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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第3エリア『混乱』
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3-2:宿を探して山越え

 町で簡易テントを手に入れた頃には、空はもう薄暗くなり始めていた。宿屋探しだけでかなり時間食ったからなー。

 先に町で夕食を食ってたら町を出た。本当は街の中のどっかにテント張りたかったけど、同じように町中でテント張ってるプレイヤーを哀れんだ目で見るNPC見ちゃったからな……。

 簡易テント一つでギリギリ三人が寝れるスペースがある。それを【ファーイースト】の町の外、わりと近い所に設置して寝る事にした。


「見張りとかって要らないか?」

「いいんじゃね? だってここのモンスターってレベル一桁だし、ノンアクだし」

「まぁそっか」


 って事で全員寝ることに。


 ――が……。


「眠れねーっ!」

「だからって叫ぶなよフィン!」

「うう……眠りたいのに眠れないよー」


 男テントは阿吽の呼吸状態。

 テントから顔を出せば、直ぐ底にバウンドがバウバウ鳴きながら走ってるっていうね。

 他にも切り株みたいなモンスターが『あぁぁー』なんて声上げてて、それがホラー映画なんかで見るゾンビの声そっくりで震え上がる。

 日中だと怖いなんて思わなかったのにな……。


 溜息を吐きながら再びテントに戻った。


「っきゃ」

「痛いニャ」


 隣のテントで悲鳴!?

 慌てて俺たちがテントから出て行く。


「どうしたんだ!?」


 声を掛けたら三人が出てきた。


「テントの下からモールが出てきたニャ……」

「モグラさんが穴掘りして出てきちゃったみたいですぅ」

「ダメだ……眠れない」


 あー、彼女らも寝てないのか。まぁ寝れないよな。

 不機嫌そうに聖書を持ったフェンリルの様子からすると、あれでモグラを撃退したのか。


「テントを張る場所も吟味しなきゃな」

「そうだな……」


 こうして俺たちの夜は深けていった。一睡も出来ないまま……。






「おはよう……」

「寝てないけどおはようニャ」


 小川で顔を洗いつつ、起きてきた(?)ミケに挨拶をする。他のメンバーもぞろぞろと眠い目を擦りながらやってきた。


 小川のせせらぎ。小鳥のさえずり。

 そのどちらも、今は耳障りに聞える。


「こりゃどうにかしてマシな寝床を確保しなきゃなー」

「そうだねー。寝不足じゃ折角のイベントも楽しめませんね」

「よし! じゃーさ、新しい町行こうぜ」


 唐突すぎるフィンの提案だけど、まぁ【ルイビス】じゃ新しい狩場の発掘も難しいしな。


「フィンの提案に賛成するよ。で、どこいく?」

「どこ――か。ルイビスまでは一本道形式だったけど、その先は町が東と西、そして北に分かれるからねぇ」

「じゃーフェンちゃんのお勧めは?」

「何故私に聞く。そしてちゃんは止せ」

「だってキザ女はベータテスターだニャ? いろいろ知ってるでしょ」

「いや、ベータではルイビスまでしか実装されてなかったから」


 その先はフェンリルにも未知の領域か。

 マップを開いて町の位置を確認する――が、【ファーイースト】近くからだと【ルイビス】までしか表示されなかった……。


「とりあえずさ、ルイビス行こうぜ。飯食って、それからマップ見ながら何処行くか決めよう」

「おー、賛成。寝不足でも腹は減る」


 そうと決まれば簡易テントを片付けて、フェンリルの帰還魔法でさくっと移動。

 町中の飯屋も大繁盛していた。仕方ないので露店で美味そうなものを買い込んで町の隅っこへと向った。ここは年寄りなんかが日向ぼっこするためにベンチなんかが置いてある。そこに座らせてもらって朝食をとった。


「んで、次の町だけどさ。マップで見ると東が一番近いんだよな」

「でも近いってことはプレイヤーも多そうですね」


 あー、そうか。

 じゃー、一番遠い西の町かな? けど山超えしなきゃならないしなー。ヒヒの居たあの山を。


「西でいいんじゃないですかぁ? おサルさんが居たダンジョン前に転送で行って、そこから歩けば――」


 アデリシアさんの言葉に全員が目を疑った。

 まさか彼女がそこに気づくとは、思っても見なかったからだ。もちろん俺もだけど。

 そっか、何も徒歩で行く必要は無いんだよな。そうなると東や北の町は更に移動距離が短くなるが、だからこそ西に向うプレイヤーは少ないかもしれない。


 山を越えた西の先にある町――マップで見るとすぐ近くに大きな湖や川もある。新しいダンジョンとかもあるといいな。






 眠い目を擦りながら狩場転送オブジェを使って、マンドラゴラヒヒが居たダンジョン前に移動。

 そこからマップを確認しつつ西へと進んで行く。

 道中に遭遇するモンスターは、レベル33から35。なかなかいい経験値になるな。


「ちょっとパーティー崩すか?」


 フェンリルの提案に首を傾げる。


「ソーマのレベルが頭一つ低いからな。我々には格下モンスターになるし、アデリシア基準で経験値が計算されるから効率悪いだろ」

「え、そうなのか?」

「ん? 教えてなかったかな。パーティーを組めばメンバー内で一番レベルの高い奴を基準にEXPが決まるって」


 いろいろ教えて貰ったから、どれを聞いててどれが聞いてないのか覚えてないな。つまり聞いてても忘れてるって可能性もあるけど。


「ってことで、アデリシアは攻撃を控えるように」

「は〜い」

「いや、それは悪いよ。アデリシアさん、火力ぶっぱしたくてのウィザードなんだし」

「私はソーマ君に、早くレベル上がってほしいからいいの」


 杖を握ってにこっと微笑まれたら断れる訳がない。


「じ、じゃー……」


 パーティーを解散させてソロになる俺。といっても移動は皆と一緒だし、フェンリルの支援もある。アデリシアさんもいつの間にかSP付与のスキルを覚えていて、SP面でのサポートをしてくれた。百花さんよりは圧倒的に少ない付与だけど、かなり助かる。

 でもだ、でも――


「お前等俺が囲まれてんのに、楽しそうに見てんなよっ!」

「えー、ソーマのレベル上げ手伝ってやってるだけだぜー」

「そう。応援するっていうお手伝いですよー」

「ふれーふれーソーマ。ニャ」


 棒読みじゃねーか、ミケ。

 糞っ、見てろよ。あっという間に追いついてやるからな!

 俺はそっと『祝福の珠』を使った。






 山脈を越え、夜になる前になんとか町へと辿り着いた。

 スパルタと珠のお陰でレベルは37になったぜ。何度か死に掛けたけどな……。

 門番から「ようこそメルシュタットの町へ」と歓迎されてちょっと感動。町そのものは【ルイビス】よりも小さいけど、賑やかさは大差ないみたいだ。

 そして予想通り、プレイヤーの姿が少ない。


「宿取れるんじゃね?」

「飯の前に宿!」


 俺たちは宿屋を探して歩き回った。


 一軒目。


「生憎満室でして」


 二軒目。


「どうもすみません、満室でして」


 三軒目。


「いやー、さっき埋まったばかりなんですよー」


 四軒目……は無かった。


「ノォォォォッ」

「発狂するなフィン!」

「しないでどうするんだよ! また野宿か? ここじゃ無理だろ!? 同格モンスターばっかなんだし」

「またファーイーストに戻りますか?」

「モグラはもう嫌ニャっ」

「あのー、私お腹すいちゃいましたー」


 フェンリル一人が溜息を付いて項垂れていた。

 とりあえずここで叫んでても仕方が無い。飯屋に行って飯食って、それから考えよう。


 直ぐに入れそうな飯屋を探して歩いていると、前方で荷馬車を横転させて困っている人発見。

 よし、朝飯前の人助けだ。


「おじさん、馬車起すの手伝いますよ」


 駆け寄ってそう伝えると、一人で必死に馬車を起そうとしていたおじさんが大喜びしてくれた。

 うん、やっぱ人助けっていいなー。


「んじゃ俺もー」

「あ、俺も手伝いますよ」

「当然私は見てるだけだ」

「フェンリル、だったらわざわざ言わなくていいから……」


 鬼の面でふんぞり返る彼女を見て、最初の頃の事を思い出す。なんか段々とかわいさが半減して、変態男に見えてくるんだよな……。頼むから顔を見せて欲しい。

 荷馬車の荷が空っぽだったのが幸いだったのか、それともSTR補正なのか、荷馬車はあっさり起きた。

 それを見ておじさんが大袈裟に驚く。


「君たちはなんて力持ちなんだろうか。若いし、体つきだって特別大きいって訳でもないのに……」

「あーまぁ。STあー……冒険者ですから」


 NPCにステータスの事話しても解らないだろうな。


「おぉ、冒険者か。なるほどなるほど。どうりでパワーがある訳だ」


 そう言うおじさんも、意外と筋骨逞しい体をしている。

 人助けも終わった事だし、飯屋探しに行くぜっ。

 という時に誰かの腹の虫が盛大に鳴った。


「はっはっは。どんなにパワーがあっても腹の虫には勝てんらしいな」

「全敗っすよ」


 フィンが答えたって事は、さっきの音はこいつか。

 そこでまたぐぅーっという音が後ろから聞こえた。

 振り向くと、必死にお腹を押さえつけているアデリシアさんが見えた。今度は彼女か。

 そしてまたぐぅーの音。


「今度は誰ニャ」


 すみません。俺です。

 片手を挙げて自己申告すると、おじさんの盛大な笑いが聞えた。


「はっはっは。皆して腹をすかせているんだな。生憎どこの飯屋もいっぱいだから待ち時間があるぞ」

「うぇ、マジですか……」


 悲観するフィンの気持ちはよく解る。俺も今すぐ何か食いたい。


「そうだ、こうしよう。俺の家は町を出て北西の森の中にある。飯屋に入るまでの時間と同じぐらい馬車でいく事になるが、そこでご馳走しよう。ついでに宿も提供するよ」

「え? い、いいんですかっ」

「馬車を起してくれたお礼だ。どうせ宿も見つからなかったんだろ?」


 その通りです。

 俺たちは互いに顔を合わせて頷きあった。


「一晩、よろしくお願いしますっ」


 こうして俺たちは空になった荷馬車の後ろに乗り込んで町を後にした。

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