつの間に覚えていつの間に使ったのか、俺にもサッパリ解らない。

 ドヤ顔でレスターを見ると、ふーんというような顔で俺を見ていた。


「それ、どっかのヒーラーが辻支援してくれただけだよ。ボクもさっき辻られたから、この辺に居るんだろう」

「え? 辻?」


 また解らない単語だ。

 辻斬りが通りすがりに切り付けていくって意味だから、通りすがりに支援していくっていう意味か?


「支援が無ければまともに戦えないんだから、ボクたちに合わせられないよ」

「そっかぁ〜」

「お互いレベルの近い者同士でパーティー組まないと、逆に迷惑掛ける事になるんだ。彼に迷惑かけちゃ、ダメだよ」


 言ってる事は正論なんだけども、なんか、地味に見下されている気がしないでもない。


「ゴメンねぇ〜、ソーマ君。考え無しにパーティー誘っちゃって」

「あー、いや。誘われた事自体は嬉しいんで。ありがとう」


 アデリシアさんはしょんぼりした表情でぺこりを頭を下げていく。

 そのままレスターと二人、北東に向って行ってしまった。


 元々誘いを断るつもりだったけど、こうなるとちょっと寂しいな。

 ……。

 …………。

 まてよ?

 今まで勝手に回復していた俺のHPや、沸きあがるパワーとか見えない壁とか、全部俺自身の力じゃなかったって事!?

 その答えは木の上にあった。

 地面に伸びた木の陰には、はっきりと人らしき影も混ざっていた。

読み頂きありがとうございます。

本日はあと2話UP予定でしたがもうちょっと増やしてみようかと思います。

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