表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第3エリア『混乱』
49/95

3-4:破壊者

 朝食後、また荷馬車に乗って森の奥を目指す。今度は建築道具も一緒だ。

 昨日もそうだったけど、この森には不思議とモンスターが居ない。なんでだろう?


 ほどなくして目的に到着した。

 荷馬車が停まったのは湖の辺だ。さすが金持ちぼんぼんが別荘を建てようとしただけの立地だな。

 森に囲まれつつも、湖の周辺はかなり広い範囲で草地が続いている。これなら数十軒の家は建てられそうだ。

 そんな場所に、未完成とは程遠いログハウスがぽつんと一軒建っていた。


「あっちゃー。奴等にやられたか……」


 ロブスさんが顔をしかめてあちこち痛んだログハウスを見ていた。


「奴等って?」

「魔物だよ。尤も、この森は古代のエルフ族によって守られているからね、大きな連中は入って来れないんだ」

「つまり小さいモンスターか」


 頷くロブスさん。

 なるほど、モンスターを見なかったのは魔法の影響か。絶対数が少ないだけで、まったく居ないって訳じゃなさそうだが。


「ま、材料はあるし、なんとかなるだろう」


 そういってロブスさんが指差した方向に、かなりの数の丸太があった。


「まずは壊された部分を取っ払おう」


 ロブスさんの指示に従って、使えない壁の丸太部分を取り除いていく。

 普通に考えたら二人係りでの作業だと思うんだが、これが以外にも一人で出来ちゃうっていうね。

 でも丸太が軽い訳じゃない。すこーしだけ重く感じる。


「なぁフェンリル。バフくれないか? 出来ればSTRを強化したいんだ」

「ん? いいけど……何故?」

「いや、ちょっと試したいんだ」


 それだけ言うと彼女はパーティーバフを唱えてくれた。これでSTRが+25される。

 もう一度丸太を持ち上げた。


「あ、やっぱり。少しだけだが軽く感じる」

「あー、そうですね。丸太を動かすのはSTRって訳だ……あの俺、STR初期数値なんですが」

「じゃー私のほうが役立つかニャ」


 弓手のカゲロウの変わりにミケが手伝ってくれる。実にカゲロウより逞しい。

 カゲロウはフェンリルと組んで丸太をどかし、アデリシアさんが木屑を掃除していく。

 あっという間に作業も終わって次の工程だ。


「流石に早いな……わし一人だとあの作業だけでも一日は掛かるよ。さて、次は新しい丸太を積み重ねるんだ」


 山積みになった丸太か。もう皮は剥いであるんだな。

 長さ十五メートルほどの丸太を肩に担いで、木製の脚立を登って重ねていく。その姿にロブスさんは驚いていた。


「軽々と持ち上げるなんて……俺でも仲間と二人でやってたってのに」

「あー、えと。冒険者ですからっ」


 もうこれで押し通そう。


「あ、この丸太溝が無いぞ。誰か溝作ってくれー」

「俺やりたーい」


 カゲロウが挙手したので、彼のところまで丸太を運んでやる。

 丸太同士を積み重ねるため、どこか一片に窪みをつけてやらなきゃいけない。その作業をカゲロウがやるらしい。出来るのか?


「やり方を教えてやろう。道具はこれだ」


 ロブスさんから小さな斧みたいなのを受け取り、カゲロウがロブスさんの言う通りに振るう。

 一振りで五〇センチぐらいの溝が出来た――ってこれ生産扱いか!?


「おぉ、さすが冒険者だ。噂には聞いていたが、俺たちが数時間掛けてやる作業も数分で終わらせるってのも本当だったんだな」

「そ、そんな噂が……」


 どうやら面白かったのか、カゲロウは張り切って溝掘りをしている。他にも溝の無かった丸太もあっという間に溝完成。

 どんどん積み上げられていく丸太。

 遂に壁部分が完成して、残すは屋根と内装だけ。

 ここまででお昼を過ぎた程度だ。こりゃ今日中に完成しそうだな。

 一旦ロブスさんの家まで帰って少し遅めの昼食をとり、そしてまた作業場へと戻る。

 が――壁の一片壊されていた。


「あぁーっ! 俺たちの家があぁぁぁぁっ」

「こ、壊れてる……」

「あっちゃー。飯食ってる間にまたきやがったな」


 つまり小さいモンスターに壊れてたって事か。もう、凹む。

 丸太の在庫的に、あの壊れた壁の修復できるだろうか?


「ロブスさん、材料、足りますか?」

「うーん。際どいところだねー。木を伐採して準備しといた方がいいかもしれない」


 そうと決まれば斧使いフィンの出番だな。


「フィン、頼んだぜ」

「おう! 任せとけ!!」


 ロブスさんと近くの木に向うフィン。

 その間に俺たちは壊れた壁の丸太をどかしていく。さっきもやった作業なのに、またかよ。

 離れた所から聞えるッガーンという音は、どう聞いても木を切るような音じゃない。その音が三回消えたところで、今度はどーんという轟音が響いた。

 まさかクリティカルしたんじゃなかろうな?

 振り向くと、一本木が倒れていた。

 ……三振りで木を切り落としたのかよ。


「プレイヤー恐るべしだな……」


 隣でやっぱり見ていたフェンリルが呟く。まさしく俺もそう思うよ。

 俺たちが見守る中、フィンは次々に木を切り倒していった。






 夕方になるとログハウスが完成。一時はどうなる事かと思ったが、プレイヤーの偉大な力によってなんとか無事に出来上がった。

 といっても外観だけで内装は何もない。まぁ寝れればそれでいいや。


「いやーまさか一日で完成するとはねー」

「俺もびっくりです……」

「じゃー、あとは寝るのに必要な干草ベットを運び入れれば、とりあえず今日のところは大丈夫だろう」

「そうですね」

「あ、見張りで誰か残った方がいいだろ」


 フィンの提案に誰もが賛成した。

 中の掃除をするからと、女子軍団が残ってくれることに。

 フェンリルが馬に速度増加の魔法とブレシングだけ掛けて、高速荷馬車でロブスさんの家へと戻る。

 昨夜作った干草ベットを荷馬車に乗せ、再びログハウスへと戻った。ついでに奥さんが作ってくれた弁当も一緒だ。

 戻った所でログハウスから漏れる明かりを見て感動してしまった。


「あぁ……俺たちの家が完成したんだ」

「そうだなソーマ。これで夜も安心して眠れるぜ」

「よかったね、よかったねっ」


 感動してベッドを運び込む。


「よし。これでひとまず寝るだけは出来るな。他のものは追々揃えていけばいい」

「何から何までありがとうございます、ロブスさん」

「なーに、良いって事よ。まぁ冒険者ならいつかこの土地も離れる事になるだろう……」


 そうなんだよな。ここにずっと居る訳じゃない。まぁ合宿の間はいるけど、その先はどうなるか。


「離れる時には声を掛けてくれ」

「はい。絶対に行きます。いろいろお礼もしたいですし」

「お礼? いやいや、そんなの必要ないさ。お前さんたちが居なくなったら、この家を俺の別荘にするからよ」


 あ、そういう事ね。

 がっはっはと今までで一番豪快な笑顔を見せ、ロブスさんが奥さんの待つ家へと帰っていった。


「なぁ。もしかして俺らって、ログハウス造りを手伝わされただけってオチか?」

「言うなフィン。例えそうだったとしても、合宿の間の寝床は確保できたんだ。それだけで感謝しとこう」


 微妙な気持ちのまま、俺たちは夜を迎える事になった。






 五月蝿いな……。誰だよ、折角気持ちよく寝てるってのに。

 さっきからがたがたばたばたと五月蝿い。今も外で大きな物音が聞える。


「え……外っ!?」


 慌てて起き上がってリビングから外に出た。

 暗がりの中、小さな何かがうようよと動き回っているのが見える。そいつらが一斉に俺のほうを見た。

 やばい?


「お、おいっ! 皆起きろ。モンスターの群だ!!」


 俺は慌てて叫んで、それからリビングに戻った。剣と盾を置いたままだからだ。それを取ったら今度はUIを開いて防具を身に付ける。

 リビングの奥にある部屋からフェンリルだけが出てきた。双子もようやく身を起して、俺が開けたドアの向こうに見えるモンスターに気づいたようだ。


「うえ、あいつらがハウス壊しの犯人か」

「だと思う。かなり数が居るぞ」


 フェンリルがバフスキルを素早く発動。そして起きてこない二人を呼びに行くという。


「いえ、必要ないと思います。こいつら、レベル20ですから」

「え、そうなのかハスキー君?」

「はい。今確認しました。俺たちだけで掃除できますよ」


 そう言ってカゲロウが弓を引く。

 俺とフィンが走って外に出ると、小さいのがわらわらやってきた。


 近くでみると、なんともコミカルな姿をしている。

 顔も胴も丸く、まるでクマのぬいぐるみみたいな形だ。目もまん丸で、猫のように縦長の黒目で地味に可愛い。

 ただ歯だけは凄い。

 無数の牙が乱立していて、これで可愛さは半減以上している。


 そんなアモンリアたちは『ソードダンス』一発でバタバタと倒れていった。うーん、弱い。そして逃げ足が速い。

 俺たちが一発ずつ攻撃したところで、残った奴等は蜘蛛の子を散らすように逃げていきやがった。


「なんなんだ、あいつら……」

「えーっと、名前はアモンリア。小悪魔タイプですね」

「いや名前を聞いた訳じゃなくって――」

「あぁぁぁぁぁっ!」

「どうしたフィン!?」


 悲壮感漂う叫び声をあげるフィンが見つめる先――そこには穴があった。その穴はもちろん、元々丸太のあった壁だ。


「またか……」

「俺たちの家があぁぁぁぁっ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ